ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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──最後の日ってのは案外、あっさりとやってくるものだ。旅の終わりも、日常の終わりも、ひょっとしたら、世界の終わりってヤツも──


クリアクリスタル第四章:クリアー・ワールド
CC32話:サイゴク最大の危機


「うーん、何にも出てこないね……」

「ああ……そりゃあ幻のポケモンなんて、そうそう出てくるわけがねえもんな……」

 

 

 

 ──フチュウでの事件から一週間程した後。メグルとアルカは、再びジョウト地方に渡り、ヒワダタウンの近辺にあるウバメの森に足を運んでいた。

 目的は唯一つ、幻のポケモン・セレビィに関わる場所である祠を調べる為である。

 しかし、開いても中身は何も無く、辺りを探しても何も無い。

 結論から言えば、あの”森の神様”に関する情報は何一つ手に入れる事が出来なかったのである。

 

「……一旦町の方で聞き込みでもしてみるかぁ?」

「だけど、一番何か知ってそうなガンテツっておじいさんも、何も話してくれなかったじゃん」

 

(そりゃそうだ、ゲームでも頑固おやじだったもんな、あのじいさん)

 

 原作ゲーム「ポケットモンスター・クリスタル」のVC版では、モンスターボール職人のガンテツにGSボールなるアイテムを渡し、一日経過することでセレビィ出現のイベントのフラグを立てることが出来た。

 しかし、このガンテツという男がなかなか曲者で、見ての通りの頑固おやじの仕事人間。聞き込みをしようにも取り付く島もなかったのである。

 

(現地に行けば何かあるんじゃねーかって思ったんだよなあ)

 

「仕方ないよ。幻のポケモンなんて、なかなか見つからないから幻のポケモンみたいなもんなんだし」

「だけど、このまま手土産無しってのもなあ……」

 

 折角長い事かけてジョウト地方にやってきたというのに、何も手掛かりがないのは徒労も良い所である。

 

「ニンフィア、あいつの気配……感じるか?」

「……ふぃー……」

「だよなぁ……」

「……ふぃー……ふぃ?」

 

 ニンフィアはすんすん、と鼻をひくつかせると──何かを感じ取ったかのように飛び跳ね、祠から離れる。

 

「何だ!? どうした!?」

「フィッキュルルルィィィ……ッ!!」

 

 激しく背中の毛を逆立てて威嚇するニンフィア。

 彼女の視線の先には虚空があるばかりで何も無い。

 だが、何も無い場所にニンフィアは威嚇したりしないのである。

 大抵このようなケースでは、敵対的な野生ポケモンが潜んでいる時が殆どだ。

 

「……おい何にもねえぞ」

 

 

 

 ピキ

 

 

 

「……ねえ、メグル。何か割れるような音、しなかった?」

 

 

 

 ピキピキッ

 

 

 

 罅が入っている。

 祠ではない。

 目の前の──だだっ広い空に、だ。

 

「ちょっと……空、割れてない!?」

「おいおいおい……これって見た事あるぞ俺……!!」

 

 空間が割れる、という言葉が相応しかった。

 硝子の砕ける音が響き渡る。

 この光景、そして音。

 メグルには、鮮烈に記憶に焼き付けられたものだった。

 あのセレビィによく似たポケモンが以前、アラガミ遺跡で出現した時と類似している。

 ニンフィアが唸るのも無理はない。散々にやられた相手がまた現れるのではないか、と考えているのだ。

 

「……アルカ。何が出て来るか分からねえ。ボールを」

「う、うんっ……!」

 

 亀裂が大きく入る。

 そして──中から引きずり込むようにしていきなり吸い込み始める。

 

「ちょっ、ちょおっ、何これ!?」

「出て来るんじゃなくて、ダイソンするのかよ!!」

「ダイソンって何!!」

「変わらねえ吸引力だよ!! こうなりゃ、ポケモンの力で──」

「ふぃっ、ふぃるふぃいいいいい!?」

 

 真っ先に亀裂の中に吸い込まれていったのは──最も体重が軽いニンフィアであった。

 それを見た二人は互いに頷く。

 

「ッ……行くぞアルカ」

「うんっ、ニンフィアを置いていけないよ!!」

 

 二人は手を繋ぎ、息を合わせて亀裂の中へと飛び込んでいく。

 そのまま空に開いていた亀裂は消えてなくなり、何事も無かったかのように繋ぎ合わされたのだった。

 

 

 

──クリアクリスタル第四章「クリアー・ワールド」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──2日後。

 ベニシティ近海・ミヤコ島──サイゴクポケモン協会本部・五重の塔。

 そこでは、神妙な顔をしたキャプテン達が集っていた。

 

 

 

「これより、緊急大合議を始める」

 

【”ひぐれのおやしろ”キャプテン・キリ】

 

 

 

 ヒャッキ戦争、大寒波、絵画百鬼夜行と続き、サイゴクを襲った第四の災厄。

 それは突如空に開いた時空の裂け目だった。

 今までも、ヒャッキ襲来の件などで異空間や違う世界に繋がる時空の裂け目はサイゴクの何処かに存在しているのではないかと言われていた。

 その結果サイゴク山脈周辺にヒャッキ地方に繋がるであろう時空の裂け目が発見。とはいえ、根本から塞ぐことが出来ないので、厳重に周辺をコンクリートで固めて封じてしまったのだという。力業だったが、最終的にモノを言うのは物理であるとはユイの弁であった。

 そこまでは良かったのであるが、数日前──突如、ベニシティ、セイランシティ、シャクドウシティの3か所に1つずつ現れたのである。

 たちまちニュースとなり、SNSでも取り上げられ、大騒ぎに。

 またもやヒャッキ戦争の再来かと誰もが恐れたが、今の所裂け目から何かが落ちて来る気配はない。

 

「議題は唯一つ。サイゴクに突如として出現した時空の裂け目への対策でござるよ。今こそまだ小さいが……対策を急ぐ必要がある。中から何が現れるか分からん」

 

 既にひぐれのおやしろでも、各大学と連携し、調査を進めていたが──原因はいまだ不明。

 そもそもサイゴクの時空の裂け目は、アローラのウルトラホールとは異なる性質なので、発生条件も消滅条件も分からないのである。

 

「結局の所、裂け目の繋がっている先はランダム。全てがヒャッキに通じているわけではないということなのですよ」

 

【”よあけのおやしろ”キャプテン・ヒメノ】

 

 ヒメノは胃薬を飲みながら続けた。

 退院明け(年内3回目)だからか、すっかり目元は隈が出来てしまっており、とても大合議に参加できるような状態ではないのではないかと弟には言われたが、無理矢理彼を捻じ伏せて出席した次第である。

 最早、サイゴク最恐のキャプテンと呼ばれた面影は無くなっていた。哀れ。

 

「大学の調査に同伴して、リザードンちゃんで近くまで接近したのだけど、裂け目の斥力が強すぎて逆に追い出されちゃったのよ」

「えっ、潜り込もうとしたんですか……ハズシさん……」

 

【”ようがんのおやしろ”キャプテン・ハズシ】

 

「ワタシの視力を以てしても穴の先は分からないし、裂け目の調査は諦めたわ」

「……何かの前触れなのかな……シャクドウ大学が再建するまでは、ベニ大学に調査を一任するしかないけど、そのベニでも手掛かりが掴めないとなると……お手上げなんだから」

 

【”なるかみのおやしろ”キャプテン・ユイ】

 

「ところで、メグル君達にこの事は伝えたの? 今ジョウトに居るのよね」

「それが、2日前から全然連絡が付かないのですよ。ノオトが何度もスマホロトムに連絡入れてるけど、何にも……」

「ああ……邪魔してやらない方が良いか」

 

 察したようにユイは肩を竦めた。仲良くなりつつあったアルカから、惚気メッセージが増えたのが此処最近のことである。無関係とはいえないだろう、と彼女は考える。

 

(ははぁん……背中押したのはあたしなんだけどね……)

 

 ならば、最早何も言うまい、と彼女は口を噤んだ。全くと言って良い程連絡が無いというのが気になる所であるが。そう言えば連日飛んできたアルカからのメッセージもこの2日間は途絶えている。

 

(何かあったのかな……)

 

「呑気な事言ってる場合じゃないわよ。万が一の時は、メグルちゃん達の力が必要になるかもしれないじゃない。あの子、今となっては結構強いのよ? アルカちゃんだって、そうだし」

「裂け目からポケモンが降ってきた日には、何人トレーナーが居ても足りないもの。しかも、今度はヒャッキのポケモンとは限らないし」

「そうだけど……」

 

 

 

「……裂け目、か」

 

【”すいしょうのおやしろ”キャプテン・ヒルギ】

 

 

 

 腕を組みながらヒルギが続ける。

 

「懸念される最大の問題は、裂け目そのものが広がって巨大化することだろう」

「そ、そんなこと有り得るの!?」

「現に、裂け目は各々広がっていってるわ。ヒルギちゃんの言ったことが有り得る可能性はあるわね」

「それにしても……何だかこれから起こることが分かり切っているようなのですよ」

「少し、考えてみてほしい」

 

 指を組みながらヒルギは続ける。

 

「ヒャッキからの災禍に続き、時空の裂け目。相次ぐ戦乱。こんなに技術が発展しているのに、人もポケモンも争い合う。そう、これは言わば、神からの思し召しだ」

「……いきなり何を言い出すのです?」

「貴方、そんなスピリチュアルな事を言い出すような子だったかしら」

「神と言えばアルセウス……とか?」

「……ヒルギ殿。続けて貰おうか」

「新世界、そして新時代だ。誰も傷つかない、争いも無い新時代がやってきた。マリゴルドの目指した仮初のものではない。真の意味での新時代だ」

 

 全員は──困惑した様子で返す言葉も無いようだった。

 これまで理性的で理知的だったヒルギが突如、意味不明な事を言い出したからである。

 

 

 

「ヒルギ殿。一体何を──」

「悪いな……俺達は新時代の始まりを告げる者だ」

 

 

 

 次の瞬間、部屋にワイヤー中が張り巡らされ、キャプテン達の身体を縛り付ける。

 

「なっ、何これ!?」

「鉄糸……!?」

 

 一方キリはそれを先読みしてクナイでそれを全て切断し、飛び出してヒルギを捕縛しようとする。

 だが、死角から更に糸が伸び、キリの身体を絡めとり──通電させる。

 

「ぐあああああああ!?」

 

 遅れて焦げ臭い匂いが漂ってくる。

 電撃で一気に意識を失いそうになったキリだったが、それでもテーブルに頭をぶつけ、無理矢理意識を取り戻した。

 

「キリちゃん!?」

「ちょっと何すんのよ、ヒルギさん!」

「いや、鉄糸を放ったヤツがもう1人居るわ!」

「……各員気を付けよ……! この技はクワゾメの忍術だ! すながくれに内通者が……ッ!?」

「その心配はしなくて結構よ、()()()()

 

 キリの身体を完全に捕縛したのは、白いドレスに身を包んだ眠そうな目をした少女だった。

 長く綺麗な髪には蝶の形をした髪飾りが付いている。

 だが、おっとりとした話し言葉と風貌に反し、その実力はキリどころか、キャプテン全員を鉄糸だけで制圧してしまう程だった。

 現に今、キャプテン達はポケモン1匹出す間もなく、皆縛られてしまっている。

 

「ふふ──それにしても、見ないうちに……腕が鈍ったのではなくて? キリりん」

 

 女は得意げに言い放つ。体には、黄色いダニのようなポケモン・バチュルが大量にくっついていた。

 キリを無力化するために電気の糸を吐き出したのは、このポケモンだ。蜘蛛のようなポケモンは何種かいるが、糸に電気を用いるのはこの系統のみである。

 更にバチュルは糸を伸ばし、慣れた様子でキャプテン達のボールを糸で包み込んでいく。

 

「どうやら外の警備は既にこの子に無力化された後みたいね。キリちゃんが反応できなかったなら無理ないわ。相当な使い手ね」

「面目ない……ッ!」

「尤も、警備がヒルギちゃんから筒抜けだったなら、納得も行くというものよねえ。キリちゃん、この子って──」

()()……すながくれの抜け忍でござる。拙者の姉貴分で……()()()()()()()()()()()()()()、はぐれ者でござるよ。かれこれ数年間姿を見せていなかったでござるが……まさか生きていたとはッ!!」

「キリりん。私が選んだのは自由。はぐれ者だのと何だのと呼ぶのは結構だけど……貴女のような窮屈な生き方が嫌だっただけ。だって、忍者はおひるねも出来ないし、お散歩も出来ないもの」

「……その結果が拙者達に刃を向ける、か」

「私が誰に与しようが、私の自由だものキリりん」

 

【”アークの船団”幹部・ネム】

 

 ネムと呼ばれた少女は気だるげにキリの顎に手を伸ばす。

 

「……何なら今此処で、貴女の仮面を剥ぎ取っても良いもの、キリりん」

「ッ……!!」

「うふふ、仮面の下でもどんな顔をしてるか分かるわ、キリりん。でも安心して。貴女が本当に嫌がることはしないもの」

「拙者は良い。他の者を離せ──ネム」

「ごめんなさいね、キリりん。貴女の頼みでもそれは──」

「──それは出来ない相談だ」

 

 ヒルギが割って入った。

 相も変わらず鉄面のまま、彼は告げる。

 

「単刀直入に言おうか──お前達には、俺達アークの船団の一員となってもらう」

 

【”アークの船団”幹部・ヒルギ】

 

「誰がなるものですか! あんた達、こんな事してタダで済むと思わない方が良いんだから!!」

「キャプテンの立場を隠れ蓑に、こんな事を企んでいるとは……ッ! この私でも見透かせなかったのですよ……!」

「……」

 

 既に盤面は詰んでいると言っても過言では無かった。

 ご丁寧にキリ以外の全員の首に細い透明な鉄糸が巻きつけられている。

 

「おっと、キリりん。お得意の忍術でこの場を脱しようとしてるんでしょう? でも、ダァメ。あんた以外のキャプテン全員の首に鉄糸を巻いてるもの。私が少し指を引けば、どうなるかお分かりでしょう?」

「ッ……」

「忍の技に卑怯だとは言わないわよね。でも、ちょっと傲慢じゃないかしら?  まさか、キャプテンの中に裏切者が居た上に、自分以上の実力者は居ないだろうって内心では思ってたんでしょう?」

「ね、ねえ、この子幾ら何でも強すぎじゃない……!? 抜け忍なのにキリさんと同じだけの実力を持ってるなんて!」

「……分かった、降参でござる」

「そんな、キリさん……ッ!」

「拙者達の完敗だ。まさか、此処まで大きな悪がサイゴクに巣食っているとは思わなかったのでな。それに、皆殿の命が最優先でござる」

 

 

 

「なぁに、安心せい。正義も悪も、行き着く場所は皆同じ新時代じゃからのう」

 

 

 

 部屋の扉を開けて、堂々と入り込んで来るのは──白い髪をたなびかせた少女だった。

 その衣服は着物に包まれており、雅な印象を与える。

 しかし、眼は深紅。妖しい宝石のような魅力を常に放っていた。

 

 

 

「……おぬし達には、その協力をしてもらうだけじゃよ。この醜い世界を浄化するための……手伝いをな」

 

【”アークの船団”船長・クガイ】

 

 

 

(女の子……!? だけど、何となく分かる。この子がボス……!?)

 

「あらあら、随分かわいい子のご入場ねぇ」

「──ふふっ、そうじゃのう。事実、只の童でしかないからのう。だが──今に我々に跪くのは汝らの方であるぞ。ネム……やれ」

「かしこまりましたわ、ボス」

 

 しゅるしゅると音を立てて、ネムの周囲に糸が舞う。

 そこには──黒いガスマスクのような仮面が縫い付けられていた。

 

「ね、ねえ、何その趣味わっるいマスク……!!」

「……どうやら、抵抗は諦めた方が良いでござるな」

「そんなぁ!?」

 

 キリはちらり、と視線を窓に移す。

 そして驚愕する。

 海に浮かぶ、巨大な円盤。 

 このようなものは、さっきまでは存在していなかった。

 

「おのれヒルギ殿……ッ!! 大合議の日に合わせて襲撃の計画を立てたのでござるな……ッ!! どうしてこのような暴挙を……ッ!!」

「……最初から考えていた。それだけの話だ」

「……さあて、我らの方舟に来て貰うぞ、サイゴクのキャプテン達よ」

 

(此処は大人しく従って……と思ったけど、逆らう芽を潰してきたわね……)

 

(どうしてこうなるのよーッ!? あたしの参加する大合議、トラブルばっか!)

 

(こんな事なら、もうちょい入院してればよかったのですよ……)

 

 ──この日、サイゴクのキャプテン達は忽然と、ミヤコ島のポケモン協会から姿を消したのである。

 同時刻、ミヤコ島周辺には円盤と呼ぶのもおこがましい巨大な”船”が鎮座していたという報告があったが、すぐに姿を消してしまったという。

 こうして、サイゴクからキャプテンは消えて居なくなった。

 

 

 

 ……留守番の為に一人、おやしろに残っていた約一名を除いて。

 

 

 

「──姉貴遅いッスねぇ、今日はサプライズ快気祝いパーティするのに、胃腸に優しいモン買い込んだんスけど」

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