ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC30話:死闘

 ※※※

 

 

 

「はぁ……はぁ……!! しつこすぎるよ……!!」

 

 

 

 ヒャッキのポケモン達に攻撃され続け、アルカの身体は既にボロボロだった。

 腕は焼け落ち、全身からは血が溢れ、殴打痕が顔面には残っている。

 だが、それでも、駆け、駆け、駆け続ける。

 脳裏に映るのはメグルの顔。彼をこんな目に遭わせなくて良かった、と心底彼女は安心するのだった。

 ルカリオに胸倉を掴まれ、殴り飛ばされ──アーマーガアに啄まれ、フーディンの起こした爆炎に巻き込まれる。

 それでも、彼女は血反吐を吐きながら、走り続ける。

 

(慣れっこだもん……平気だもん……ボクに出来るのは、これだけだもん……)

 

 ふらりと足が力を失い、彼女は倒れ込んだ。

 目から涙がこぼれて来る。

 

(あれ……おかしいな……なんだか、すっごく、辛くて、苦しいや……痛めつけられるのは、慣れてるのにな)

 

 

 

「──ッ!! ──ッ!!」

 

 

 

 その時だった。

 何処かから声が聞こえてくる。

 

 

 

(誰……? ボクを、呼んでる……?)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 メガシンカしたヘラクロス、そしてギガオーライズしたアブソルが組みかかる。

 未来予知によってミサイルばりを的確に避けながら”むねんのつるぎ”でヘラクロスから体力を吸い取っていく。

 機動力が落ちるメガシンカとは対照的に、アケノヤイバ同様の素早さを手に入れるギガオーライズの方が未来予知との相性が良いのだ。

 先程は正確にアブソルの弱点を狙えていたロックブラストも全弾躱され、更なる追撃を許してしまう。

 

(さっきよりも動きが速い!? いや、キレが増してる!? これがギガオーライズの力……!?)

 

「ッ……こんな事がしたかったんじゃねえ、したかったんじゃねえけど──」

「ガルルルルルッ!!」

 

 ゆらりゆらり、と刀のような尻尾が揺れる。

 

「──それでも……それでも、好きなんだよな……好きだから、どんなに痛い目に遭っても……取り戻したくなるんだよな……ッ!」

 

 メグルの目に鬼火のような青い炎が一瞬だけ灯る。

 

「それが、今の俺の覚悟だッ!! アブソル、”むねんのつるぎ”!!」

「”ミサイルばり”で撃ち落とせ、ヘラクロス!!」

 

 気の所為だとか、ステータスの変化だけではない。

 メグルの覚悟に応えるように、アブソルの周りに纏われている鬼火が強くなっていく。

 

「何やってんのさ、ヘラクロス──さっきは押されてなかったはず……ッ!!」

「当たったらあまりにも痛すぎる一撃、だけど当たらなけりゃどうってことはねぇんだよ!!」

 

 ヘラクロスの影に潜り込んだアブソル。

 すぐさまヘラクロスはノールックでタネマシンガンを放つが、次の瞬間には空中に浮かび上がっている。

 アケノヤイバ由来の影に潜って相手を翻弄する戦い方は重戦車そのもののヘラクロスを惑わせていく。

 

 

 

 ──あははっ、君はすごく力持ちで──優しいんだね! これからよろしくね、ヘラクロス!

 

 ──ぷぴふぁー!

 

 

 

「プピファァァァァーッ!!」

 

 

 

 いきなりヘラクロスの動きが変わる。

 飛び出していたアブソルの身体を掴むなり、そのまま宙へ投げ飛ばす。

 そして空中に飛んだアブソル目掛けて、自身も大きく跳び、両腕のハッチから大量の”ミサイルばり”を飛ばす。

 それはファンネルビット状に空中を飛び回り、アブソルを次々に狙っていく。

 

「”ゴーストダイブ”で緊急回避だ!!」

「ふるーる!!」

「ッ……ヘラクロス、気を付けるんだ! 出て来たところをもう一度”ミサイルばり”で狙えば良い!!」

 

 跳びあがることしかできないアブソルに対し、ヘラクロスは空中でも翅で自由自在に飛行可能だ。

 ゴーストダイブで次にアブソルが現れた所を狙って宙に浮かび上がらせたミサイルばりをぶつければ良いだけである。

 そして、耐久と未来予知が強化されているメガシンカと違い、ギガオーライズではあくまでもアブソルそのものの耐久だ。

 攻撃種族値185。最強の重戦車であるヘラクロスの攻撃は掠っただけでもHPバーを真っ赤にするほどの威力となる。

 そんなことは──メグルも分かり切っている。

 

「”ゴーストダイブ”だ、アブソル!!」

 

 次の瞬間、ヘラクロスを取り囲むようにしてアブソルが4匹、四方から飛び出す。

 

「はぁっ……4匹ィ!?」

 

 分身だ。

 アケノヤイバ同様、影で自身と全く同じ姿の分身を作り出したのである。

 突如何匹も現れたアブソルに戸惑いながらも、ヘラクロスはミサイルばりを大量に飛ばし、アブソルの影を貫いていく。

 

「1体──2体──ッ!!」

 

 アルカは歯噛みする。

 いずれも素早く、捉えるだけで精一杯だ。 

 だがそれでもミサイルばりは次々に分身を掻き消していく。

 

「3体──4体……!?」

 

 だが、顔からは完全に余裕が消え失せる。

 アブソルの姿は、その場から居なくなる。

 現れた4匹全員が分身だったのである。

 

 

 

「今日は……月が綺麗だな」

 

 

 

 ヘラクロスの身体は強く強く照らされている。

 高く上った満月によって、白く白く。

 そして光のあるところには必ず影がある。

 大きく開いたヘラクロスの翅の下に──濃い落ち影が浮いている。

 

「”むねんのつるぎ”!!」

 

 完全にヘラクロスの死角から現れたアブソルは、外骨格の隙間に刀のような尻尾を突き刺す。

 悲鳴を上げた森の王者は体制を崩すが、それでもアブソルを狙って全方位に展開したミサイルばりを集中させる。

 しかし再びアブソルの姿は消え、誘導されたミサイルばりは全てヘラクロスに命中するのだった。

 流石に自分の攻撃で倒れるヘラクロスではないが、それでも防御種族値を圧倒的に上回る攻撃種族値から放たれたそれは、少なからず彼にダメージを与える。

 地上に移動したアブソルを追い、ヘラクロスは再び地面に降りる。

 

「ッ……おかしい。おかしい!! 何で、何でいきなりそんなに強く──君は脆くて弱くて──ッ!!」

 

 アルカは言葉を失った。

 やはり見間違いではない。

 メグルの目に、青い炎が浮かんでいるような気がする。

 

「全力全壊ッ!! ”ミサイルばり”!!」

 

 すぐさまそれを脅威そのものだと感じ取り、ヘラクロスは再びミサイルばりをアブソルに向ける。

 これまでの比ではない数だ。空を覆う程の量である。

 それは、勢いよくメグルとアブソルを狙い──飛んで行く。

 

 

 

「これで終わりだ!! こうなったら、君を()()()()()()()()()()()してあげるよ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……オージュエルは、トレーナーの感情を読み取って、それを力に変えるんだ」

 

 

 

 イデア博士は以前、そう言っていた。

 ジョウト地方に旅立つ前にオージュエルを解析していたのである。

 

「例のアルネなんて、そうだっただろ? トレーナー側の気持ち次第でポケモンの強さが際限なく上昇する。その代わり、君自身の生命力も持っていかれると思って良いかもね」

「その仕組みってアローラのZワザと似たようなものなんですか?」

「そうだね。報告によれば、強力なZワザは一気にトレーナーの精気を持っていくらしい。ギガオーライズも似たようなものだろう。今の所、君の身体には影響が出る範囲ではないけどね」

「……んじゃあ、使いどころは気を付けなきゃな……」

「そうだねぇ、下手をするとポケモンに全部、魂を持っていかれちゃうかもね?」

「こっわぁ……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「こ、これで、流石に……ッ!!」

 

 

 

 アルカは狂気的な笑みを浮かべていた。

 

「あ、あははっ、残念だよ、メグル。君はボクの中で永遠になっちゃった。君が悪いんだ。ボクの事を拒絶するから──ッ!!」

「ならねぇよ。テメェこそ絵画と一緒に消えていけ」

「!?」

 

 爆炎の中から声が聞こえてくる。

 煙が掻き消えたその先には──アブソルが影の剣を展開し、ミサイルばりを全て受け止めていた。

 

「くれてやる、アブソル……全部くれてやる……俺の魂、全部……持っていけ」

「フルルエリィスッ!!」

 

 アルカは言葉を失った。

 メグルの目から、やはり青い炎が灯っている。

 そして、アブソルの両目からも青い炎が灯っている。

 その身体は大きくなり、よりアケノヤイバのそれに近付いている。

 全身についていた鎧はアブソルと同化し、背中からは黒い翼が生えていた。

 

 

 

【アブソル<ギガオーライズ・フェーズ2> タイプ:悪/ゴースト】

 

「……決めたんだよ、アルカ。お前が命を懸けるなら、俺も命懸けだ。命懸けでお前を取り返す。お前が自分の価値に気付いてねえなら……お前を俺のモノにしてやるよ」

 

 

 

 先程までとは、明らかに違う。メグルも、アブソルも。

 纏っている空気が殺気そのものだ。

 覚悟の決まった顔でメグルは再びオージュエルに触れていた。

 アブソルの周囲を舞う巨大な刀が地面を切り裂きながらヘラクロスを襲う。

 

「アブソル……今度は、俺もお前の負担を背負う。だから、()()()()

「フルル……ッ!!」

「ッ……ふ、ふざけないで!! 君が見てるのは、ボクじゃないでしょ!?」

「オオワザ──ッ!!」

 

 5つの影の剣が重なり合った。

 それは、巨大な刀となり──ヘラクロス目掛けて飛んで行く。

 月光を浴びたそれは、大きく振り下ろされ、硬い甲殻を両断する。

 

 

 

 

【アブソルの しん・あかつきのごけん!!】

 

 

 

 

 暁の五剣は、ありとあらゆる全てを守り通す護剣と化す。

 束ねられた刀は真っ直ぐに悪しき者を叩き切り裂く。

 ヘラクロスのメガシンカは一瞬で解除され、そのまま仰向けに倒れるのだった。

 

「ウ、ソ……ヘラクロスがやられた……!!」

「……」

「何なんだよ。何なんだよ、その姿は! その力は! まさか、君自身の力をポケモンに注いでるっていうの!? そんな事したら、死んじゃうかもだよ……ッ!?」

「……」

「……デカヌチャン!! アブソルだって、大出力のオオワザで疲れてる!! ”デカハンマー”!!」

「”デュプリケート”」

 

 ハンマーを振り回して突撃するデカヌチャン。

 しかし、一瞬でアブソルの身体は4つに別たれて、高速でデカヌチャンに突進し、影の刃で切り刻む。

 分身して相手を攻撃するアケノヤイバの専用技だ。

 あまりの速さに──デカヌチャンも追いつくことが出来ず、そのまま成す術無く倒れ伏すのだった。

 

「ッ……どうなってんの……それ……もう、アケノヤイバそのものじゃん……!!」

「……」

 

 止めていた息を吹き返すように、メグルは膝を突く。

 次の瞬間、アブソルの姿は元に戻り、力尽きたように倒れ込む。

 これ以上はメグルもアブソルも限界だった。

 使っている間はずっと、水の中に潜っているように苦しかった。

 そこから解放されれば、今度は脱力感が襲い掛かってくる。

 フェーズ2──確かに文字通りの切札で、乱用することは許されない。

 その反動はポケモンだけではなく、力を注ぎこんだトレーナーにも跳ね返ってくる。

 

「2匹……持っていったか……ありがとな、アブソル」

「ふるーる……」

「ッ……おっかしいでしょ。何でボクに跪いてくれないのさ、メグル……ッ!! 何で折れないのさ、メグル!! ボクは、君の泣き顔が見たいんだ、絶望に塗れた君の顔が!!」

「……絶望なんてしねえよ」

 

 アブソルをボールに戻し──メグルは最後のボールに手を掛ける。

 

「俺は、アルカの帰ってくる場所だからな」

 

 再びボールが同時に投げられる。

 最後に降り立ったのはニンフィア。

 対して、相対するのはカブトだ。

 残っているのは自分だけだとカブトも分かっているのだろう。

 墨に侵食されながらも、それでも主人を守るべく──目の前の凶悪リボン姫を見つめると、決意したように甲高く鳴いた。

 

 

 

 ──うわぁ、すごいすごい!! 君がボクの初めてのポケモンなんだ!! よろしくね、カブト!!

 

 

 

 守りたいという思いは捻じ曲げられ、目の前の敵の排除にすり替わる。

 カブトの甲殻が割れた。ビキビキと音を立てて、それは中から現れる。

 

「ッ……まさかこれは!!」

「ふぃー……!?」

「……ボクを守れ、カブト。ボクは負けるわけにはいかないんだ。必ず、おにーさんを手に入れるんだ」

 

 たとえ墨に汚染されたとしても。

 アルカの初めてのポケモンは──彼女を守り続けることを選ぶ。

 どのような姿に変貌したとしても、より強く、より堅く、そしてより素早くなることを選び、進化した。

 

 

 

「キュルルルルルルルゥ!!」

 

【カブトプス こうらポケモン タイプ:岩/水】

 

 

 

 周囲に古代の咆哮が響き渡る。

 獲物を捕らえる為の鋭利な鎌。

 そして、水陸両方で高速で動くために進化した流線形の甲羅。

 進化前から一転して、戦闘特化した形態にメグルはたじろぐ。

 よりによって、このタイミングで進化を果たしてしまったことにもだ。

 

「オイオイ……最後の最後で……!!」

「ふぃー……ッ!!」

「ニンフィア、強敵だ。あのアルカの傍でずっと戦ってきたポケモンだからな」

 

 ふい、とニンフィアはメグルの顔を見あげる。

 そして──「ザマァ無いな」と言わんばかりに悪い笑みを浮かべるのだった。

 

「何だよ」

「ふぃっきゅるるる」

「お前だって、アルカが居ねえのは困るだろ? 何だかんだ仲いいんだからお前ら」

「ふぃー」

「だから──頼むぜ」

 

 貸しだからな、とアルカを睨んだニンフィアは、思いっきり地面を蹴ってカブトプスに飛び掛かる。

 しかし、これまでとは比べ物にならない速度でカブトプスは斬撃を放つ。

 いや、()()()

 音速を超えた斬撃が地面を切り刻み、衝撃波となってニンフィアに襲い掛かるのだ。

 それを”でんこうせっか”で躱し、接近したニンフィアは口の中にエネルギーを溜め込み、ハイパーボイスを放つ準備にかかる。

 

「カブトプス!! ”アクアブレイク”!!」

 

 だが、今度は水を纏った斬撃がニンフィアに襲い掛かる。ひらり、ひらり、と避け続けるのにも限界があり、遂に彼女は最初の被弾をしてしまうのだった。

 高圧縮された水の刃は容易く彼女の身体を切り裂き、既に庭園には血が滴り落ちている。

 しかし、自らの怪我は彼女にとって闘争心を奮い立たせるエッセンスでしかない。凶暴姫様、此処に極まれり。

 ましてや相手が、あの泥棒猫ならば猶更である。

 

「フィッキュルルルィィィーッ!!」

 

 大声量の”ハイパーボイス”がカブトプスを吹き飛ばし、更にアルカをも吹き飛ばす。

 音の波は衝撃波と化し、純然たる暴力となって襲い掛かる。

 やられた分はきっちりとやり返すのが彼女の主義なのだ。

 しかし、それを受けても尚、空中で受け身を取ったカブトプスは地面に刃を突き立て、神速の如き足運びで一瞬でニンフィアに肉薄する。

 

(H60 A115 B105 C65 D70 S80──バサギリと比べると防御が高いステータスって感じだけど、一番恐ろしいのは、雨が降り出したらこんなもんじゃねえってことだ……ッ!!)

 

「そろそろ、本気を出そうかな。”あまごい”!!」

 

 ニンフィアに斬撃を飛ばした後、カブトプスは大きく咆哮してみせる。

 すぐさま曇天が月を覆い隠し、ざぁざぁと叩きつけるような雨が降り始めるのだった。

 そして、全身が濡れたことでカブトプスは更に生き生きとしだし、今まで以上の速度でニンフィアに接近する。

 更に全身には水のエネルギーが迸り、水技の威力も増大していく。

 

「”アクアブレイク”!!」

 

 両鎌による斬撃。

 交差するように開かれた鎌が彼女に再び傷をつけ、地面に落とす。

 

「しまっ──ニンフィア!! しっかりしろ!!」

「ふぃ、ふぃっきゅるるる……ッ!!」

 

 進化前からそうだったが、雨で強化されたカブトプスは、最早手が付けられない。

 目から赤い光を迸らせると、目にも止まらぬ斬撃を繰り返し、更に発達した脚部でニンフィアを蹴り上げるとトドメと言わんばかりに斬撃を見舞うのだった。

 

「”でんこうせっか”!!」

 

 しかし、それをすんでのところで避けたニンフィアは、そのまま宙返りするとリボンでカブトプスの頭部を叩きつけ、更に強烈な頭突きを繰り出す。

 まさに血で血を洗う死闘。

 雨が降り続く中、両者の疲労は確実に蓄積されていった。

 そればかりか、飛んでくる斬撃の余波はメグルにも向かってきて──彼の身体にも少なからず傷が刻まれていく。

 

「ッ……!!」

「おかしい、おかしい!! カブトプスの方が圧倒してるはずなのに……何でまだ倒れない!?」

「俺の知ってるアルカは、絶対にそんな質問しねえよ。0点だぜ。ンなもん──今まで戦ってきたコイツを見てりゃあ分かるだろ」

「フィッキュルルルル!!」

 

 赤く光る瞳がカブトプスに伝う雫に映り、まるで血涙のように滴る。

 一方のニンフィアも、幾たびも斬撃を受けたことで全身が切り傷塗れになっていた。

 だが、それでも倒れない。倒れはしない。倒れられない理由が、背後に立っている。

 

「もう、終わりにしようぜ……ッ!! アルカ!! 聞こえるか!!」

「やめろ、やめろ……ッ!! その声でボクを呼ぶな……ッ!!」

 

 カブトプスが地面に刃を突き立てる。

 両刃は水を纏い、再びニンフィアに飛び掛かる。

 しかし──

 

「”はかいこうせん”!!」

 

 ──これで仕留める。

 その思いで放った一撃。

 仕留められなければ、逆にこちらの負け。

 まさに文字通りの必殺技だ。

 軌道など考えなくて良い。敵は絶対にこちらへ突撃してくる。

 貫くような閃光がカブトプスを突き刺した。

 妖精の加護を受けたそれが──甲殻を焼く。

 だが──

 

「キュルルルルルーッ!!」

 

 甲高い声を上げて、まだカブトプスは突っ込んで来る。

 ニンフィアは”はかいこうせん”の反動で気絶してしまっており、動けない。

 そんな彼女に刃を突き立てんとばかりに、カブトプスは一歩、また一歩と進んでいくが──

 

「キュルル、ル、ル、ル……ッ!!」

 

 ぎ、ぎぎ、とゆっくりと主人の方を彼は振り向く。

 そして──鎌をもう一度振り上げたかと思えば、それを地面に突き立て──そのまま力尽きたのだった。

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