ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC28話:再来・百鬼夜行

 ※※※

 

 

 

 ──アルカの行方は警察総出で捜索中。

 メグル達は、動きがあるまで待つしかない。

 今のままでは、メグルはアルカに勝つことができない。

 目の前で彼女がおかしくなったことによる精神的ショックに加え、ポケモンの受けたダメージの回復、そして来たるアルカとの戦闘に備えて準備をしなければならない。

 今のアルカの手持ちはデカヌチャン、ジャローダ、モトトカゲ、オトシドリ、カブト、そして──ヘラクロス。

 いずれも強力だ。強いて言うなら進化していないので能力が低いカブトくらいしか穴が無い。

 

(考えろ……考えろ、考えるんだ。あいつに勝つ方法……そもそも、バトルに勝ったところで、あいつを墨の呪いから解放できるのか?)

 

 思い悩むメグルは、美術館の外から窓を覗く。

 嫌気が刺す程に今夜は月が綺麗だ。見つめていると、腹が立ってくる。

 

「メグル君」

 

 そんな彼を見兼ねてか、イデア博士が後ろから声をかけた。横には心配そうに尻尾を握るドーブルが立っている。

 今の彼に気休めの言葉など何の慰めにもならないことなど分かっている。

 博士の手には──雄弁に光り輝く宝珠が握られていた。表面にはアブソルの顔が刻まれている。

 

「……博士、それって」

「完成したんだ。”刀珠・アケノヤイバ”。突貫工事で最後の調整を終わらせたよ」

「ありがとうございますッ!!」

 

 メグルはすぐさまそれを受け取った。

 アブソルをギガオーライズさせるために必要なアイテムだ。

 

「メガシンカ同士の競り合いじゃあ、ヘラクロスに勝てない。そりゃそうさ、相手は肉弾戦最強のメガシンカだからね。たとえ伝説のポケモンを使っても、正面からやり合うのは得策じゃない」

「……だから、オオワザで大ダメージを与えて削り切るしかない、ですよね?」

 

 重戦車アタッカーの中でもメガヘラクロスは完成された能力を持つ。似た傾向の能力となるメガアブソル(サイゴク)では押し負けてしまうことは明白だ。

 故に、高速で動けるギガオーライズ形態からオオワザを放ち、ヘラクロスを叩くしかない。

 

「でも忘れないでおいてくれ。相手はヘラクロスだけじゃない。アルカ君は他にもポケモンを持っている。ヘラクロス1匹に持ってかれすぎないように、くれぐれも気を付けたまえよ」

「分かってますよ、そんな事は。あいつがバトル強いの、俺だって知ってますから」

「この戦い、君にとっては文字通りの総力戦だ」

「あいつの手持ちは分かり切ってる」

「向こうも同じだよ」

「……」

 

 だからこそ、どう転ぶか分からないのだ。 

 ヘラクロスだけが強敵ではない。同様に墨の呪いで強化されるであろうデカヌチャンやジャローダ、モトトカゲは単純にステータス差で圧倒してくることが考えられる。

 特に脅威となるのは素早さだ。先手を取られ、上から叩かれ続ければ、ダメージレースで不利となる。

 何より相手はこちらの手の内を知っている。

 分かってて当然だ。ずっと一緒に旅をして来たのだから。

 

「──言いたい事は色々あるけどよォ、あんたがやりてぇようにやれば良いと思うぜボウズ」

 

 ざっ、と歩み寄ってくるのは──ダンガンだ。その横にはフカ、そしてデリバードも並ぶ。

 

「この中で一番強いトレーナーは? って聞かれたら……まあキャプテンだろうが……それでも次に強いのはあんただろ。任せるぜ、アルカを助ける役」

「……ダンガンさん達は」

「百鬼夜行がもう一度起こる可能性がある。その時は……俺達で食い止める」

「背後はお任せ下さい。アルカさんの事を一番分かってるのは貴方のはずですから」

『Yes! 思いっきり暴れてきなヨ、Hero!』

「……皆さん。でも、良いんですか? 俺のワガママみたいになっちゃって……」

「無論、何かあった時は──俺がついている。ワガママだなんて思うな」

 

 言ったのはヒルギだった。その言葉がとても心強い。

 

「相手もお前ひとりだけなら警戒を緩めるかもしれない。その隙を突くくらいの気持ちで行け」

「相手が好きな女なら、猶更だろ? ボウズ」

「からかわないでくださいよ……ダンガンさん」

「一回コテンパンにされたからってビビってるわけじゃねえだろうな」

「……正直、ビビってますよ」

 

 敵に回せば、アルカ程恐ろしいトレーナーはそうそう居ないのだ、と改めて思い知らされた。

 トレーナーとしての先輩であることはずっと変わらない上に、ずっと隣に立っていたのだから彼女自身も成長している。

 

「でも……勝ってあいつを取り戻さなきゃいけない」

「墨をどうにかして引き剥がす方法があれば良いんだがな……」

「それについてはこっちで何とかする。メグル、お前にはアルカを引きつけて貰う。そして、手持ちを全員何とかして無力化しろ」

 

 メグルは頷いた。

 今の自分にはそれしか出来ない。

 後は、彼女の各手持ちから逆算して戦術を組み立てる所だ。

 まさにポケモン廃人の腕の見せ所である。

 

(初手は多分デカヌチャンだよな……もう既に此処からキツいもんがあるんだが……)

 

 電磁波、両壁、そしてデカハンマー。

 単純だが強力なサポート構成だ。こんなもんを教えたのは一体何処の誰なのだろうか。メグルである。

 

(足が速いから妨害するのも難しいし、そもそもデカハンマーが強い……初手でテンポを取られたら総崩れだし、此処を重視しないと……)

 

 そう考えていた矢先だった。

 

 

 

「大変です!! 美術館に向かって、百鬼夜行が迫ってきます!!」

 

 

 

 警察官たちが大声で駆け付けて来る。

 

「……来たか……ッ! 全員で抑えに掛かれ!」

 

 ダンガンが叫ぶ。

 周囲に緊張が走った。

 アルカがやってきたのだ。

 ヒャッキのポケモンを引き連れて。

 すぐさま警官や国際警察たちが外に出て行く中、デリバードがメグルに近付く。

 

『Hey! Youは私が連れていくデスよ!』

「良いのか?」

『あの子には世話になったから……私も助けてあげたいのデス! それに、怪盗に貸し借りという言葉は無いのデス! 盗みはしマスけどネ!』

「助かる!」

 

 メグルはデリバードに服を掴んでもらう。

 すると、周囲から風が巻き起こり、勝手に身体が浮かび上がる。

 そのまま、デリバードは外へ飛び出し──上空からアルカの姿を探すのだった。

 既にフチュウでは、突如として現れた墨のポケモンが闊歩しており、警官たちと激突している。

 百鬼夜行の第二陣の幕開けである。

 終わらせるには、その根源であるアルカを止めるしかない。

 ぞろぞろと整列し、自らの力を誇示するように行進するヒャッキのポケモン達を横目に、メグルはアルカがその近く居ないかを探す。

 

(見当たらない……ッ!! あいつ、何処に居るんだ……!?)

 

『メグル! アルカが何処にいるか覚えはないのデース!?』

「分からねえよ! あいつの居そうな場所なんて……いや、待てよ」

『何か手掛かりが!?』

「……今回の旅行でケチが付いちまった場所が1つあってな。もしかしたら、そこにいるかも……!!」

『だから何処なのデース!』

「フチュウ庭園だ! あそこは広いし、位置的にもヒャッキのポケモン達を呼び出すには打ってつけ! 丁度フチュウのド真ん中だ! 今は夜で誰も居ないだろうしな!」

 

 それに、とメグルは頭の中で続ける。

 今回、彼女とのデートの途中で国際警察の二人にバトルを挑んでしまった所為で、庭園の観光が中途半端だったのだ。

 あのアルカが何処まで本人と意識を共有しているかはメグルには分からない。だが──少なくとも自分への好意で動いていることは確かだ。

 

『OK! 良い推理デスね! どうせ他に手掛かりもないし! 飛ばすデース、デリバード!』

「デリー!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──よう、来たぜ」

「……」

「……大概にしろよ。アルカは勿論、アルカのポケモンまで巻き込んで百鬼夜行なんざ起こすなんざ、許すわけがねえだろが。悪さも此処までだ」

 

 

 

 彼女は唯一人、月の光差す庭園に立っていた。

 月光に照らされた彼女の顔は、微笑んでいた。

 ずっとずっと、メグルを待ち構えていたかのように。

 

「デートはあの時、中断しちゃったからね。ちゃあんと埋め合わせしてくれたんだ」

「バーカ、言わなくても分かるなんてこれっきりだぞ」

「……あはっ、嬉しいな。また攫われたのかと思ったけど、そっちから会いに来てくれるなんて」

「何処までアルカに聞こえてるかは分かんねーけど……俺は居なくなったりしねえよ。離れても、絶対にまた戻ってくる」

「……嬉しいなあ、メグルもボクの事大好きなんだ」

「だけどな。先ずはお前に正気に戻ってもらう。言いたい事は山ほどあるけど、先ずはそこからだ」

 

 メグルが好きなのは、今此処で百鬼夜行の中心となっているアルカではない。

 明るく、快活で、好奇心旺盛ないつものアルカだ。

 

「さっきの選択、どっちがどうなってもきっと──俺達はこうして戦う運命だったと思う。だけど、それでも……俺はお前を繋ぎ留めたい。どんな手を使ってでも」

 

 メグルは──最早躊躇など無かった。

 自分のエゴの為に、アルカに楔を打ち込むことに決めた。

 好きで好きで、大事で大切で仕方がないからこそ──分からせることに決めた。

 だが、そのためには今目の前に立っている()()はジャマだ。

 彼女は墨から生まれた人格。メグルの愛する彼女ではない。

 

「何の話してるの、メグル。目の前にいるボクを見ていないよね?」

「そりゃそうだろ。最初っからテメェなんざ眼中にないんだよ、祟り神」

「……あはっ。冗談じゃない! ボクは実質この身体の持ち主みたいなものさ!」

「いーや、祟り神に違いねえよ。今更目覚めやがって、さっさと成仏しやがれ」

 

 メグルには最初から自分等見えていないことに気付いた祟り神は──ボールを取り出す。

 

「分かってないね。ボクはこの子の別側面みたいなものなのに。ボクを受け入れられないなら、受け入れられるようにしてみせる。君がどれだけ無力で矮小で──ボクに守られなきゃいけないかを分からせてあげなきゃいけないみたいだ!」

 

 互いにボールを投げ、宙でぶつかり合う。

 最初に飛び出したのは、メグルがアヤシシ、アルカがデカヌチャンだ。

 しかし、デカヌチャンの身体は既に黒い墨に覆われてしまっており、表情も禍々しいものへと変貌している。

 口からは常に黒い靄のようなものが溢れ出していた。

 その変わり様にアヤシシも怯んでしまい、後ずさる。それほどまでにかの水墨画──否、ヒャッキドーブルの墨は強烈なものだったのだ。

 

「さあて、君が教えてくれた戦術を使わせてもらうよ! デカヌチャン、”リフレクター”!!」

 

 すぐさま障壁が展開される。

 素早いデカヌチャンは更にそこから飛び出し、アヤシシ目掛けてハンマーを振り回しにかかる。

 だが、そこまでの動きはメグルも想定済みだ。

 壁は展開された。しかし、この手の戦術で最も有効なのは、壁が展開された後のゲームを妨害することである。

 

「”あやしいひかり”!!」

 

 アヤシシの角の宝珠が光り輝いた。

 同時に、デカヌチャンの周囲を光が舞い踊り、一気に混乱させてしまう。

 ふらふらと千鳥足になるデカヌチャンは続けて”ひかりのかべ”も展開しようとするが、まともに壁を張ることもままならない。

 

「ッ……な、小細工を!! しっかりして、デカヌチャン!!」

「カ、カヌヌ──」

「更に”鬼火”だ!! グダって無駄に壁のターンを稼がれる気分はどうだ!?」

 

 混乱している今ならば、デカヌチャンに”おにび”を当てる事も容易い。

 すぐさまその身体は燃え上がり、一瞬でデカヌチャンは物理アタッカーとしての役割を機能停止したのだった。

 更に混乱しているので、このままでは闇雲に”リフレクター”のターンを消費することになりかねない。

 仕方なくアルカはデカヌチャンをボールの中に戻す。

 

「……ジャローダ!! 今度は君だ!!」

「ッ……即刻引っ込めてきたな、アヤシシ気を付けろ!!」

「ブルトゥ……ッ!!」

 

 飛び出したのはジャローダ。

 特性:あまのじゃくとリーフストームのコンボにより、永続的に火力を上げ続ける事ができるポケモンだ。

 おまけに”へびにらみ”で相手を麻痺させることも得意とする。

 リフレクターとひかりのかべを両方共展開することで、アルカは安全にジャローダに”リーフストーム”を積ませる算段だったのだろう、と考える。

 

「今度は逃がさない。”へびにらみ”!!」

「ッ……!」

 

 すぐさま、その素早さを裏付けるように、メグルがアヤシシを引っ込める前に凍てつくような視線が貫いた。

 アヤシシは体を崩し、脚が痙攣しているのが見える。蛇の目に睨まれたものは麻痺状態になってしまう。

 そして動けない所を容赦なく、ジャローダは木の葉の嵐を巻き上げていく。

 凄まじい風圧だ。メグルもまともに近付くことができない。

 

 

 

「リーフストームでまとめて吹き飛ばしちゃえッ!!」

 

【ジャローダの リーフストーム!!】

 

 

 

 凄まじい勢いで竜巻が幾つも巻き起こる。

 それがアヤシシに、そしてメグルにまとめて襲い掛かる。

 だが、アヤシシも負けてはいない。ぶつけて相殺するようにして大量のシャドーボールを撃ち込んでいく。

 影の弾は爆ぜ、竜巻を幾つか止めてみせたものの、それでもリーフストームの勢いは止まることを知らない。

 

「荒れ狂う嵐!! まるでボクの恋心のようだと思わない!?」

「勝手に言ってろ!!」

 

 轟々と吹き荒れるそれをアヤシシは受け止める事ができず、巻き上げられてしまう。

 だが、この時──最大のチャンスをアヤシシは得た。

 そもそも半ば霊体の身体に物理法則など通用しないのである。

 宙に居ようが関係ない。全力でジャローダ目掛けて突進することが出来る。

 

「”すてみタックル”!!」

 

 タイプ一致のそれが、弾道ミサイルのようにジャローダに降りかかり、落ちた。

 クレーターが出来る勢いだったことは言うまでもない。

 だがそれでも、耐久に優れるジャローダは、それだけで倒れるはずが無かった。

 ましてや”リフレクター”が展開されているので猶更大した痛手になりはしない。

 今度は大きな体を活かし、アヤシシに思いっきり力強く巻き付くのだった。

 

「あははっ、苦しい? 苦しいよね? 悔しいよねえ!!」

「ッ……コイツ……!! 分かっちゃいたが、流石の耐久……!!」

「締め上げちゃいなよ、ジャローダ! ぎゅぎゅっ、てね!!」

 

 チロチロ、と舌を出しながらジャローダは大顎をアヤシシに向ける。

 完全に捕食する数秒前。

 だが、大人しく喰われるアヤシシではないのである。

 

「”シャドーボール”!!」

 

 大口の中にまたもや影の弾が打ち込まれた。

 そして、ジャローダの喉の中でそれは暴発し──煙を吹き出しながら蛇の女王は崩れ落ちる。

 しかしそれでも、ジャローダは斃れる様子を見せない。

 再び威力の上がった特攻から、大量の木の葉の嵐を巻き上げていく。

 

「これならどうかなぁ!! ”リーフストーム”!!」

 

 特性:あまのじゃくで、本来下がるはずの特殊攻撃力が逆に倍増。

 さっきのそれを大きく上回る巨大な竜巻がアヤシシを襲う。

 幾らアヤシシの耐久と言えど、何度もこの大技を耐えられるはずも無かった。

 想像以上の速さにメグルも指示を出す間もなく、アヤシシは巻き上げられ──地面に叩きつけられる。

 そのまま体に灯っていた鬼火は消えてしまった。

 

「……戻れアヤシシ!」

 

 先に1匹目が落とされた。

 やはり、ジャローダは強敵。技もステータスも優秀だ。

 

(だとすれば、やっぱり弱点を突いてマウント取っていくしかねえよな……!!)

 

 メグルは2つ目のボールを握り締める。草タイプにメインウェポンで弱点を突けるポケモンは、メグルの手持ちの中では1匹しか居ない。

 

 

 

「どうするの? メグル。早速ボクが勝ってるけど?」

「へっ、バトルの行方は最後まで分からねえよ──頼むバサギリ!!」

 

 

 

 大斧を振り回しながら、益荒男は戦場に降り立つ。

 とはいえ、ジャローダの特攻は4段階も上昇している。かなりマズい状態には変わりないのであるが。

 

 

 

 

(第一の難関……何とか超えてみせる……ッ!! ありとあらゆるものを使ってでも!!)

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