ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC27話:侵食

 忘れていた。忘れかけていた。

 彼女は、あっさりと自分から命を捨てに行く。

 誰かが困っているなら、苦しんでいるならそれを肩代わりしようとする。

 それしか自分にはできないから、価値がないから、と根底で思い込んでしまっている。

 相手がメグルならば猶更だった。

 その結果が──これだ。

 彼女の顔は黒い墨に蝕まれてしまっており、狡猾で嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 

「……何だ。誰だオマエこそ……アルカじゃないな……ッ!!」

「……? あはっ、あはははは! そっか、そっかそっかそっかぁ、()()()()()()ぁ、確かに虐めるとカワイイ顔しそうだもんね。たっぷりと、時間をかけて、愛してあげる」

「フィキュルルィィィ!!」

 

 ニンフィアが露骨に嫌悪感剥き出しの鳴き声を上げる。

 この女は危険だ、と伝えるように。

 

「あは。やっぱり邪魔をするんだね、ニンフィア。でもダメだよ。()()()、彼が好きになっちゃった。君にはあげないよ」

「な、何言ってやがんだ……!?」

「遊んであげるって言ってるんだよ。ボクが君を独り占めにするんだ! ぐちゃぐちゃにしてあげるから! 一緒にさぁ!!」

 

 彼女は腰にぶら下がっているボールに手を触れる。

 次の瞬間、手から墨のようなものが伝わっていき、ボールを包み込んでいく。

 そして、思いっきり彼女はボールの1つをメグルに向かって投げた。

 飛び出したのは──ヘラクロスだ。

 しかし、その目は何処か虚ろ。そして全身からは黒い墨のようなオーラが噴き出している。

 それどころか染みこむように黒い墨が全身に入り込んでいる。

 

「好き。好き好き好き! ふふっ、そっか、そっかそっかぁ! そんなに彼の事が好きなんだね! 大丈夫──()()()()()()()、たっぷり可愛がってるあげるから。……行くよ、ヘラクロスッ!!」

 

【ヘラクロスは あらぶるオーラをまとい、素早さが上がった!】

 

「墨の影響がポケモン達にも──!? ヘラクロス!! 聞こえねえのか!? ヘラクロス!!」

「……」

 

 ヘラクロスはメグルの呼びかけに応える様子が無い。

 そればかりか、これが答えだといわんばかりに”ミサイルばり”の応酬。

 

「くっそ、容赦なく撃ってきやがる……ニンフィア、やれるな!!」

「フィッキュルルル……ッ!!」

 

(傷つけたくない……ッ!! アルカも、アルカのポケモンも……ッ!! だけど、こいつが他のモノを傷つけたら、きっと元に戻った時、一番苦しむのはコイツだ……ッ!! こうなったら、その前に、俺がアルカを止める……ッ!!)

 

 ──ニンフィアが全身の毛を逆立てながら、低く構える。

 幸い、ヘラクロスのメインウェポンはニンフィアのフェアリータイプに対し、両方共いまひとつだ。

 しかし──

 

「──ヘラクロス、”ロックブラスト”!!」

「”ハイパーボイス”でブッ飛ばせ!!」

 

 ヘラクロスの速度は想像以上に速く。

 ニンフィアの背後に回り込むなり、宙に浮いた大量の岩を彼女にぶつける。

 至近距離から大ダメージを受けたニンフィアは悲鳴を上げると──そのまま倒れ込んでしまう。

 

「ねえ、ねえねえねえ!! 今どんな気分!? どんなキモチ!? 悔しいね、悔しいよね!! 情けなくて涙が出るよね!! ……でも仕方ないよね、君じゃあボクには勝てない」

「フィッキュルルル……ッ!!」

「ああ、威嚇のつもり? でも……それは、負け犬ポケモンの遠吠えってヤツだよ」

 

(速い、幾ら何でも速過ぎる……!? ──まさか、墨で能力が上がってるのか!?)

 

「戻れニンフィア!!」

「ふぃ、ふぃー……ッ!!」

 

 ゲームのサン・ムーンでも、オーラを纏った敵ポケモンの能力が1段階上がるシチュエーションがあったことをメグルは思い出す。

 今のヘラクロスは、ドーブルの墨によって素早さが上がっているのだ。

 ニンフィアは防御力が低い。故に、このままヘラクロスの攻撃を受け続けることはできない。

 

「アブソル、出番だ!!」

「ふるーる!!」

 

 ならば、とメグルが繰り出したのは、メガシンカすれば重戦車型となるアブソルだ。

 こちらも、ヘラクロスのメインウェポンは通用しない。その上、ヘラクロスを機能停止に追い込むことができる”おにび”まで習得している。

 

「……で? なぁに、君もボクとメグルの邪魔をするの? アブソル」

「るっせぇ!! さっさとアルカの身体を返せ!! メガシンカだ、アブソル!!」

「ふるーる!!」

「……メガシンカ。成程。じゃあ、ボクらもメガシンカしようかヘラクロス」

 

 同時に進化の光が迸り、ぶつかり合う。

 鬼火を纏い、長刀のように伸びた尻尾をぶつけるアブソル。

 それを事も無げに受け止めたヘラクロスは、そのまま圧倒的な膂力で彼女を振り回し、地面に叩きつけるのだった。

 メガシンカポケモンの中で最も高い攻撃力を誇る、それがメガヘラクロスだ。

 全身を覆う重装甲は勿論、そこから放たれる一撃があまりにも重く、アブソルも悶絶する程。

 更に、素早さが上昇しているためか、重い身体に見合わぬ速度で接近してくるのだ。

 すぐさま”おにび”でヘラクロスの攻撃力を奪おうとするアブソルだったが、それもあっさりと躱されてしまう。

 そして次の瞬間には至近距離で”タネマシンガン”が放たれるのだった。

 

「あはは! あははははは! 綺麗にフッ飛んだねえ!!」

「ガルルルルル……ッ!!」

 

 殺意に満ちた眼差しでアルカを睨むアブソル。

 しかし、いつもの彼女とは違う。その視線に怯えることなく不敵な笑みを浮かべている。

 

(ダ、ダメだ、色んな意味で強すぎる……ッ!! ヘラクロスの意味では、あの攻撃力と耐久力に素早さが加わったら手の付けようがない……ッ!! しかもアイツの攻撃は本来、遠距離戦メイン、遠ざかっても無駄だ!!)

 

「”ロックブラスト”で蜂の巣にしちゃえ」

 

 容赦なく撃ち鳴らすようにアブソルの足元目掛けて岩の機関砲がぶつけられる。

 すぐさま地面に潜行して回避するアブソルは、そのままヘラクロスの足元の影にまで移動し、背後から攻撃しようとする。

 

「”ゴーストダイブ”だ!!」

 

 前脚から伸ばした影の刃をヘラクロスの背後からぶつける。

 しかし──全くと言って良い程効いていない。せいぜい表面に傷がついた程度である。

 

「んなっ……!? 弾かれた──!?」

 

 返ってくるのは、ノールックでのタネマシンガン。

 幾らアブソルの耐久力が高いといえど、何度もヘラクロスの攻撃を喰らえば、必然的にその体力は削られていく。

 

(元から強かったけど、敵に回すと、こんなに恐ろしいヤツだったのかコイツ……!!)

 

「ダメだよ。愛の力は強いんだよ、なーんて言ってみたり」

「ハッ、ヘンな墨でドーピングしといて何ほざいてやがんだ……ッ!! さっさと、アルカを返してもらう!!」

「返すも何も無い。()()()()()()()()

「ああ!? 寝言は寝て言え!!」

「ボクが、彼女の代わりに君を愛してあげると言ってるんだ。ひ弱で、脆弱な君をね」

「ッ……!! 誰が、弱いだこの野郎!!」

「弱いよ、君は」

 

 答え合わせ、と言わんばかりにアブソルの身体に今度は”ミサイルばり”が撃ち込まれる。特性:スキルリンクで狙いは正確そのもの。

 鬼火を噴出している箇所が傷つけられて暴発してしまう。甲高い悲鳴がその場に響いた。 

 

「んなッ……!?」

「こういう戦い方、君にはできる?」

 

 悶絶し、地面を転がるアブソル。

 効果はいまひとつだが、身体的な弱点を狙われたことでダメージは結果的に倍増。トントンだ。

 それどころか、鬼火を身体から上手く噴き出すことが出来ず、爆ぜてしまう。

 幾ら重装甲の戦車と言えど、ビスや覗き穴など弱点を狙われれば容易く沈黙してしまうのと同じだ。

 

「硝子の身体なんだよ、その子(アブソル)。知ってるでしょ? 幾らメガシンカして強くなったといってもね……!」

「ッ……!」

 

 観察力だ。

 石や遺跡、ポケモンと向き合う事で培われたそれは、タイプ的な相性だけでなく()()()()()()()()()弱点を突くことに秀でさせた。

 彼女の心の優しさがそうさせなかっただけで、今まではメグルを助けてきたのが、逆に牙を剥いてくる。

 そこにメガヘラクロスの正確無比な射撃が加われば脅威そのものだ。隙というものがない。

 だが、それでも──アブソルは立ち上がる。

 

「ダ、ダメだ、アブソル、もう休め!!」

「フルルッ!!」

 

 振り向き、主人に向かって叫ぶアブソル。

 今此処でヘラクロスを抑えられるのは自分しかいない、と言わんばかりに。

 

「ッ……”むねんのつるぎ”!!」

「口惜しいね、憎らしいね。でも、歯が立たなくて、涙が出ちゃうよねェ!!」

「ガルルルルッ!!」

 

 飛んでくるロックブラストを刀で打ち払い、肉薄するアブソル。

 青白い鬼火を纏った尻尾を振り回してヘラクロスを切り裂こうとするが、それも宙返りで躱されてしまい、隙を生んでしまう。

 

 

 

「──”タネマシンガン”、撃ち方始め(ウチカタハジメ)

 

 

 

 彼女の背中目掛けて大量の種が機関砲のように速射された。

 まさに蜂の巣。遂にアブソルも耐えきることができず、その場に崩れ落ちる。

 そしてメガシンカの光はあっさりと消え失せるのだった。

 未来予知など関係ない。圧倒的な火力と耐久、そして素早さで正面から捻じ伏せる。全くと言って良い程アブソルは反撃することが叶わなかった。

 完全敗北だ。

 

「そ、そんな、アブソルまで……ッ!!」

「くすっ、くすす。好き。好きだよ、おにーさん。これで二人っきりだね」

 

 つかつかと歩み寄るアルカとヘラクロス。

 最高戦力であるアブソルが倒された以上、次に投げられるのはヘイラッシャだ。

 しかし、ヘイラッシャは元々タネマシンガンで弱点を突かれてしまう上に、どのオーライズでもヘラクロスの技で抜群を取られてしまう。 

 

(ダメだ……!! A185の抜群技は幾らヘイラッシャでも受けられない……!!)

 

「さあ、もう戦えないよね。負けるって分かってるのに、ポケモンを犠牲になんて、出来ないよね、おにーさんは……ッ!!」

「クソッ……何が目的だ!! 何をしたいんだオマエは!!」

「くすす、言ったでしょ? ボクが君を独占するんだ。すぐに君はふらふらと居なくなっちゃうからさ。ボクが、ずぅっと首輪をつけていてあげる」

 

 昏い目が前髪から覗く。

 背筋が凍り付くような気分だった。

 

「先ずは、二度とボクから逃げられないように──地面と手足を繋ぎ合わせてあげるよ。”ミサイルばり”!!」

 

 

 

「──セキタンザン、フレアドライブだッ!!」

 

 

 

 何処からともなく火の玉がすっ飛んできて、ヘラクロスを突き飛ばす。 

 流石に効果抜群の一撃は耐えないと思いきや、重装甲の身体は炎すらも跳ね返す。

 だが、流石の彼女も突然現れたセキタンザンには戸惑いを隠すことが出来ないようだった。

 恋は盲目。故に、死角から現れたその男とポケモンに気付けなかったのである。

 

「ッ……な、何事!?」

「続いて──”ふぶき”だ、ジュゴンッ!! 辺りを白く、染め上げろ!!」

 

 猛吹雪が周囲を包み込む。周囲の空気は一気に冷え込んだ。

 一瞬で周囲は銀景色と化し──アルカの視界は白に包まれる。

 そして再び目を開けた時には、メグルも突然の乱入者の姿も居なくなっていた。

 

「ッ……!!」

 

 フラッシュバックするのは、あの大寒波の日。

 スイクンに連れ去られていくメグルの姿だ。

 

 

 

「……メグルが……盗られたッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──美術館に、全員は集合していた。

 此処までの状況を再確認するためだ。

 各地に点在していたヒャッキのポケモンは消え失せ、百鬼夜行は収束すると思われた。

 しかし、実際はそうではない。百鬼夜行が収まっても、まだ問題は解決していなかったのである。

 アルカだ。絵画を破壊した際に、墨が溢れ出し、彼女を侵食してしまったのだ。

 

「……つまり、だッ!! あんたに疑いが掛かってんだよなァ、ばーさん!! ゲロっちまえよ、楽になるぜ」

「え、墨の祟りって何……怖……あたしゃ知らん……」

「とぼけてもムダだぞォ!! 知ってんじゃねえかァ、絵が危ないってよォ!!」

 

 後ろではダンガンがキヨ館長を取り調べているが、全くと言って良い程進展はない。

 クローバーも此処までの事態になるとは予想外だったらしく、デリバードのスピーカー越しだが申し訳なさそうに言ったのだった。

 

『……完全に予想外なのデスよ……やっぱり海で絵画を破壊するっていう私の当初のプランは正解だったのデスね……』

「迂闊だった……ッ!!」

 

 メグルは歯噛みする。

 アルカは自分を庇って墨の祟りを一挙に引き受けたのだ。

 その所為で、おかしくなってしまった。

 悔やんでも悔やみきれない。あの場での最適解は、誰か1人が祟りをおっ被る事だったとはいえ、その矛先が彼女に向いてしまった。

 本当は守りたいと思っているのに。割を食うのはいつもアルカだ。

 

「……大丈夫ではなさそうですね」

 

 フカが問いかける程にメグルは酷い顔をしていた。

 

「あいつ……前にも俺の事庇って大怪我したことがあるんだ。もうこんな事するなって言ったのに……ッ」

 

 自分の受ける痛みに、彼女はあまりにも無頓着すぎる。

 その結果周りが──特にメグルがどれだけ心配するかを理解していない。

 だが、彼女がそんな行動に走ってしまう理由がメグルには何となく想像がついていた。

 過去に彼女が受けていた扱い。そして──最後に彼女が言っていた言葉を思い出す。

 

 ──ボク、バカだから……これしか思いつかなかった。

 

 彼女は自分を大事に出来ない。

 本質的に何処かで自分を無価値だと思っている。

 だから──好きなものを守る為なら、躊躇なく迷いなく自分の身体を、命を投げ出してしまう。

 それほどまでに、メグルという男は彼女の生き方を、在り方を大きく捻じ曲げてしまった。

 例えそれがどんなに恐ろしい事でも、死ぬよりも遥かに苦しい目に遭うと分かっていても、それが大事な物を守る為なら、迷わずに突っ込んでしまう。

 それが生き方に刻まれてしまっている以上、メグルが多少言ったところで治るわけがなかった。

 あまりにも彼女は──自分が”無価値”であると刻まれる時間が長すぎた。

 

(ヒャッキの事件が終わってからは多少はマシになったと思ってたのに……ッ!!)

 

「……悔しいんだ……ッ!! 結局、またあいつに……命を張らせてしまった……ッ!!」

「でもそれはきっと、アルカさんが望んだことなのでしょう。ま、悪癖と言って差し支えないでしょうが」

 

 隣に座るフカは──ぽつり、と呟いた。

 

「……話してみて分かったのですが、アルカさんはとても強い人ですよ。強いけど……麻痺してしまってる。自分が辛い状況に置かれることを。そして、心根が純粋で優しすぎる所為で、誰かが辛い目に遭うのを善しとしない」

「……何処まで聞いたんだ?」

「トップシークレットです。それで? 貴方はどうしたいんですか、メグルさん」

「そりゃアルカを助けたいに決まってる!! ……だけど不安だ。これから先も同じ事が起こるんじゃねえかって思うと」

「思いを伝える方法は──言葉だけではありませんよ。しっかりと()()()()()やれば良いんじゃないですか。自分が彼女をどう思っているのか。どうしてほしいのか」

「えっ、それって──」

「……愛は楔で、呪いですよ。貴方に、呪いを彼女に打ち込む覚悟はありますか?」

 

 そう問いかけ、彼女は踵を返して去っていく。

 

「……覚悟……か」

 

 メグルは目を瞑る。

 正面から──彼女に向き合うため。 

 そして彼女を取り戻すため。

 

 

 

「……とっくにしてると、思ってたんだけどな」

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