ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC25話:百鬼騒乱

(敵は2体。話に聞いていたヒャッキのアップリューとタルップルか)

 

「漸く寒冷化現象から明けたというのに、またサイゴクを氷漬けにされては堪ったものではないな……!!」

 

 情報によれば、存在するだけで冷気は周囲を凍らせる生ける災害。ゴーストなので死んでいるようなものなのだが。

 その氷は呪いの氷。アップリューとタルップルを倒さない限り、永遠に解除されることは無い。

 

(凍らせられればアウト……だが、水・炎タイプであるセキタンザンに氷技は通用しない。ゴーストタイプの技は普通に効いてしまうが)

 

 アップリューに組みかかり、投げ飛ばし、一気に”SLブレイク”で押し潰すセキタンザン。

 だが、バラバラに砕けた氷の身体はすぐさま周囲の冷気を吸収して元に戻ってしまう。

 溶かそうと幾ら火力を上げても、溶けるどころか再び冷え固まっていく氷の身体を前に、ゴーストアップルの持つ再生能力の高さをヒルギは痛感するのだった。

 冷気はどんどん強まっていき、二匹の居る場所から次々に路面が凍り始めており、樹のように氷が生えていく。

 それは侵食するかのように辺りを蝕んでいき、セキタンザンの足元を捉えていく。

 ふとヒルギは、セキタンザンの動きがだんだん弱っていることに気付いた。

 熱が冷めている。炉心の炎が小さくなっている。動きが鈍くなっている。

 今までどんな寒冷地でも問題なく戦えていたセキタンザンが、相手の冷気を浴びただけで、苦しんでいる。

 

(……これが呪いの氷の力。熱だけでは、そもそも土俵にすら立てない。想像以上の浸食率だ、セキタンザンの熱も上回る勢いか)

 

 セキタンザンは蒸気機関を内蔵したポケモン、その周囲からは常に高熱の水蒸気が発せられている。

 にも拘らず、冷気に押し負けそうになっているのだ。

 ヒルギは伝聞でしかヒャッキのヌシポケモンの事を聞いていないが、聊か見通しが甘かったと断じる程だった。 

 これでも話によれば、氷に囲われた防壁を展開するだとか、よあけのおやしろの袋小路に追いやって、ポケモン達で集中砲火しなければ倒せなかったとあったので、ある程度苦戦するであろうことを想定していた。

 想定はしていたのだが、相手が炎タイプと水タイプを複合するセキタンザンでも熱を容赦なく奪い、弱らせる程であった。

 炎タイプをぶつけるだけで勝てる相手ではないことを漸くヒルギは理解する。

 

(この戦い、発生源である絵画を無力化すれば止まる。だが、逆に言えばそれまでは持ちこたえていなければならないということ。凍らされたが最後、戦える手持ちが減っていく)

 

 これが、一度捕獲すれば終わりの普通のポケモンならばセキタンザンでも問題ない。

 しかし、今回の相手は捕獲できない絵の中のポケモン。

 終わるまで延々と戦い続けていなければならないのである。

 求められるのは氷に対する耐性だけではなく、持久力だ。

 

「──戻れ、セキタンザン!!」

 

 となれば適性のあるポケモンはこちらではない、とヒルギは即座に判断する。

 ボールをすぐさま掲げ、相棒を手のうちに戻す。

 そして次に繰り出すのは、氷状態に絶対にならないであろうポケモンだ。

 しかも持久力、戦闘力、いずれも併せ持ったポケモンだ。

 

(本格的に実戦で運用するのは初めてだが……!!)

 

「……呪いの氷とやらが、氷に何処まで強いか。見せてくれ──ジュゴン!!」

「ヒュゴーゥ♪」

 

 どしん、と重い身体をスケートリンクの上に這わせ、愛嬌たっぷりに鰭を開き、きゃぴっと舌を出すのは──ミッシングアイランド近海でヒルギが捕獲した、あのジュゴンだ。

 バイザーに操られていた時は狂暴そのものだったがいざ捕まえてみると、非常に人懐っこく、今ではあの恐ろしさは微塵も感じられない。

 それでも大きさは通常の個体の倍以上はあり、威圧感はたっぷり。背の高いヒルギが守られているように見える程だ。

 そして寒気を前にしても、全く平気なのか、アップリューとタルップル目掛けて一気に尾びれを叩いて飛び跳ね、距離を詰めるとすぐさま得意のハイドロポンプで薙ぎ払ってみせるのだった。

 

(呪いの冷気を前にしても臆する様子無し、やはり餅は餅屋、寒冷地には氷タイプだな。後は如何にして奴らの戦力を削ぐかだが)

 

 すぐさまアップリューが影の中に身を顰め、タルップルが影を濃縮させて大量のボールを作り出し、撃ち放つ。

 連続で放たれる影玉の的になるジュゴン。

 しかし、爆風が収まった時、そこにあったのは相変わらず愛嬌たっぷりに笑顔を浮かべて、ショーのように踊り回るジュゴンの姿だった。

 全くと言って良い程通用していないのである。

 そんな事を知る由もないアップリューは、”ゴーストダイブ”でジュゴンの背後から攻撃を仕掛けるが、影の爪は全く脂肪に突き刺さらず、そのまま撥ね飛ばされてしまうのだった。

 

「ヒュゴ?」

「お前は少しは痛がってみるとか無いのか……とんだ耐久力だ」

「ゴッゴッゴッゴーゥ」

「まあ良い、これだけ耐久力があれば、こいつ等相手にも持ちこたえる事ができるだろう。後は、こっちから仕掛けてやるだけだ! ジュゴン、”ハイドロポンプ”!!」

 

 強烈な水流が噴出され、アップリューとタルップルを押し流す。

 技の威力も申し分ない。

 申し分ないのだが、いちいち技を決める度に陽気にこちらに向かってアピールをしてくる。

 そして、後隙に襲い掛かってきた二匹にも尾鰭を振り回して弾き飛ばすなど、敵への情け容赦もない。

 そのため「やめろ」と注意する事も出来はしない。

 あのサーフェスが切札として用意していただけあって、戦力としては申し分ないということはヒルギも理解出来た。

 

「ゴッゴッゴーゥ、ゴッゴッゴーゥ」

「……」

 

(水族館に売り込むことでも想定して訓練されてたのかコイツ……サーフェスのヤツは何も言っていなかったぞ……)

 

 ……少々、ヒルギがそのテンションに付いていけていないだけである。

 そして、幾ら絵の中のポケモンと言えど、コケにされるのは納得がいかないのだろう。

 アップリューもタルップルもいきり立ち始め、全身からこれまでにない強烈な冷気を放ち始めたのだった。

 その勢いを見て、ヒルギはすぐさまオオワザの予兆であると感じとり、距離を取った。

 

「チッ!! ジュゴン──身構えろ!! 流石にオオワザはお前でも堪えるだろう!!」

「ヒュゴゥ?」

 

 何のことやらと言わんばかりに首を傾げるジュゴン。

 この時点でヒルギはこの後起こるであろうことを察する。

 その頭上には巨大な氷の林檎が浮かび上がっているが、ジュゴンはそれを余興か何かと勘違いしているのか、ほげーとした顔で見つめているのだ。

 

 

 

 

【アップリューとタルップルの アップルゴースト!!】

 

 

 

 ──冷気は爆ぜた。

 下町の道路一帯は氷の冠が出来上がる。

 ヒルギも、思いっきり走って離脱しなければ巻き込まれていたところだった。

 辺り一帯は銀景色。住宅は氷漬けになっている。

 そして、氷の冠の上で──

 

 

 

「ゴッゴッゴーゥ、ゴッゴッゴーゥ」

「……」

 

 

 

 ──ジュゴンは、手を叩き、踊っていた。

 水・氷タイプに、氷技は4分の1で効果がいまひとつ。更に”あついしぼう”で氷技は更に半減。

 とはいえ、とはいえ周囲の地形を変えるオオワザなのである。

 それを撃たれてびくともしていないのは、無法も良い所であった。

 

(か、可哀想に……同情はしてやるぞ、絵の中のポケモンよ)

 

「たるるるる……」

「あっぷりゅりゅ……」

 

 そして、オオワザを撃った後は当然後隙というものが出来る。

 絵の中のポケモンにも疲労という概念があるのか、二匹共ぜぇぜぇと息を切らしてしまっている。

 無理もない。絵の中のポケモンは、ドーブルの筆の霊気をエネルギーとして動いており、それが尽きない限り動き続けることができる。

 逆に言えば、技やオオワザはそのエネルギーを大幅に消費するため、それを使い切った後は動きが鈍くなってしまうのだ。

 ずっとジュゴンに向かって技を撃ち続けていた二匹は既にガス欠に陥った。ずっとサンドバッグに向かって殴り続けていればいつかは疲れ果ててしまうのは当然である。

 フチュウに百鬼夜行地獄絵図が存在する限り、エネルギーはずっと補充され続けているのだが、消費がそれを上回ってしまっているのだ。

 これにより、ヒルギは実質的にアップリューとタルップルの封じ込めに成功したのである。

 

(もうコイツ1匹で何とかなる気がしてきたな……この戦いは……)

 

 むしろヒルギの方が相手の技に巻き込まれて氷漬けになる可能性が出て来たのだった。

 何なら彼が氷漬けになってても、ジュゴンは一人で愛嬌を振りまき続けているであろう。

 

 

 

(後は……お手並み拝見といこうか。サイゴクを救った英雄とやらの)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「これでもう中に人はいないなァ」

「……ええ。私達と──妖怪共だけですよ」

 

 

 

 変電所は、既にあちこちが爆発を起こし、破壊されていた。

 中に住み着いたポケモン達を蹴散らし、カバルドン、ルカリオ、ダーテングの3匹は変電所内を行進していく。

 しかし、そこに降りかかるのは拳の雨。

 ルカリオとダーテングは振り向きざまにそれを全弾避けるが、カバルドンはそれを受けて横転してしまう。

 

「こっちに3匹か……抑え込めるか?」

「ダーテングは鋼/悪、ルカリオは氷/格闘、カバルドンは草/水タイプです。データ上によれば、ですが」

「ハッサムの出番だな。そっちはどうする」

「ミガルーサでルカリオを叩きます。タイプは──テラスタルで変えれば良いので」

 

 問題は、このままだと一匹余ること。

 テラスタルでミガルーサのエスパータイプを消したフカは、ルカリオを。

 そして、ハッサムが鉄鋏でカバルドンを叩く。

 だが、残るダーテングの攻撃も苛烈。鉄扇で風を巻き起こし、更に周囲の機器も破壊していく。

 放っておけば、更に大きな事故を起こしかねない。

 更に、ルカリオは周囲を凍てつかせながらミガルーサ目掛けて高速の打撃を何度も撃ちだしており、カバルドンは足元を草原に変え、地面を滑るようにして移動し、ハッサムを翻弄する。

 

(ちっ、鋼/悪ならダーテングを格闘技で叩けば一撃なのに……!! あいつが後ろから攻撃してくる所為で、邪魔だ!! まさに悪タイプの所業か!!)

 

 頑強なカバルドンが盾役となり、ルカリオが速度で圧倒し、後ろからダーテングが周囲諸共切り刻み、不意を突く。

 神がかった連携を前に、歯噛みするダンガン。

 ハッサムも何度か飛ぶ鉄扇斬撃の餌食になっており、既に赤いメタルボディには傷がついてしまっている。

 そのうち、マッチアップはルカリオとハッサム、そしてミガルーサとカバルドンにシフト。

 ルカリオの拳、そしてハッサムの拳が互いを叩き合う。

 その横からダーテングが”ふいうち”を放とうとしたその時だった。

 

 

 

【カクレオンの けたぐり!!】

 

 

 

 突如、ダーテングの背後からそれは現れ、一気に蹴りを叩き込む。

 脚が取られたことでダーテングはすっころび、その場に転倒してしまうのだった。

 

「なっ、カクレオン!?」

 

 

 

『手伝ってあげまショウか? 刑事サン!!』

 

 

 

 カクレオンの首には、スピーカーが取り付けられており、そこからクローバーの声が聞こえてくる。

 本人の姿はない。しかし、遠隔でスピーカー付カメラを使ってカクレオンに指示を出しているようだった。

 すぐさま気色ばんだダンガンは叫ぶ。

 

「誰がテメェなんざと組むか!! 俺らァ、敵同士だぞ!!」

『自己弁護をするつもりはないデスけどぉ、今は市民の安全が第一じゃないデス?』

「……成程。貴女は私達にとっては敵ですが、市民に対してはそうではない、とでも言いたそうですね」

『ふふっ、どーデショ? ただ、この事態が私の望んだものじゃないことだけは確かデスよ』

「はん、罪滅ぼしのつもりか? 終わったら、とっ捕まえてやるよ」

『無駄口叩いてる場合デス! 片付けるデスよ!』

 

 戦力差はこれで埋まる。

 カクレオンとダーテング。

 ハッサムとカバルドン。

 ミガルーサとルカリオ。

 3対3の形となり、全員は睨み合う。

 

『こうして並ぶと、ちょっと懐かしいような気分になるデスね』

「ハッ、仲間とつるんでた時期でもあるのかよ、怪盗様にも」

「今回だけ特別ですよ? 怪盗さん」

「超超超・可及的速やかに……蹴散らすぞ!!」

『OK! 張り切っていくデース!』

「まとめて、沈めてしまいましょうか」

 

 ハッサムがカバルドンに組みかかり、鋏を胸で交差し、思いっきり切り裂く。 

 堪らず仰け反るカバルドンだが、それでも持ち前の膂力で上半身を持ち上げると、全身に水を纏い、突撃するが──それもあっさりとバク宙で躱されてしまう。

 

「テメェの弱点は……その皿だろォ! ハッサム、皿を狙って”バレットパンチ”!!」

「カッパバババババァ!?」

 

 捻りを加えた銃弾の如き重い一打がカバルドンの脳天に叩きこまれる。

 ヒビが入り、皿が叩き割られる。

 幾ら乾燥に強いといっても、重要器官である皿に直接ダメージが入れば悶絶モノ。

 効果はいまひとつだが、弱点部位が破壊されたことで大ダメージだ。

 一方──ミガルーサは一気に贅肉を放ち、思いっきりルカリオの顔面に頭突きを見舞う。

 

「”みをけずる”。これで、攻撃、特攻、素早さが一気に急上昇。ギアを2段階上げましたが──そっちはどうですか?」

「ガオオン……ッ!!」

 

 両の掌を重ね合わせるルカリオ。

 そこから強烈な波動のエネルギーが収束していく。

 だが、身を削った以上、もうミガルーサの方が速い。そして強い。

 強いて言うならば装甲は最早紙以下、やられる前にこちらがやるしかない。

 

「こいつは効きますよ──”アシストパワー”!!」

 

 急激に上昇した能力が、ミガルーサに力を与える。

 強力なサイコパワーを凝縮したその一撃は、ルカリオを壁も突き破る勢いで吹き飛ばすのだった。

 結果、ルカリオは外へ。

 

「しまった、威力が強すぎました……ッ!! 先輩、あいつを追いかけます!!」

「ああ頼む! ──んでもって怪盗、そっちはどうだ?」

『No problem、うちの怪盗ポケモンは優秀なのデス!』

 

 鉄扇を振り回し、周りの物を全て切り刻むダーテング。

 だが、変色を繰り返し、周りの風景に溶け込むことでダーテングに全くと言って良い程捕捉させない。

 しかしそのうちダーテングも慣れてきたのか、カクレオンの動きを読み、脳天に向かって鉄扇を振り下ろす。

 だが──

 

『Very Sweet!! カクレオンの格闘スキルは、チーム随一だヨ!!』

 

 既にスライディングでカクレオンはダーテングの股下に潜り込んでおり、そのまま死角から必殺の一撃を見舞う。

 相手の体力を丸ごと吸い取る、至極の拳技だ。

 

「──”ドレインパンチ”!!」

 

 効果は抜群。更に、特性:へんげんじざいでタイプ一致に。

 致命傷を負ったダーテングは、ぐらりと倒れ込んでしまい、消滅するのだった。

 

「……へっ、悔しいが味方に付ければこれ以上ないな、怪盗!!」

『でも、まだ終わってないデスよ!』

 

 しかし、相手は絵画の中の存在。

 消滅したダーテングは再び自らの形を取り戻し、再生してしまう。

 皿を砕かれて弱っていたカバルドンも、瘴気に包まれたかと思えば皿が再生してしまっている。

 そして、壁を突き破って外へ飛び出したと思われていたルカリオは、再び力を取り戻し、追跡してきたミガルーサを逆に組み伏せてしまうのだった。

 

「ッ……ウッソだろオイ、倒して終わりじゃねえのかコイツら。例の絵をどうにかするしかなさそうだな、やっぱり」

『それについては──私の名誉・助手の二人が頑張ってマスので! 私達の仕事は、この子達を抑え込み続けることデスよ!』

「……冗談じゃないですね。とんだ残業です。金取りますよ」

「後、名誉・助手って誰だコラ。ぜってーテメェが勝手に言ってるだけだろが」

『細かい事気にしてると、ハゲるデスよ? 名誉助手3号と4号!』

「ハゲねーよ!! 後勝手に名誉助手にすんじゃねぇ!!」

 

 文句を叩き合いつつも、3人は再びヒャッキのポケモンに向き直る。

 ポケモン達も疲労が見えつつあるが、此処からが正念場である。

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