ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「いやー、今回の仕事もバッチリデスね!」
「デリー!!」
【デリバードの そらをとぶ!!】
このデリバードと呼ばれるポケモン、小さい身体に反して人を引っ張って飛行することができる程の膂力を持つ。
帯状になっている尻尾を大きく広げることで風を操り、身体を浮かすことができるかららしい。
デリバードの腹に付けられたハーネスでクローバーの身体は固定されており、さながらハンググライダーの如し。
一見かなり無理がある姿勢に見えるが、浮力を操るデリバードには運ぶ対象の重量など関係無いのである。
さもなくば、尻尾を握ったまま片翼でばたばた羽ばたいて飛行することなどできはしない。
そもそも飛行の為に翼を必要としていないのである。
「逃がすわきゃねーだろが、泥棒!!」
「神妙にお縄につけ、すっとこどっこい!!」
だが、それを後ろから追いかけてきたのはメグルの跨るオトシドリと──ダンガンの跨るムクホーク。
更に地上からはモトトカゲに跨ったアルカが追跡を続けている。
「WTF!? もう追いついてきたデース!? 撒いたと思ったのに!?」
(ハッ、オメーの持ってる水墨画には予めGPSを付けてたんだよ! 盗られる事を前提にしてなァ!!)
『先輩! クローバーの進路の先は海です! 海から逃げるつもりです! くれぐれも、絵を落とさせないように立ち回ってくださいよ!』
「合点承知の助──って言うわけねーだろ!! クローバー捕獲が最優先、絵画は二の次だ!!」
『絵に何かあった日には噛み千切りますよ』
「何を!?」
『ナニをです』
すぐさま盗った絵画の裏を見てGPS装置を探し始めるクローバー。
だが、そうこうしている間に後ろから岩が飛んでくる。
オトシドリの”がんせきふうじ”だ。デリバードが喰らえば一発アウト。4倍弱点だ。
「チッ、外した! 種族値の割にすばしっこいヤツだ!」
「うぅ~、殺意が高過ぎデース!! どんな神経してるデース!! アホー!! バカー!! ひとでなしー!! ドヒドイデ!!」
「バーカ、落ちたら拾ってやるに決まってんだろ、この俺がァ。んでもって即・逮捕だ!!」
「
「はぁ!?」
突如吹雪く雪を伴う大嵐。
それに巻き込まれ、一気にムクホークとオトシドリはコントロールを失い、浮力を失う。
効果は抜群。幾らデリバードの乏しい特攻から放たれているとはいえ、その威力は絶大だ。
「さ、さぶぶぶ!?」
「オ、オトシドリ、しっかりしろ!!」
「Hey Hey Hey!! 私のデリバードをナメてもらったら困るデスよー?」
(こいつ、ポケスペじゃやたらと強かった気がするけど、この個体もクソ強いぞ……!?)
にやり、と笑みを浮かべた怪盗は背中のバックパックから更に煙幕までばら撒いて高らかに叫ぶ。
「ゾロアーク、カクレオン、メタモン
現に耐久の高いオトシドリも、翼が凍ってしまっており、高度が徐々に落ちてしまっている。ムクホークに至っては特防が紙より薄いのでそのまま墜落する始末。
「どわああああ!? ボウズーッ!! クローバーを何としてでも捕まえろーッ!!」
「わ、分かってます!!」
(つっても、オトシドリはもう長く持たない……!!)
その間にクローバーはどんどん距離を引き離していく。
(絵画にGPSがついてるデス!! 何てモノ付けてくれるデス、今回に限って!!)
絵画の裏についていた不審なそれを取り外し、投げ捨てる。
これでもう彼らは追ってこられない、とクローバーはしたり顔。
全てのタスクを終わらせ、離脱しようとしたその時だった。
──絵画から、黒い靄が溢れ出て──爆ぜる。
煙ではない。
黒い閃光のようなものが彼女を包み、落ちていくのが見える──
「な、何だ、落ちていくぞアイツ……!? って──俺達も落ちてるんだったーッ!!」
ふらふらと墜落していくオトシドリ。
とてもではないが、クローバーに追いつくどころではない。
すぐさまギアを引き、極力減速を緩める。
次第にオトシドリの身体は安定を取り戻し──何とか、城下町に着地するのだった。
「あ、危なかった……後は……アルカに任せるか」
※※※
「フカちゃんの情報だと、この辺りでGPS反応が途切れたらしいけど……」
地上からモトトカゲを走らせ、漸くその地点に辿り着くアルカ。
しかし、近付くにつれてあの絵の持つ恐ろしい気配が強まっていく。
GPSの反応の消失地点から方向が外れてしまうが、彼女は自らの感覚を信じることにした。
(違う……GPSは途中で外されたんだ。絵の気配を追っていけば、クローバーに辿り着く! あんまり気が進まないけどぉ……)
すぐさまモトトカゲのハンドルを握り締めて、アルカは方向転換する。
しばらく走っただろうか。
辿り着いたのはフチュウの外れにある林だ。
鬱蒼としており、成程隠れるには丁度良いかもしれない。
絵の気配を追いかけていくと、どんどん嫌な空気が強くなっていく。
全身に鳥肌が立ち、悪寒が走るようだった。
(もう、やだなぁ、何なんだろ? 一昨日はこんな気配はしなかった、此処までじゃなかった……!)
ガサガサと茂みを漁っていると──人影が見えた。
「いったたた……酷い目に遭ったデェース……あ」
「……あ」
木の枝やその他色々服やマントに突き刺さったクローバー、そしてモトトカゲに今まさに降りて辺りを見回すアルカ。
まさに犬も歩けば棒に当たる。突然のエンカウントに一瞬固まる二人だったが──
「って、めっちゃ居たーッ!!」
「お、落ち着くデスよ、こーんなか弱い女の子を襲うなんてトレーナーの風上にも置けないと思いまセン? ん?」
じり、じり、と引き下がるクローバー。
その様子にアルカは違和感を覚える。
彼女ならばこちらを撒こうと思えばいつでも撒くことが出来るはずだ。
そして、彼女の周囲にはモンスターボールが散らばっているが、それを拾いに行く様子すら見せない。
そうしてアルカは、クローバーがしきりに右脚を庇っていることに気付いた。
「もしかして……怪我してるの!?」
「別に落ちて怪我したとかそう言うのじゃないんデスよ!!」
「ダメだよ、無理に動かしたら!! 骨が折れてるかもしれないんだよ!?」
「ッ……何で怪盗の私を心配してるんデスか」
「だって、血が出てるし変な曲がり方してるもん……!! それに──放っておけないよ!!」
そこまで言って、彼女は自分を脅かすあの気配を、目の前のクローバーが持っていないことに気付く。
”百鬼夜行地獄絵図”が見当たらないのだ。
(絵は何処に──近くにあるのは確かだけど……!!)
「……貴女、面白いデスね。だけど──生憎、私の怪我を心配してる場合じゃないデスよ──ッ!!」
そこまで言ってクローバーは怪我をしていない左脚で思いっきり地面を蹴り──アルカを突き飛ばした。
次の瞬間、彼女が立っていた位置に、黒い稲妻が落ちる。
凄まじい音、そして衝撃波。二人は吹き飛ばされてしまう。
「な、何!?」
「……完全に計算外だったデスよ。ヤバいのが目覚めちゃったのデス……!!」
「はぁ!? どういう事ォ!?」
「予定よりも遥かに早いお目覚めって事デスよ!!」
何とか身体を起こしてみると──ぞっとした。
地面に落ちている水墨画から、溢れんばかりの瘴気が漏れ出している。
「何!? 何なの!? ヤバい絵だとは思ってたけど、気の所為じゃなかったって事!?」
「とにかく逃げるデスよ!!」
「ダメだよ、置いていけない!! 助けて貰ったんだ、今度はボクが君を助ける番だ!」
クローバーの腕を引っ張ったアルカは、そのまま彼女をモトトカゲの後部座席に乗せる。
モトトカゲもただならぬ気配から逃れるようにしてその場から離脱した。
が、走り出した途端に爆ぜるように瘴気がどくどくと周囲に溢れ出す。
それらは皆、墨のようにどす黒く、そして粘りを帯びた液体へと変貌していく。
やがて、太陽の光を浴び、墨色だったそれらは色を得て、徐々に妖の形へと象られていくのだった。
爆発音を聞いたからか、遅れてパトカーのサイレンが鳴り響く。
だが、駆け付けた現地の警察を襲ったのは──
「な、何だこりゃあああああ!?」
──オニドリル、パラセクト、アップリューにタルップル、カバルドン、ダーテング、フーディン、ルカリオ、アーマーガア。
見るも悍ましいヒャッキのポケモンの大群。
即ち、百鬼夜行地獄絵図そのものの光景であった。
当然、この数のヌシ級ポケモンに太刀打ちできるはずがなく、警察も逃げ惑う始末。
そこからいち早く離れたアルカは、スマホロトムでメグルに連絡を入れるのだった。
「あっ、メグル、聞こえる!? ちょっとヤバい事になってて──うん! うん! ちょっと、警察の人抜きで話したいっていうかさ、うん、分かった、部屋で落ち合おう!」
「何で私を助けるのデス!!」
「説明してほしいからだよ!! どうせもう、君一人じゃあ、あいつらは手に余る!! 勿論、ボクが負傷してる君を庇いながら戦うのも無茶だ!!」
「うぐぐ……こんなはずじゃなかったデース!!」
※※※
「──って、俺が居る!?」
宿の部屋に戻ったメグルは驚愕。
自分瓜二つの誰かが、当たり前のように椅子で座っている。
その隣では「もう変装解いて良いよ」とアルカが一言。
「あっははは……お邪魔してるデース」
──パァン、と弾けるような音と共に金髪美少女が姿を現す。
さっきまで自分達が追っていた怪盗クローバーその人だったのだ。
「なあ、何でお前が怪盗クローバーを連れて帰ってんだ、アルカ!?」
「言ったでしょ、緊急事態なんだよ!」
「それは知ってる、なんか外れの林の方でデカいポケモンが何匹も出たって聞いてな──」
本当ならすぐにでも現地に向かおうとしたが、その前にアルカによって呼び出されたので、メグルは宿の方へ向かったのだ。
そうして来てみれば、さっき自分を撃墜した怪盗が足から血を流しながら彼女に手当を受けている。
いろいろと納得が出来ない。
(俺ァさっきテメェの所為であわや死ぬかと思ったんだが……!)
(あ、あははは、一旦飲み込んでほしいデスよ……)
「一体何が起きているんだ?」
「絵の中からポケモンが出てきたんだ!」
「結論から言えば、あのポケモン達の群れ”百鬼夜行地獄絵図”の正体デスよ」
「どういうことだ? 絵の中からポケモンが出て来る? そんな漫画じゃあるめーし──」
そう言いかけて、メグルは、此処がポケモンの世界であることを思い出す。今更常識を求めたところでムダであった。
(もう、そういうもんだと受け入れよう……)
「今回、私に盗みの依頼をしたのは──あの絵に詳しい人物だったのデス。詳細は伏せマスが、私にとって信用に足る人物デスよ」
「あの絵は一体何なの?」
「
クローバーが見せたのは、1枚の写実画。
そこに映っていたのは座敷に座る僧。
そして通常とは違う姿のドーブルだった。
真っ黒な色をしており、目には縁取りが描かれていることが分かる。
尻尾の先端は絵筆ではなく書道で用いられるような筆だ。
「かつてパルデアからサイゴクに渡った宣教師が描いた写実画デス。仲良くなったついでで、絵を描かせて貰ったみたいデスね」
「な、何だ、このドーブルは……!? 普通のヤツと色や形が違うぞ!?」
「サイゴクには通常種のドーブルしか居ない……まさかこれって」
「勘が良いデスね。依頼者曰く、このドーブルはヒャッキ地方からやってきたポケモン。どうやら、描いたものに
とはいえ、それらはすぐに実体化するわけではない。
「魂の籠った絵」という言葉がある通り、ヒャッキドーブルの描いた絵には生き生きとしたものが宿るのだという。
しかし、年月の経ったヒャッキドーブルの絵は、描き手の情動に応じて、更なる力を得るのだという。
「そ、それが500年も経った今、目覚めたっていうのか!?」
「YES。むしろ500年経った今だから、力が醸成されて実体化したってところデスかね?」
「だから……絵を見た時に恐ろしいものを感じたんだ」
あの時アルカが見たのは、故郷に潜んでいた怪物たちと同じ気配。幾度となく自分達を苦しめた魑魅魍魎の群れ。
ドーブルの手で描かれたその水墨画は、長い年月を経たことで本当に命を得てしまったのである。
それでもメグルには腑に落ちない部分があった。アルカも納得がいかないところがあるようだ。
「依頼者は何者だ? この写真のドーブルを見て、ヒャッキ地方のドーブルだって分かった事、そして絵がヤバい状態である事を見て理解した事から──ヒャッキの人間なのか?」
「そこはボクも気になってた」
「おっと、依頼人に関しては私の口からは言えないデスよ。ただ……私のおじい様の古い知り合いとだけ言っておきマス」
「結構御年の人みたいだな……そんなヤバい絵を盗んで、お前はどうするつもりだったんだよ」
「勿論、被害が出る前に処分する。それが、依頼内容だったのデス」
クローバーは肩を竦めた。
「こんなもの、無い方が良いに決まってるデスからね。でも、この絵のヤバさを感知できるのは限られた人間とポケモンだけみたいデスから」
「ヒャッキの人間か、ヒャッキのポケモン……ってところか」
(案外依頼者はサイゴクに住んでるヒャッキの人間なのかも。ボク以外にもそう言う人が居てもおかしくないか)
「とはいえ、下手に陸地で破壊して中から変なのが出てきても困るから、大洋で処分するつもりだったんデス。まさか盗んだ矢先に絵の方が暴走するとは思わなかったデスけど」
「もしかして、あのまま美術館で放置していれば、多くの人が居る場所で絵からポケモンが出て来たってことか?」
「はっ、勘違いしないでほしいデスよ。私は怪盗。皆の前でトリックを披露し魅せるのが生業デスから」
「悪ぶっちゃって。ある種君のおかげで美術館や中の人が守られたようなモノなのに」
「案外あんた、悪いヤツじゃないのかもな」
「何言ってるデス。怪盗は……立派な悪。そこは揺るがないデスよ。でも──このままじゃ、フチュウはお終いデス」
既にニュースでは、フチュウの中部に現れたポケモン達が市街地や城下町に向かっているという速報が流れている。
「でも私はこの通り脚をケガしてるデスし……このままじゃ、フチュウはあの絵に描かれたポケモン達に蹂躙されるデス。二人も早く逃げた方が良いデスよ?」
「逃げるぅ? 冗談じゃねえよ」
絵に描かれたヒャッキのポケモン達。
彼らはいずれも、一度は倒した面々だ。
そしてそれらが再びサイゴクを揺るがそうとしている。
メグルとしては見逃すことができないし、アルカも同じだ。
「俺達があの絵のポケモン達を止める。それで万事解決なんだろ?」
「これ以上、ヒャッキのポケモンにサイゴク地方を傷つけさせるわけにはいかないよ!」
「……勇気と蛮勇は違うデスよ?」
「こっちのセリフだ。自分から悪役を引き受けるような怪盗様には言われたかねえよ」
メグルに足の手当をしてもらいながら、クローバーは苦笑した。
「あんたはせいぜい、此処で隠れてろ。後は俺達がやる」
「勝機があるのデス?」
「大丈夫! 彼は……サイゴクを救った、ボクの自慢のトレーナーだからねッ!」
「……何度も聞くデスけど、私を警察に突きつけても良かったんデスよ?」
「お前には痛い目遭わされたけど……アルカを助けてくれたんだろ。電話で聞いた。だから──悪いヤツじゃねーんだと思う」
「むしろ、よく一人で此処まで戦ったよ」
「……ッ」
彼女は顔を俯かせる。
眩しい光から目を背けるように。
「お人好しデスね。怪盗の言ってることを信じるんデスか? 全部、ウソっぱちかもしれないんデスよ?」
「かもな。だけど、今俺達がやるべき事は、あの絵のポケモン達を食い止める事だ。それは変わらない」
「それに、君はボクとそっくりなんだよ。何でも一人で抱え込んでしまいそうになるところとかね。ボクを見てたメグルの気持ちが少し分かったかも」
「……羨ましいデス。あの国際警察の二人と言い、貴方達と言い……背中を預けられる人が居るのデスね」
「クローバー……」
彼女は──法が取りこぼした悪を挫く、弱者の味方。
だが、そんな彼女が取りこぼしてしまったものを拾い上げるものは、今まで居なかった。
ましてや、共に背負ってくれる人など居はしなかった。
メグルとアルカは、クローバーにとって初めての仲間だった。それが例え、一時的なものだったにせよ、だ。
「なーんてっ、ガラにもなく弱音を吐いちゃったデスよ……怪盗は私が選んだ道! 貴方達は、貴方達のやり方で──この町を救ってくだサイ!!」
「ヒャッキのポケモンなら、ボク達に任せといて!」
「一度戦った相手だ。負けやしねえよ! ヒャッキドーブルとセツゲツカの置き土産とやら、俺達に片付けさせろや!」
そう啖呵を切り、二人は宿を飛び出し、ライドポケモンに跨る。
窓から二人が走っていくのを見ながら──クローバーは歯噛みする。
(此処まで来て、私に出来る事は本当に何も無いのデス……? 脚は片方あるのデス……! 考えろ、考えるデスよ、怪盗クローバー……!)