ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC20話:急襲

 ──アルカとフカが別室で話している間、外のベンチで男二人は待機──ということになった。

 どうやら国際警察にとって用があるのはアルカの方らしい。

 

「……もう1回聞くんですけど、何でアルカだけ?」

「俺達は、あの嬢ちゃんが絵を見た時の反応を軽視していねぇんだよ。ま、詳しい事は後でカノジョに聞けば良いだろ」

「はぁ……」

「悪いようにはしねぇよ。そこだけは了承してくれやボウズ。女同士だから話せる事もあるだろ」

 

 煙草に火を付けながらダンガンはメグルの方を見やる。年下だからとはいえ、子供のように見られている言い方が気に食わない。

 

「……だから、ボウズじゃねーんすけど」

「へへっ、かてー事言うんじゃねーよ。煙草は吸えるか?」

「喘息なんで遠慮します」

 

 ちなみに別に喘息ではない。煙草の煙の匂いがそもそも苦手なだけだ。

 ニンフィアも顔を顰めているので、すぐさまボールの中に戻すのだった。

 ダンガンもエーフィに煙を吸わせたくはないのか、すぐに相棒をボールへ引っ込める。

 

「チッ……最近の若いヤツは煙草も吸わねえのかよ、しけてるぜ」

 

(あんたも最近の若いヤツだろ……)

 

「それにしても、フカさんの事、信頼してるんすね。凸凹コンビに見えたけど」

「俺とフカは……似た者同士なんだよ」

 

 煙草の煙を吹き出しながらダンガンは続けた。

 

「互いに国際警察しか行き場がねぇんだ。()()()()()()()()()()同士で組まされてな……内なる孤独をぶつけられる相手が、俺しか居ねえ」

「ッ……そうですか」

「あいつは天才だが、俺にァ才能らしい才能もねぇからな……せめて。あいつを信頼してやることしか出来ねえんだ」

 

 詳しい事は言えないがな、とダンガンはベンチにもたれかかる。

 メグルの記憶では、国際警察は記憶を失った人間を捜査官として迎え入れていた。

 ゲームに登場している”リラ”という人物が、ウルトラホールを通した異次元出身であること、そして記憶を失っていることをメグルは知っている。

 

(案外、この人たちも異世界人なのかもな)

 

 ウルトラホールというものが存在する以上、この世界では珍しい事ではないのかもしれない。

 

「でもな、フカのヤツ……無愛想で素直じゃねえが、意外と隙が多いんだぜ。慣れたら悪くねえよ」

「俺もしかして……惚気られてます?」

「ハハハ、悪いな。あいつは……自慢の相棒でなァ。エーフィと出会ったのも、フカがきっかけだったんだよな?」

「プルフィロー」

 

 すりすり、とエーフィがダンガンの膝に頭を擦りつける。

 

「相棒……」

「そうだ。互いの綺麗な所も汚い所も全部見てる。これでも付き合いは長いんだ。お前達はどうだ?」

「俺達も──似たようなモノですね。出会いはたまたまだったけど、旅を通して……互いに離れられなくなったっていうか」

「くぅー、甘酸っぱいね。ま、それはあんたの言動の節々から伝わってくる。せいぜい大事にしてやりなァ」

 

 ダンガンの大きな掌がメグルの頭をわしゃわしゃする。

 年は然程離れていないはずなのに、乗り越えてきた修羅場の数が違うのか、とても頼もしく思えてしまう。

 何となく、あの気難しそうなフカという少女がダンガンに付き従っている理由が分かってしまった気がした。

 

(俺も……こんな頼もしい人になれるだろうか)

 

「ところで、話は変わるが──今日は一体何を調べてたんだ?」

「セツゲツカと”百鬼夜行地獄絵図”についてです。寺院や守護社を回ってたら色々分かって」

「俺達も、あの絵の描かれた背景までは分かったぜ。サイゴクの災厄で家族を奪われたセツゲツカが怒りと悲しみのままに描いた作品……だろ?」

「そうそう! だけど、何で国際警察が画家と絵について調べてるんですか?」

「そりゃあガードする俺達が、守る作品の事を何にも知らねえのは違うだろ。それに俺達ゃこっちの人間じゃねえからな」

「なーるほど。で? 絵の事とか分かるんですか、ダンガンさんは」

「サッパリだ」

「ははは、俺もですよ」

「なぁんだよ、案外俺達も気が合うかもしれねぇぜ。分からねえんだよなあ……芸術だとか、情緒だとか……ん」

 

 何かに気付いたかのようにダンガンは立ち上がり、辺りを見回す。

 

「……あれ? どうしたんですか?」

「聞こえねえか? 羽音が遠くから聞こえてくる。それも1匹や2匹じゃねえ」

「ええ?」

 

 メグルは耳を澄ませた。確かに微かにだが遠巻きから羽音が聞こえてくるようだった。

 空気が張り詰める。

 何かがこちらへ近付いてくる。

 確かに羽音だが感覚が非常に短い──不快感を伴う類の羽音だ。

 

「ボールを構えろ。嫌な予感がする」

「は、はいっ」

 

 間もなく、その正体は明らかになる。後ろの植え込みからばさばさと音が鳴り、無数の羽音が飛び出してきた。

 それは、ハニカム状の身体に顔と羽根がくっついた蜂のようなポケモンだった。

 更に、巨大な蜂の巣をぶら下げた女王蜂の如き姿をしたポケモンが空から降ってくる。

 

「ハニニハニニ!!」

 

【ミツハニー はちのこポケモン タイプ:虫/飛行】

 

「クィインクィイイン!!」

 

【ビークイン はちのすポケモン タイプ:虫/飛行】

 

 一瞬で二人は取り囲まれてしまった。

 ミツハニーは巣を中心として集団行動を行うポケモンであり、その進化形であるビークインはミツハニーの女王。

 だが、サイゴクに於ける生息域は深い森の中だ。

 

「げぇっ、ミツハニーの群れにビークイン!?」

「……何でまたこんな所に出てきやがる。奴らの生息圏からは離れてるはずだが」

 

 ミツハニーとビークインは、森の奥深いところにコロニーを生成する。

 近くに工場地帯があり、仮にも町中であるフチュウには姿を現さないのである。

 ともあれ、こうして囲まれると、最早実力行使で突破するしかなくなってしまう。

 

「……何でも良い。先ずは蹴散らしてから考えるぞ。超超超・可及的速やかにな」

「は、はいっ……ッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──美術館内、地下室。

 そこに二人は向かい合っていた。即席の取調室である。

 

「先に言っておきます。私は貴女の味方です」

「はぁ。いきなりこんなところに、ボクだけ連れてきて?」

「私は、美術品に対する感性だとかは分かりません。だけど──シックス・センスは信じることにしているんです」

「何が言いたいのさ」

「まどろっこしかったですね。単刀直入に言うと……昨日、あの絵を見た時の事をもう一度思い出しながら質問に答えてもらいたい。人の感性には個人差がありますから」

「!」

 

 アルカは──絵を思い出し、さっと額に冷や汗を伝わせる。

 あの時、絵に対して過剰な恐怖を抱いたのはアルカだけだった。

 それがヒャッキの民に由来する根源的なものなのか、それともアルカ特有のものなのか、彼女自身にも図りかねているのだ。

 

(そもそも、この人たちってボクがヒャッキの人間だって事知らないよね……? いや、忍者達がボクの事を知ってたなら、この人たちも知ってる可能性がある?)

 

 あまりアルカは自らの出生について広く知られたくはない。

 この地方では、先の戦いでヒャッキの人間に対する反発は当然だが大きい。

 彼女の身分を知っているのはクワゾメの忍者や、キャプテン、そしてメグルと言った一部の人間だけだ。

 何とか自分の生まれには触れられないようにしようと考え、言葉を選ぼうとする。しかし。

 

「私は昨日の貴女が過呼吸に陥った理由が、”百鬼夜行地獄絵図”にあると考えています。違いますか?」

「……ち、違くないです」

 

 淡々と詰めてくる彼女の言葉に、アルカは一切の反論ができない。

 一見すると幼い少女のような顔つきだが、声色も仕草も何処か艶があり、大人びている。

 幾つもの修羅場を乗り越えてくたびれたような貫禄すら感じさせる。

 気怠そうな瞳には、全くと言って良い程隙のようなものが見当たらない。

 言ってしまえば捕食者。目を見つめられただけで凄まれたように感じてしまう。

 フカ──そのコードネームは、ある地方の言葉でサメハダーを意味する言葉だ。

 フカマルというポケモンの語源も、サメハダーのような頭部をしていることに由来している程である。

 凶暴、そして狡猾。狙った獲物は決して逃さない。

 この少女の前でウソは通用しない。可能な限り正直にアルカは話すことにした。

 

「以前、貴女は今回の絵を見た時のような経験をしたことがありますか?」

「……無いよ。絵を見てあんなに怖い思いをするだなんて──いや、絵じゃないけど……ある。あるよ、一つ!」

「というのは?」

「前にボク達、流島ってところに行ったんだ。そこで祟り岩っていうのが暴走して……祟り岩で変異したヤミラミの技を受けて……!」

 

 その時に流れ込んできたのは、祟り岩に名前を刻んだ囚人たちの負の念。

 それは纏わりつくように彼女を蝕んだ。

 

「……今回の感覚はそれに似ていると?」

「うん。うん! 前回のは囚人たちの絶望や怒り、恐怖で──今回のは……今回のは、あの絵に描かれたポケモンのおどろおどろしい怨嗟だ。まるで、本当に出て来そうだった」

「……セツゲツカが”百鬼夜行地獄絵図”を描いた経緯を考えれば、絵にそのようなものが宿っていてもおかしくありません」

「調べたの?」

「ええ。私達も、貴女達と同じ結論に至っていますよ。絵に力が宿ることが無いわけではありません。怨みの籠った絵画がゴーストポケモンの発生源になったこともありますから」

「ひえ……それについてキヨ館長には」

「まだ何も聞いていませんよ。ただ、絵に悪いものが憑いていないかゴーストポケモンを用いて検証すれば分かる事です」

「それで分かるんだ。良かったあ」

「とはいえ、一先ず私は貴女のシックス・センスを信じる事にしているので」

 

(貴女がヒャッキの人間だから、ですけど)

 

 尤も、アルカが幾ら思案を巡らせても既に国際警察には調べが付いている。

 テング団という危険な組織と同じ地方出身の人間である以上、ずっと彼女をマークしていたのである。

 

(ま、今の所貴女が無害であることも含めて、とっくの昔に調べは付いているのですがね。もう少し、貴女について聞かせてください。貴女を知りたい)

 

「それにしても、何故この仕事を受けたんです? 絵が好きなんですか?」

「うーん、絵が好きっていうよりも──古い物が好きなんだ、ボク」

「古いモノ?」

「うん。古の時代の化石、歴史的建造物、そして遺物と呼ばれる発掘品。それらは全部、過去の時代に息づいていた人々が生きた証だよね」

 

(……思ったよりも真面目な答えが返ってきて困惑してるんですが……)

 

「調べてるうちにその時代の輪郭がハッキリしていくと、タイムスリップしたような気分になれるんだ」

「……素敵ですね」

「そう!? そう言われたの初めてだよ」

「私は門外漢なので、詳しくはないですがね」

「でも、こんな事聞くの? 事件に関係ある?」

「ええ一応」

「そっかっ、ならまだ質問とか無い? ボクに答えられることなら、答えるよ」

 

 肩の力を抜いて頬杖を突く。

 アルカの方からも、フカの方が明らかにこちらへ警戒を解いたのが分かった。

 

(思ったより……フツーの女の子ですね。ヒャッキの人間もこっちの人間とさして変わらないんでしょうか)

 

「貴女も災難ですね。仕事を頼まれてこっちに来たのに、怖い目に遭って」

「あ、あははは……大丈夫、慣れっこだから」

 

(何がどう慣れっこなのか知りたいんですがね)

 

「まあ、昨日はちょっと怖い夢見ちゃったんだけどね」

「それなら一つアドバイスをしておきます」

「?」

 

 至って涼しい顔で彼女は言ってのける。

 

 

 

「──怖い事を忘れるならやることやってスッキリするのが一番──

「待って待って待って、何を!?」

 

 

 

 青白い肌が真っ赤になり、勢いよく彼女は立ち上がる。

 対して、何を慌てふためているのだろう、と冷めた様子でフカは続けた。

 

「さらっととんでもない事言ったね、君!?」

「……何ですか。生娘のような反応をしますね。いつも一緒に居るカレシは飾りですか?」

「いや、あの、何でいきなりブッ込んできたの!?」

「ああ……婚前交渉がダメな宗派とか、そういう系──」

「ち、違うけど、違うけどォ! ボ、ボクたちまだ付き合ったばっかで──後、色々ありすぎて全然進展してなくって。後……すっごくジャマなヤツが居て」

 

 「ふぃるふぃー」と牙を剥いた凶悪リボンの姿がアルカの頭に過る。一番手強い敵は身近にいるのだ。

 それはそれとして、デリカシーもへったくれもない彼女の発言に、怒りと恥ずかしさが混じった感情が湧き上がってくる。

 一方、そんな反応を見せるアルカに──フカは少しだけ口角を上げた。

 

(ああ、コレ私がケガれてるだけですね。世に、こんなキラキラしたカップルが居るとは思いませんでしたよ。良いオモチャ──じゃなかったからかいがいがありそうです)

 

「何でも良いですけど、油断をしていると掻っ攫われますよ。獲物を狙っているのが自分だけとは思わない事です」

「そう言う話だったっけ? これ? 全然違うよね?」

 

 前にもユイに似たようなことを言われたのをアルカは思い出す。

 会う人会う人に進展しなさを指摘されるのだ。事実その通りなので何ともむず痒い。

 しかし、簡単に実行に移せるならば苦労はしていないのである。

 

「内に秘めた気持ち、欲求、抱え込むと、いつか変な形で拗れます。特に弱っている時はそうです」

「今そんな事言われても困るんだけど」

「……あんまりすっとろいと、()()()()()()()()()。私、相手には頓着しないんで」

「ッ……それはダメ!! 絶対許さないから」

「なら、大丈夫そうですけどね──む」

 

 その時だった。着信音が鳴り響く。

 鳴っているのはフカのスマホロトムだ。

 その画面には──「413」と番号が書かれたショートメールが表示されていた。

 それは国際警察で使用されている暗号の一つ。

 意味は「襲撃」だった。

 

「ッ……!? 何事!?」

「ど、どうしたの!?」

「──外で何かがあったみたいです。アルカさんは下がってて」

「ダメ! 最低でもツーマンセルなんでしょ!?」

「ッ……分かりました。くれぐれも気を付けてください」

 

 二人は地下室を駆けあがる。

 そして入口の方へ飛び出すにつれて、遠くからやかましい羽音が聞こえてくる。

 だが、飛び出そうとする彼女達の前に立ちはだかったのは、美術館に押し入ってくる狼藉者たちだった。

 体から毒ガスを放ち、口からは炎を吹き出した犬のようなポケモンだ。

 

「ガルルルル……!!」

「アオォォーン……!!」

 

【デルビル ダークポケモン タイプ:悪/炎】

 

【ヘルガー ダークポケモン タイプ:悪/炎】

 

「ッ……待って。セイラン周辺には居ないポケモンだよね!?」

「火を点けられたらアウトですね」

「でも、大人しく引っ込んでくれそうにはないよ!?」

 

 デルビルとヘルガーは、サイゴクに於いてはベニシティ周辺で生息しているポケモンだ。

 それも、火山周辺のひのたまじまに少数生息しているに留まる。

 客は悲鳴を上げながら、美術館の奥の方へと逃げていくのが見える。

 

「全く、私達が来ている時で良かったですね。彼らは毒素を含んだ炎を吐く危険なポケモン、並みのトレーナーでは返り討ちですよ」

「オマケに……凄く強い敵意を感じるよ……ッ!!」

「速やかに鎮圧します。アルカさん、手を貸していただけますね」

「もっちろんだよ!!」

 

 二人はボールを構える。

 向こうから聞こえる羽音も気になるが、今は目の前の敵を倒すことに集中するしかない。

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