ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC19話:城下町紀行

 ※※※

 

 

 

 ──翌日。

 アルカは、メグルと共にフチュウ博物館に足を運んでいた。

 此処では主に周辺で発掘された領主時代の遺物が展示されている。

 彼女なりに確かめたいことがあるらしく、勿論メグルも断る理由がないので同行した。

 一通り展示品の瓶や遺物、石を眺めていた彼女だったが、落胆したように肩を落とした。

 

(……おかしいな。おかしい。遺物や化石を見た時も、あんな気持ちになったときは無かった。こんなの……祟り岩の時以来だ)

 

「何か気付いたことはあったか?」

「……全然ダメ。進展無しだよ。やっぱり、あの絵がおかしいのかも」

「そうか……一体何なんだあの絵は」

 

 水墨画の事が気掛かりだからか、いつもの彼女の元気さは失われていた。見た事の無い遺物を見ても、全くテンションが上がっていない。

 化石コーナーに行っても、全く飛び上がって喜ばない。重症である。

 目の下には隈が出来ている。無理もない、昨晩も何度か飛び起きて、横で眠るメグルを見て安心する──といったことを繰り返していたのだ。

 かれこれ3回くらいこれをリピート。

 そんな調子なので、博物館からもさっさと出てしまい、外のベンチに座り込む。

 まともに眠れていないのが響いているのか、くぁ、と生欠伸をすると、彼女はそのままメグルに寄りかかってしまうのだった。

 

「……昨日、ヘンな夢を見たんだ」

「もっと早く言えば良かったのに」

「いや、悪夢ってさぁ、起きた時には思い出せないじゃん? ……最近は昔の夢は見なくなったから余計にね。でも……悪い夢だったのは確かみたいだ」

「今度は水墨画の所為でか、困ったもんだぜ……」

「本当に何でなのか……分からない。分からないけどぉ……くぅ」

「……宿で寝るか?」

「ひゃいっ!! ご、ごめん……でも、寝たら寝たで、悪い夢見そうだし。それに、折角メグルに付き合って貰ってるのに、悪いよ」

「前も言っただろ、お前はもう少し自分を大事にしろ」

「──そうだ!! お酒の力を借りよう!! こういう時こそ景気よく──」

「ダメに決まってんだろ前科者! それに、悪夢は酒飲んだら余計に悪化すんぞ!」

「は、はい……」

「ふぃー……!」

 

 ニンフィアは本調子ではないアルカの鼻先に猫パンチならぬブイパンチ。

 しかし、それも無言で彼女は受け流す。これでは張り合いが無いのか、不機嫌そうに唸ると、メグルの肩に乗っかるのだった。

 

「何にも情報が無いんだよな、現状。やっぱりここは、セツゲツカについて調べてみるのが正解だと思うぜ」

「セツゲツカって何処出身の人なの?」

「聞いて驚くな、セイランだ」

「という事は──フチュウを調べていれば、おのずとセツゲツカについて分かるってこと!?」

「ああ。此処は一つ、城下町に出向いてみるのが良いかもしれねえぜ」

 

 城下町周辺は庭園や寺院、そして小さなおやしろである”守護社”も多い。

 その中にはセツゲツカに所縁のある場所も多数あるのだ。

 というのも彼は、建築家としての側面もあったらしく、庭園や寺のデザインを手掛けていたようである。

 その中の一つである”ヒナドリのしゅごやしろ”に出向くと、掃除をしていた神主さんに早速話を聞くことができた。

 

「おお、セツゲツカについて調べておられるのですな。若いのに感心ですのう」

「色々聞きたい事はあるんですけど──」

「その前にお連れの方が大変な事になっているので、助けてあげた方が良いかと」

「え? 連れ?」

 

 

 

「た、たすけてぇ、メグルぅ……!!」

 

 

 

 コケー、コケー、コケー、と鳴き声が聞こえて来るかと思えば、成程確かに大変なことになっていた。

 ひよこポケモンのアチャモが沢山、アルカに集っているのである。

 

「うわ、確かに大変な事になってる!?」

「幸せだけど、もふもふで溺れ死ぬーっ!!」

「此処ではアチャモ達を大量に放し飼いにしているのですな」

 

【アチャモ ひよこポケモン タイプ:炎】

 

 結局、羽根塗れになった姿でアルカは神主の話を聞くことになるのだった。

 

「ぶっふ……」

「何で笑ってんのさ怒るよ」

「いや面白くって……」

「コホン。かつて、セツゲツカはこの社の庭園を始めとして、セイラン──いやサイゴク中の庭園を設計したといいます。特にフチュウの寺院や社には、彼の逸話が伝わっているのです」

 

 例えば、ポケモンの力を借りて上空から寺院の構図を取った話や、自らが設計した石組のカメックスが勝手に動き出した話、墨を切らしたので代わりにオクタンの墨で水墨画を描いた話等々、真偽が怪しいものからハッキリ実話とされているものまで様々だ。

 

「さて、海外に渡り、画家として大成したセツゲツカですが……若い頃に仕上げた2つの作品、”人鬼争乱戯画”、”魑魅魍魎行脚”の2つ、そして晩年に完成させた”百鬼夜行地獄絵図”の3つが最高傑作とされているのです。うち、”人鬼争乱戯画”は現在、ベニの”ようがんのおやしろ”に寄贈され、飾られています」

「じゃあ”百鬼夜行地獄絵図”は元々何処にあったんだ?」

「”シシのじいん”……フチュウの大きな寺院ですな。どうやら、セツゲツカの育った寺だとか何とか。ただ、見つかったのは最近なのです」

「見つかったのは最近──意外だな。それで、”百鬼夜行地獄絵図”についての話って他に何か伝わってますか?」

「……ふぅむ、私の知る限りでは晩年に描かれた作品としか……しかし”シシのじいん”の大僧正様なら、何かご存じやもしれません」

「ありがとうございます! んじゃあ、行くぞアルカ──って」

「助けて……」

 

 またもアチャモの群れに集られているアルカだった。

 1匹連れて帰ってもバレないかもしれない勢いである。

 

「てか、1匹本当に持って帰っても良いですか? こいつら進化すると強いんですよ」

「ダメですぞ☆」

 

 当然である。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 フチュウで最も大きいとされるのが、このシシのじいん。

 周辺では当たり前のようにオドシシが闊歩していることが名前の由来だという。

 早速お邪魔して、大僧正様とやらに”百鬼夜行地獄絵図”の話を聞こうとしたのだが、早速住職に止められてしまうのだった。

 

「大僧正様に会う!? いかんいかん、今大僧正様は非常に忙しいのだ!」

「そこを何とか……」

 

 この通り、取り付く島もない。一体何が忙しいのか全くと言って良い程分からない。

 何処からどう見ても暇そうである。

 

「大僧正様はボケ防止のため、通信の英会話レッスンの途中なのだ!!」

「その後も、足腰を鍛える為に山へサイクリングへ行くのだ!!」

「多趣味でアグレッシブだな大僧正!!」

「いや修行しなよ」

 

 御尤もである。

 

「そこを頼みますよ、俺達セツゲツカの大ファンで、シャツの柄も水墨画にしようと思ってるんですよ、横のカノジョなんて家の壁紙も水墨画で」

 

(ちょっと、何適当な事言ってんの!? 家の壁紙にするなら地層模様って決めてるんだけどボク!?)

 

 この女も別ベクトルでおかしかった。

 

「ぬっ、そこまでセツゲツカを熱く推す若者が居るとは──」

「……正直ドン引きだ……ッ!!」

 

(ほらぁ、露骨に怪しまれてるし)

 

「だがそこまで言うならば仕方あるまい、大僧正様に会わせてやらないこともない」

「大僧正様もセツゲツカの大ファンだからな……ッ!!」

 

(アホだコイツら!! 見え見えのウソに引っ掛かってるよ!! こんなに格式高そうな寺院なのに勿体ないよ!!)

 

「な……ッ!!」

 

(何でウソ吐いた本人も驚いてるんだよ、もうっ!!)

 

「そこで提案だ。時に最近、大僧正様はボケ防止でポケモンバトルを始めてな」

「我々も付き合わされているのだ。故に──大僧正様に会いたいなら、私をバトルで倒して進め!」

 

 坊主の1人がモンスターボールを持って前に進み出る。

 ポケモンバトルなら、トレーナーの得意分野。勿論断る理由は無い。

 メグルもボールを取り出し、目の前に突きつける。

 

「へへん、やってやんぜ! 望むところだ!」

「ルールはシングル、1対1。シンプルに決めようではないか」

「自然な流れでポケモンバトル始まっちゃった」

 

 二人は同時にボールを投げる。

 空中でそれらはぶつかり合い、同時に中からポケモンが飛び出した。

 坊主が繰り出したのはメブキジカ。頭の角が木の枝のようになっているポケモンだ。

 一方、メグルが今回繰り出したのはシャリタツである。

 

(相手はノーマル・草のメブキジカ。幸い、草技はドラゴンを持ってるシャリタツには抜群が取れない。だけど、シャリタツも水技が半減されてる)

 

「ほう、相性上では一概にどちらが有利とは言えませんな」

 

(どーだか! ヤツは攻撃重視の種族値、真っ向に殴り合えば先に力尽きるのはシャリタツだ)

 

「スシー……ッ!!」

「先ずは翻弄する! ”こごえるかぜ”でヤツの足を奪え!」

 

 シャリタツは飛び上がり、口から冷たい吐息を吐き出す。

 それは地面を凍らせていき、メブキジカの脚に霜を纏わりつかせる。

 効果は抜群だが、ダメージは然程大きくない。しかし、問題はそこではなく、脚に霜が付いた事による素早さの低下だ。

 

「ッ……!! なかなかやるな。しかし、脚が動かなくとも攻撃はできる。”タネばくだん”!!」

 

 メブキジカの角から巨大な種が幾つも実り、それが空中のシャリタツ目掛けて放出される。

 

「何よりその態勢では身動きがとれまい! 自ら的になるとは……浅はかなり!」

「いーや、これで良いんだ」

 

 タネはシャリタツにぶつかるなり炸裂。

 ぐらり、と空中で真っ逆さまになり、落ちる小さな擬態竜。

 だが──その目が妖しく光る。

 

 

 

「凍った脚じゃあ、この一撃は避けられねえだろ──”カウンター”!!」

 

 

 

 攻撃を受けたシャリタツの全身が光を乱反射したかと思えば、受けた物理エネルギーが倍増し、衝撃波となってメブキジカを襲う。

 カウンターは受けた物理ダメージを2倍にして跳ね返す技。

 体力ぎりぎりで耐えたシャリタツのダメージを倍にすれば、当然メブキジカが耐えられるはずもなく、そのまま擱座してしまうのだった。

 

「ああ、メブキジカァ!?」

「最初っからコレ狙いだったんだよ! 偽竜は欺いてナンボだぜ」

「スシー!」

 

(ま、流石にメグルが苦戦する程の相手じゃないかぁ……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「これはこれは、まさかおやしろまいりを乗り越えたトレーナー様だったとは……うちの愚僧では相手にならんのも当然じゃな」

 

 

 

 大僧正はスポーツウェアに着替え、サングラスを掛けていた。

 日焼けしたしわくちゃの肌が眩しい。

 最早ツッコミを入れる事を放棄したアルカは、大人しく彼の話を聞くことにしたのだった。

 

「えーとそれでセツゲツカの”百鬼夜行地獄絵図”についてお聞きしたいんですけど。見つかったのが最近らしいじゃないですか」

「そうですとも、先月の蔵の大掃除。遺失したと思われていた”百鬼夜行地獄絵図”が天井裏に隠されていたのです」

 

 何故、”百鬼夜行地獄絵図”が隠されていたかは諸説あるが、盗難防止のために保管しておくつもりが、当時の関係者が頓死してしまった所為で隠し場所が長らく分からなかったかららしい。

 かれこれ50年近く額縁に入ったまま屋根裏に隠されていたというのだから、色々危ない話である。

 

「我々は、せっかくなのでフチュウの美術館に特別展の間、寄贈することにした。キヨ館長と私は古い付き合いじゃからな」

「成程……ちなみに、その”百鬼夜行地獄絵図”が怪盗に狙われていることも」

「百も承知じゃよ。その上で貸し出すことにした。その矢先に狙われることになるとは……」

「特別展示をやめさせようとは思わなかったんですか?」

「水墨画をうちに戻したところで、今度はうちが狙われる。イタチごっこじゃよ。うちにはセキュリティらしいセキュリティも無いし……それならまだ、キヨちゃんの所で守ってもらった方がマシじゃ」

「……信頼されてるんですね、キヨ館長を」

「ううむ。昔から、皆の人気者だったよ。肝っ玉で気持ちの良い性格をしておるからな。知ってるか? あのリュウグウも、若い頃はキヨちゃんにゾッコンだったんじゃ」

「ええ、初めて知った……」

「リュウグウさんにも若い頃があったんだなあ」

「ま、あいつの恋は破れたんじゃが……わざわざセイランの端から足しげく通ってたのに」

 

 死後に明らかになる、リュウグウの若い頃のほろ苦い思い出話はさておき、”百鬼夜行地獄絵図”が美術館に渡った経緯はこれで分かった。

 後は、絵そのものに伝わる逸話だ。

 

「セツゲツカは、どうして”百鬼夜行地獄絵図”なんてものを描いたんでしょうか」

「……ふむ。一般には知られていないが──悲しい背景があるんじゃ」

「……教えて貰えるでしょうか」

「うん──奴がこの絵に着手したのは晩年。サイゴクの災厄が起こった頃らしい。その時、空の裂け目からやってきた災厄に、セツゲツカは──家族の命を奪われた」

 

 それは、諸々の事実と照らし合わせると、ヒャッキとおやしろの戦争に巻き込まれたと考えるのが自然だった。

 セツゲツカが怒りと悲しみに暮れて、衝動のままに”百鬼夜行地獄絵図”を描き上げたのは想像するまでも無い。

 彼の描いたヒャッキのポケモンは、長らく既存のポケモンを元にした想像上の存在とされてきたが──テング団の事件で、全て実在していたことが分かったのである。

 

「この話は、シシのじいんに口伝で伝わっているから、知る人が居ないのは無理もないかもしれんなあ」

「知る人ぞ知る逸話、ってわけだね」

「繊細だけど、おどろおどろしいポケモンの絵……テーマは怒り、悲しみ、恐怖……か」

 

 一通り話を聞き終わり、メグルとアルカは宿への帰路についていた。

 今日一日だけで、一先ずセツゲツカという画家の詳細と”百鬼夜行地獄絵図”についての概要が明らかになった。

 大僧正の話が本当ならば、絵画そのものに怒りや恨みが込められていることは想像に難くない。

 

「でも──何でセツゲツカは、ポケモンの絵を残したんだろう」

「何でって、空から降ってきたヤバい奴らを描き留めたかったんじゃねえか?」

「戦争への怒りを表す絵って他にも色々あるんだけど……壊れた町、傷つけられた人々じゃなくて──攻め込んできた軍勢をモチーフに選んだ理由は何なのかなって」

「……言われてみればそうだな……だけど、天才画家様の考えなんて、俺達には分かりっこないんじゃねえか?」

「そうだけど、あの絵の悍ましさって……怒りと悲しみ……なのかなあ」

 

 考え込んでしまうアルカ。

 それでも、もう一度キヨに頼んで絵画を見せて貰おうとは思えなかった。流石にそんな勇気は彼女には無い。

 故に今は調べた情報だけで推測をするしかないのである。

 調査が進んだことで逆に謎も増えてしまった──と途方に暮れていたその時。

 

 

 

「よーう、今日も今日とてイチャコラしてんじゃねえか」

「……先輩、茶化さない」

 

 

 

 二人が目線を上げると──そこには、二人の刑事が立っていた。

 足元にはエーフィとブラッキーが静かに佇んでいる。

 

「ダンガンさん、フカさん……」

「どうしたんですか?」

「ちょっとお二人に聞きたいことがあってな。任意同行……頼めるか?」

「安心してください。何か嫌疑が掛かってるとかじゃないので」

「どーせ、居ても立っても居られず、調べ事してたんだろォ? ……情報交換、しようや」

 

 願ったり叶ったりである。情報は多いに越したことは無い。

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