12月15日:響け、燃え上がれ、凍てつき眠る前に
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真なる竜種、という存在は厳密には生物ではない。生物的現象、あるいは自発的に恐怖をばら撒く受肉した概念とでも言うべきものだ。
如何な物理学とて「そんなものは存在しない」と断言できる真なる竜種が存在しうる理由は、この星がマナに満ちているからであり……なによりも前例があるからに他ならないが、それは今この瞬間には瑣末な問題だ。
この場において重要なのは、十番目の真なる竜種「トマホーク」が一体如何なる原理でその恐怖の数々を実現しているか、だ。
種明かしをすると、トマホークが「切断」と「投擲」の恐怖を実行するために利用しているものの正体、その原理は振動にある。
トマホークの外殻……否、厳密にはトマホークの体組織は全て同一の物質で構築されている。体組織の中でも外部に対して攻撃的に硬質化したものが「刃殻」として認識されているに過ぎない。
そもそも生物として最低限必要な臓器すらも必要としない真なる竜種は、その肉体構成を「行動」の為に特化させている。
───トマホークには「響震炉」とでも言うべき器官がある。読んで字の如く、トマホークの振動発生能力を司るものであり、肉体の各所にあるこれが振動を生み出す事で肉体加熱や超振動の斬撃を放つことができるのだ。
刃翼もまた同様の原理だ、本体が放った超振動の斬撃を受信することで携帯端末を充電するように運動エネルギーを再充填する事で再び動き出すのだ。
とはいえ、だ。ここまで長々とトマホークの性質原理について語ったものの、それはあくまでも攻略本やtipに書き込まれた裏設定のようなもの。
今この瞬間戦っている彼らが知ることはない………だとしても、
「肉体が振動してさまざまな技を使う」、これだけ分かっていれば充分なのだ。何故ならば、
「この"魔弾"は……奇跡的に、君の天敵だよトマホーク!」
神なる世の執念、魔弾に込められた必勝必殺の力は……常に飢えているのだから。
◆
鯖癌γサーバー。銃弾が通貨になっていたような狂った島の中で、最も恐れられていた男が「当てる」と断言したのならば俺がすべき事は決まっている。
「役目を変わるぜヤシロバード!!」
これまでヤシロバードが遠距離から狙撃する事で行っていたトマホークの視界妨害、それを俺が引き受ける。
ウル・イディム&サバイバアルの前衛二人が全力で足元を殴り続けているから、トマホーク本体は大きく移動することができないでいる。首長とはいえ所詮は可動域も限られている……俺には見えたぜ活路! お前の視界は見えなくするけどな!!
空中ジャンプにはコツがある。重力方向操作無しなら階段、有りなら坂とでも言えばいいか。空の走り方に緩急を入れることで実際はそんなに自由自在って程でもない空中機動に緩急をつける。
「時間稼ぎの時間稼ぎの……なんだ?」
カローシスが刃翼対策でなんかやるから、その時間稼ぎとしてヤシロバードがなんかしようとしてた、だから……あー、えー……よし、深く考えるのはやめよう。要するに、ノックダウン! 怯んで止まれば全部解決する、世の中の問題の何割かは殴れば解決する!!
空中ジャンプは虚空を踏んで飛び跳ねる感覚だが、無重律の恩寵のような「立ってる方向を「平面」判定にする」ようなスキルを使っていない場合、飛び石をジャンプで移動するような、あるいは階段を一段飛ばしで駆け上がるような動きになる。
そして足裏を前に突き出せば、それは足場ではなく「壁」となる。
「残念だったなトマホーク! この世の全ての大気がッ! 俺の足場なんだよなぁ!!?」
首を伸ばし、空中を駆け上がっていた俺へと噛み付いてくるトマホークだったが、俺が真横に蹴りを放つように脚を伸ばすことで伸び切る前に虚空を踏んで、壁蹴りの要領で俺の身体を真横へと弾き飛ばす。そして身体が真横に動いた瞬間に無重律の恩寵起動する。
重力方向、つまりは直立した時の「上」と「下」を制御する、という事は足が虚空を踏みしめた瞬間にその方向が地面となるという事だ。頭頂部が地面を向いていようが地平線と並行だろうが俺が立つ場所が地面であり、そこから上に走ろうが下に走ろうが、俺にとっては直進となる!!
踏み込んだ脚が透明な道を踏みしめる、身体が地面と平行な状態だろうと関係なく、重力すらも捻じ曲げたダッシュで一度は避けたトマホークの頭部へと限界まで接近する。
トマホーク、牙も鱗も角も鋭利な刃物の如きキレたナイフ野郎。
おや? よく見ると一箇所鋭角じゃない部位があるじゃないか。あらまぁ随分と角の取れたまん丸な………お目目な事で。
「マルチプレイでMVPになる条件を知ってるかトマホーク!」
トドメを刺すこと? 土壇場で仲間を救うこと? ノー! タンクやヒーラーの話をしてるんじゃねーんだぜ!! 前衛がMVPを取るために必要な要素はたったの三文字だ。
「DPS!!」
お前の命を削るツルハシの大きさと振るう速さ! それだけが火力職の存在意義!! だからここで使う! 特効の最高を、殺せずとも必殺!!
「其はあり得ざる槍、断章積み編みて紡がれし非実在の輝き!」
叫びながらアラドヴァルの鋒を渾身の力で全てが鋭角と思われていたトマホークの「丸」、即ち眼球へと突き刺し埋める。
僅かな間を挟んで……トマホークが絶叫をあげた。痛覚なんてありませんが? とでも言いたげな金属塊だが、中々どうして目潰しはつらいらしい。
だがその程度で終わらないぞ、必殺技ってのは「必ず殺す技」なんだぜ、あわよくば死ねの気持ちを鋒に込めてぇ!!
「さらに重ねて………蹴武!!」
ラビッツにて、老いたヴォーパルバニーに師事して学んだ蹴りの武術! その本質はメインジョブに据えてこそ輝くが……技を使うだけならサブジョブでも十二分!
今こそ見せよう「蹴武術士」の力を!!
空中ジャンプ、アラドヴァルをトマホークの目に突き刺した反動で俺の身体はトマホークから離れた状態にある。無重律の恩寵がまだ切れていないので普通に跳んだのでは「上」への跳躍になって加速力が得られない。ならばここで選ぶ"択"は……こうだ!!
「見えなくても理解できるよう脳天に響かせてやる」
虚空を踏みしめ、立った角度は地面と垂直。そのまま虚空に一歩踏み出し、二歩踏み込んで、三歩目は腰を捻って回し蹴り!!
老師曰く、蹴武の極意とは!!
一に「キュッ」
二に「キュッキュキュ!」
そして三に「キュキュ、キュキュキューッ!」
いや何言ってるかさっぱり理解できんかったわ。だがニュアンスだけは心に刻まれている!!
蹴武とは! 蹴る武術ではなく蹴り飛ばす武術!! その真髄は投擲スキルとの組み合わせにこそある!!
「輝槍実証第四:焼燬ッ! feat.蹴武「ディストーツトリガー」ッ!!」
虚空に踏ん張って叩き込んだ回し蹴りがアラドヴァルの柄尻、あるいは石突を撃鉄が信管を叩くが如く押し出す。
そして投擲判定のモーションがアラドヴァルの必殺技を呼び起こす。
銀の炎がもはや剣の中に収まるのは不可能だと言わんばかりに溢れ、巨大な槍の穂先を作り出す……目に突き刺さりながら。
巨大な炎の穂先は蹴武によって弾丸の如き回転を付与されたアラドヴァルと連動し、轟々と燃え上がりながらトマホークの眼から頭部を焼き砕かんと回る。俺と剣と炎の意思はただ一つ、くたばれ竜種!!
「抉れて爆ぜろ! トマホーク!!」
これで死なないなら大したもんだ、だが本命は俺じゃないってこと……今から思い知らせてやるよ。
「ヤシロバード!!」
「キュッ」
「キュッキュキュ!」
そして三に「キュキュ、キュキュキューッ!」