斜陽 其の六
───痛みに叫び、彼女の許へ。臓腑を食い破るそれの名は、
◆
「だぁぁぁぁあ!!」
踏み切った! 踏み込んだ! もう後戻りはできない、この一瞬に全暴力を叩き込む!!
これまで封じ続けてきた加速力を封雷の撃鉄・災で更に強化して一気に攻勢に転ずる。止まったら死ぬと思え、マグロの如き前進を!
龍蛇の攻撃は確かに脅威だが巨体故の「隙がデカい」という宿命からは逃れられない。やたらに俺を狙う龍蛇の攻撃を空中ジャンプを用いた跳躍で回避し、巨体を足蹴にボスドゥニーネまでの距離を一気に詰める。
「ふふ、フフふフフ!!」
何がそんなに楽しくて仕方がないのか、吠え面かかせてやるぜ。
こちらに殺到する毒爆弾を、起爆するよりも早く駆け抜けて回避。残り3メートル、空中に生み出され振われる毒剣のスイングスピードよりも速く駆け抜けて!
「凹めやオラァ!!」
俺はそれがボスキャラなら美女も子供もぶん殴ることを躊躇わない、致死圏の悉くを速度だけで突き抜けて辿り着いたぞボス眼前!!
装備は煌蠍の籠手を選択、もはや出し惜しみはしない。顔面に直接「超排撃」を叩き込む!!
「【超過───!!」
「私が、私が! 私を! 私を! 殺して、踏みつけて!」
はぁあ、と狂ったように笑うボスドゥニーネの吐息がやけにはっきりと聞こえた。そして、渾身のストレートがボスドゥニーネの顔面に触れるよりも先に、籠手にしがみつく毒色の乙女……………さっき見た顔だ。
「あァ、私ノ足音が、増えテいくワ………尽きせぬ私は、どレほどニ……ああ、アァ、殺すホどに、私は後悔ヲ、重ねテ……【私は百の顔を持つ】!!」
魔法か、それとももっと異質な何かか。一つだけ言えるのは……その宣言をトリガーに、あるいは泣いているようにも見えるボスドゥニーネを爆心地として視界を埋め尽くさんばかりの完璧な全身を備えた毒乙女が大量に生み出された。
「く……!!」
人を圧倒する一番簡単な方法は質量で押し込むことだ。横綱だってアクセルベタ踏みのトラックと相撲して勝てるはずもなく。
全方位に放出するように生み出されたとはいえ、俺を押し出すように十数人の毒乙女……いいや、もはや確定だろう。
このボスドゥニーネに食われ取り込まれた他の「ゴルドゥニーネ」の成れの果て、それがシンプルな質量として俺とボスドゥニーネとの距離を引き離してしまう……!!
「クソがぁあ!!」
スキルの効果が切れ、リキャストタイムは遠く。今の俺にできることはしがみついてきた毒乙女を引き剥がし、解毒アイテムを使うことだけだ。
「どう見ても五人六人で攻略するコンテンツじゃねぇ……!」
ジークヴルム系だろテメー! ふざけんな! 超大規模レイドモンスターが奇襲仕掛けるとかド級のクソじゃねぇか!! tipを出せtipをよぉ!!
「シユー! 王我星! もうどうにもならねぇ、全力で自分とこのゴルドゥニーネを逃がす努力をしろ!!」
叫ぶ言葉は、しかし狂ったように笑い声を上げる毒乙女達の大合唱によって二人のプレイヤーへ届くことはない。さながら口裂け女のように頬まで引き裂けた口が織りなす笑い声は聞いてるだけで頭がおかしくなりそうだ。
視線を僅かに向ければ、大量の毒乙女に囲まれた王我星とシユーがなんとか足掻いているのが見える。
「これは……」
クソみたいな敗北の風景だ。毒乙女の引き裂けた口から覗くカミソリのような「歯」を何に使うかなんて言うまでもないだろう。
───王我星と組んでいるニーネの右腕が食い千切られた。
アバターの厳つさで隠せる限界を超えて泣きべそをかいている王我星ががむしゃらに武器を振っているが、ただでさえ大振りな武器を雑に振り回しているだけの「わるあがき」を食らってやるほど甘いAIではないらしい。
───シユーと組んでいるお嬢の両脚が食い尽くされた。
それを見たシユーが完全に動きを止め、今毒乙女達に飛びかかられて見えなくなった。あそこの陣営は集まった中では一番サイズのでかい双頭の蛇がいたはずだが、その姿はどこにも見えない。
強いて言うなら数十人の毒乙女が積み上がった山が見えるが中核には何があるんだろうね、尤も掘り起こしても骨すら残っちゃいなさそうだが。
そして俺も、十数人の毒乙女に囲まれて絶体絶命ってところか。
スキルのリキャストは未だに一つも終わっていない、逆位置があまりにも恨めしい。この愚者め、次あのアーカヌムとかいうジジイが出てきたら右ストレートを叩き込んでやろう。
だがその前に……
「サイナ、やれ」
「認証:閃光爆撃開始」
数秒経過、毒乙女達が俺の身体に牙を突き立てる寸前の寸前……広範囲に投下されたスタングレネードが一斉に起爆し閃光で全てを埋め尽くした。
「サイナぁっ! 腕一本と脚二本だ! 気合いでやれっ!!」
毒乙女にただ場当たりの対処しかしていないとでも思ったか? 奴らは全身毒で出来ているが、動けば首を動かし目を動かす。そして目潰しするとホーミングが不発する……つまり奴らには視力があり視覚があるってことだ。
「了解:積載超過を無視して実行します……御武運を」
「任せとけ、半日は生き延びてやるよ」
上空からスタングレネードによる広範囲爆撃を実行したサイナが猛スピードで地上へと降りてくる。そして傷口から夥しい量のダメージエフェクトを吐き出す二人のゴルドゥニーネを乱暴に抱えて無理矢理飛翔した。
ウチの陣営のゴルドゥニーネはさっさと逃げちまったからな、これは相方としてのせめてもの詫びだ。だからすまんな王我星……まだ息があるようだがここで死ね。
「さぁて、タゲが減ったからヘイトも集めるってな……」
ケントゥリオとか言ってたし、おそらく百人くらいいるのだろう毒乙女に未だ無傷の龍蛇……そしてボスドゥニーネ本体。俺が死ねば契約しているサイナは自動的にインベントリアに逆戻りになる、であればここから前線拠点までの距離と移動時間を考えて最低でも三十分は生き延びなきゃいけないわけだが……
「早速チェックメイト食らいそうだ」
数が多すぎる、サイズがデカすぎる、そしてあまりに強すぎる。質も量もなにもかもで負けているこの状況、果たして何分足掻けるか……
それでも生き延びるべく、俺は煌蠍の籠手を構えて身体の色とガチンガチン言ってる牙を除けば見目の良い少女の姿をした毒乙女に抗うべく……
その瞬間だった。
「は?」
毒乙女がボウリングのピンよろしく、横から突っ込んできた何かに弾き飛ばされた。そして、視線を向ければそこには口を大きく開けた重傷の蛇が俺を飲み込まんと……
待て、マジで待って、ポーズ機能はどこだ。なんでここにいるんだサミーちゃんさん!!?!?
王我星は年齢的に表現規制があるのでマイルドな表現にはなってるけどそれでもニーネの腕が無くなったのは誤魔化しようのない事実です