斜陽 其の一
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「ピヨヨッ」
「んんー?」
時刻は夕方、テスト前ということで早帰りという、空いた時間を上手く活用する奴とそうでない奴に分かれそうな時間帯に俺は精神的リフレッシュというこれ以上ない時間の活用をする為にシャンフロへとログインしていた。
リスポン地点はリヴァイアサン内のセーブポイントなので、ちょいと樹海のモンスターで新武器の実践テストも兼ねたハンティングに興じようと思ってたが……リヴァイアサンを出た俺の前に一羽の隼が飛んできた。
「おーよしよし、この高級鳥の餌を上げよう」
今のところ鳥モンスターのテイム方法がはっきりしていない為、メールバードに餌をやることができる「鳥の餌」アイテムは鳥好きプレイヤーに大人気の一品だ。俺が取り出したのは隼用なので細切れのベーコンみたいな干し肉だ……一応プレイヤーも食べられるらしく、試しに食べてみたが塩も胡椒も使ってないので味のしないガムみたいな感じだった。
「ピヨッ」
え? 俺に何かくれるの? まぁ当然一つ目はメールとして……あっ……わ、わぁい、雀の羽だぁ。嬉しいなぁ。
誰かのメールが着信することなく消えたことを察知しつつ、最近何かのイベントなのかパーティを組まなくなったエムルの代わりに隼を頭の上に乗せる。
差出人は「王我星」……あー、あの例のやたらアクの強い推定小学生の。
内容は要約すると「ゴルドゥニーネの契約者達で集まろう」というモノであるらしい。
らしい、というのは何か洋画の翻訳的な言い回しがしたいのか分からないが「でかい祭りにしようぜ」だの「俺たちが集まりゃスペシャルチームだ、軍隊だって怖かねぇ」だの無理矢理詰め込まれた言い回しのせいでもしかしてどっかにカチコミでもかけるのかな? という気分になる為だ。翻訳が間違っていないことを祈る。
「集まる、ねぇ……」
そもそもの停戦協定を提案したのが俺である手前、ノーとは言いづらい。だが問題は集合場所が何故か樹海の中って事だ……率直になんで? という気持ちが大きい。
人目を避けるなら何もモンスターが出現するエリアど真ん中にする必要もあるまい。ああでもサミーちゃんさんみたいな眷属蛇も連れて行くなら人里自体無理なのか……え、なんで蛇連れてく必要性が? 口で説明すれば良くない?
「……あー、こっちがサミーちゃんさんを見せたから、か?」
暫定的に他の「ゴルドゥニーネ」達から見れば一番驚異度が高い一桁ナンバーのウィンプ、そしてその眷属は熱源探知や魔力探知にすら引っかからない究極のステルススネークだ。
俺だってレイドボスさんが透明化能力を獲得しました! とか言われたらフル武装するわ。いや幕末の場合はむしろ全武装質屋だな……下手に死ぬと持ち逃げされるし。
そして最終的にレイドボスさん放置で質屋強襲or防衛戦が始まって全員レイドボスさんに狩られる。これが幕末という生態系の摂理……俺達は摂理に逆らう草食獣、無敵の獅子に抗う為に角を研ぎ澄ませるのだ。その為なら共食いも致し方ない。
「まぁツノが絡まってる間に獅子に噛まれるオチだけどなー」
人間は本能パラメータを削ってINTを上げた生物なので動物より本能的にアホなのだ……思考が逸れた、要するに他のゴルドゥニーネ達にとってはある種の自衛なのだろう。
少なくともサミーちゃんさんは姿と気配は消せるが質量は消せない、ぽつんと立つよりは傍に大質量がいた方がいい……のか?
それこそ人通りの多いところかそもそも眷属蛇出禁にすれば良いような……うぅーん?
まぁ小学生(暫定)が集めたならば深く考えるだけ無駄なのかもしれない、そう結論づけた俺はもう一つの問題をどう解決するべきかに思考を費やすことにする。
即ち、あのクソヘタレをどうやって連れ出すか……なのだが。いやまぁどっちかというとサミーちゃんさんを如何にして説得するか、だな。
あの保護者氏が本気でステルスするとマジで見つけられないし……逆に言えばサミーちゃんさんさえいれば俺が捨て石になってる間にウィンプ丸呑みしてステルスしてもらえば大抵の状況は切り抜けられる。
と、いう旨をサミーちゃんさんにどうにかして伝えることに成功した俺はウィンプと一緒に約束の場所へと向かっている……その後ろからはステルス状態のサミーちゃんさんが追随する形だ。
「はーなーしーてー」
「質問:離した場合の行動」
「え、えーとぉ……そう! やさいのかわむきがあるの!」
バイトがあるんで帰してくださいと主張するユニークモンスターって………
無駄に勤労意欲を見せつつも、サイナの手で簀巻きにされた上で米俵みたいに担がれているウィンプを半目で眺めつつ指定された場所を探す……
「えー……エルフの里から北西方向の白い木の下……? いやそんな、街の中から特定の電柱探せみたいな……」
くっ、この絶妙に親切なんだか不親切なんだか分かりづらい感じが……くっ、なんか王我星を罵倒しても俺の格が下がるだけな気がする。
「観念しろウィンプ、安心しろっていざって時は俺が肉盾になる」
「たてもぶきもいらないせいかつがしたいのっ!!」
至言だな、ノーベル平和賞も狙える名言だ。だがここは文明未発達の開拓ファンタジー、盾も武器も持たない奴を自然界の摂理では「餌」と呼ぶ。
「別に表情筋と身体の震えを固めて生意気な顔して座ってりゃいいんだよ」
「推奨:気絶」
「いや流石に起きてないとまずいから」
白目剥いたウィンプをお出しするわけにもいかんだろうよ。傀儡でもなんでもこいつには堂々としてもらわなきゃあならねぇ、考えつく方法としては超至近距離にサミーちゃんさんを配置して安心感を持たせることとか……
「……アレか」
くっ、こんな分かりづれー内容で見つかるわけねーだろとか思ってた手前、恐ろしくあっさり見つかってしまって何とも言えない気分だ。
「さて、覚悟決めろよウィンプ。人も蛇も生存する為に命を張らなきゃいけないシーンがあるもんだ、特にお前なんかはボーッとしてるとお前らの大元のゴルドゥニーネに皆殺しにされちまうんだからな」
「え?」
げ、もう先客いるし。顔引き締めろウィンプ!
薄暗い森の中で、君は誰だと昏い顔を見て問う
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