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世界最速の師弟

その姿を目視した瞬間、俺の身体は既に最大レベルの戦闘態勢に移行していた。


「っ!!!!」


座っていては負ける。他の面々がまだ状況を理解できていない今、動けるのは俺だけだ。立ち上がり、スキルを起動する………瞬間……………


「───「超越速(タキオン)」。」


世界が、減速した。

視界と思考がかろうじて減速した世界の中で当倍速で動く。何が起こったかなどを考える前に各種スキルを連続起動、限界まで無駄を削ぎ落とした連続起動によって目と脳以外の部分が減速した世界で等速を取り戻し、さらに加速させる。

狙いは何だ? サラダじゃあるまい、そうかコーヒー牛乳!!


振り向けば、そこには今にも俺のコーヒー牛乳へと手を伸ばさんとする小さな影。くっ、判断が遅すぎる───!!

スキル回しがガバすぎる、恥を知れ俺。考えながら動きは止めない、グラスと小さな指先の間に超速イアイフィストでインターセプト! 馬鹿な、消えた!?


「………まだまだ、精進(しょうじん)()りない」


超越速(タキオン)適応下での、さらなるスキル重ね………っ!!

最大速度(スピードホルダー)の称号はあくまでもプレイヤーに限定したもの、そしてこれまで数々の速度自慢達の尽力を以ってしても一度もこの称号が解放されなかった理由。それが今、目の前にいる。グラスのコーヒー牛乳がいつの間にか空になっている。もう殆ど姿を追えないというのに、それはさらに加速して俺の視力では追いつけない高みへと消えていく。いやマジでこのスキルビルドでまだ追いつけないってどうしろってんですか、あとやることなんて肉体改造手術くらいでは? え、まさかそれが正解?


世界が、等速になる。


「……(うご)かないことを推奨(すいしょう)する」


「えっ」


「あっ」


「わっ」


突如として現れた花柄ワンピースの幼子の言葉に、誰もが素直に従うことはできず。全員の頭の(・・・・・)上に置かれた(・・・・・・)酒入りのグラス───先ほどアホどもが散々カウンターの上を滑らせてきたアレ───のいくつかが床に落ちてガシャンと割れた。


「…………」


「あーはい、ちょっと待ってくださいね幼女先生はい聖杯」


なんかもう自然な流れでアバターの性別を変更しつつ鮭頭も外す。一般常識的に変な格好をしていると幼女先生は半目で睨んでくるし態度が冷たくなる、師匠的ポジションのNPCからの好感度は稼いで損になることはないので唯々諾々(イエスマン)として従うのだ。なお服は半裸でも許される、なんで?


それはそれとして突然の世界最速の悪戯を受けたことで完全に硬直してしまったが故に、グラスが頭の上に乗ったままのゴルドゥニーネ達にゼスチャーで頭の上を指差しておく。そして視線を向ければ、慣れた手つきで頭の上に乗っかったグラスを取ってサミーちゃんさんの口の中に流し込んでいるウィンプ……あ、サミーちゃんさんウワバミなんですね、蟒蛇だけに。


「お前は慣れたもんだなウィンプ」


「だって、まいあさやってくるし………」


「え、毎朝来てるんです?」


「じっと()つめると、メニューが()える………重宝(ちょうほう)


おい、体良くタカられてるじゃねーかお前。それでもユニークモンスターの端くれか、でも幼女先生は控えめに言って最速最強なので仕方ない。あれスキルで思考速度上げないとマジで認識できないからな。俺も俺で毎回会うたびに速度検定が始まるから、その度に飯を掻っ攫われドリンクを掻っ攫われデザートは丸ごと持っていかれる………うん、俺も体良くタカられてたわ。


「朝飯にしては時間が早くないですか先生」


「……早朝食(そうちょうしょく)


なんてことだ、自分の無知を恥いるばかりだ。俺は今まで朝食こそが一日の食事のトップバッターだと思っていたがまさかさらにその前が存在したとは……………いやそうはならんだろう。でもなってるから仕方ないね、説得力は実力に付随する。であれば幼女先生というキャラクターがいる限り早朝食こそが真のファースト・イーティングなのだ。


いきなりやってきた強キャラに、来訪者達はその動向を恐る恐る伺っているが俺やサバイバアル達は知っている。この最強の賞金狩人様は特に理由なく飯のために徘徊しているので別にゴルドゥニーネを討伐しにきたとかそういうことは全くないのだと。


(わか)マスター……いつもの」


「あー……マスター俺はこれ、おかわり」


「お待ちを」


「………………」


「わ、わかったわよ! なにかつくってくるわよ!」


悲しきかなウィンプ、幼女先生の登場によりお前のミステリアスなオーラは完全に消し飛んでしまった。今のお前は料理人見習いのアルバイトでしかない………と、思ったがプレイヤーはともかくゴルドゥニーネ達は幼女先生に釘付けだ。まぁこの場にいる中で一番手っ取り早く全員キルできるお人だし当然と言えば当然か。命拾いしたなウィンプ。


さて、気を取り直して対ゴルドゥニーネ交渉を再開して………


「お先にこちら、ノンリカー・カルーアミルクです。ティーアス様にはこちら、コモナの実のジュースです」


「あ、どうも」


コモナの実ってなんだっけ、ああそうだコモナの実は食べると美味しいけど主用途はその棍棒みたいな形状を生かした撲殺という物騒な木の実だ。味はみかんの食感な林檎って感じ。

皮というか殻が尋常じゃなく硬いので戦闘中に武器を失ってもこれで五回くらいは殴れるので打撃戦士にオススメってマッシブダイナマイトから聞いた。武器拾うか新しく出した方が良くない? と思わなくもないが装備容量が武器より軽いので割とマジで採用圏内らしい。


さて、そんな豆知識は置いといてそろそろゴルドゥニーネ達が精神的硬直から立ち直りそうだし対話を………


「サ、サンラク………」


「なんだよサバイバアル」


「そのコーヒー牛乳………これで………」


なんで金の詰まった袋を渡してくるんだ気持ち悪い。コーヒー牛乳くらい自分で頼めば………ん? この(・・)コーヒー牛乳じゃないといけない理由? この、先生に飲み干されたグラスに直接注がれた………………


「おい」


「はい」


「グラスに触れずにストローで飲め」


「なんてこと言うんだテメーは!」


「やっぱそういうことかよ死ねや!!」


そういうことかよ! 見損なったぜ! いや評価変わらないから見損なっても無効化してきやがる! なにそのステータス最低値だからステータスデバフ受けても実質無効化みたいな!! うーわこいつマジかうーわ!!


「キモいっ! それは流石にキモいぞ! 最低だぞお前っ!!」


「ぬ………っ! む………っ!!」


「照れて目を背けるな変態! 現実を直視しろ変態!!」


「あの、ツチノコさん」


「変態! 変態!! ……何!?」


「そんくらいにしてやってくれませんか………サバさんがちょっと取り返しのつかない扉開きそうだから」


は?

サバイバアルの性癖が危ない、とても危ない

なんなら遠目で見てた他の着せ替え隊の性癖も危ない




あと宣伝です

拙作のコミカライズ版『シャングリラ・フロンティア』単行本第1巻が10月16日(金)発売決定致しました

しかも特装版単行本も同時発売します。一巻にして既に特装版ですって皆さん、不二先生の手による漫画だけでもヤバイのに硬梨菜も頑張って色々書いて添えてますからね。漫画本編がハンバーグなら硬梨菜は付け合わせのマッシュポテトです。

マッシュポテトの中身としては週刊少年マガジン本誌に掲載した書き下ろし小説全3話(ヒロインちゃんの過去編)に、新規書き下ろしを加えた小説本が付いてきます

通常版と特装版、どちらも予約開始していますので宜しくお願いいたします

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― 新着の感想 ―
サバぁ…お前の性癖終わったんじゃねぇの…
n回読み返してて何となく感想も見ながら読んでみようと見てた訳でして…… サバさんの性癖、鯖癌サンラクからっていうのしっくりきた。 だし、おNEW癖(へき)もサンラクからになりそうだった………… あ…
そういえばリメイク後の女性体の話はなかったけど、変更の可能性があったのか。納得した。
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