一息つく者達、されど吐息の色は異なって
アルバRTAの優勝商品
「……ふぅ」
七つの大罪に嫉妬が含まれるのも納得の掲示板であった。ぶっちゃけ最初に絡んできた時点で通報してガン無視していたのでそっちはどうでもいいのだが、問題は嫉妬よりも厄介な色欲に塗れた罪人の方だ。
あいつ、多分わざととかじゃなくて素で全体チャットで個人の呼び出しとかするタイプなんだよな……あのまま残っていたら奴は確実に騎士掲示板で会話しようと試みていただろう。
「あの……サンラク、君」
「あぁ何? 代理で伝える事は全部伝えたし何も問題ないよ」
「いえ、でも……その、酷い言葉を投げかけられていたり、してましたし……」
「レイ氏、一回言い返すより一回通報した方がずっと平和で手っ取り早いんだよ」
殴っていいのは目の前で煽ってくる奴だけだよ、そっちは遠慮なく殴っていい。何故ならそういう事をしてくるアホは言葉で解決しようとすると永遠に決着がつかないから。画面越しなら動物の鳴き声だと思った方がいい。
掲示板への書き込みとは、即ち自分も「鳴き声」を叫んでいるに他ならない……程よく無視して程よく受け止めようねと武田氏も言っていた。
まぁ武田氏沸点低いからすぐレスバトルするけど。
「さて、用事も終わった事だしレイ氏の始源関係の攻略に挑む?」
どうせエムルがいないからファストラも出来ない。手間だがいつかエムルを連れてここに来直せばいいか。となれば黄金のマグマを持ってさっさと帰るよりも折角なら資源関連の謎に迫ってみるのも悪くない。
「ん?」
今気づいた、例の鎧馬の上に名前がついてる。俺が掲示板を弄ってる間にレイ氏が名前をつけたのか。何々……
「緋鹿毛楯無……ひしかげ?」
「緋鹿毛楯無……です。その、綺麗な緋色の鬣と、よく見たら鎧の隙間に鹿毛が見えたので……あの、えと、その、ちょっと気取り過ぎ……でしょうか」
「いや、カッコよくていいと思う」
楯無がどういう意味かは分からないけど。よかったな馬刺しにならなくて……レイ氏が追月の竜騎としてのユニークを発生させてなかったら今頃外殻と鬣と馬肉としてドロップしてたんじゃないのワハハ
「ヴァルルルルッ!」
「ほぐんっ!?」
「サンラク君!? だ、ダメ! 楯無!!」
「おごごごごご!!」
噛むな噛むな噛むな噛むな頭を噛むな!! テイムモンスターのくせになんで俺に対してこんな攻撃的なんだよ!! ていうか牙が突き刺さってゴリゴリ体力が………………牙?
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!」
肉食じゃねぇかこの馬畜生!!!!!!
◇
喪失骸将"綺憶喪失"。
なれの果ての果て、だったもののどん詰まり。綺麗な記憶ごと己の首を永久に失った首の無い騎士。もうどこにも存在しない首があった場所をどうにか埋め合わせようと、首の付け根から吹き出す黒い炎が嘆く人の顔を作り出す妄執すら消えた怨嗟の塊。
もはや「かつて存在した騎士と騎馬」という形すらもが崩れ去り、ケンタウロスのような人馬一体の姿となった異形の獣騎に対し、攻める影が五つ。
「おおおおおおお!!」
右手に盾、左手にも盾。すなわちダブルシールドによる突撃によって"綺憶喪失"の突進を受け止める男がいた。これ以上なくタンクという役割を体現するにふさわしいガタイの男は、"綺憶喪失"が振るった大剣(これもまた、エクゾーディナリーへの変質と同時に恐ろしく重厚な特大剣へと変貌している)を両の大盾で受け止める。
ザリザリと渓谷の大地を削って男が後ろへと押し込まれるものの、"綺憶喪失"の特大剣は堅牢な双璧を打ち砕く事が叶わずに弾かれ怯む。
「もやパンそのまま体丸めて! 踏み台にします!!」
「おいLibertyマジか!?」
鋭く、しかし高い声音で両手盾の男へと声を飛ばしたのは、ゲームという世界なら大なり小なり美形になりがちな中で恐ろしく平凡な……いわゆるモブ顔をした男だ。
驚愕の声を上げつつも、踏まれる事を覚悟し体を固めた男の背を踏みしめ、儀礼的な装飾が施された剣を左手に構えた男が上空───人馬一体の異形故に頭(に相当する炎)が地面から三メートルほどの高さにある"綺憶喪失"と対等な視線を得る場所にまで踏み込む。
「【アドヴィタ・カルケラクア】!!」
神秘の剣だけが振るう事を許されし儀霊剣が記憶した魔法を世界へ現出させる。
発動と同時にMPが秒間10減り続け、その間敵を水球の牢で拘束するハイリスクハイリターンな魔法を斬ったのは、すでにこの戦闘が最終盤へと至っているためだ。出し惜しみなく押し切る、かけた手間だけ神秘の剣はその真価を発揮する。
突如として人としての形をかろうじて保つ上半身を水球によって拘束された"綺憶喪失"は生前の反応が残っていたのか、まとわりつく水を振り払わんともがき出す。だがそこへ儀霊剣の一撃が刺突スキルを伴って炸裂、"綺憶喪失"は大きく怯まざるを得ない。
「───トドメは俺に任せろ」
「えっ、JUMP!? お前もやるなら先に言……」
「おまっ!?」
と、ここでアクシデントが起きる。
神秘の剣の男に続いて自らも宙に駆け上がらんとした漆黒の鎧を纏った男であったが、ぼそりと呟くようなトドメの宣言をもやパンが聞き取るまでには若干のラグがあった。それ故に踏み台としての体勢を崩していたもやパンの肩に足を乗せた双剣士はぐねり、と嫌な方向に足首を曲げる……その瞬間、跳躍スキルが起動。
「どぉお!?」
「死んだか!?」
「まだだあああああ!!」
盛大な自爆に対して、やたらと格好をつけた叫びをあげた双剣士が空中を踏みしめ姿勢を立て直す。黄金に光り輝く神々しい剣と、対照的に禍々しい漆黒の剣を振りかぶって己自身を独楽の如く回転させながら"綺憶喪失"へと斬りかかる!!
「フッ……跳天流「己転旋風」……!」
「その自己流派、ダメージ倍率ゴミなんだからこういう時使うのやめません?」
「いやいや……でも、かっこいいだろ?」
「パチモンの聖剣と見掛け倒しの魔剣でカッコつけられても……」
「まだ敵生きてるんですけど……!!」
「「あだっ!」」
双剣士が光と闇を両立した装備で固めているとすれば、こちらは雪を全体的な意匠とした女武者が格好つけたポージングを始めたJUMPとLibertyの頭をはたきながら前へと飛び出す。
逆手に構えた小太刀を握りしめ、スキルの光を宿しながら低く突き進んだ先の人馬一体の馬部分、その脚関節を狙って短剣スキル「支脚崩し」を叩き込む。
"綺憶喪失"の左前脚がかくん、と折れ曲がるものの馬の脚は前後含めて四本、人のそれよりも遥かにバランスに優れる。だがその程度は百も承知、雪の女武者はその手に握る小太刀を反転……すなわち順手で握ると、先程とは異なる光を白銀の刀身に滑らせる。
「隙を作ります、総攻撃を」
「おう! JUMPも置物やってねーでYukiのこと手伝ってこい!!」
「トドメは任せろー!」
「……悪いが、そこは譲れんな」
雪の女武者が握る小太刀が稲光を纏う。短剣スキルではない、「小太刀」という武器はダメージ倍率が半分になる代わりに短剣スキルだけでなく刀スキルをも扱うことが出来る武器種だ。
故に小太刀から放たれるは刀系スキル「神経断ち」、対象の手足に当てる事で一時的に麻痺状態にする威力ではなく追加効果こそが本命のスキルだ。
「支脚崩し」に左前脚のバランスを崩され、「神経断ち」によって左後脚を麻痺させられた事でさしもの四本足も耐えきれずに"綺憶喪失"が転倒する。
好機と距離を詰める四人を抜き去り、これまでずっと後方で「準備」をしていた男が己が獲物を振り上げる。その刃は重く厚く、なにより数分前から蓄積され続けてきた「力」を開放したくて堪らないと叫ぶように大気を震わせる。
「……「衝昇の華撃」!!」
ズゴン!!!! と凄まじい音を立てて叩きつけられた刃が倒れた"綺憶喪失"の頭炎を断ち切り本体へと落とされる。
拮抗は一瞬、異形の騎士を叩き割りながら胴の奥へと進んでいった重い刃が何かを砕くような感触。それに気づいたのは刃を振った男だけだ。
続け様に他の四人が攻撃を仕掛けるものの、男にだけは分かっていた。今の自分の一撃こそがトドメだったのだと。
「…………!!」
水の中でさえ燃え盛っていた黒炎、苦悶の表情を浮かべた"綺憶喪失"の頭炎が萎むように消えていく。それと同時にボロボロと鎧が崩れ落ち……最後には、何かを求めるように伸ばした手も消え去っていく。
『モンスター不世出……解明!』
『討伐対象:喪失骸将"綺憶喪失"』
『エクゾーディナリーモンスターが撃破されました』
『称号【決して届かぬ手】を獲得しました』
『称号【消エタ想イ】を獲得しました』
『不世出の奥義「綺憶像失」を習得しました』
エクゾーディナリーモンスターを撃破したことを知らせるアナウンスが表示され、武器を叩きつける前に全てが決着していたことを悟ったプレイヤー達は達成感半分、恨み半分といった様子でドロップしたアイテムを拾う男を見つめる。
「乙です〜」
「クッソ、かっこいいところ持ってかれた……!!」
「まぁ最初からガルさんの一撃主軸に回してたからな、そりゃトドメ刺す確率も一番高えわ……あーやべっ、そろそろ半日か。一旦落ちていいか? そろそろキメ直さないと手が震えそうだ」
「出たカフェイン中毒もやパン、私も構わないケド」
「別に構わんよ……俺は次の準備だな」
灰色の毛皮に、雲を思わせる毛皮の腰マントを付けた男は拾ったアイテムをインベントリに入れ終えると、立ち上がりながら自身の予定を告げる。
「次って? 配信?」
「いや、テンバートに向かう。そこで三首凶擬撃破を狙う」
「じゃあ三十分くらい休憩でテンバートに集合でよくね?」
「Yuki、賛成に一票で」
「逆に聞くけど反対なのいるの?」
Libertyの言葉に手をあげる者はいない。彼らはある男のゲームを通した友人であり……その男が普段配信に載せない裏での作業に付き合うプライベートな仲間達である。
「しかし、怒涛のエクゾーディナリー狩りマラソンだな。目星つけてるの二体だっけ?」
「三体だ、あともう一体情報がある……そっちは情報提供者と配信でやるつもりだが参加するか?」
その言葉に首を横に振ったのは小太刀の耐久値を確かめていたYukiだ。
「私そういうの苦手って前々から言ってますし今も変わりないですねー」
「Yuki、バリバリの見せ装備なのに変なとこでシャイだよな」
「バリバリの見せ特化構築のJUMPが行けばいいじゃない」
「新技が完成してないから今はパス」
「新技て」
ガヤガヤと気の置けない会話を繰り広げながら五人のプレイヤーは一度休憩するべく最寄りの街へと向かう。
「しかしここまでガチの準備するとか何想定なんだ?」
「……何想定、か」
カッコよく納刀しようとして失敗したJUMPの問いに対し、男は……頭上に「ガル之瀬」の名を表示した痩躯の男は僅かに口元を吊り上げながらポツリと呟いた。
「最高レベルのプレイヤー想定、だな」
着々と時間は進んでいく。そして過ぎゆく時間の中で動く者達の準備もまた、着々と整えられていく───
映えと恨みだけで動いてるわけじゃない
えー、この度週刊少年マガジンで連載が始まりました。是非とも皆さま、実質十割挿絵と言っても過言ではないコミカライズシャンフロが掲載されたマガジンをお手に取ってみてください