そこに道があるならば
(硬梨菜は首に「私はモンスターの設定を我慢できませんでした」というプラカードをぶら下げている)
◆
「おぼぼぼぁーっ!!」
「ツ、ツチノコさーん!!」
俺はマグマに焼き溶かされて死んだ。
十数秒後、ホルヴァルキン大祭殿最奥「黄金の泉」の外縁に張ったテントから這い出した俺は、呆れた顔で俺を見るミダス氏に男の顔で笑い返してやる。
「いきなり飛び込んだ時は何事かと……ですがお分かりでしょう? この泉は勇者にしか超える事は出来ないのです」
「見事な飛び込みでしたねぇ」
「泳ぐつもりだったのか?」
そう、別に俺はやけっぱちになったわけではない。ちょっと知りたい事があったからその検証をしていただけだ。
「へへへ……甘い、甘いぞミダス君。不可能も絶望も……永遠じゃあない。いつか必ずそれらが覆る日がある」
それは今日だ。
この黄金の泉とやらの構造は単純だ、直径100メートルはある「普通のマグマ」で満たされた泉の中心、そこに直径1メートルあるかないか程の黄金に輝くマグマが湧き出る場所がある。
発熱し発光する普通のマグマの中心にあるにも関わらず、混ざる事なく、そして陰る事なく輝く黄金はあのマグマがただの色違いなどではないことを示している。
つまりは、だ。そこまで辿り着きさえすれば黄金のマグマを手に入れられるわけだが……問題はやはり距離にして49メートル程ある普通のマグマゾーンだろう。
そもそもの話、人間という生き物はそもそもクソ雑魚に過ぎるのでマグマに飛び込んだ時点で死ぬ。ついでに言えば約50メートルマグマの上を低空飛行していたら温度で死ぬ。
ではどうすればいいのか?
「時にミダス君、既に俺は攻略法が見えてるわけだが何か分かるかな?」
「何を───」
「発火して死ぬまでのタイムは五秒、発火するまでは接触でゼロコンマ、非接触の場合は熱によるスリップダメージが発生する。愚者逆位置の効果でスリップダメージは1/2となる。一割減るまでに五秒……」
結論。
「五十秒以内に中心に到達し、五秒以内にマグマを確保……!! 寝起きでもクリアできるなぁ!!」
ゴー!!
スキル起動! 起動! 起動!!
「サンラク」は戦士だ、されど魔法を使わずして空を駆ける最速の戦士! それが「サンラク」!!
こちとら世界の崩壊を背に走り抜けた男だぜ、俺を止めたいならダメージ床じゃなくて移動床でも持ってこいってな!!
「ハッハァーーッ!!」
腹立たしいがここに来て逆位置の効果逆転が良い方向に作用している。マグマに触れないギリギリのラインを最速で駆け抜ける俺の身体は高温に曝されているが、それによるダメージは普段よりも少ない。
「見えた!」
黄金の一滴! バケツスタンバイ!!
脚に痺れるような熱さ、体力が削れているが誤差として片付けられる範囲! 勝負はここからだ、限界まで速度を落として泉の中心へと自然落下で落ちていく。
そして、足がマグマに沈む寸前! 多重的円周運動最小円周で身体の天地を逆転させる!!
重力作用の方向を変えるスキルの発展系「星海飛脚」の効果は未だ残っている。このスキルが発動している限り、俺は回転による三半規管への影響を受けない。
そしてヘルメスブートの進化系「ディオーネーの神助」の効果で更に動く事なくその場に立つ事すらできる。
「つまりこの一瞬───!!」
安定した立ち位置でバケツを振るうことが出来るわけだ。どぷん、と重い水音がしてバケツが黄金の中へと沈む。そして引き抜くと同時にィ!!
「男子小学生に連綿として受け継がれし秘伝……!」
水の入ったバケツを全力でぶん回す事で遠心力による「落ちない水」を実現する……今回はマグマでそれをやるだけだ。ヒューッ! しくじったら頭からマグマを被る事になるわけだ。
あとは帰るだけだが……参ったな、時間切れが近い。これはあと一、二回空中ジャンプできればいいくらいか……
「せいっ」
一回目ジャンプ、その場で宙返りして向きを戻す。
「ほっ」
二回目ジャンプ、その場で高く跳躍。
「救助:インテリジェンスキャッチ」
そして空中に呼び出したサイナの手に掴まって安全に地面まで戻ると。なんの皮肉か両腕にインベントリアがあるからこそ、片方の手が塞がってももう片方を操作できるからこそこういう芸当をこういう状況で実行できる。
サイナの武装は一通り買い揃えてある、その中には人一人と中身満載のバケツ程度ならぶら下げられる空中機動パッケージもある。
まぁこれ、許容重量を増やす程武装に割くリソースが削れるのでここまで飛行能力に特化するともう輸送しか出来なくなる。ま、それで十分なんだけどな。
「なんと、いう……」
「よう勇者諸君、悪いが一抜けだ。攻略頑張れよ!!」
「あのー、代わりに取って来てもらうとか……」
「明らかに非正規手段で攻略するとダメなパターンじゃね?」
「どちらにせよそのうち採取を頼む事になりそうだがな」
イムロン……バケツに妥協しない事だ。それがただ一つの正解さ。
去る直前、ミダス氏が問うて来た。それをどうするつもりなのかと……そうだな、敢えて答えるなら。
「願いが聖なる武器を呼び覚ますなら……俺は俺の願いで武器を握りたいのさ」
「それは………」
許せミダス、俺も今何言ったのかよく分かってないんだ。咄嗟にかっこいい言葉だけ並べたので特に意味はないんだ……でも黙っておく、謎が女を美しくするなら沈黙が男を磨くのさ。
やっぱ何言ってるかよく分かんないや、疲れてんのかな俺。
まぁいい、目的は達成した。レイ氏の手伝いに行くとしようか!!
◇
「………」
ズズン、と大地が揺れる。
「………」
俺も、レイ氏も何も言わずただ視線を交わす。それはまるで、見つめあっているようにも思える永遠……
「ヴォルルルルッ」
「「………」」
俺は見上げるようにレイ氏を、レイ氏は見下ろすように俺を。何故アバターの身長で言えば俺より背が低いレイ氏を俺が見上げているのか。
それはレイ氏がアホ程デカい馬に跨っているからに他ならない。しかもその馬は毛並みが明らかに金属質というか……うん、現実から目を逸らさずに言うと馬の形した鎧かと思ったよ最初。
「その………どちら様で?」
「話せば、長くなると……言いますか。とりあえず……その、」
───隠し最上位職業「追月の竜騎」に転職しました。
「えぇ………」
「その……とりあえず、名前をどうしようかと……」
「ヴルルルッ」
サラブレッド系ではなく、足踏みだけで人の頭をミンチにできそうなタイプの巨大鎧馬君……ちゃん? が値踏みするように俺を睨め付ける。ほほう? いいぜその挑戦受けて立つ。
「ヴァイス・ヴルストなんてどうだろう」
「じゃあ、それに……」
ゴッ!!!
「おごぇっ!?」
「サ、サンラク君!?」
ず、頭突きで四割削れたぞ体力……! 思ったよりも賢くないかこの馬肉!くっ、何故バレたんだ。
ヴァイスヴルスト=ソーセージ
・アルマアロゴ・ヘタイロン
火山地帯に棲むアロゴ・ヘタイロンというモンスターの上位種、カテゴリ的にはレアエネミー
通常のアロゴ・ヘタイロンが群れによる物量圧殺をメインとした突撃を行うのに対してこの上位種は部分的な甲殻しか持たない通常種と違い、本来は弱点たり得る関節部分を伸縮する甲殻で覆っているために、単独での突撃と蹂躙を得意とする
さらにアルマアロゴ・ヘタイロンを含むアロゴ・ヘタイロンのクラスタは非常に気性が荒く、統率の取れた動きをする
その性質上、アロゴ・ヘタイロンのクラスタを率いるリーダーとなる事が殆どだが、稀にリーダーの地位を奪い合うアルマアロゴ・ヘタイロン同士の争いに敗れた個体が単独で活動していることもある。
ヒロインちゃんが遭遇したのはそういう個体
ちなみにアルマアロゴ・ヘタイロンが通常のアロゴ・ヘタイロンの完全上位種かっていうとそうでもなくて、それこそパーティ上限の十五人全員がアロゴ・ヘタイロンで統一したりすると恐ろしく歩調の合った重騎兵が完成する