滞りなく奥ゆかしく威嚇
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思ったより愉快な人物だ、と火酒夏はサンラクというプレイヤーへの評価を改めた。
竜災大戦の際はリアルで飲み会があった事で参加が遅れ、結局最後の方で無差別辻ヒールを繰り返す程度しか活躍できなかったため、最前線で八面六臂の活躍をしていた「ツチノコさん」に出会うことはできなかった。
その後、真偽は不明だが別のゲームで「ツチノコさん」に会ったらしいクランリーダーからの話や、伝聞で伝わってくる情報……そして冥響のオルケストラ正典ルートの攻略動画の流出。それら全てを含めて火酒夏が考えていた「ツチノコさん」という人物はロールプレイに酔ってるタイプである、そう推測していた。
「……思ったよりコミュ力あるんだ」
イムロンを経由してサンラクとパーティを組む、となった時はなんの因果かと驚いたものの、実際に組んでみて分かったことはサンラクというプレイヤーが所謂「勇者様」系ではなかったということ。
そして恐ろしく頼れる、ということだった。
まず雑魚モンスターが寄ってこない、というだけでも新大陸を攻略するプレイヤーからすれば引く手数多だ。
なにせある程度進んでボスを倒せば次の街……すなわち物資の補給をできる拠点が点在する旧大陸と違って新大陸の攻略は物資の消耗と安全地帯の確保に苦心する場所である。
新大陸攻略におけるほとんどの死亡パターンの殆どは雑魚モンスターにリソースを削られた後に強力なモンスターによる蹂躙という黄金コンボであるからして、その内の雑魚の殺到を回避できるというだけでも恐ろしく有用だ。
本人はそれを疎んでいるようだが……魔法使い系クランの中ではトップ層に位置するクランのメンバーから言わせて貰えば、やり方さえ確立されたならクランメンバーに意図的に「刻傷」を付与させる者は決して少なくない数現れるだろう。
さらに言えば、分かっていた事ではあるが本人の性能も恐ろしく頼りになる。
聞けばそのレベルは150、火酒夏が覚えている限りではサンラク以外誰も到達していないレベル上限だ。刻傷のメリットデメリットがさらに大きくなる事に目を瞑っても、今のサンラクは単純なレベルだけで言えばシャンフロ全プレイヤーの中で最強という事になる。
VITが始めたての新規と同等かそれ以下と聞いた時はマジかよと思ったものだが、ほぼ確定でクリティカルを出す幸運とプレイヤー最速の称号を支えるAGIから繰り出される極端な攻撃と回避への特化は回避タンクと火力貢献を両立した軽戦士ビルドの極点と言える。
「殆ど介護しなくていい避けタンクかー」
火酒夏はヒーラーだ、逆に言えば普通の魔法職以上に前衛や中衛の動きについて精通している。だからこそサンラクという「駒」の有用性がよく分かる。
(勇者武器関連もこんなちょろく着くとは思ってなかったし、やっぱりもっと密接に仲良くなりたいよねー)
「……あの」
「はいなんでしょか?」
と、思案していた火酒夏の肩に手を乗せて話しかけてきたのは、火酒夏が記憶していた頃の姿と比べると随分と可愛らしくなったサイガ-0だ。
「その……置いていくのは、良くないと思います……」
「そうですか? あの人そういうのも慣れてそうですし放っておいても追いついて───」
「そういう問題ではないです」
氷の上を滑るようになめらかに、そうではないとサイガ-0が口を開く。
トップクランのメイン火力が新鋭のクランに移籍して殆どギスらない、という中々に珍しい経歴を持つプレイヤー最強の火力を持つ女鬼武者の表情は鬼の仮面で伺うことが出来ない。
だが己の肩へ恐ろしく柔らかに触れる手が逆に不気味さを感じさせる。
「誰かを一方的に利用するのは……良くない、です」
「…………利用してるつもりはないけど、確かに不義理かもですね。待ちましょっか、イムロンちゃんもそれでいい?」
「ちゃんをつけるなちゃんを、私はそういうのには関わらない主義なんだから気にしなくていいわよ」
「そですかー」
という訳で待つ事十五分程、何故か天井をダッシュしながら追いついてきたサンラクに若干恨みの篭った視線を向けられつつも、改めてパーティメンバーの揃った一同は鉱人族達のトップがいるであろう場所を探すのだった。
◆
そもそも鉱人族のトップに会いにいく理由は二つある。
一つは勇者武器関連の「黄金のマグマ」を手に入れる為、ビィラック経由の情報で既に鉱人族の王が黄金のマグマに関する情報を握っているのは分かっているのだ。
そしてもう一つはラダー氏の用件のためだ。ラダー氏はそもそも「赤系竜人族に会いにいく」という目的でシナリオを発生させている。赤系竜人族は実質的にドゥーレッドハウルへの奉仕種族のような扱いを受けており、ドゥーレッドハウル(故)の寝床に住んでいるらしい。
そしてドゥーレッドハウルから「醜い」という理由で迫害されたために地下で暮らしている鉱人族と交流がある事から逆説的に鉱人族のツテを頼る事で赤系竜人族に会いに行けるというわけで……うーん、あのアメンボ思ったよりクズだったみたいだしもっとボコっとけば良かったかな。
だがまぁ全ては終わった事だ、赤竜は既に死んでいるのだから敵討ちもクソもない。なんなら今蘇ったとしても素材目当てのプレイヤーに場所をチクれば迎える最期はスローターかリスキルか……
「ここか?」
「都市の中央がただの民家だったからな、だとすりゃ残るはここだろう」
妙な造りの都市だ。都市の中央ではなく都市の外縁、末端の方に重要施設があるとは。マップが西洋ファンタジーって言うより平安時代とかの日本っぽいな。もしくは縦スクロールのRPG、いやむしろレールシューティング?
どうやら狂騒に混ざらなかった比較的まともな頭の鉱人族がいたのか都市の果てにある奇妙な建物の入り口、その門は開かれている。どうやら入って来いという意味らしい。
……先程俺はアラドヴァルを持っていたから悪目立ちした、と思っていたが。実は逆だったのかもしれない。
「イムロンと火酒夏がいたから、素通りできるのか?」
何故なら彼らが腰に、背に吊るした黄金の武器……それに関する情報を握っている者がこの奥にいるのだから。
まるで神殿のような門をくぐって、俺達は先へと進む。
ヒロインちゃん「そういうの良くない」