ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
CC16話:ポケモンで怪盗は居るには居る
──その夜、ミアレシティの月は高々と輝いていた。
「──国際警察のダンガンと申します」
「……同じく、フカです」
「おお、貴方たちが噂の、怪盗事件担当の……ッ!」
【怪盗対策課本部 コードネーム”ダンガン”】
【怪盗対策課本部 コードネーム”フカ”】
国際警察。
それは、この世界に於ける組織犯罪や地方を跨いだ犯罪を取り締まる法規的機関である。
任務とあらば、どのような地方にでも駆け付け、隠密調査からこのような警備まで何でも請け負う。
彼らの立ち向かう相手はいずれも、一筋縄ではいかない強大な相手が殆どだ。
この二人が担当する怪盗犯罪もまた、例外ではない。
コートを羽織った若い男がダンガン。そして、フードを目深に被った背の低い女がフカ。
彼らが主に請け負う事件は、カロス地方や隣のパルデア地方で多発する怪盗事件であった。
「ダンガン様達が検挙した怪盗は数知れず! 怪盗犯罪のエキスパートと聞いております! 明日は展示会だというのに、目玉の”ミロカロスの涙”が奪われてしまっては我が美術館としても大損失! 何が何でも捕えて頂きたい!」
「ふっふっふ、お任せあれ、怪盗潰しのダンガンと呼んでください」
「……先輩。怪盗を捕まえた数よりも取り逃した数の方が圧倒的に多いじゃないですか。しかも、私がフォロー入れてる時が殆どですし」
「余計な事言うんじゃねェ! 依頼人を不安にしてどうすんだフカ!」
「心配には及びませんぞ、ダンガン様。館内は宝石に近付いた者がいれば、即座にレーザーによるトラップが発動するようになっています。おまけにポケモンの技を通さないジャミングバリア付」
今回の怪盗の狙いは、ミアレ美術館にある宝玉”ミロカロスの涙”。
それを今夜盗みに入るという予告状が入ったのだ。
明日は”ミロカロスの涙”が目玉の大展覧会があるので、宝石が盗まれるわけにはいかない。
かと言って、展覧会の中止はミアレ美術館の威信にかけて避けねばならない。
「成程、完璧な作戦ですね──相手が怪盗クローバーでなければ」
「なッ!!」
ダンガンは腕を組むと得意げに語り出す。
「……怪盗クローバーは変装の名人。どんな相手でも、どんなポケモンにでも変身出来ちまう怪人物。しかも、此処より厳重な警備を突破せしめた大泥棒。誰もその正体が分からない、神出鬼没・変幻自在の怪盗──くぅーっ!! 許せねーッ!!」
「確かに許せませんな! 各地方の美術品を盗んで回るなんて……!」
「何が一番許せないかって、正義の国際警察である私達が間抜けだのと冷笑され、片やコソ泥は世間でもてはやされる事ですッ!!」
「あっ、そっち!?」
「こんな理不尽あって堪るかってんだい、べらんめぇこんちくしょう!! ”ミロカロスの涙”なんざ二の次だ、何が何でもクローバーを捕まえるのが最優先ッ!!」
「宝石を第一にしてほしいんですがァ!?」
「……先輩、クローバーの事になると、ああなんですよ。前回は私に変装されて突破されたから」
「ああ、成程……同僚に変装されて出し抜かれたとなれば、穏やかではないでしょうなあ」
前回、自分の姿に変装されて騙されたダンガンを思い返しながら「本当にしょうもない……」とフカは吐き捨てる。
「長い付き合いの癖に、私と偽者の区別もつかないんですから……ばーか」
「んぁ? 何か言ったかフカ」
「……何でもありません。とにかく例の作戦を決行しますよ、先輩」
「応ッ! それに今回は、
そう言って警備隊と共に、ダンガンとフカは美術館の中に入っていく。
館長は汗をハンカチで拭きながら「大丈夫かなあ、あの二人……」と呟くのだった。
すぐさまダンガンは、四角い木箱に入った宝石をスーツケースから取り出し、今回の標的である”ミロカロスの涙”を指差した。
「私が思うに予告時間の間に、馬鹿正直に本物を展示しているから盗られるんですね! コイツを最初から偽物に変えておけば、クローバーもコイツを取って満足して逃げていく!」
「おまけに偽物はGPS探知機付きです。何処まで逃げても、逃げられやしませんよ」
「ハ、ハイテクだ! かがくのちからってすげー!」
「そうでしょうそうでしょう! これが国際警察の力ってもんですよ」
(全くこの人は……GPS追跡するのは私なんですよ、先輩……)
子供のように目を輝かせる館長。それに対し、自分の手柄のように彼は胸を張ってみせる。
「さて、それじゃあ早速作業にかかりましょう」
先ずは、フカがポケモンの技を遮断するバリアを解除。
そして、ダンガンがボールを投げ、中から飛び出したのは二又に別れた尻尾を持つ薄紫色のポケモン。
その額には美しい宝玉が埋め込まれている。
「エーフィ、”トリック”で本物と偽物を入れ替えるんだ!」
「プルフィルー」
【エーフィ たいようポケモン タイプ:エスパー】
エーフィの超能力によって2つの宝石は入れ替えられ、本物はダンガンの手に渡る。
偽物は展示スペースにきっちりと納まるのだった。
「本物は私達国際警察の手で管理しておきますので。偽者を美術館の展示室に飾っておけば安心でしょう!」
「隠し場所は?」
「私達警察の一部の人間だけが知っている場所ですよ」
「はぁ……」
そう言って二人は、警察官たちを引き連れてその場から去っていく。
残る警備員たちで偽物を展示すれば準備完了。
後はネズミが入ってくるのを待つだけ──そのはずだった。
しかし息吐く間もなく、再びダンガンとフカが慌てて部屋に入ってくるので、警備員たちも館長も仰天してしまうのだった。
二人の刑事は息を切らせており、明らかに何かがあったような様子だった。
「今此処に私が来ませんでしたか!?」
「へぇっ!? ええ、来たじゃないですか、偽物と本物を入れ替えるって──」
「バッカモーン!! そいつが怪盗クローバーだ!!」
「えええええええーッ!?」
ダンガンの言葉に驚愕するその場の全員。
「私達ゃ出し抜かれたんですよ! あいつに気絶させられて気が付いたら……」
「……クローバーの手口的に、変装して貴方達を騙したに違いありません。不覚です」
続くフカの言葉に全員はがくり、と膝を突く。顔は真っ青になっていた。
「偽物と本物を入れ替えると言って、本物を持ち去るつもりだ! おい!! 偽物の俺達は今どこに──」
「警官隊と一緒に、まだ美術館の入り口に居ます!!」
「よし! すぐさま取り押さえるんだ!!」
「ハッ!」
警報が鳴り響く。
すぐさま警官隊は、本物の宝石を持った偽刑事を取り押さえるべく、入口へ殺到。
更に無線機で方々に1階にいる二人を取り押さえるように通達が飛び交う。
「は? 俺達の偽者が1階に?」
「一体何を──」
「確保ォォォォォーッッッ!!」
そんな事、つゆほども知らない二人は次の瞬間、雪崩れ込む警官たちに取り押さえられるのだった。
全く何が起こったのかが分からないまま、2人の手からは本物の宝石が取り上げられ、そのまま手錠まで掛けられてしまう。
「ウッソだろオイ!! どうなってるんだ!!」
「ええい、観念しろ怪盗クローバー!!」
「違うって!! 俺達本物!!」
「私達じゃありません! ひうっ、ヘンなところ触らないでください!」
「なあ、どうなってんだコレ!! どうして俺達が偽者扱いされてんだ!?」
「知りませんよーッ!!」
──結果。
この日は国際警察の完敗であったことは言うまでもない。
取り押さえられた二人は、本物の国際警察。
後からやってきた二人が偽物だったのである。
国際警察の本物・偽物取り換え作戦は最初から怪盗には筒抜けで、まんまと裏をかかれてしまったのだ。
そして、この騒ぎに乗じて宝石は持ち去られてしまっていた。
偽物のダンガンが宝石を奪い取ってしまい、そのまま人混みに紛れて消えてしまったのである。
『予告の通り”ミロカロスの涙”を頂戴しました 怪盗クローバー』
──見事にダンガンは一度も敵の姿を見る事なく、クローバー相手に三敗目を喫する羽目になったのである。
潰れたのは怪盗ではなく、彼の面目だった。無念なり。
「畜生ーッッッ!! 覚えてやがれ、怪盗クローバー!!」
「今度は二人まとめて偽者に成りすまされるとは……」
──クリアクリスタル第三章「城下町怪盗捕物帳」
※※※
──城下町・フチュウ地区。
広大なセイランシティの中央部に位置する湾岸都市だ。
そして、かつては領主の城が建っていたらしく、土壁や背の低い瓦屋根の建物が立ち並ぶ、言わば城下町だったらしい。
伝統的な建築が町を彩る一方で、北に進むと製鉄所を中心とした工場地帯がベルトのように広がっている。
このように、歴史と工業、近代と現代、古と今、二つの顔を併せ持つのがこの町の特徴だ。
神社仏閣だけでなく、時にはその近辺から古代の遺物が発掘されることもある。
「あはー♡ 一回ちゃんと観光してみたかったんだよねぇ! 歴史の町、フチュウ!!」
「あのなぁ、観光に来たんじゃねーだろ今日は……」
「そうだけどぉ。まだ予告の日まで時間があるし、せっかくなら楽しまなきゃねーっ」
「一応キャプテン様直々の依頼って事忘れてねえかオマエ」
「ほら、見てよメグル! あれが美術館だよっ!」
今日、城下町に二人が訪れた理由はただ一つ。
コンクリート仕立ての建物、フチュウ美術館だ。しかし、工事中なのか周囲にはブルーシートが掛けられている。
(改築工事中、ね……もっとデカくする予定があるのか)
この美術館はどうやら”よあけのおやしろ”の親戚筋が館長を務めているらしく、ガードマンとして優秀なトレーナーを手配してほしいというのが依頼らしい。
ノオトは、此度の寒冷化現象の後処理の為に動くことができない。
そこで彼が選んだのが、メガシンカを習得しているメグルとアルカだったのである。
報酬もそれなりに貰えるのと、ノオトからの頼みということもあって、メグルは引き受けた。横の彼女が一番行きたそうだったのもあるが。
しかし──
「はわわわぁ……!」
(フッツーに金払って入場してるし俺達……)
──アルカは、既に館内の美術品に見惚れてしまっており、怪盗の事など気にする様子も無い。
メグルは全く芸術というものが分からないし解せない。
しかし、現代アートから水墨画といった近代画に至るまで、幅広い年代の絵画がこの美術館には飾られている。
「……ふぇっふぇっふぇ。ノオトのヤツめ、なかなか分かってる嬢ちゃんを寄越したんやなぁ」
【フチュウ美術館館長 キヨ】
現れたのは腰が曲がり、眼鏡をかけたおばあさんだった。
「貴女が館長さんですね?」
「ふぇっふぇっふぇ! そうぢゃ。あたしゃキヨ。此処のトップぢゃよ。あんたらがノオト坊の言っていた用心棒かえ? よう来たのぅ、立ち話もなんやし、お茶を出しちゃるけぇ、来なさい」
「ありがたくいただきます!」
「……俺も頂きます」
通されたのは、客用の応接間だった。
そこに座り──今回の事件についての概要を聞かされることになった。
「2日前。うちに、怪盗クローバーから予告状が届いたんぢゃ」
「怪盗クローバー?」
「聞いた事があるかも! 世界中の美術館や博物館で貴重な展示品を盗んで回ってるんだよ! しかもご丁寧に予告状付きでね! 直近だとカロス地方で暴れ回ってたみたいだ」
(要はル〇ンとかキ〇ドとかそう言う類のキザなコソ泥ね……)
「そして、これが予告状ぢゃ」
『5日後、特別展覧会の最中、”百鬼夜行地獄絵図”を頂きに参ります 怪盗クローバー』
謎も引っ掛けもない直球の予告状だ。
いっそすがすがしいまであるが、余程自信があるのだろう。
「怪盗が狙ってる百鬼夜行絵図ってのは……?」
「うむ。人間至宝の域に至った水墨画家・セツゲツカの残した最大の目玉作品ぢゃよ。500年前のサイゴクを襲った災厄を描いたとされている絵画ぢゃ」
「……サイゴクを襲った災厄」
アルカの表情が曇る。
ヒャッキ地方とサイゴク地方のぶつかり合いを描いたものであることは確かだった。
絵画の写真を見るに、ヒャッキのポケモンが空の裂け目から次々に雪崩れ込んで来る図となっている。
「……まさか、災厄が再び現実になるとは思わんかったのう……リュウグウさんも死んでしもうたし……」
「ッ……」
「だが、テング団も何処かの強いトレーナーが倒してくれたんぢゃろ。案外何とかなるもんぢゃ。あたしらに出来るのは、この絵を後世まで残し、危機はすぐそこにあるということを伝え続けることぢゃて」
「……そ、そうですね」
同じヒャッキの民としては、やはり複雑なのだろう。
彼女の顔が暗いのをメグルは見逃さなかった。
「それで、俺達は当日の警備をすれば良いんですかね」
「そうぢゃなぁ。くろーばーとやらは、毎度予告状通りの時間に盗んで来る。それまでは──国際警察に任せればええ。彼らが今、警備を強化してくれちょるよ」
「国際警察?」
「何より、怪盗犯罪のプロフェッショナルらしいのう」
「怪盗犯罪の専門とかあるのかよ」
尚、プロフェッショナルが数日前に完全敗北三連敗目を喫したばかりであることを彼らが知る由もない。
※※※
「ま、一先ず警備については追々考えるとして──しばらくは観光できるじゃねえか、アルカ」
「……そだね」
──領主がかつて管理していたというフチュウ庭園。
その桟橋にもたれかかりながら、何処か上の空でアルカはぼーっとしていた。
さっきまでの上がり切っていたテンションは何処へやら。
完全に意気消沈といった様子だった。
「……絵を見て、嫌な事思い出しちまったのか?」
「うん……ダメだよね。もう、終わった事なのにさっ」
努めて明るく彼女は言った。
「……いや、終わってなんかないか。ヒャッキの傷つけた爪痕はまだ、この地方にくっきり残ってる。なのにボクは……」
「沢山手伝っただろ、作業とか……」
「そうだけど……もしかしたら、ボク達が見てるこの景色も、無くなっていたかもしれないって思うと──怖いんだ。何かしていなきゃ落ち着かないんだ」
彼女は、遺物や歴史的建造物など、かつて生きていた人々の息吹を感じられる物が好きだ。
好きだからこそ、それを喪うことへの恐怖は人一倍大きい。戦いが起これば、あっさりとそれらは奪われてしまう。
「ボクは──好きなものが消えるのが怖い。あのおばあさんだって、表には出さなかったけど……絵が好きで美術館の館長をやってるんだろうし、絵が盗まれるのは怖いんだと思う」
「……任せて貰ったなら、きっちりとやり遂げなきゃな」
「……そうだね」
ぎゅう、と彼女はメグルの手を強く強く握り締める。
無自覚な恐怖が彼女の心の内には巣食っていた。
「でもボクは何よりも……君が居なくなるのが一番怖いよ」
ミッシング・アイランドの一件は、少なからずアルカの心に影を落としていた。
もっと自分が強ければ。もっとポケモンを強く育てられていれば。
そんな意味の無いたらればが彼女の中に募っている。
(原因は……俺か)
「今隣に俺が居ても不安か?」
「……うん。ボクが怖いのは……未来だからさ」
「じゃあ、一緒に強くなろうぜ、アルカ」
「えっ」
「お前を守りたいのは俺も同じだ。だから──とことんまで付き合うし、付き合ってほしい」
「……メグル」
「怪盗がどれだけ強いトレーナーか知らねえけど、特訓すれば良いんだ! バトルはやっぱ、経験を積み重ねてだろ!」
「でも、バトルの相手ってどうするの? ボク達で延々と戦うのも良いけど」
「折角新しい街に来たんだ。丁度良い感じのトレーナーが居るだろ」
メグルは辺りを見回す。
そして、目に入ったのはモンスターボールをベルトでぶら下げた男女だった。
片方は若い男でツンツン頭。そしてサングラスで目を覆っている。
もう片方は同年代くらいの若い女。アルカ程ではないが背が低く、フードを目深にかぶっている。
「先輩。やはり位置関係からして……」
「ああ。奴が既に侵入を試みているかもしれんな──べらんめぇこんちくしょう、全く分かんねえぜ」
「あのー、すんませーん!! 俺達ポケモントレーナーなんですけど、バトル良いですかー!?」
「ちょっとメグル! 邪魔になったら良くないよ!」
「目と目が合ったらポケモン勝負、だろ?」
その二人組に声をかけるメグル。
彼らは振り返ると、少し怪訝な顔をしていたが──
「……先輩、この二人って」
「ああ。成程。丁度良いな」
「……? あの、もしかして忙しかったとか?」
「いや、そういうわけじゃぁねえぜ、ボウズ」
「……好都合だっただけです。丁度私達も、鍛錬をしたかったところなので。表に出ましょうか」
「やった! 思ったよりも乗り気みたいだぜ、この二人!」
「……」
二人組が勝負に乗ってくれたことで、メグルは大喜びで庭園の外にあるバトルコートへ向かう。
その様を見ながら、アルカは二人組の恰好をよく眺めていた。悪い人間ではなさそうだが、何処となく張り詰めたオーラを二人とも放っている。
(なんか……都合よく進み過ぎな気がするんだけど……)