ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC15話:それぞれの明日へ

 その波動の弾はアヤシシの身体を通り抜け、ジュゴンの腹を直撃した。

 タイプ一致で1.5倍、いやメガシンカによって特性:適応力で2倍。

 それが加わった効果抜群の一撃が被弾したことで空中での姿勢を崩し、そのまま海獣は海へと沈んでいく。

 

「あっぎ、バカなぁ……! 何なんですか藪から棒に! 一体何処から──」

 

 メグルの視線は──声のした方へ向く。

 船だ。

 クルーザーの上で、ルカリオが構えている。

 その隣には、見覚えのある格闘小僧が立っているのだった。

 

「ノオトッ!? 何でアイツこんな所に!?」

 

 その声がノオトに聞こえたかどうかは分からない。

 しかし、もう船の上に着地するだけの距離は無い。

 このままではアヤシシ諸共、2人は海に落下するしかない。

 

「蔓を思いっきり伸ばして、アヤシシを巻き取るんだ!!」

 

 その時。

 アヤシシの身体は緑色の蔓に思いっきり巻きつけられ、そのまま引っ張られていく。

 このような芸当が出来るのは、同種の中でも一際大きな体を持つ、あのポケモンしか居ない。

 アヤシシはクルーザーへと強く強く引き寄せられ、甲板に着地したのだった。

 蔓の持ち主は──ジャローダ。

 そして、それを使役しているのは、

 

 

 

「よ、良かったぁぁぁ、帰ってきたぁぁぁ!!」

 

 

 

 最愛のメカクレ女だった。

 アヤシシから降りたメグルは、最初こそ信じられない光景に放心していたが、漸く目の前で起こっていることが現実だと気付くと、倒れ込むように彼女に抱き着く。

 

「へへ……助けられちまったな……サンキュー、アルカ」

「な、何だよそれぇ……ボク、すっごく心配したんだからあ!! 居なくならないって言ったじゃんかさ、バカぁ!!」

 

 泣きそうな声で叫ぶアルカ。

 彼の首元も、腕も凍り付いており、とても無事には見えない。

 だがそれでも、五体満足で彼が帰ってきたことに、アルカは喜びを隠すことができなかった。

 

「それと、女の子が1人いるんだ」

「ああ、まだ島の中に攫われた人が居たんスね……!」

 

 何が何やらといった様子でカルミアは、アルカ、そしてノオトの顔を眺める。

 そして、心配そうにメグルの方を見た。

 

「大丈夫。俺の信頼できる仲間達だから」

 

 それを聞き、漸く安心したのか、彼女はへたり込んでしまうのだった。

 すぐさまアルカが駆け寄る。

 

「ねえ君! 怪我はない!?」

「はい……メグルさんに、助けて貰ったので」

「じゃあ二人とも、一先ずは無事ってことッスね!」

「ほんっと心配したんだよ! あの正門ゲートを破壊する途中で、島が揺れて、しばらくしたら沈みだして……もうダメかと思ったんだからぁ!」

「それにしても、よく俺が海に飛び出してくるって分かったな。そもそも、何でお前らこんな所に居るんだ!? こんな立派なクルーザーまでどうやって用意したんだよ」

「助けに来たに決まってるじゃん!」

「ヒルギさんに全部礼を言ってくださいッスよ。此処までの作戦立案、全部あの人ッスから」

「待て。ヒルギさんって一体誰──」

 

 

 

 

「逃がさないと、言ったでしょオオオオオ!?」

 

 

 

 海面からそれは性懲りもなく現れた。

 それは再びクルーザーを目掛けて飛び掛かる。

 甲板は、あの海獣と戦うにはあまりにも狭すぎる。

 角に冷凍光線のエネルギーをチャージ。

 目標は当然クルーザーそのもの。全部まとめて凍らせて、海に沈めれば完璧。全てが丸く収まる。

 

 

 

 ──尤も──()()()()()()()()()()()()()()、という点に目を瞑ればであるが。

 

 

 

「セキタンザン。”SLブレイク”で撃墜しろ」

 

 

 

 ロケットのように、洋上から何かが飛び出した。

 発射源は、クルーザーに随伴している小型のボート。

 それは真っ直ぐにジュゴンの身体を捕え、軌道をずらし、海へと叩き落とす光景だった。

 あまりにも鮮烈な光景、そして上がる水飛沫に気を取られ、最後まで全員は何が起こったのか分からなかった。

 そしてしばらくして、何事も無かったかのように、下手人である彼はボートをクルーザーに寄せていく。

 そして、船の上に上がり込んでいき──遂に、メグルと対面するのだった。

 

「紹介するッス。この人が──」

「セイランシティの新キャプテンに就任したヒルギだ。よろしく頼む」

 

【”すいしょうのおやしろ”キャプテン・ヒルギ】

 

「あ、えーと……メグルです」

 

 新キャプテンが決まっていた話など聞いていなかったメグルは、見慣れぬ男がキャプテンを名乗ることに違和感を覚える。

 しかし、あのシャワーズが認めた相手ならば決して悪い人間ではないのだろう、と考えた。

 

「……やはり他のキャプテンが見込んだ通りの、なかなか沸騰した男だ」

「え? 沸騰?」

「ヒルギさんなりの誉め言葉ッスよ!」

「はぁ……」

「船とか用意したり、メグルさんの様子をドローンで偵察してくれたのはヒルギさんなんだよ」

 

 ノオト達が扉をこじ開けた時は、既に島中の自爆プログラムが起動していた。

 周囲も爆発炎上を繰り返しており、とてもではないが人間だけで入れる状態ではなかった。

 そのため、ヒルギはドローンを飛ばし、上空からメグル達が居ないかを確認。すぐさまアヤシシに乗っている彼を発見したため、エンテイとライコウにメグルのサポートを行わせて、自分達は洋上からメグルを受け止めにかかったのだ。

 そしてヒルギは、万が一メグルが海に落ちた時に備えて、小型ボートの上で待機していたのである。

 

「すっげー……場慣れしてる……本当に助かりました」

「礼を言われる程じゃない。俺は仕事のついででお前を助けただけだ。ただ、仕事場は今まさに海底に沈みつつあるがな」

 

 爆発炎上しながら沈んでいくミッシング・アイランド。

 これではもう調査どころではない。

 

「ヒルギさんは冒険家で、本当はミッシング・アイランドの調査を依頼されてたんスよ」

「キャプテン就任前の最後の仕事だったが……仕方ない」

 

(でも、沈んで良かったよな、あんな場所)

 

 小声でメグルはカルミアに囁いた。

 

(はい……今度こそ、これであの島に居たポケモン達も……眠ることができると思います)

 

 クルーザーが離れていく中、ミッシング・アイランドは今度こそ消えていく。

 数多の夢、野望、そして無念を抱えたまま、幾多もの命が生まれる海へと消えていく。

 その様を、海上に浮かぶ伝説の三聖獣もまた、見届けていく。

 エンテイは火の玉に姿を変え、ライコウは稲光へと姿を変え──その場を去っていくのだった。

 

 

 

「すすいー」

 

 

 

 そして只一匹。スイクンだけが、メグルを見下ろしていた。

 その視線に気づいた彼が手を振ると──多くを語らない水の遣いは、北風に姿を変え、その場から掻き消える。

 

「……ありがとう、って言ってくれたのかな」

「ふぃるふぃー」

 

 何となくだが、また会える気がする。

 そんな予感を信じ、メグルはもう一度、誰も居ない北風の吹く空に手を振るのだった。

 その様に、何処か一種の哀愁を感じたのかアルカがぽつりと呟く。

 

「伝説のポケモン、居なくなっちゃったね」

「また会えるだろ。今度会う時は、正真正銘本物のスイクンにな」

「……そうだね」

 

 しばらく、海へ消えていく島を見届けたところで──アルカは「ところでさ」とメグルに問いかける。

 

「あの島で何があったの!? ボクにもちゃんと教えてよ!!」

「その前に腕が凍ってるから、元に戻してえんだけど。取れちまうよ」

「氷治しなら持ってるッスよ。凍傷にもバッチリ効くッス!」

「後、この女の子誰!? ……すっごくカワイイ!!」

「えーと、えと、あの」

 

 どぎまぎした様子でカルミアはアルカの方を見る。テンションに付いていけないようだった。

 

「いや、話すとすごく長くてだな」

「……もしかして疚しい事でもあるの?」

「ちげーよ!!」

 

 どう見ても年齢が不釣り合いだろう、とメグルはカルミアを指差す。

 

 

 

「えーと、この子はだな──」

「”ミア”と申します。12歳──カントー出身のポケモントレーナーです」

 

 

 

 恭しく彼女は礼をする。

 メグルは彼女の自己紹介に少し戸惑いながらも、その意図を察して何も言わなかった。

 彼女は、誰かの代わりではない。新しい一人の人間として、一歩を踏み出そうとしている。今日がその最初の日だ。

 

 

 

「ちょっとワケアリですけど……仲良くしてくださると、幸いです」

 

 

 

 はにかむような笑みは──全てが吹っ切れたわけではないにせよ、彼女が前に進めた証だと信じるメグルだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──それから、一週間ほど経っただろうか。 

 ベニシティの病院で検査入院を終え、退院したメグルを待っているのはアルカだった。

 彼女は、再びぶつけるような抱擁を浴びせると、そのまま彼の横に並ぶ。

 

「結局、回り回ってサイゴク地方に帰ってきちゃったね。どうする? ジョウトでの旅」

「中途半端な所だったしなぁ。このまま続けても良いんだけど。今は少し休みたい気分だ」

「だよねー」

 

 公園のベンチで日差しを浴びていると、久々にアブソルがボールから飛び出して甘えて来る。

 手持ちの中では唯一、離れ離れだったので、ずっとぐずっていたらしいという。

 ニンフィアも今回ばかりは、彼女がメグルとじゃれるのを黙って見ていた。相変わらず勝手にボールから出て睨み付けているのは変わらないが。

 

「おーよしよし! 悪かったな、ひとりにしちまって、寂しかったろ?」

「ふるーる!」

「……これで全部丸く収まったのかな」

「あ、そうだ! 君宛てに手紙を預かってるんだよね」

「手紙?」

「うん。ミアちゃんから」

 

 そう言って、彼女は便箋を鞄から取り出す。

 どうやら短い間に、手紙を預けてもらう程度には仲良くなったらしい。

 

「あいつから何か話を聞いたりしたか? 島の事とか」

「あの島でポケモンに関するひっどい研究があったこと。万能細胞? って奴から生まれたポケモンを捕まえたこと。後はあの子のお父さんがあそこの研究員だったこととか聞いたかな」

「そうか」

 

 口裏を合わせた通りに喋ったんだな、とメグルは安堵した。

 彼女の生まれのことなど、知らない人間にとっては知らないままで良い事だ。

 彼女が隠したいならば猶更である。何より、感受性の強いアルカに、カルミア──もといミアの事で悩んで欲しくはない。

 

「でも、あの子はすっごく良い子だった! それだけは分かる。ボク、これでも人を見る目はあるんだよね」

「それは間違いないと思うぜ」

「でしょー? えっへへ」

 

 便箋を開ける。

 そこには手紙が入っていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

『メグルさんへ

 

これを読んでいる時、私はきっとカントーを回る旅に出ていると思います。

 

自分の父の事、生まれの事で思い悩む日はきっと、これからも続くと思います。

 

それでも──今の私には、誰かの代わりではない私を見てくれるポケモン達が居ます。

 

彼らの為に……あの島で犠牲になった命の分まで一日でも長く精一杯生き続けようと思います。

 

月並みな言葉ですが、助けていただいたこと、背中を押してもらったことに、お礼を言わせてください。

 

本当に、ありがとうございました。

 

 

                                        ミア』

 

 

 

「──手紙ってあまり書かないけど、これで良いのでしょうか、タイプ:ゼノ」

「ぴぽぽぽぽ」

「……メグルさんの旅も、上手くいきますように」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……どうやら、もう俺の助けは必要ないみたいだな」

「何々ー? 何て書いてあったの?」

「カントーで元気に旅をするんだってよ」

「じゃあもうサイゴクから出て行っちゃったの、あの子!?」

「そうみたいだぜ」

 

 そう言ってメグルは鞄に手紙を仕舞う。

 本日は晴天。飛行機も問題なく出られる天候だ。

 列島から寒気は消え去り、異常気象は終わりを告げた。

 

「んじゃあ、俺達も旅の続きを始めるか」

「え!? 休むんじゃなかったの!?」

「たりめーだ。時は金なりって言うし? 1日でも無駄には出来ねえよな」

「ふぅん……さっきと言ってることが180度違うね」

「俺達ゃ、あのセレビィを追いかけなきゃいけねえんだからな。逃げちまうかもだろ?」

「そうだけどぉ……」

 

(逃げちゃいそうなのは……君の方だよ)

 

 ぎゅっ、とアルカはメグルの手を握り締める。

 

 

 

(……居なくならないでよね──いや、今度は……ボクが君を繋ぎとめられるくらい、強くなる)

 

 

 

 彼の笑顔を眺めながら──密かにアルカは決意するのだった。

 

(先ずは一歩踏み出さなきゃ! ボクの方からアプローチしなきゃ、今回みたいなことが起こっちゃう!)

 

「ん? どうしたアルカ」

「え、えっとね、メグル。ボク──」

 

 メグルの袖を掴んだまま、潤んだ瞳でアルカは彼の顔を見上げる。

 流石の鈍感男も、彼女が何をしようとしているのかは分かった。

 突然の行動にどぎまぎしながらも、受け入れようと目を瞑る。

 そして、つま先立ちになって、アルカが彼の顔に近付いた、その時だった。

 

 

 

「メーグルさーん!! アールカさーん!!」

 

 

 

 やっかましい声がその場に響き渡り、2人は慌てて元のように並び立つ。

 

「ノ、ノオト……ッ!! お前どうしたんだよ──っ」

「いやー、どうしたもこうしたも快気祝いに決まってるっしょ?」

「……ノオトォ……!」

 

 アルカが怒りで瞳を滾らせていることには流石にノオトも気づいたが、知らないふりをした。

 

(オレっちもしかして、邪魔だった?)

 

(邪魔だったよ、空気読んで!!)

 

(すまねえノオト……お前は間が悪すぎる)

 

 すすす、と三歩下がるとノオトはそれでも知らないふりを貫き通す。

 

「え、えーと、折角サイゴクに帰ってきたんだし、メグルさんとアルカさんに頼みがあるんスよ」

「頼みぃ? 一体何なのさ」

「俺達ゃ明日にでもジョウトに戻る予定だったんだが」

「アルカさんは絶対に首を縦に振るッスよ。間違いなく」

「何さ。よっぽどのことがないと、ボクは動かないよ」

 

 にやり、とノオトは自信満々の笑みを浮かべてみせる。既にメグルはこの時点で何となくオチが予想出来てしまっていた。

 

 

 

「実は……セイランシティ・フチュウ地区の美術館に、予告状が届いたんスよ……展示品を盗むという予告状が!」

「フチュウ地区ゥ!?」

「うっわうるさ」

 

 

 

 一難去ってまた一難。

 静けさは嵐の前触れ。

 サイゴクを舞台に、誰も予想だにしない新たなる事件が巻き起ころうとしていた──

 

 

 

 ──CC二章「ミッシング・ラボ」(完)

 

 

 

 

ここまでのぼうけんを レポートにきろくしますか?

 

 

 

 

▶はい

 

いいえ

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──()は自らの上司に当たる人物に一通り今回の事件の報告を終える。

 そうして──憂いを帯びた低い溜息が部屋に響いた。

 

「──成程。それでは、ミッシング・アイランドは調査前に海の藻屑へと消えたのじゃな?」

「残念ながら」

「ふぅむ……しかし、おぬしのことだ。大方、良い土産を持ち帰ってきたのじゃろう?」

「ええ、最終的に目的の物は幸い手に入りました。思わぬ形ではありましたが」

「最初にそれを言わんか、戯け」

 

 そう言いつつも、上司の声は何処か喜ばしそうだった。

 

「……こちらがサーフェスです。コードを調べれば、製作者も直に分かるかと」

 

 男はそう言って、向かい合う自らの上司に1つのモンスターボールを差し出す。

 その中にはジュゴンが入っていた。

 それをまじまじと眺めると──上司は笑みを浮かべてみせる。

 必要なのはジュゴンではない。ジュゴンに取り付けられたバイザーだ。

 

(……何とか沈む前に捕獲出来て良かった……)

 

「うむうむ、実に大義であったぞ。おぬしに任せて正解であった」

「中のAIは無事。きっと役に立つかと思われます。製作者の所在地もいずれは」

「……良い良い、苦しゅうないぞ。褒美を遣わそう」

 

 ボールを受け取った上司は振り返り、彼に笑みを投げかける。

 

「時に──例のメグルという異世界から来たという男は……我らの脅威になりえるのか?」

「……どちらとも言えません。まだその実力を見た訳ではないので。しかし少なくとも、おやしろまいりを突破した以上は、並以上の実力はあるかと」

「どんなに低く見積もっても、か」

「……はい」

「良い良い、今はまだ表立って騒ぐ時ではないわ。そちには引き続き、きゃぷてんとやらの任を遂行せよ」

「……確かに」

 

 

 

 

「──()()()()。今後とも、我らによる計画発動の日まで……変わらず邁進せよ」

 

 

 

 普段はグローブで隠されているヒルギの右手の甲には──方舟を象った焼き印が押されていた。




CC編第2章これにて終了です!作者も手探りの状態で連載を続けていましたが、執筆中に何とか縦軸になる話を考える事ができました。次章は比較的軽めな話になる予定なので、お楽しみに。メインは勿論、あの石商人です。ではでは。
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