ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「貴女は、研究員No23……ホオズキ博士のクローン。彼は優秀な研究者です。タイプ:ゼノにヒト型クローンの生成……貴女はその成功例なんですよ? 彼はどうしたんですか? 何故居ないんですか?」
「……あの人は、亡くなりました。病気だったんです」
「成程──成程成程! だから貴女が後継者として、私の新たな管理者となってくれるのですね?」
「なりませんッ!! 誰があんな人の研究を!」
「……ええ? じゃあどうして、カードキーを以てこの島を再起動させたのですかぁ? 貴女が来てくれたから、私はウッキウキで実験を再開したというのにぃ」
「父の死の間際に私は初めてこの島の生まれだって知ったんです。この島に来れば、自分のルーツが分かるかもしれないって」
ぎゅっ、と彼女は拳を握り締める。
そして覚悟を決めた様子でまた一歩、サーフェスに近付いた。
「でも……今こうして話していて、決心がつきました。この島は……存在しちゃいけないんです。このマシーンも、貴方も!! ……もう、終わったんです」
「それが答え、ですかぁ。492号」
仕方ないですねぇ、と続けるとサーフェスは何処か失望したように言った。
「貴方はホオズキ博士の娘の代わりとして生まれたヒト型クローン。貴方に与えられた役目は、本来博士の後継者となり、この島での研究を引き継ぐこと」
「……やっぱり、それが目的で」
「その役目を放棄する時点で、貴方にクローンとしての価値はありませんよ?」
「……クローンとしての価値? そんなもの、要らない」
定められた運命も、紛い物のレッテルも要らない。
今自分のポケットにある命を守り育てることが、自分の選んだ使命だ。
「過去の忌まわしい研究に囚われた貴方は、人工知能ではなく亡霊。私の使命は──貴方を倒し、過去の悪夢を全て終わらせること。そこに……私の価値はあるんです」
「終わらせる? 貴女が再起動したこの島を、貴女の手で終わらせる、と? 492号。ずっと、ずぅっと待っていたんですよ? カードキーを持つ誰かが来てくれるのを待っていたんです。それなのに、もう終わり? 私AIなので冗談は分からないんですよねえ」
「……どうであれ、命の価値が分からない
「誰に吹き込まれたのか知りませんが……私を止めると言う事は、この島の最高傑作の一つであるこのマシーンに挑むということですよ?」
「私はカルミアの代わりでもなければ、試作品492号でもない。……私の意思で、貴方を倒します」
「諦めろポンコツAI。終わったんだよ何もかも。当時の研究も、実験も、とっくの昔に終わった──後は、この島さえもう1回沈めば、万事解決だ」
「不可能です。100%、貴方の戦力ではスイクンには勝てませんよ? 以前の戦闘で理解しているはずですが」
「いーや、可能だ。可能にしてみせる。それが、ポケモントレーナーってもんだぜ」
「……一つ理解不能な事があります」
ぽつり、とサーフェスは呟いた。
「コピースイクンが連れてきた貴方。この島で作られたクローンでなければ、関係者でもない。コピーが何故、島への反乱分子となる貴方を連れて来たのか。それだけが分からないんですよねえ」
「さぁな。お前案外、
「またまたぁ、コピーにそんな知恵はありませんから」
メグルはニンフィアを繰り出す。
横には、タイプ:ゼノが並び立つ。
コピーマシンを破壊し、スイクンを救出するために。
「……急ごしらえですが……スイクン!! 出番ですよぉ!!」
コピーマシンが動きだし、培養槽に注入されたゲルが、急速にポケモンの形へと変わっていく。
そして、培養槽が開いたかと思えば、そこから伝説の三聖獣・スイクンのコピーが姿を現すのだった。
その身体は強烈な冷気を身に纏っており、エンジュシティで相対したものと全く同じだ。
あの時は一歩及ばず負けたが──今度は既に相手の手の内が透けている。
「おいカルミア。さっきお前、スイクンを助けて、この島の息の根を止めるって言ったよな」
「は、はい……!」
「それ、俺にも乗っからせろよ」
「……当然です。今更、降りるなんて言わせません」
「じゃあ一緒に拝むとしようぜ。この島──いや、泥船の最期をな」
ニンフィアが低く腰を構え、タイプ:ゼノが口に炎を溜め込む。
島の命運、そして伝説のポケモンの生死を懸けた戦いが始まった。
「さあ、暴れてくださいな、スイクン! このマシンは耐水性・耐寒性も抜群! 貴方が暴れても、痛くもかゆくもありませんので!」
「すすいー!!」
咆哮するコピースイクン。
周囲は一瞬で凍り付き、床は霜が立ち上がり、天井からは氷柱が垂れる。
肌を冷たさと鋭い痛みが襲い、メグルもニンフィアも震え上がる。
「し、しまった、迂闊だった、コイツがそもそも寒冷化の原因……ッ!!」
「ふぃ、ふぃるふぃー……!」
がちがちがち、と歯を鳴らすニンフィア。
ブースターにオーライズしてしまいたいが、それではスイクンに弱点を突かれてしまう。
(……待てよ。炎じゃなくても冷気を軽減する方法ならある!)
「ニンフィア、オーライズだ!! こっちもシャワーズの冷気で対抗すれば良い!!」
まだ寒くするのか、と言わんばかりにニンフィアが恨めしそうに睨んで来るがスルー。
オージュエルに指を這わせ、宙に青い珠を投げ入れる。
すぐさまそれは、透き通った氷の鎧となり、ニンフィアの身体に纏われていくのだった。
すいしょうのおやしろのヌシ・シャワーズの力。それは、水の形態変化を自在に操る力だ。
液体、固体、気体、全ての扱いに長けている。
そして、氷水に適応した身体は、スイクンの冷気が通用しない。無論、一撃必殺技である”ぜったいれいど”もだ。
幸い、大部屋はとても広い。トレーナーであるこちらが、スイクンの技に気を付ければ問題ない。
すっかり冷気が平気になったニンフィアは好戦的な笑みを浮かべると、周囲に泡を浮かべてみせるのだった。
「タイプ:ゼノ……ゲンガーのすがたにモデルチェンジして!」
竜の姿を取っていたタイプ:ゼノは、すぐさま毒霧を纏った幽霊の姿へと化す。
すぐさま足元には電気が走る。
「タイプ:ゼノ……貴方もほとほと残念ですよぅ。失敗作は──私の手で処分しましょう! スイクン、”ハイドロポンプ”!!」
「ニンフィア、受け止めろ!!」
高圧の水流。
しかし、特防が高い上に氷水の鎧を纏っているニンフィアには、もう通用しない。
そればかりか、受けた水を逆に凍り付かせ、更に鎧を重厚なものへと変える。
「──ポケモンのタイプと性質を変えるとは……ッ! でも、その姿は水タイプですね? 水はスイクンに通用しませんので!」
【スイクン オーロラポケモン タイプ:水】
【北風の化身と呼ばれるポケモン。水場を清める力を持つ。】
「スイクンの力の源は水! 清水はスイクンに力を与えるだけですよ!」
「んな事ぁ分かってるよ!! ニンフィア、ハイパーボイス!!」
「タイプ:ゼノ、10まんボルトでコピースイクンに攻撃してください!!」
電撃が地面を走り、そして大声による衝撃波がコピースイクンを襲う。
しかし、それらは地面からせり上がった氷の壁によって全て阻まれてしまうのだった。
「ッ……全部受け止められたァ!?」
「おやおや。まさか通るとでも思ったんですかぁ? 残念ですが、コピースイクンの力は……こんなものではありませんよ!」
今度は、コピースイクンの口から強烈な冷凍光線が放たれる。
部屋の壁は凍り付いていく。狙いは無防備なメグル達だ。
すぐに避けるが、床も凍り付いている。
そこに”れいとうビーム”が飛んでくるので、すかさずニンフィアが再び自ら盾となるのだった。
幸い、氷技は4分の1のダメージしか入らない。氷の鎧が全て防ぎ切ってしまった。
(防戦一方だ! こっちの攻撃はアイツには通じねえし……!)
「人間というのはポケモンに比べれば圧倒的に脆い生き物ですからねぇ。それを庇うのがポケモンというものですから……身動きとれないでしょう?」
「ッ……タイプ:ゼノ! 何度でも10まんボルトです!」
電撃が真っ直ぐにスイクンを狙い、そして直撃する。
しかし──それを受けても尚、コピースイクンは立っている。
効果抜群の攻撃でも、殆どダメージを受けた様子を見せない。
「なんて耐久だ! 流石スイクンってところか……!」
「こんな生命ですらないコピーを作り出して……その先に一体何があるんですか!? ポケモン軍団を作り出したところで、それを使役する研究者はもう居ないんです!!」
「ありますとも! 使役するのはこの私! AIである私ならば、効率的にポケモン達を管理し、運用することができる! そうですねぇ……それでどうしましょう。私には生憎、思想も目的も無いですので、永遠に彼らの性能を高め続ける事しか出来ない訳ですが」
「イカれてやがるな……! 目的も無くずっと、ポケモンを使って実験を続けるって訳か!!」
「それが私の存在意義ですので♪」
激しい冷気が浴びせられ、タイプ:ゼノが悶え苦しみ、地面に転がる。
ニンフィアも、スイクンに組みかかられ、そのまま壁へと蹴り上げられてしまった。
能力だけではない。やはり、単純な身体能力が伝説のポケモンと言うだけあって高過ぎる。
「それでは皆さん、さようならぁ♪ スイクン──オオワザです。”タイダルストーム”!!」
部屋に大渦が巻く。
周囲の温度は一気に上昇し、メグル達を巻き込むべくそれは大きく広がっていく。
エンジュシティで喰らったオオワザだ。
この後、渦は爆弾のように爆ぜ、周囲にあるもの全てを吹き飛ばす。
受ければ、一瞬で意識を刈り取られ、ポケモンは瀕死となるだろう。
戸惑い、どうすれば良いのか分からず後ずさるカルミアを庇うように抱き締め、メグルはニンフィアに向かって叫ぶ。
「ニンフィア、こっちもオオワザだ!!」
「ふぃ!?」
「俺の狙ったところに撃て──”むげんほうよう”!!」
一方のニンフィアも周囲に泡を充満させ、大渦目掛けて──強烈な水のブレスを放つ。
それは一直線に飛び、大渦を貫いたが、それだけでオオワザが止まるはずもなく。
【スイクンの タイダルストーム!!】
大渦が爆ぜた。
タイプ:ゼノは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
カルミアを抱きしめたまま、メグルも巻き上げられ──そして背中から落下した。
「あっだぁっ……!?」
揺さぶられるような衝撃。
そして、背中全部から伝わってくる衝突の痛み。
起き上がる事ができない。
カルミアを抱きしめていたので、受け身を取ることすら出来なかった。
「メ、メグルさん……!?」
「いづづづ……無事か、カルミア……!」
「私は何とか……!」
視界がぐらつく。
タイプ:ゼノは起き上がる様子が無い。戦闘不能だ。
そして、まともに立っているのは、効果がいまひとつのニンフィアだけ。
それでも、オオワザを受けたことで、足が震えており、立っているのもやっとのようだった。
「フィッキュルィィィ……!」
「おやぁ? まだやるんですか?」
「……流石の威力だな……部屋全部巻き込んでの攻撃か……効いたぜ……! オーライズしてなきゃ、負けてるよ」
「ッ……メグルさん、しっかり──!」
「それよりも……タイプ:ゼノを回復させてやれ。まだ、バトルは終わってねーぞ」
「え?」
「終わってない? いいえ、終わりですよ。渾身の一撃も、オオワザを止められず、こっちのスイクンにも当たっていない。まあ当たったところで大したダメージは与えられないでしょうけどね」
「……あっ」
何かに気付いたようにカルミアは視線を上に移す。
「……そうだ。ダメージは与えられねえし、清く澄んだ水は──むしろスイクンにとっては良いエネルギー源だろ」
「──ええそうですよ! そこまできっちりとコピーしてるんですから……」
ぴき、ぴきぴき、と音が鳴る。
パイプ管が砕けてコードが引き千切られる音が。
「は? え?」
サーフェスもまた、何が起こったのか理解できないようだった。
「悪いなサーフェス。お前はやっぱ10年前のポンコツAIだったみたいだぜ」
それは、優雅に凍てついた地面に降り立つ。
「俺の狙いはオオワザを止めることでもなければ、コピースイクンを攻撃する事でもない」
それはそもそもの概念として北風の化身であり水の遣い。
水を受けることは、瀕死の今──急速に自らの力を取り戻すことに繋がる。
「すすいー!!」
北風の化身は今、全ての枷を食い破るのだった。
「本物のスイクンを──助ける事だ!!」
「なぁっ……!?」
無論、賭けであったことは否めない。スイクンの特性は水を受けることができるものではない。
幾ら効果今一つの水技と言えど、ダメージを与えてしまうことに繋がってしまうのではないかともメグルは考えた。
しかし、すいしょうのおやしろにはスイクンの像が建てられていたことをメグルは思い出す。
元々、サイゴクのすがたのシャワーズ、サンダース、ブースターは、それぞれスイクン、ライコウ、エンテイに見立てられて祀られたとされている。
その力が、元となる伝説のポケモンに対し親和性の強いものであってもおかしくはない、と考えたのだ。
そうでなくとも、今のスイクンは水を失った蛙も同然の状態。多少のダメージ覚悟でも水を与えれば、その力を取り戻せるかもしれないと賭けたのである。
「しまった……!! し、しかし!! こうなれば、列島のように貴方達もまとめて凍えさせれば良いだけの話!! スイクン!! 全冷気を解放しなさい!!」
コピーは、周囲に冷気を纏い、一気に部屋を低温に変えようとする。
しかし、その身体は小刻みに痙攣しており、なかなか周囲の温度は冷え切らない。
「……ま、まさかさっきの10まんボルトで麻痺して──!!」
「すすいー!!」
コピーに向かった怒りをぶつけるように、本物のスイクンはその場に氷の華を咲かせる。
それは偽者を一際強い冷気に包み込む。
シャワーズと違い、スイクンは純粋なる水タイプ。
急激に冷やせば、その身体は完全に細胞諸共凍結し──
【スイクンの ぜったいれいど!!】
──あっさりと、バラバラに砕け散るのだった。
「い、一撃必殺……ッ!?」
「すごい……!」
氷タイプ以外で扱えるポケモンが非常に少ない”ぜったいれいど”。
その数少ないポケモンの1匹は伊達ではない。冷気を一気にコピースイクンに集中させ、物言わぬ氷塊へと変えたのである。
有無を言わさない圧倒的な力。そして、同じ相手に二度敗けはしないという聖獣の矜持。
威風堂々とした佇まいが、雄弁に物語る。
「検体が逃げ出しちゃア、ダメでしょぉ!?」
だが、サーフェスも往生際悪く、更に3匹の三聖獣を追加で培養槽から生み出す。
今度はエンテイ、ライコウ、スイクンが揃い踏みとなり、メグル達に牙を剥く。
流石のスイクンも1匹では手に余る相手だ。しかし──今の彼には、ニンフィア、そして”げんきのかけら”で立ち直ったタイプ:ゼノが居る。
「スイクン。今度は俺達がいる。一緒に、
「微力ながら……お手伝いさせてください!」
ニンフィア、タイプ:ゼノ、そしてスイクンは並び立ち、コピーとサーフェスに向かう。
「ミッシング・アイランドは私達の夢なんですよぉ!! 私は終わらせません!! 彼らの夢は終わらない!!」
「……いいえ、終わりです。此処で全部」
コピー達が放つ攻撃は、ニンフィアが大量展開した無数の泡、そしてスイクンの氷の壁によってさえぎられる。
偽りの炎も、偽りの落雷も、そして偽りの氷水も、全て阻まれ、跳ね返されてしまう。
その間に、ニンフィアは先程とは比べ物にならない量の水を溜め込み、スイクンもまた、水を高圧縮させる。
そして火竜の姿となったタイプ:ゼノは、その口に強烈なドラゴンエネルギーをチャージしていく。
3匹共に、技を放つ準備は万全だ。
「沈めよ、泥舟。夢とやらを抱いて、今度は永遠にな──!!」
【ニンフィアの むげんほうよう!!】
【スイクンの ハイドロポンプ!!】
【タイプ:ゼノの
三つの技が突き刺すようにコピーマシーン目掛けて放たれる。
一点目掛けて射出されたそれは、機械の中枢を貫き、そして──内部から破壊しつくしたのだった。
爆発音と共に、機械も培養液もまとめて吹き飛び、命無きコピー達もまた消えていく。
メグル達は、部屋から逃げるように飛び出すのだった。