ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「──エンテイに、ライコウ……!?」
身構えるアルカとノオト。
しかし、目の前に静かに佇む二匹はこちらに襲い掛かってくる素振りもなければ、目も赤く光っていない。
何時まで経っても動く様子が無いので、ヒルギが呟いた。
「こいつらは本物だろう」
「な、何となくッスけど、オレっちもそう思うッス……!」
「でも何で? 人前には姿を現さないんだよね?」
(……清き心の持ち主にしか力を貸さないという伝説の三聖獣が俺達の下にやってくる、か)
「此処は一つ、力を合わせてみるとしようか。エンテイ、ライコウ」
「ええいー!!」
「ららいー!!」
呼びかけに応えるようにして、二匹は野太い咆哮を上げる。
「もしかして、こいつらも中に入りたいんスかね?」
「だろうな。目的が合致しているならば、互いに手を組むのがベストだ──沸いてきたな」
「手を組むって……いや、ポケモンの技でも壊れねーんっしょ?」
「いや、出来るかもしれない──オリハルコンの強度を脆くすればいい」
「そんな事出来るの!?」
「普通のポケモンの技では不可能だが、伝説のポケモンの力ならば可能だ。加熱と過冷却、そして電撃をぶつける。どんな金属でも形状変化の繰り返しによる疲労には敵わない」
ちらり、とヒルギは二匹を見やる。
伝説の三聖獣は全部で三匹。水タイプのスイクンだけがこの場に居ない。
(俺の推測が正しければ……スイクンが居ない事と、奴らが此処にやってきていることは無関係ではない、か)
「スイクンが居ない分は微力ながらこの俺が手を貸そう──ウオチルドン!!」
【ウオチルドン かせきポケモン タイプ:水/氷】
「うーるどー……ッ!!」
現れたのは、首長竜のような下半身と、古代魚の頭部を持つポケモン。
その周囲には冷気を纏わせており、一見すれば寒冷地に住まう古代魚といった姿だ。
しかし、その頭部は逆さまに繋ぎ合わされたような姿となっており、ガラルの化石ポケモンの中でも一際異様な姿となっている。
だが、その異形そのものの姿にアルカは目を輝かせて食いついた。
「キ、キタキタキターッ!! ウオチルドンだーッ!!」
「うっわうるさ」
「何テンション下がってんのさ、ノオト! ガラル地方でしか発見されない”カセキのサカナ”と”カセキのクビナガ”で復元しなきゃ生まれない激レアポケモン! こんな所で見れるなんて眼福も良いところだよ、化石を個人輸入してもガラル地方じゃなきゃ復元できないから、サイゴクじゃあ絶対に手に入らないんだもん!」
「前にその話は聞いたッスよ……つか、何なんスかコイツ、頭ァ逆さまじゃねーッスか」
「うんうん、これもまたロマンだよねー! 何故か何度試行しても頭が逆向きじゃないと復元されない、この化石ポケモン達は復元の失敗じゃなくて、元々こんな感じの姿だったんじゃないかって言われていて、ポケモン考古学史上最大の謎になってるんだよぉ、あっはぁー♡」
「コイツを見てそんなに喜ぶヤツは初めて見たな……」
「うーるどー……♪」
しかし、当のウオチルドンも人懐っこい性格なのか、悪い気はしていないようだった。
「ねえねえ、ヒルギさん! この子の身体触っても良い!? いいよね!? あっだだだだ」
「全部終わった後にするッスよ」
「そんな御無体なぁー!!」
アルカの耳をノオトが強く引っ張り、その場は何とか収まった。
さて、扉の前にエンテイ、ライコウ、ウオチルドンの三匹が並び立つ。
その後ろで控えているのは、ルカリオとヘラクロスだ。
アルカとノオトはメガリングに指を這わせ──二匹をメガシンカさせる。
これで準備は完了だ。
「古代の王者とも呼ばれたガラルの化石ポケモン。その力は伝説のポケモンに匹敵する。冷却を頼むぞ、ウオチルドン」
「うーらー!!」
「ららいー!!」
「ええいー!!」
「そして、メガシンカポケモンもまた同じ。後はお前達に掛かっている」
「任せとけッスよ!」
「頑張ろうね、ヘラクロス!」
「よし──合わせるぞ」
エンテイ、ライコウの二匹がその声と共に、青白い炎と紫電を絡ませ、鉄の扉にぶつける。
強烈な熱気が跳ね返ってくるが、それを全て相殺する勢いで──ウオチルドンが”フリーズドライ”を放つのだった。
【エンテイの せいなるほのお!!】
【ライコウの 10まんボルト!!】
【ウオチルドンの フリーズドライ!!】
3匹の技が合わさり──扉が軋む。
そこに、ルカリオとヘラクロスが一気に飛び掛かるのだった。
「ルカリオ、インファイトで叩き壊すッス!!」
「ヘラクロス、インファイトでブチ抜いちゃえ!!」
2匹が同時に拳を叩き込む。
しかし、扉は想像以上に固く──二匹の拳は、そこで押しとどめられてしまうのだった。
「ッ……一筋縄ではいかないッスね」
「エンテイ、ライコウ! もう1回頼むよ!」
だが、一度でダメならば何度でも繰り返すまで。
二人は、再び扉に向かう──
※※※
「エリア5……此処が、島の中枢ってわけか」
中枢となるコンピュータを集積したエリア5は、ミッシング・アイランドの管理を行う最重要区画。
それ故か、頑強なドームで囲われており、中に入ることは叶わない──と思われていた。
しかし、エリア1のパソコンにあったマップデータから、関係者出入り口が地下に存在することが判明。
メグルとカルミアは、ミッシング・アイランドの電子ロックを解除すべく、中枢コンピューターへ向かうのだった。
だが、奇妙な事にその関係者出入り口は最初から開いていたのである。
その理由も分からないまま、メグルは押し入るようにして内部に入った。そして、腕を押さえた。
屋内とは思えない程に冷え切っている。冷蔵庫か何かと間違える程だ。
「なんか……冷え込んでるな……」
奥に進めば進む程に、冷気は強くなっていく。
周囲は硝子に覆われたコンピューター、そして島の周囲を覆っていた結晶と同じような水晶に覆われていた。
「参ったな……これってスーパーコンピューターってヤツか?」
「何処かにコントロールパネルがあるはずです。温度が上がるとパフォーマンスが落ちるから、冷却してるんでしょうけど」
「いや、冷却とかそういうレベルじゃねーだろ……」
他にも沢山扉があったものの、「立ち入り禁止! この先、最重要実験施設あり」と書かれた巨大な扉が目に入った。しかも、扉が開けられている。
エリア5は中枢コンピューターの集積所で、実験施設は無いのではなかったのか、と二人は顔を見合わせる。
「ばぎゅあーッ!!」
その時だった。
カルミアのボールから、タイプ:ゼノが飛び出し、咆哮する。
そして、開きっぱなしになっている実験施設の扉の方へ飛び込んでいくのだった。
「ッ……ちょっと、タイプ:ゼノ!! 待ってください!!」
「なんだなんだ!?」
「あの子……この先に凄く警戒心と憎悪を抱いてる……!」
タイプ:ゼノを追いかけ、2人は中に躍り込んだ。
その先にあったのは──びっしりと機械やコードが詰まった大部屋だった。
まるで血管のように、チューブが周囲に敷き詰められており、中央には巨大なモニターを携えたコンピューターが鎮座している。
おまけに、周囲には結晶のような物体が生えており、異質そのものだ。
(あくまのマシンか何かかよ……!!)
タイプ:ゼノが敵意を燃やしながら唸る中、メグルはあまりにも異様な目の前の景色に絶句するしかなかった。
そして次の瞬間だった。
周囲にレーザーのようなものが飛び交い──カルミアの眼を照らす。
『光彩認証確認──試作品492号』
「──ようこそー♪ 試作品492号と、タイプ:ゼノ! ……なんか知らん異物もありますけど、まあ些事ですねぇ!」
次の瞬間、やかましい女の声が響き渡る。
ぶぅん、と音が鳴り──目の前のモニターに光が灯る。
そこには、ポリゴン状の人の顔が映し出されていた。
そして、ノイズ混じりのアニメ声で、それはメグル達に語り掛ける。
「何だなんだ……?」
「私は”サーフェス”! このミッシング・アイランドで研究のお手伝いをしていた自立学習型人工知能──つまり超が付く程健気で献身的なアシスタントAIです。以後お見知りおきを!」
「自分で言うか自分で」
「貴方たちの動向は、島の監視カメラから確認させていただきましたよ?」
監視、そしてAIという言葉にメグルは眉を顰める。
此処まで饒舌に喋り、自分で考えて行動することができるAIは、メグルの住んでいた世界にもまだ存在しない。
「随分とハイテクだな……本当に10年以上前の機械か?」
「……此処まで高度なAIが存在しているなんて。秘密裏に研究されていたのでしょうか」
「ふっふっふー、貴方たちの想像も及ばないことが世の中にはあるということですね。超が付く程健気で献身的なアシスタントAI、ですので!」
(タ〇コマみてーな声とテンションの高さ……開発者の趣味か?)
ともあれ助かったのも事実。
相手が此処まで饒舌ならば、知っていることを話してくれるかもしれない、とメグルは考える。
「なあ、超が付く程健気で献身的なアシスタントAIなら教えてくれねーか? 何でこの島は今の今まで海の中に沈んでいたんだ? そんでもって──このマシーンはなんだ?」
「はぁー? なーんで部外者の貴方に喋らなきゃいけないんですかぁ? そも、何で部外者の貴方がこんな所に居るのか……」
「では、私の命令ならば喋ってくれるのですか?」
「おぉー! 492号の命とあらば! それにしても、随分と大きくなりましたねェ、あの頃はまだ試験管の中でしたからぁ! およよよ」
「早よ話せや」
「はいはい、短気は損気なんですけどねぇ。結論から言えば、これはコピーマシーン。ポケモンの複製品を作り出せる機械なんですよ」
「んなっ……!?」
信じられなかった。
増殖バグの要領で行うような複製を、機械一つで行えるのか、と。
「万能細胞は、別のポケモンから全てのポケモンに分化し得る細胞を作る研究。対して、このマシーンはポケモンの身体の一部から遺伝情報を取得し、そのポケモンそっくりのコピーを作り出す夢のマシンなんです。いやぁ、科学の力ってすごいでしょう? ほれぼれしますよね」
「成程な。この機械が、今回の事件の諸悪の元凶ってわけか」
「待ってください! 原理が分からない!
「クローニングではありませんよぉ? あくまでもコピーでダミー。本物には大きく劣ります。ポケモンの毛髪1本あれば、この中に貯蓄された、
「メタモンの変身能力の応用……ってことですか」
「え? 何で納得してんの? できるの、そんな事」
メタモンは無脊椎生物でありながら、ありとあらゆる生物に変身することができる力を持つ。
その変身は不完全なものであるものの、それでも伝説のポケモンの姿すらコピーすることが可能だ。
コピーマシーンは、その生態を利用したダミーゲルを原材料として、セットされた検体から遺伝子データを読み取り、コピーを作り出す代物だったのである。
これならば、作り出されたコピー達が消えてしまったことも納得がいく。メタモンの細胞を原材料にしたダミーゲルは、
マシーンによってその形に成形されたコピーではないからだ。
「本当なら、このマシンを使って大量のコピーポケモンの軍団を作る予定だったんですけどねぇー、それが上は気に入らなかったみたいで、更にゴタゴタもあって研究は取りやめ! 此処は海に沈められ、放棄されていたんですよぉー」
「──じゃあ何だ。お前の目的は、当時の実験の続きか」
「いーぐざくとりー! 察しが良いですねぇ、あの時の研究者の皆様の夢は、まだ終わってないんですよぉ!」
嬉しそうにサーフェスは語る。
しかし、その結果齎したのは列島の寒冷化。
既に彼らの傍迷惑な夢の所為で被害が出ているのだ。
「とんだ悪夢だぜ……ッ!」
「私だ……私の所為で、マシンが動き出して……」
カルミアは、一歩、また一歩と後ずさる。
ポケモンの毛さえあれば、コピーを作り出せる禁断のマシンを前に、手の震えが止まらない。
そんな彼女の肩を支え、メグルはサーフェスを睨み付ける。
「……列島を寒冷化させたのも実験とやらの一環か?」
「いや、それは副産物ですよぉ。この機械にセットされていた検体は全部で3つ。伝説のポケモン、エンテイ・ライコウ・スイクンの毛! それで私は3匹のコピーを作り、監視用ドローンを伴って列島に向かわせるつもりでした」
時系列で整理すると、カルミアが最初にカードキーで島を再起動して侵入。
その直後にサーフェスが3匹のコピーを作り出した、とメグルは考える。
マシーン自体が優秀なのか、既にセットされた検体から、ノータイムでコピーは作り出されたようだった。
しかし。
「計算外だったのは……それを察知した本物のスイクンが、この島に入り込んでしまった事ですよ。いやぁー、本当に計算外! どうやら、たまたま近くの海を歩いていたみたいですねぇ」
メグルからすれば、その理由は明白だった。
気高き伝説のポケモンは、自分のコピーが作られることを善しとしなかった。
あるいは、かつて多くのポケモンが死んだ悪魔の島が浮上したことで、よくないものを察知したのだろう。
海を走ることができる水の使いは、すぐさま島に入り込んだ。
「だから招き入れることにしたんですよぉ。だって、
「なッ……!? 丸ごとだと!? じゃあスイクンは──」
次の瞬間だった。
機械音が鳴り、天井が開く。
目の前に現れたのは、無数のコードに絡め取られ、拘束されたスイクンだった。
その身体に力は入っておらず、されるがままにぐったりとしている。目は閉じており、精気は感じられない。
(捕まったってのかよ……!?)
アニメの投網であっさり捕まったスイクンよりは百倍マシだが──とよくない考えが過ってしまったが、その身体があちこち焼け焦げていることにメグルは気付く。
弱点である電撃で攻撃された証拠に他ならなかった。
更に、その身体は心なしかくすんでいるように見える。
「幾らコピーと言えど……
「……コピーと言っても伝説ってわけか」
「こうして、スイクンのコピーは更にアップデート! 検体も丸ごと手に入ったし……完成したコピーは本物と同等……いや、それ以上の力を手に入れたってわけですね!」
まさか列島を寒冷化させるほどの力は、予想外でしたが! とサーフェスは続けた。
「スイクンを離しなさい……ッ! 酷く弱ってるじゃないですか……!」
「えー、イヤですよぉ。実験動物の命なんて気にしてたら、人類の科学は一生進歩しやしませんってぇ。此処の研究員の方は、私にそう教えてくれましたよ? そも、スイクンが死のうが検体としての役割は果たせますしぃ」
「かもな。お前の言う事は一理ある」
「メグルさん!?」
「食べ物に薬に、道具の材料、有史以来人間ってのは必ず他の動物の命を使って生きて来た。生きてる限り、俺達は他の命を犠牲にしてる」
ずい、と前に進み出ると──メグルは思いっきり心無きAIを睨み付けた。
「だけど……此処に居た連中に、命を扱う資格なんてねぇよ。勿論、テメェもな──サーフェス!!」
「おやおや、貴方に資格だのなんだのと断じる権限は無いと思うんですけどねぇ」
「お粗末過ぎんだよ。見てられねえくらいにな」
「私も同意見です。もう、研究所も実験も終わったんです。速やかにマシンを停止させなさい。これ以上……私やタイプ:ゼノのような命を増やしてはいけません!」
メグル、そしてカルミアはボールを構える。
機械を停止しないならば、この場で破壊してやるぞ、と言わんばかりに。
「……止めないなら……私が、この島の息の根を止めます。サーフェス──貴方諸共!」