ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC11話:電影凶来

 ※※※

 

 

 

 極光の影には黒い影が映るもの。

 それが陽の光であっても、電光であっても、影は落窪に移ろい映る。

 欠落したのは生死の概念。この世のものに恨みはなく、未練もなく──只目の前の生きとし生けるものに牙を剥く毒霧の化生。

 

 

 

 ──電影の”ミッシング・ナンバー”

 タイプ:ゼノ(モデルゲンガー)

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

【タイプ:ゼノ(モデルゲンガー) ミッシングポケモン タイプ:毒/電気】

 

 

 

 先程のピクシーのような姿からは一転。

 シャドーポケモン・ゲンガーのような姿へと変貌したタイプ:ゼノ。

 その身体の殆どは毒性のあるガスへと変貌しており、周囲にはバチバチと紫電が迸っている。

 だが、人工的に作られたからか、ゴーストタイプ特有の肝が冷えたような感覚は感じられない。

 

「やっと合点がいきました……万能細胞の真骨頂はフォルムチェンジ!! タイプ:ゼノは姿の違う3匹のポケモンじゃなくって、姿が変わる1匹のポケモンだった……!」

「でも、ピクシーとゲンガーは全く違うポケモンだぞ!? 片や妖精型のポケモン、片や不定形な霧のポケモンなのに変わり過ぎだろ!?」

「分かりません……でも、万能細胞自体は非常に不安定な性質を持っているので、それを利用したのかと……!」

 

 タイプ:ゼノの足元から電気が床に張り巡らされて、霧が掻き消える。

 フィールドが上書きされたのだ。

 それが意味するのは、ミストフィールドによる庇護が失われてしまったことである。

 更に、資料によれば生ける毒霧のような性質を持つゲンガーの力を引き継いだタイプ:ゼノが、存在するだけで毒をばら撒く厄介な存在へとなったことは想像に難くなかった。

 閉鎖場所での戦いは、自殺行為も同然である。

 二人はポケモンを連れて、そのまま一目散に逃げだしたのだった。

 間もなく研究所は毒霧が充満していく。

 そして室内には強力な電気が溢れていき──爆ぜて窓ガラスが全て割れるのだった。

 煙を吐いて炎上する研究所を見ながら、メグルは這いつくばる。

 あのバイザーは、タイプ:ゼノにとっての枷のようなものだったのだろう。

 肉体的にも、精神的にも。

 そして、カルミアも──研究所の方を眺めながら顔をこわばらせていた。

 

「──大丈夫か!?」

「分かるんです」

「え?」

「……あの子の気持ちが、今の私には痛い程分かるんです……バイザーで抑え込まれていた怒り、悲しみ、苦しみが」

 

 もくもくと毒ガスそのものの身体を収縮させ、再び目の前にタイプ:ゼノが現れる。

 周囲には紫色の霧がどんどん拡散していく。

 

「いけない……マタドガス、ミストフィールド!!」

 

【マタドガスの ミストフィールド!!】

 

【タイプ:ゼノのわざマシン136(エレキフィールド)!!】

 

 展開された霧は、一瞬でタイプ:ゼノに上書きされてしまう。

 更に、一瞬で周囲のガスを収束させてゲンガーの姿に戻った人造ポケモンは、そのまま手に紫電を収束させていくのだった。

 この間、約3秒。ゲンガー由来の素早さは伊達ではない。

 

「ピピピピピ……ッ!! ピポポポポポ!!」

 

【タイプ:ゼノのわざマシン126(10まんボルト)!!】

 

 紫電の束がマタドガスに落ちる。

 エレキフィールドによって強化されたその威力は落雷にも匹敵する。

 特殊防御力にはあまり秀でていないマタドガスにとっては、致命傷そのもの。

 凄まじい音が鳴り響き──遅れて衝撃波が襲い掛かる。

 閃光に目が眩み、視界が開けた頃には、黒焦げになったマタドガスが口から煙を吐き出していた。

 

(……いけません……!! これまでとは段違い、火力が高過ぎる……ッ!!)

 

 つぅ、とカルミアの額に汗が浮かぶ。

 一撃で倒されたマタドガスの焦げ臭い匂いが漂う中、彼女は唇を噛み、ボールを取り出した。

 だが、タイプ:ゼノの周囲の毒霧は更に強くなっていき、2人を追い立てる。

 

「ッ……いけない、逃げるぞ!!」

「は、はいっ」

 

 強化された電気も十二分に脅威だが、周囲に溢れている毒も凶悪。

 加えて、本体の素早さも非常に高く、攻撃出来る手段は限られてくる。

 

(あのままじゃ、近付けない! マタドガスもやられた今、毒対策は必須……!)

 

 前提条件は、タイプ:ゼノの動きを封じる事。そして、毒霧に構わず攻撃することができるポケモンで挑むこと。

 自分はどうなっても良い。だが、隣に居る彼は巻き込まれただけだ。最早、カルミアには猶予が無かった。

 

(相手が素早いならば、それを逆手に取れば良い!)

 

「メグルさん、ランクルスがトリックルームを展開します! その間の時間を稼いで!」

「トリックルーム!?」

 

 彼女の言葉で、メグルにも勝ち筋が見える。

 トリックルームはエスパータイプの変化技だ。周囲を特殊な空間に変え、ポケモンの素早さ関係を逆転させる。

 遅いポケモンは素早くなり、逆に素早いポケモン程遅くなる。

 これならば、元々素早いタイプ:ゼノの動きを封じられる。

 

(そうか、トリルで素早さを逆転させればランクルスはタイプ:ゼノに必ず先制できる!)

 

「よっし、それなら考えがある。アヤシシ来い!! オーライズだ!!」

「ブルトゥ!!」

 

 ボールを投げ、すぐさまオージュエルに手を添える。

 自分の知識に無い現象に目を丸くするカルミア。

 発動するのは炎の珠。溶岩の鎧だ。

 アヤシシの身体を守るようにして、熱い鎧が纏われていき、周囲には熱気があふれる。

 

「これ、って──」

「へへん、溶けた鉄と溶岩の鎧で毒は効かない。電気はコイツの特防で受ける!」

 

【アヤシシ<AR:ブースター> おおツノポケモン タイプ:炎/鋼】

 

(と言っても、迂闊に攻撃できない以上は──ヤツの動きを封じ込めるしかない)

 

 アヤシシは熱の塊と化し、タイプ:ゼノも近付けないようだった。

 その熱気は、感覚の共有を通してカルミアにも伝わっている。

 すぐさま脅威を電気で撃ち落とすべく、タイプ:ゼノは”10まんボルト”を真っ直ぐにアヤシシ目掛けて放つ。しかし。

 

「”ひかりのかべ”で相殺しろ!!」

 

 すぐさま展開された”ひかりのかべ”が電気を抑え込む。

 周囲を囲う毒ガスは鎧によって阻まれ、そして電気は跳ね返される。

 完全に攻撃はシャットアウトされた。

 タイプ:ゼノはメグル達を狙うべく周囲に毒ガスを充満させようとする。

 しかし、既にその頃にはカルミアの仕込みは終わっていた。

 

「──ランクルス、”トリックルーム”!!」

 

 周囲は箱型の空間に閉じ込められる。

 素早さが速いものは、遅くなり、遅いものは逆に速くなる念動力の空間。

 通常、すぐに霧散するはずの毒ガスの動きは静止したように遅くなり、そしてタイプ:ゼノ自身の素早さも落ち込む。

 一方、非常に鈍重なランクルスは、水を得た魚のように素早くなる。

 

「でかした、カルミア!! 後は──」

「……ランクルス、”サイコキネシス”です」

 

 ランクルスがぎょっとした顔で、カルミアの方を見る。

 その攻撃が意味するのは、カルミアにも少なくないダメージが跳ね返ることであった。

 

「ランクルス。サイコキネシスでタイプ:ゼノを攻撃しなさい!!」

「待てよ、カルミア! それじゃあお前にもダメージが!」

「……良いんです。これ以上、メグルさんに迷惑は掛けられない。それならいっそ、この子を倒してでも止めるしかない」

「だけど、君のポケモンはそれを望んでない!」

「ッ……」

 

 ランクルスは、先程の戦闘で主人が受けたダメージが決して小さくない事を知っている。

 賢いポケモンであるが故に、タイプ:ゼノへ攻撃することが主人を攻撃する事と同義であることが察せてしまったのだ。

 その指示に「できない」とばかりに首を横に振る。

 

「ぐりゅりゅ……」

「ダメです……私の為に、他の人に迷惑はかけられないんです。これ以上、かけられないの!!」

 

 それでも、ランクルスは聞く耳を持たない。

 

「大丈夫。私なら大丈夫ですから……私は、クローンで、作られた紛い物で──そう簡単に死んだりしないですから……」

「よく育てられてるんだな、そのランクルス」

「ッ……」

「君が育てたポケモンは──ちゃーんと、誰かの替わりじゃない君を見てくれてる。そいつらの為にも君は──自分を大事にしなきゃいけない!」

「何で」

 

 ぽつり、と彼女は零す。

 

「何でそんなに、私の事を気にかけてくれるんですか!? 出会ったばかりなのに!! クローンで、紛い物なのに!!」

「──言っただろ!! お前とよく似た目をしたヤツが居るってな!!」

「ッ……!」

「そいつに似てるから、放っておけねえんだよ!! それに……簡単に自分の事紛い物だなんて言うな!!」

 

(とはいえ、”さいみんじゅつ”はエレキフィールドの所為で使えねえし……! 攻撃も出来ない──)

 

 

 

「ピピピピピ……ピポポポポポポ!!」

 

 

 

 次の瞬間だった。

 周囲を囲う空間が崩れ落ちる。

 

【タイプ:ゼノの わざマシン161(トリックルーム)!!】

 

 トリックルームは、二度発動すれば解除される。

 逆転した素早さ関係は元に戻り、タイプ:ゼノは元の速度を取り戻すのだった。

 

「しまっ──トリックルームまで使えるのかコイツ!?」

「──ピポポポポポポ!!」

 

 足元に電気が走る。

 ”でんじは”だ。

 アヤシシとランクルスの身体は痙攣し、地面に倒れ込んでしまう。

 完全に身体の自由を取り戻したタイプ:ゼノの身体は、再び変化していく。

 背中から伸びるのは飛竜の如き翼。

 全身は黒く変色こそしているものの、獄炎を纏ったドラゴンがそこに顕現する。

 その持ち前の凶暴性を露にした姿だ。

 アヤシシの纏っているそれに匹敵する熱気が周囲を支配する。

 

 

 

 

「バギュオオオオオオオオオンッ!!」

 

【タイプ:ゼノ(モデルリザードン) ミッシングポケモン タイプ:炎/ドラゴン】

 

 

 

 

「また姿が変わった……ッ!!」

 

(てか、アレって色違いのリザードンっつーか……”アネ゙デパミ゙”じゃねーか!?)

 

 初代のバグポケの1匹に、黒いリザードンの姿をしたポケモンがいたことをメグルは思い出す。

 名前の表記もバグっているからか”アネ゙デパミ゙”と異様なものであった。

 だが、只の色違いというわけではない。全身には赤く罅割れたようなラインが迸っており、目の色も赤い。

 行き場の無い怒りを表している。

 

「バギュオオオオオオオオン!!」

 

 轟!! と音が響き、熱線が周囲を焼き払う。

 火の手が上がり、周囲は焼け焦げ、熱風だけでアヤシシもランクルスも薙ぎ払われてしまう。

 オーライズしているとはいえ、鋼の含まれた鎧では熱線を何度も耐えることができない。

 

(こ、このままじゃ、全滅だ……!! しかもポケモン達は麻痺してるし……しかも、光の壁を張っていて、これかよ……!?)

 

 空に再び高く昇るタイプ:ゼノ。

 その狙いは、此処まで幾度となく相対したメグルだ。

 一瞬で薙ぎ払うように放たれる熱線は、人間の足で避けきれるものではない。

 死を覚悟したその瞬間だった。

 

 

 

「ダメ!!」

 

 

 

 メグルの前に──両の手を広げて、カルミアが立っていた。

 

「もうやめましょう、タイプ:ゼノ。それ以上は……私も貴方を傷つけないといけなくなる」

「危ないカルミア!! 早く逃げねえと──」

「私もう、逃げません」

「バギュオオオオオオオン……ッ!!」

「自分の出生からも、そして……あの子からも」

 

 彼女の目は、真っ直ぐにタイプ:ゼノの怒りに満ちた瞳を見つめていた。

 

「メグルさん、貴方は言いましたよね。自分を大切にしろって。あの子は──私です。私なんです! あの子を傷つけない方法があるなら、もうこれしかないんです」

「……おいおい、待てよ! 危ないなんてもんじゃねえぞ!」

「タイプ:ゼノ、よく聞いてください。私には……貴方の辛い気持ちが伝わってくる。頼んでもいないのに生み出されて、ずっと力を抑え込まれて、ずっとひとりぼっちで……!」

「バギュオオオオオオオオン!!」

 

 熱線が放たれようとしている。

 周囲の温度が跳ね上がり、タイプ:ゼノの口に炎が溜め込まれる。

 

「寂しかったですよね──辛くて、苦しかったですよね。煮えたぎるような怒りが、やり場のない苦しみが──私には分かります」

 

 それでもカルミアは歩みを止めない。

 一歩、また一歩とタイプ:ゼノに近付いていく。

 メグルは彼女を止めようと腕を掴むが、振り払われてしまった。

 

「でもきっと、少し前に真実に気付いた私と違って、貴方は……何年もずっと、この島の研究所を守ってきて……だから、解放してあげたいんです。貴方を縛るものはもう、無いんです」

「バギュオオオオオオオオン……!」

「私だからできる事は、貴方を……助けることです。だって、私達は兄妹ですから……貴方の受けた痛み、苦しみ、伝わってくるんです」

 

 分かりますか? と彼女は手を伸ばす。

 今も尚、タイプ:ゼノの怒りと憎しみが伝わってきて、逃げてしまいたいほどだった。

 だが、この絶望は自分が出生を知ったときに似ている、とカルミアは考える。

 

「父のやったことは決して許されることじゃないし、許すつもりもないです。あの人は結局、私じゃなくて──”死んだ娘(カルミア)”を見ていただけだった」

 

 また一歩。黒い火竜にカルミアは近付いた。

 

「それでも──父が居なければ、私は今こうして貴方の前に居ない。それだけは、あの人に感謝してるんです」

「バギュルルルルル──」

「……もしも、私達が生きていることが許されるなら──せめて私達だけは……手を取り合いませんか? 同じ場所で生まれた者同士」

 

 もしも、こんな自分にでも出来ることがあるならば、と彼女はタイプ:ゼノに手を伸ばす。

 

「私と貴方の感覚が共有されているなら──分かるはずです。私の気持ちが」

「バギュオオオオオオオオン!!」

「カルミア!!」

 

 熱線が一直線に飛び、焼き払った。

 炎は、轟と音を立てて──焼き焦がす。

 カルミアとメグルを掠める形で。 

 すんでのところで二人は、黒焦げになることを避けられた。

 タイプ:ゼノが、熱線の軌道を意図的に逸らしたのだ。

 

「……ありがとう」

 

 タイプ:ゼノは、そのまま彼女の元にまで降りると──すっ、と頭を下げる。

 彼もまた、彼女の感覚を感じ取ったのだろう。

 そこにカルミアは、モンスターボールをこつん、と当てる。

 さっきまでの暴れっぷりが嘘のように、タイプ:ゼノはボールの中へと入っていくのだった。

 

「ッ……捕まった。こんなに、あっさり?」

「簡単な事だったんです。私とあの子は本質的には同じ。私がこの子を受け入れて、恐れなければ……それで良かった」

 

 タイプ:ゼノの入ったボールを眺めながら、彼女は呟く。

 

「そのためには……私自身が、私自身の出生を受け入れるしかなかった」

 

 つう、と頬に雫が伝った。

 

「……でもきっと。これで良かったんだと思います」

「何が良かった、だバカヤロー」

「あいた!?」

 

 こつん、とメグルはカルミアの頭を小突いた。

 

「あぶねーって言ってるのに、無茶しやがってよ。死ににいったんじゃないかってビックリしたんだぞ」

「ご、ごめんなさい……でも何となく出来る気がして……というか、これしか思いつかなくって」

「……」

 

 傷心して暗くなっているだけで、以前は意外に思い切りが良い性格だったのかもしれない、とメグルは考える。

 だが、見ていてあまりにも不安になる姿だった。

 

「手持ちもそうだし、俺もそうだけど……ちゃんと近くに君を心配してるヤツが居るのを忘れんなよ」

「はい……」

 

 そう声をかけてやることしか、今のメグルにはできない。

 それでも──タイプ:ゼノを受け入れたのは、良い兆候なのかもしれない、と彼は考えるのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──参ったな。カードキーが無ければ中には入れないようだ」

「しかも相当頑強な扉ッスね……どうやって入るんっしょ」

「デカヌチャンのデカハンマーでも壊れなかった……」

 

 ポケモンが暴れる事を想定していたからか、正門の扉は何重にもロックされている。

 

「特殊合成金属──所謂オリハルコンと命名されたものだ、こういった施設の守備に使われる」

「じゃあポケモンの技でも壊せないってことッスか!?」

「電子錠の解除の方が手っ取り早いだろうな」

 

 尤も、その電子錠の解錠は現在進行形でヒルギが行っている。

 そしてハッキングが完了するまでの時間は──更に5時間。

 

「また待ちぼうけッスかぁ!?」

「早く入りたい気持ちはわかるが、こればかりは仕方がない」

「そうだけどぉ、もっと何とかならないのぉ!?」

「ならない」

「……メ、メグル大丈夫なのかなぁ……」

 

 

 

「ららいー」

「ええいー!!」

 

 

 

 その時だった。

 甲高い咆哮が後ろから聞こえてくる。

 思わず3人は振り返った。

 

「えっ──」

「そ、揃い踏み……!?」

「……成程な。どうやらこいつらも中に入りたいらしい」

 

 片や、落雷の化身。

 片や、火山の化身。

 伝説のポケモン、エンテイとライコウが並び立っていた。

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