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短歌の解釈が分かれる言語的な要因~構造的曖昧性を中心に~

クサナギ:今回はシゲフミ(以下、シゲ)とクサナギ(以下、ナギ)の二人で、言葉の組み立てから情景を絞り込めない短歌三首を取り上げ、短歌の解釈が分かれる言語的な要因について考察していきたいと思います。この三首の解釈について、Twitter(現X)のアンケート機能を使ってみなさまから意見をお寄せいただきました。たくさんのご回答ありがとうございました!

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Twitter(現X)のアンケート結果

シゲ:その節は皆さん、ありがとうございました! 
さて、本題に入る前に思い返してみてください。普段、面と向かって喋っていて、たとえ意味が複数取れるような発言をしても、状況から分かったり、すぐに聞き返せたりして割りと問題にならない(ことが多い)。ところが、実際にいつ誰が読むのか分からない作文で放置すると読みづらく、悪文などと評される。じゃあ文学となると、どうなんだ? 効果的なら立派なテクニックですよね。「庭の小径」方略(※)とも言います。つまり詩やジョークでは、時にあえて行われている。環境によっては、受け止められ方も違ってくるんですよ。

「庭の小径(garden path)」方略とは、典型的には文中で複数の語義や構造が考えられる場合に作用する、いわば罠のようなものである。予期に反した解釈の成立が知れることで、受取手にユーモアやサプライズを味わわせるなどの諸効果をもたらす(カルペパー・ホー(著)椎名(監訳), 加藤[ほか](訳)(2020): 6, メイ(著), 小山(訳)(2005): 387-388参照)。

どの意味なのか?と迷う短歌

シゲ:それでは、楽しき庭の小径を共に行きましょう。まずは語彙的曖昧性(lexical ambiguity)について。多義語や同音異義語など、語が複数の意味を取りうるせいで解釈の分かれる例です。和歌でよく使われる掛詞も、この語彙的曖昧性との関わりで考えられます。いわゆるダブルミーニングを生じさせる原因が、まずもって語にあるパターン。

ナギ:なるほど。現代短歌でいうと、ちょっと違うかも知れないんだけど、この歌も掛詞の一種といえるんでしょうか。

空、空、空、空の車はつかまらず月へ挙手するひとになりゆく

toron*

ナギ:そら、そら、そら……と読んでいたら、「空の車」で、読みが「から」だったことに気づく。でも下の句の内容を読んで、改めて「そら」であった可能性が脳裏に過ぎるつくりです。結局どう口に出して読んだらいいのかはわからないのですが、がらんとした夜空が目の前に広がってくるようで、とても好きな歌です。

シゲ:ルビによる指定もありませんし、たしかに書き言葉ならではの面白さがありますね。いつの間にか田畑から鳥が羽ばたくエッシャーのようで、シームレスに連続している。読みこそ違うが表記を共有するといえば、これは同綴異音異義語(homographs)の例でしょうか。さあ、次はより大きい範囲でのダブル、場合によってはトリプルミーニングを取り上げます。

どこに掛かるのか?と迷う短歌

シゲ:つづいて、文中の構成要素が複数の結びつきを取りうる、構造的曖昧性(structural ambiguity)。ここから、アンケートに出した歌を見ていきましょう。1首目は、まとまりを成す単位をどう捉えるか、が問題です。

弟の誕生日なんでここにいるなんでここ地球なんで東京

手塚美楽

ナギ:この歌はアンケートで「弟の誕生日なんでここにいる」の「なんで」の捉え方についてお聞きしました。「弟の誕生日だからここにいる」のように、理由を述べる意味の「なんで」と捉えたのか、または「弟の誕生日になぜここにいる」のように、理由を問う「なんで」だと捉えたのか。
215人の方にアンケートにお答えいただいたのですが、投票結果を見ると前者が、後者が後者が79.1%(170人)でした。

シゲ:この2つは分解してみると全く別のパーツからできてるんですよね。前者は「なので(学校文法でいう断定の助動詞「だ」や形容動詞の語尾の活用+接続助詞「ので」)」の砕けた言い方で、後者は「何(なん)で(代名詞「何」+格助詞「で」)」です。さらに後者の場合、構成要素の連なりとしては「弟の誕生日」が一まとまりで、起きた時を示す格助詞「に」はくっついてこなかった、と見たことになります。

ナギ:私は後者の、「弟の誕生日になぜここにいる」というように捉えました。下の句の「なんでここ地球なんで東京」の「なんで」も同様に「なぜ」という意味で読みました。

シゲ:それが、もし話し手は文句をつけている、苛立っていると解釈してのことなら、実は直に導かれるものではありません。そこには推論が加わっています。もちろん、文字通りの疑問とだって受け止められるはずなんです。ただ答えが分かりきっていたり、突き止められそうになかったり、訊いたところで特にメリットがなさげだったり等々と思われる場面では、強いて尋ねていることになります。わざとやるなら、相手から情報を得る以外の動機がある。例えば非難。そうした用法は広く知られているので、先んじて思い浮かぶことはよくあるでしょう。あとは簡単に読み返せるから、後続との兼ね合いかな。

ナギ:たしかに。でも「弟の誕生日になぜここにいる」と聞いたり聞かれたりするシーンもあまりないような……もしかしたら、前に挙げたtoron*さんの歌のように、一つ目の「なんで」と、二つ目、三つ目の「なんで」の意味が異なるという可能性もありそうですね。最初は理由を述べる意味の「なんで」だったのが、だんだん理由を問う「なんで」に変化していっている、という歌なのかもしれません。
 この歌を読んで、主体が自問自答を繰り返しているような様子が浮かびました。下の句の「なんでここ地球なんで東京」で、自分のいま立っている地面までぐらぐらと揺らぐような感覚に陥りました。浮遊感があって癖になる歌ですね。

シゲ:なるほど、エッシャー「昼と夜」第二弾だ。相手がバックパッカーだとか、いきなり何の前提もなしに「今どこ住み? てかユーラシア大陸?」って訊かないように、空間の絞り込み方もまたユニークに感じられるけれど、その辺は別の機会にしましょうか。
さて続いての2首目、3首目は修飾句、つまり詳しく説明する語のまとまりが、どこに係るか次第でややこしくなります。

滝のようにきれいな猫が逝く朝にすべての金縛りは解けるよ

橋爪志保

ナギ:アンケートでは、「滝のように」がどの単語に掛かると考えたかについてお聞きしました。339人の方にお答えいただいたのですが、「きれいな」に掛かると答えた人が48.1%(163人)、「逝く」に掛かると答えた人が32.4%(110人)、「とける」に掛かると答えた人が19.6%(66人)でした。

シゲ:へ~、色々な可能性があっても、ひっくり返すだけの強い動機もなければ、とりあえず近い単語にかかると考える人が多いということでしょうか。しかし、メタファー(隠喩)だとかシミリー(直喩)というのも、なかなか解釈が難しい。いずれにせよ何かを別のもので準える表現ですが、具体的にどこが似ているのかというところまで、表面上は指定しません。結局、何を言っているか不確実なものになります。文字通りでない意味を聞き手に汲み取らせることができるかわりに、内容の明瞭さを損いかねない方法なんです。さて、この「滝のように」は、滝のどの特徴のことをいっているんでしょう? 

ナギ:うーん、どの選択肢も、「滝のように」に馴染むような気がするんですよね。私は「滝のようにきれいな猫」というと、なんとなく長毛の毛並みがきれいな、涼やかな目をした猫を想像しました。「滝のように逝く」だと、苦しまずに安らかに死んだのかな、というイメージ。「滝のように金縛りがとける」だと、ふっと体が軽くなるようなイメージがわきました。特にどこに掛かるかを厳密に決めず、ふわっと歌全体に掛かっていると読んでも面白い歌なのかなと思いました。

父の死をあなたは話す揺れながら小さく白い船が来ている

北山あさひ

ナギ:続いてこの歌。アンケートでは、揺れているのは、「あなた」と「船」のどちらだと捉えたかについてお聞きしました。お答えいただいた218人のうち、「あなた」が揺れていると捉えたのは29.4%(64人)、「船」が揺れていると捉えたのは70.6%(154人)でした。

シゲ:ああ、「船」と捉えた人が多いのは頷けます。スタンダードな書き言葉では、前者の順序は考えにくい。とはいえ、話し言葉でつらつら後から言い足すことはよくありますから、より口語らしく見れば「あなた」が揺れているとも読めるだろうと思います。これもエッシャーっぽい。

ナギ:「あなた」が揺れていると確実に読み取らせたいのであれば、「父の死を揺れながらあなたは話す小さく白い船が来ている」のような語順でもいいですよね。逆に、「船」が揺れていることを確実に伝えたいのであれば、「父の死をあなたは話す 揺れながら小さく白い船が来ている」のように、二句目の後に一字空けをしてもいいはずです。この歌ではあえてそうせず、どちらの解釈も可能なつくりにしているのではないかと思いました。
 また、この歌については、アンケートに答えてくださった方から、「揺れているのはあなたでもあり船でもあると読みました。あなたが小さく揺れながら話すさまに、同じく揺れる遠い船を見出しているのだと。……この歌には三句切れ(倒置)と二句切れが併存していると思ってて、初読時は上から読むので三句目まで前者の景を想起するんですが、最後まで読んで後者の景に移るという感じです。」というコメントもいただきました。

シゲ:まあ、報告書なんかと違って、一つに絞れないと困るってこともないですからね。余談ですが、今まで紹介してきたような歌とはまた異なる形で解釈を委ねる例を見つけました。次に挙げるのは、構造的曖昧性の一種でもある、作用域の曖昧性(scope ambiguity)にギミックが認められる一首です。

だいじょうぶ 急ぐ旅ではないのだし 急いでないし 旅でもないし

宇都宮敦

シゲ:これは「ない」で否定される範囲が「急ぐ」だけかも知れないし、「急ぐ旅」までかも知れない――ただ「急ぐ旅ではない」って割りと聞く言い回しでしょうから、「急ぐ」が成り立たないのだと期待される――ところを、最後どちらもあてはまらないと明らかにすることで落としています。このオチのせいで結局は何のことなんだ、と途方にくれる。
振り返ってみると、今までのは、ある程度は絞り込まれた候補が併存するからこそのエッシャー状態だった、ということが分かります。「だいじょうぶ~」の一首では、明らかに言及された以外のもの全てに、いったん可能性が開かれて終わるので。ここで「いや人生は旅って話だろう」だとか言い出すのは、我々が知る文脈を持ち込んで、その途方もなさにどうにか立ち向かおうとしているわけです。
 そんなわけで、今回は短歌の解釈を迷宮入りにするものは何か、という話でした。ちょっとしたコツを押さえて、読み手を混乱に陥れましょう! あるいは詠み手の決定権のなさに付け入って、皆で交渉につくんです。我らの相対するは、そういった類いのテクストなんでしょう?(了)


短歌引用元

toron*『新鋭短歌シリーズ60イマジナシオン』書肆侃侃房(2022年)
手塚美楽『新鋭短歌シリーズ51ロマンチック・ラブ・イデオロギー』書肆侃侃房(2021年)
橋爪志保『地上絵』書肆侃侃房(2021年)
北山あさひ『崖にて』現代短歌社(2020年)
宇都宮敦『ピクニック』現代短歌社(2018年)

参考文献

ニコラス・アロット(著), 今井邦彦(監訳), 岡田聡宏・井門亮・松崎由貴・古牧久典(訳)(2014)『語用論キーターム事典』開拓社.
ジョナサン・カルペパー, マイケル・ホー(著), 椎名美智(監訳), 加藤重広・滝浦真人・東泉裕子(訳)(2020)『新しい語用論の世界―英語からのアプローチ』研究社.
益岡隆志・田窪行則 (1992)『基礎日本語文法―改訂版』くろしお出版.
ヤコブ・L・メイ(著), 小山亘(訳)(2005)『批判的社会語用論入門―社会と文化の言語』三元社.
M・リン・マーフィー, アヌ・コスケラ(著), 今井邦彦(監訳), 岡田聡宏・井門亮・松崎由貴(訳)(2015)『意味論キーターム事典』開拓社.
中村明(2014)『センスをみがく文章上達事典―魅力ある文章を書く59のヒント』五版,東京堂出版.
斎藤純男・田口善久・西村義樹(編)(2015)『明解言語学辞典』三省堂.
ジェニー・トマス(著), 浅羽亮一(監修), 田中典子・津留崎毅・鶴田庸子・成瀬真理(訳)(1998)『語用論入門―話し手と聞き手の相互交渉が生み出す意味』研究社.


念のため断っておきますが、言うまでもなく本記事は鑑賞を企図しており、一定の結論を出すことを目的としていません。尋ねた事項も訊いた範囲も統制されておらず、いい加減です。調べ物の一環でアンケートを計画・実施する場合は、きちんと質問紙調査法について学び、指導・助言を仰げる人に適宜相談の上で行いましょう。(シゲフミ)

本記事は、エイドラ3号(2022/05/29、第34回東京文学フリマにて販売)に掲載した特集を再構成したものです。

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