高橋克実たかはしかつみ
俳優
1961年生まれ。新潟県三条市出身。舞台を中心に活動後、『ショムニ』(フジテレビ系)で人気を博し、番組司会やナレーションなどへも活躍の場を広げる。NHKでも出演作多数。2008年の土曜ドラマ『フルスイング』は自身初の主演作。そのほか、大河ドラマ『龍馬伝』、連続テレビ小説『梅ちゃん先生』、土曜ドラマ『デジタル・タトゥー』など。連続テレビ小説『虎に翼』では、主人公・寅子の赴任先となる新潟県三条市の弁護士を演じる。
- 出身地
- 新潟県
伊藤沙莉さんが演じる寅子には、見ている人を惹きつける“主人公の力”がありますよね。実は彼女がまだ子役のころ、一緒にお仕事をしているんですよ。小さい頃から巧いなあ、と思っていたのですが、今回そばで見ていて、画面いっぱいに主役の迫力が出てくるような強烈な俳優になられた、すごいなあ、と親戚のオジサンみたいな気持ちでいます。
僕が演じる杉田太郎は、寅子が判事として赴任した新潟県三条市の弁護士です。「持ちつ持たれつ」というセリフを何回言ったか分かりませんが、太郎には「町の人間関係に波風を立てたくない」という思いがあります。「ここにはここのルールがある」と寅子を抱え込み、従わせようとしているんです。良かれと思って裏取引をし、それを手柄のように話す彼に悪気はなく、地方では当たり前のことだと思っているのでしょう。
この時代、地方は特に、東京よりも女性蔑視の意識が強かったと思います。寅子の新潟への赴任や所長への就任は実話に基づいていますから、寅子のモデルになった方は実際にとても苦労されたのではないでしょうか。ただ、それが当たり前のこととして教育されてきた時代ですから、太郎のような人々の考え方が変わるのはなかなか容易ではないだろう、と当時を想像しながら演じています。
三条は僕の地元でもあるので、監督がおもしろがって「克実さんは方言指導なしでいい」とおっしゃって、ここぞとばかりにほぼ野放し状態で自由に話しています(笑)。ぜひドラマをご覧になる皆さんにも、三条ことばを覚えていただきたいですね。「はて?」と同じように、語尾につける「らて」もはやったらうれしいです。
この作品で、瀬戸康史くんとW主演を務めさせていただいています。今の時代を鏡のように映している作品で、僕も演じながらさまざまな感情が去来するのが事実です。日ごろ、民放で情報番組のMCとしてさまざまな事件報道に接しているからということもあるのですが、現代の日本人の中に見られる“不寛容さ”に恐ろしさと悲しさを感じてなりません。
僕はまさに、ドラマの中の岩井と同様、どちらかというとインターネットにうとい方です。そして、いわゆるインターネット世代とは相いれない感覚がどこかにあって、なぜそこまでSNSなどでの評価や書き込みの内容にとらわれてしまうのかな、と側で見ていて疑問に思ってしまう部分もあります。同時に、デメリットも感じながらもSNSを使い続ける魅力は何なのだろうな、と素朴な疑問として考えてしまう面もあるんです。見たことも会ったこともない個人にインターネットを通して“裁き”を下すような風潮は今後ますます増長されるのかもしれませんが、こういう時代の先にはどんな未来が待っているのか。僕もこのドラマの結末を視聴者の皆さんと同じように、ハラハラしながら見守っているところです。互いを認め合い許し合うことが、インターネットを介してもスムーズにできるようになればいいのにと、願わずにはいられません。
大変人気のある原作をベースにした時代劇で、僕自身とても楽しみに出演させていただきました。時代劇というのは、俳優なら誰もが挑戦してみたいものだと思うんですよ。髷(まげ)をつけて着物を身につけて、すべてが非日常を演じられますから。そういうのは、役になりきるということを目指す我々俳優にとっては、まさに役者冥利に尽きるものなんです。
僕も原作を拝読させていただきましたが、主人公の“そろばん侍”こと市兵衛は映像化するときに殺陣など難しい部分もあるのかなと思ったのですが、それを向井理さんが見事にかっこよく演じられていて感動すら覚えました。私が演じたのは内藤新宿の大店、磐栄屋の主、天外です。天外には大店の主人ということだけでなく、町のために無法者を殺した過去もあり、また、背中には雷神の彫り物があるなど、その二面性を漂わせて演じるというのもおもしろかったです。
それから昔ながらの地名が出てくるのですが、それが若いころに住んでいた新宿界隈の町と重なり、「今のあの辺りのことか」と演じながら楽しんでいました。それにしても昔の人は徒歩か馬か籠しかなかったでしょうに、新宿から秩父へ出向くなど、行動範囲が思った以上に広いんですね。時代を経て、僕たちは進化している部分と退化している部分があるなと思いました。昔ながらの暮らしには戻れないけれど、私たちは大切なものを便利さと引き換えに失っているのでは、という思いにも駆られたのも、この作品を演じてみての正直な感想です。
皆さんが毎朝お茶の間で見てくださる連続テレビ小説でヒロインの父親役をいただき、とても光栄だったのを覚えています。しかもヒロインの梅子を演じた堀北真希さんとは、過去に何度も共演していた間柄でした。それだけに、“朝ドラ”で父親役を演じさせていただき、とてもご縁を感じたのを覚えています。
“朝ドラ”の現場は毎日通ううちに、本当の家族のようなアットホーム感が漂い、とても癒されるものがありますが、実は大変長丁場で出番も多いですし、メインキャストの場合はなかなかハードなものなんです。また、この当時は撮影が深夜に及ぶこともあって、そんなときに限って、梅子の見合いの場に片岡鶴太郎さん演じる隣人の幸吉らが襖(ふすま)ごとなだれ込んでくる場面で、襖がきれいに倒れてくれなかったりしてね(笑)。くたくたになりながらも、楽しく撮影をしていた日々が懐かしいです。
ただ僕は、このドラマで建造を演じるうえで、監督から「笑わないでほしい」と言われていたので、最初から最後までほぼ笑顔を見せられなかったのも苦労といえば苦労でした。昭和の威厳のある父親役というのも、なかなか大変なものです。でも、こうした“朝ドラ”のように、皆さんが家族でご覧になる番組で、戦後の大変だった時代の日本を描くのはとても意義があることだと思います。僕も子供が小さいので、平和な日本のありがたさを、こうした番組をきっかけに少しでも伝えられたらいいな、と思っています。
大河ドラマ初出演で、まさか西郷隆盛役をいただくとは思いませんでした。というのも、僕にとって西郷といえば、1990年の大河ドラマ『翔ぶが如く』で尊敬する俳優の大先輩の西田敏行さんが演じられた“西郷どん”なんです。ですから、この役が決まったときは、真っ先に西田さんにご報告し、激励していただいたのを覚えています。
明治時代の偉人を演じさせていただくうえで難しいなと思ったのは、今も多くの資料が残されながら、やはり謎めいた部分も多いことです。特に西郷隆盛という人は、多くの藩士に慕われ、すばらしい政治力で明治維新を遂行する中心人物とまでなりながら、その最後は西南戦争で自決するのですから。僕も短期間の出演とはいえ、彼の心の軸をどこに置きながら演じたらいいのか、当初は悩みました。しかし故郷、鹿児島を訪ねさせていただいたり、西郷最期の地とされる場所を見せていただいたりと、その足跡をたどるうち迷いが自然に消えたのを覚えています。
西郷は、いつの間にか倒幕という大きな政治の流れに飲み込まれていってしまったけれど、その根底にあった気持ちというのは、ごくシンプルに平和で平等な世界の実現だったのではないかということです。しかも、そうした新しい幸せな社会を“薩摩”で実現したかっただけなのだろう、と。鹿児島市内にいまだ残る明治維新時の砲弾の跡などを眺めながら、いろいろなことを考えつつ演じさせていただきました。
僕にとって初の主演作ということでも思い出深いですが、放送から10年以上経っているのに、この作品がいまだに多くの人の記憶に残っていることが何よりとてもうれしいです。今でも「『フルスイング』を見ていたよ」と、初対面の方から声をかけていただくことがあるのですから、僕自身驚いてしまいます。
このドラマは、プロ野球の名コーチから高校教師に転身した高畠導宏さんの実話を基にしています。僕も野球少年ですから、高畠さんのコーチとしてのご活躍は存じ上げていましたが、“高林”役を演じるにあたり、彼の壮絶な人生に改めて心を揺さぶられたのを覚えています。ドラフト指名でプロ入りしながらも、その後もスター選手として活躍できる人が一握りなのは野球界の厳しい現実です。ただ、高畠さんのようにプロ選手からコーチに転身してすばらしい手腕を発揮しながらも、また新たに球界とは違う世界で生きることを選ぶなんて、並大抵の精神ではできないことでしょう。その根底にあるのが、このドラマでも高林が生徒たちに語る、人生に大切な“気力”なのだと思います。特に気力の“気”の字を、旧字体で“氣”と書くことにも、彼のポリシーを感じました。
ドラマのオープニングの撮影時には、実際に高畠さんから指導を受けたというプロの方々がスイングの仕方を教えに来てくれたんです。その際にバッティングの見せ方はもちろんですが、高畠さんの人柄などもうかがい感慨深いものがありました。実在の人物をモデルとしたドラマを演じさせていただくことで、僕にとってもたくさんの学びがあった作品です。








