ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「カルミア!! パソコンのデータを今のうちにスマホに移してくれ!!」
「やってます……ッ!! 完了!! コンプリート!!」
「んじゃあもう、此処に用はねえな!!」
アヤシシが押さえつけているものの、限界はある。
元がサイボーグだからか、想像以上に疲れ知らずでタフだ。
広い場所でなければ、あの体躯から放たれる攻撃をよけることは難しい。
「ピピピピピ……ピポポポポポポポ」
通路にサイボーグ・ピクシーを押し出したメグルは、そのまま雪崩れ込むように研究室へと躍り出す。
敵意を剥き出しにした半獣半機の怪物は、腕をぐるぐると回し、計器も机も突き飛ばしながら床を踏み砕き、殴りかかる。
「後はテメーを捕獲すりゃあ、全部丸っと解決なんだよな!!」
「ぴぴぴぴぴぴ……ピコココココ、ぴぴぴぴぴぴぴ!!」
「ブルトゥ……ッ!!」
その鉄拳を正面から角で受け止めるのはアヤシシ。
脚の鬼火を燃やし、爆破させて踏ん張るが、それでも押し込まれてしまう。
組みかかるなり叩きのめし、巨大な腕をぶんぶんと振り回す。
【??????の
タイプ一致ではないだろうが、屈強な腕から放たれる技の威力は凄まじい。アヤシシの巨体が壁に叩きつけられ、薬瓶が落ちて飛び散る。
床にぶちまけられた液体が一気に音を立てて気化していく。
それを見たカルミアは血相を変え「マタドガスッ!!」と叫んだ。
がばぁと口が開き、一気に白い霧が周囲に充満するのだった。
「マタドガスの吐き出す浄化ガスは有毒性のガスを中和する力がある……!! メグルさん、今のうちに!!」
「ナイスアシストだ!! アヤシシ、まだやれるな!?」
「ブルトゥ……!」
アヤシシは立ち上がり、起き上がるピクシーを睨み付けるが、続け様に敵は頭部を鋼のように硬化させると、ロケットのように突貫してくるのだった。
【??????の
攻撃力は高い。
速度も決して低くはない。
だが、攻撃があまりにも直線的だ。
だから、来ると分かっていればカウンターの姿勢を取ることができる。
「今だ……新技だ!! ”しらぬいがえし”!!」
全身に鬼火を纏うアヤシシ。
角でピクシーを受け止めるところまではさっきと同じ。
だが、今度は鬼火がピクシーを包み込み、そして──爆ぜて弾き飛ばす。
「ピピピピ……ピポポポポポポ!?」
鬼火がピクシーの身体に幾つも点る。
体は焼け焦げ、苦痛でその場を転がるのだった。
【?????は やけどした!!】
【しらぬいがえし ゴースト 変化技 相手の攻撃技から身を守る。直接攻撃を受けると相手を火傷にする。連続で出すと失敗する。】
いうなれば、サイゴクアヤシシの専用技とも言える技だ。
鬼火を全身に纏う事で、直接攻撃を仕掛けてきた相手を火傷にする強力なオマケ付きだ。
火傷状態になったポケモンは、物理技の威力が半減してしまい、火力面は落ち込んでしまう。
こうなった以上、ピクシーの攻撃は最早痛くも痒くもない。ポケモンバトルにおける半減はそれだけ大きい。
「よっし、これならいける!! アヤシシ!! ”バリアーラッシュ”!!」
エスパー技の効果が抜群なのは分かり切っている。
後は、障壁を展開し、勢いに任せた一撃をぶつければ良いだけの話だ。
ピクシーは吹き飛ばされ、頭から手術台に突っ込み、そのまま巻き込んで倒れていくのだった。
「な、何とか……跳ね返したな……カルミア、大丈夫か!?」
「……」
「カルミア?」
「……な、何とか」
へたり込んでいたのか、彼女は息を切らせながら立ち上がる。
(何だ? 何もしてねーのに、疲れてないかこの子……?)
「……メ、メグルさん。今のうちに……あの子を捕獲して──」
「あ、ああ!」
ボールを取り出すメグル。
ごろん、と転がったピクシーは起き上がる素振りを見せない。
捕獲するタイミングは今しかない。意を決してモンスターボールを投げ付ける。
ボールは勢いよくピクシーを吸い込んでいくのだった。
しかし、激しく揺れるそれはピキピキと音を立てて砕け散る。
「ぴぴぽぴぽぴぴぴぴ──」
ピクシーは捕獲されることなく中から飛び出してしまった。
そして再び荒ぶると、今度は勢いよくメグル達目掛けて飛び掛かるのだった。
「ッ……ごめんね。痛いよね……マタドガス、ワンダースチーム!!」
しかしそこにマタドガスが、勢いよく高熱の煙を吹きかける。
それを受けたピクシーはふらふらと酔ったかのように足をもつれさせると、そのまま通路の方へ一直線に突っ込んでいく。
間もなく、階段で転んだのか、物凄い音と共に倒れていくのが見えた。
「そうか! ワンダースチームは”混乱”の追加効果があるんだったな! これなら──」
ぱたり。
それくらい軽い音だった。
喜んでいる間も無かった。
彼女の軽くて薄い身体は、あっさりと床に倒れてしまっていた。
一瞬メグルは何が起こったのか分からなかったが、遅れて駆け寄り、彼女を抱き起こす。
「……おい!! おい!! 大丈夫なのか!?」
「……」
「気を失ってる……!?」
こんな状態では戦闘を続行することができない。
ピクシーを追撃したい気持ちは山々だが、今はそれどころではない。
すぐさまメグルは肩にカルミアを引っ掛けると、アヤシシの上に跨る。
「……アヤシシ飛び出せ!! このまま建物から出るぞ!!」
「ブルトゥ!!」
駆け出すアヤシシ。
地下へつながる通路の方からはピクシーが起き上がる音が聞こえてくる。
しかし今は、肩で息をしているカルミアの方が心配になってしまうのだった。
※※※
「……ごめんなさい……足を引っ張ってしまいました」
「謝らなくて良いよ。データは手に入ったんだろ?」
「……抜かりなく、です」
「じゃあ、後は君が元気になれば問題ないな」
「体の方も大丈夫です。……大丈夫だから、気を遣わなくて結構です」
──湖の畔で、メグルはカルミアを寝かせていた。
もう夜で冷え込んできたので、ニンフィアに火をつけてもらい、体温が下がり過ぎないようにする。
ビオトープには木々が生え揃っているので、焚き木の燃料となる枝も集める事が出来た。
エリア1の町から出たからか、もうピクシーは追いかけて来なかった。今は安全だ。
「ニンフィア、ありがとな」
「ふぃるふぃー♪」
「……良く育てられた子ですね、そのニンフィア。貴方によく懐いてるみたいです」
「まあな。とんだじゃじゃ馬娘だから、こうなるまで長かったけどさ。相棒だよ」
「ふぃーあ♪」
にぃ、とニンフィアはカルミアに笑みを浮かべてみせる。
こいつはあたしのものだから、と誇示するかのようだった。
アルカ相手ではないので、嫌悪したり威嚇する程ではないようだが、それでも唾をつけることは許さないらしい。
「……なあ。あいつを倒すにはきっと、2人の力を合わせなきゃいけないと思うんだ」
「ええ……それは……痛い程分かってます」
火傷こそさせたものの、それでもボールに収まるまであのピクシーは暴れ続けるだろう。
「君は俺をサポートしてくれてるし、俺も君と一緒に此処から出たい。だからその上で聞きたいんだけど」
「……?」
「──何でウソ吐くんだ?」
「え」
彼女は口ごもる。
その指摘が図星だ、と自白したも同然だった。
「……わ、私が一体何のウソを」
「君さ、本当に連れ去られてきたのか? カントー、今雪で真っ白だけど」
「ッ……あ」
「そんな格好で旅してたのかよ。豪雪の中を」
妙だな、とメグルは最初から思っていた。
カントーどころか、あの日本とよく似た列島は今、未曽有の大吹雪に襲われている。
防寒着が無ければとてもではないが、外に出られはしない。
だが、彼女の恰好は普通のトレーナー服。太腿も出ているので、この上に防寒着を着ただけでは、あの気候に耐えられるはずがない。
「あの真冬の中連れ去られたなら、防寒着を着ててもおかしくないからな」
「防寒着は今、別の安全な所に置いてて」
「服はそうだろうな。だけど、靴は説明がつかない」
「あっ……」
防寒着はメグルのように途中で脱ぐことができるので言い逃れが出来る。
しかし、靴は話が別だ。メグルでさえ、寒冷地用のブーツを準備してから出ていたし、今もそれをそのまま履いている。
だが、カルミアは運動靴のままである。
「へ、部屋にいる時に連れ去られて……」
「その恰好は部屋にいる格好じゃねえよ。リュック背負って、運動靴も履いてるしな。それとも、連れ去られる時にバッグを回収したのか?」
「……」
「まるで
「……」
「後、初めてこの島に来た割に肝が据わり過ぎてるし、色々詳しかったしな」
「……それで、私をどうするんですか?」
「どうもしねえよ、一緒に此処を出たいし──君が苦しんでるなら、放っておけない。俺は──君とよく似たような目をしたヤツをよーく知ってる」
メグルはカルミアの手を握り締めた。
「君はもう1つウソを吐いてる。大丈夫大丈夫だって口では言ってるけど、顔は全然大丈夫じゃなさそうだ」
顔はやつれている。
メグルとピクシーが戦っている時も、ずっと苦しそうに歯を食いしばっていた。
「だけど、君が悪い人じゃないのは分かる。ウソ吐くのがド下手クソな事。そして……あのポケモンを相手にしてる時、すっごく苦しそうな顔をしていたことだ」
──大丈夫、大丈夫ですから……慣れて、ますから。
(重なっちまうんだよ……誰かさんに似ててな)
脳裏に過るのは、自分の辛さを押し隠してでも笑みを浮かべるあのメカクレ女の姿だった。
彼女もそうだ。自分がボロボロになっても、気遣われまい、弱みを見せまい、と決して自分から弱音を吐くことをしない。
だから放っておけなくなってしまう。深入りしてでも手を掴まなければ消えて居なくなってしまう。
カルミアは観念したように……上半身を起こし、メグルの顔を見つめる。
「……ごめんなさい。私は……此処に自分の意思で此処に来ました。この島を再起動したのも……私……」
ぽつり、ぽつり、と彼女は呟く。
慣れない事はするものじゃないですね、と彼女は笑みを浮かべた。
やはりウソを吐くことは得意ではないようだった。
「何でウソなんて吐いたんだ?」
「絶対に気持ち悪い……って思われるから」
「気持ち悪い?」
「だって、私自身が一番そう思っているもの」
ふふっ、と自嘲するように言った彼女の瞳には、拭えない絶望が浮かんでいた。
「私とミッシングナンバーは……兄弟のようなものなんです。だから……あの子の苦しみは、私の苦しみとなって跳ね返ってくるんです」
「兄弟?」
「……文字通りです。この研究所で遺伝子実験が行われていたのは分かったでしょう? 多くのポケモンの犠牲の上で」
「ああ……まさか」
彼女は頷いた。
「ミッシングナンバーは、万能細胞を培養して、既存のポケモンの姿に似せたポケモン。いうなれば、ポケモンのクローンでニセモノなんです」
対比するような物言いだった。
「そして……世界初の人間の完全クローニングの、成功例……試作品492号……人間のニセモノ。人間もどき。それが……私なんです」
※※※
私は……ポケモンが好きで、ポケモンの事を調べるのが好きで──生物学を勉強していました。
父は有名な科学者で、生物学者だった。尊敬してて。色んな事を教わりました。
遺伝子工学は、ポケモンの新たな可能性を切り開く凄い学問だって……思っていました。
でも──あの日、全部が変わってしまったんです。
父は重い病気になりました。何年も何年も苦しんだ末に亡くなりました。
最後はもう、半ば正気ではなかったかもしれない。
そうじゃなきゃ、私にあんなこと言えるはずがないですよね。
「私は、私は……これで逝けるなら、後悔はない。だが、心残りがあるとするならば、ミッシング・アイランドに遺したものがあるんだ……私のラボに入ることを許す。そこには、お前が私の最高傑作であることの証明が残っている」
熱に浮かされながら言った父の言葉を、その時は戯言だって聞き流そうとしたんです。
だけど、父は私に自分のラボの電子ロックのパスワードを教えたんです。
あの時の彼の顔は──優しかった頃からは考えられないものでした。
自慢をしたいような、誇示をしたいような……そんな傲慢さを孕んだ顔だった。あの時の私は分からなかったけど、今ならそうだと思います。
私は父が死んだ後、ラボに出向き、そこで全ての痕跡を見つけたんです。
遺伝子実験と研究を行っていたメガフロートのミッシング・アイランド。
そこでは、万能細胞を生み出す為に無数のポケモンを犠牲にしていた事。
そして、万能細胞から数例ではあるものの、既存のポケモンによく似たポケモンのミッシング・ナンバーを生み出した事。
信じられないような記録がそこには残っていました。
あれだけ優しかった父が、本当はどういう人物だったのか、どんな実験をしていたのか分かるうちに、私の中では父へ、そして遺伝子研究への嫌悪感が湧いていきました。
でも、そこでやめておけば良かったんです。
好奇心に負けた私は、父のラボを調べに調べ、ついに彼の手記を手に入れました。
ずっと前、20年も前の記録でしたが──そこには、にわかに信じ難い文面が残っていたのです。
『私には娘が居た。しかし、数年前に病で亡くなってしまった。名前はカルミア。もう一度だけで良い、カルミアに会いたい』
父には、娘がもう1人いたんです。
でも、彼女はとっくの昔に亡くなっていました。
『初の人間全身のクローニング成功例──試作品492号は、私の最高傑作だ。今日から試作品492号の名前はカルミア。新しいカルミア』
私は──父さんの子供じゃなかった。お母さんなんて居ない。最初っから居なかったんだ。
それどころか、父さんの子供の代わりだった。
彼が私の成長を喜んでいたのは、自分の作ったものが最高傑作であることが証明されていたから。
『新しいカルミアはどんどん育っていく。ミッシング・アイランドは閉鎖されたが、私の研究は間違っていなかった。実験は成功だ』
細胞を培養し、試験管の中で生まれたのが私なんだって思うと、途端に気持ち悪く思えてしまったんです。私自身が。
『私と同じように生物学の道を志し始めた。私のクローンだから当然か。将来は私の後継者となるかもしれない。今から楽しみだ』
その時の私の絶望感が分かりますか?
自分が得体のしれない何かだって知った時の気持ちが分かりますか?
自分が代替品でしかなかったって知った時の気持ちが分かりますか?
自分の父が、救いようがない人間だったって知った時の気持ちが分かりますか?
……父はやはり愚かな研究者だったのだと思います。いっそ何も言わなければ、私は幸せに父の娘で死ねたのに。
きっと病に長らく侵されたことで本性が出てしまったのでしょう。
私は……紛い物なんです。人間の形をした紛い物。本来なら産まれるはずじゃなかったもの。
じゃあ私は誰? 一体何者? どうやって生まれたの?
私は──自分のルーツだけは知りたかった。自分の産まれた場所には行ってみたかった。
私はラボに置いてあった起動キーを持ってミッシング・アイランドに出向くことにしたんです。