ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC8話:ミッシング・ナンバー

 ※※※

 

 

 かつて私は星だった。

 欠落したのは羽根。水晶の檻から出る為の羽根。空へ上る為の羽根。

 妖精の神秘は失墜した。

 領域を侵す侵入者を排すは、意思なき鉄槌にして星の使徒。

 

 

 

──剛腕の”ミッシング・ナンバー”?????

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──ピクシーもどきは、広場からはもう居なくなっていた。

 カルミアの言っていた巨大な研究所に戻ったのだろう、と判断したメグルは、彼女の案内で例の場所へと赴く。

 成程確かに他の施設と比べても一際大きい。大学の建物のようである。

 シャッターは既に開かれているが、横には電子キーらしきものがあった。

 元々閉じられていたのか、それとも開きっぱなしになっていたのかは分からない。

 そして研究所の看板には「Select Laboratory No.1」と書かれているのだった。

 

(セレクト・ラボラトリィ……ナンバー1……?)

 

 これが研究所の名前か、とメグルは考える。

 恐る恐る中に入っていき、エントランスを突っ切っていく。

 コンピューターがあったらしい部屋は、4階の研究室らしい。

 だが、その近辺を守るように、あるいは侵入者が現れれば排除するように、あのピクシーは徘徊しているのだろう、とメグルは考える。

 しかしまあ薄暗い。そして、実験室の床は何かが暴れたような後で破壊され尽くしている。

 

「内部は危険な薬品が気化している可能性があります。マタドガスの近くから極力離れないで」

「ガラルマタドガスか。ランクルスと言い、カントーに居ないポケモンばっかり持ってるんだな」

「はい……父から貰ったんです」

 

【マタドガス(ガラルのすがた) どくガスポケモン タイプ:毒/フェアリー】

 

 このガラル地方特有のマタドガスは、吸い込んだ有毒ガスを体内で浄化して煙突から吐き出すという習性を持つ。危ない薬品が気化していても、マタドガスが居れば、難を逃れる事が出来る、と彼女は言う。

 

「それにしても酷いな……」

「先程の戦闘で……ボコボコに……」

「じゃあ、あのピクシーもどき、いっつも暴れてるわけじゃねえんだな」

「恐らくは……」

「侵入者が来たから、襲って来たって感じだな。既にこっちの動きが察知されていてもおかしくない」

「……どうしましょう」

「要は不意を突かれなければ良いだけだ」

 

 腰を低くして通路の先を常に確認しながら、敵がいないかを探る。

 中はもう誰も使っていないのか荒れ放題。

 床は薬液でぐちゃぐちゃ。資料であろう紙がばらばらに散らばっている。

 実験台には、薬液が入っていた瓶が並べられている。それらが何なのか、メグルには全く分からなかった。

 

「理科の授業でも見たことが無いようなものばっかりだ……! カルミアは、こういうのに詳しかったりするのか?」

「い、いえっ、父が詳しかったくらいで……実際に見るのは初めてで」

「その割には落ち着いてるな。肝が据わってるっていうか」

「……これでも、ポケモントレーナーですから」

 

 しばらく進むと、モンスターボールを入れていたであろう大きなケースが見えて来る。

 無造作に置かれている段ボール箱。そして、報告書の数々。

 試しに1枚、メグルは報告書らしき紙をまとめたそれを手に取る。

 

「何々……?」

 

『実験記録

細胞●出変換

種族名:●ダック

部位:●臓

飼育●所:エリア2水槽

経過:細胞分裂後、投薬に●り変異●確認。しかし、●秒後に細胞は全て死滅。』

 

『実験記録

細●抽出変換

種族名:コダック

部位:心●

飼育場所:エリア2水槽

経過:細胞分裂後、●薬により変異が確認。しかし、数秒後に細胞は全て死滅。』

 

『実験記録

細胞抽出変換

種族名:コダック

部位:右上腕部筋肉

飼育●所:エ●ア2水槽

経過:細胞分裂後、投薬により変異が確認。しか●、数秒後に細胞は全て死滅。』

 

 写真で見ただけでは最初ピンとこなかったが──それらが細胞を映した顕微鏡写真であることが分かった。

 そして、淡々とした文体で最初は何のことやらと考えていたメグルは、それが解剖したポケモンの部位から採取した細胞を薬品に漬け、どのような変異を辿るかといった実験を行っていたことを悟る。

 

(動物実験か……!)

 

 メグルは──ふと、目の前にある手術台に視線を向ける。

 何を此処で行っていたのかは、想像に難くなかった。

 

(バラしてたんだな……此処で……)

 

 実際、このような動物実験の先に薬などが出来る事は流石にメグルも分かっている。

 だが、本当に製薬のための実験だったのだろうか、と疑問が残る。

 事実この書面ではポケモンの細胞を変異させるのに躍起になっているようだった。

 コダックだけではない。マリルに、トサキント、ゼニガメ。

 これらのポケモンで生死を問わずに実験を行っていたらしい。

 

(意図的にポケモンをウイルスに感染させる実験……投薬して経過を観察する実験……! どっちにしても、ロクな末路は辿らなかっただろうな……!)

 

 そう考えながらメグルは、机に乱雑に置かれていたレポートらしきものを手に取る。

 薄ら寒さを感じながらも、怖いもの見たさが勝っていた。

 そして──彼は激しく後悔する羽目になる。

 

『死●報告書

種族名:●ェルダー

識別個体名:ダー●ゃん

飼●場所:エリア2水槽

経過:投●後、●の変色が起こり、痙攣。数時間後に死亡。

処理:エリア●にて焼却●理』

 

『●亡●告書

種族名:パウワウ

識別●体名:シロ

飼育場所:●リア2水槽

●過:食欲減退、代謝機能の低下。

処理:エリア3にて焼却●●』

 

『死●報告書

種族名:ヒト●マン

識別個体名:ミミー

飼育場所:エリア2水槽

経過:病変により結晶部分が変色。

処理:●リア3にて焼却●理』

 

 捲っていくうちにメグルは耐えられなくなり、それを床に投げ捨てた。

 明らかに弱り果てた後に息絶えたようなポケモンの死骸の写真。そして、病変箇所。

 実験動物が死亡した後の報告書らしいが、写真に写っているポケモンの死骸は、とてもではないがまともな飼育がされていたとは思えない。

 実験後に衰弱したポケモンも居れば、病気になって死亡したポケモン。原因は様々だ。

 しかし、いずれにせよ、直視できるものではなかった。

 

「……ンだコレは……!!」

「だから私も、資料を漁るのはやめたんです……あまりにも、酷くて」

 

 それ自体は、この手の仕事ならば必要な書類であることは分かる。しかし、この部屋に淀む空気。そして当時の姿のままを残し朽ち果てた実験室。

 そして気になる点があるとするならば、此処で飼育されていたポケモンはいずれも水タイプのポケモンばかりという点だ。

 他のタイプのポケモンも無いわけではないが、多くは水ポケモンで占められている。

 これまでの資料から考えるに、普段これらの水ポケモンはエリア2と呼ばれる区域で飼育されていたことが分かる。

 

(普段はエリア2って場所で飼育していたポケモンを、実験する時にこっちに持ってきてたのか……! そして、病気や実験が原因で死んだらエリア3って場所で()()していた……!)

 

 しばらく進んでいくと、今度は「重要書類保管室」とある部屋に辿り着く。

 鍵は開いていた。そこでメグルとカルミアは、段ボールに詰まった書類を漁り出す。

 部屋の外では、アヤシシとランクルスが常に見張っている。

 荒れ果てた部屋の中では、さっきのような報告書やレポートが多数見つかる。

 中には変わり果てたポケモンの姿を映し出したものもあり、直視に堪えないものもあった。

 だが、この島や施設に関するヒントは無いか、と探していくうちに──足元にUSBメモリらしきものが落ちていることにメグルは気付く。傍には、壁時計が落ちていた。

 

(壁時計の裏にUSBを隠していたのか。落っこちて出てきたんだな)

 

 ウイルスが入っている可能性があることは否めなかったが、スマホロトムのセキュリティ機能は強い。もしも支障をきたすようなら、すぐに排出してくれる。

 メグルはケーブルを取り出し、USBに接続。中身のフォルダを探ってみると、音声ファイルのようだった。

 それを再生すると──流れて来るのは、男の声だった。しばらくは他愛のない会話が続いていたが──

 

『そう言えば、またエリア2の方でポケモンが死んだようですな』

『全く、やめてほしいものだな。他の検体にも影響が出る』

『使えん検体が多いと困りますな。飼育スペースにもう少し予算を掛けた方が良いのでは?』

『どうせ死ぬポケモンに金をこれ以上かけてどうする。検体は山ほど居るんだぞ。弱い個体が淘汰されただけだ』

『それもそうですな』

『せめて、万能細胞になって死んでほしいものですねえ。ポケモンもタダじゃないんだから』

『ところで、ミッシング・ナンバーの調整は?』

『成功したのはたったの5例。しかも欠損部位が多く……ですが、エリア4の研究員が処分するには惜しいと言っていまして』

『改造すれば、兵器として運用できる程に強い、か。確かに目標値には到達しなかったが……思わぬ副産物が出来たな』

『欠損部位を補うだけの改造を施せば、アレを上回るだけの力が出来ますぞ』

『ああ。上手くいけば我々だけで決起して、鬱陶しい奴等を皆ひっくり返せるやもしれんぞ』

『それなら無駄死にしたポケモンも、多少は浮かばれるというものですかな?』

『ハハハハハハ……』

 

 ブツリ。

 

 そこで音声データは途切れていた。メグルは不思議と唇が渇いていた。

 カルミアも、慄いた表情が隠せないようだった。

 

「何だよ、これ……」

「……腐ってますね。何処までも」

 

 あの死亡報告書の裏側が自然と透ける。

 命を扱う仕事ならば、生き物の死を繰り返し見ているうちにそれが当たり前になって麻痺してしまうこともあるだろう。

 心を殺さなければいけない時もあるだろう。

 だが、此処にいる彼らは生き物の命を命とすら思っていない。

 ポケモンの死を損失としか思っておらず、今生きている実験動物の飼育にかける予算すらムダとして切り捨てる。

 生物学者としても、命を扱う職業の人間としても三流、杜撰としか言いようがない。

 おまけに、彼らの実験の辿り着く先は、彼らの野望で私利私欲だ。

 

(何匹無意味に死んだ? 何匹無駄に死なせた? ここの実験がどう役に立つものかは俺には分からない。だけど……)

 

 この研究所に居た人間にまともな倫理観を期待していたわけではない。

 だが、それでも胸糞の悪いものが込み上げて来る。

 

(ミッシングナンバーって何だよ。クーデターって何だよ。意味分かんねえよ。こいつら気持ち悪ぃよ)

 

「……カルミア、コンピューターが生きてる部屋って何処だ?」

「地下です。この部屋を通り抜けた先が近道になっていて」

「分かった。さっさと通り抜けよう」

「……そうですね」

 

 メグルは、資料室を後にして、アヤシシをボールに戻した。

 

 

 

(……一つ言えることがあるとするなら──ここに居た連中に、命を扱う資格はねーよ)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──辿り着いたコンピューター室には、ピクシーらしき例のポケモンの姿は無かった。

 ほとんどのパソコンは画面が割れて壊れていたが、1つだけ電源が入っており、ディスプレイには複数のフォルダが表示されている。

 めぼしいものは全部で3つ。

 ”ミッシング計画概要”。

 ”ミッシングナンバー利用計画”。

 ”エリアマップ”。

 

「”計画概要”を閲覧している途中で襲われたんです」

「早速見てみるか。もう嫌な予感しかしねーけどな」

 

 中には文書ファイルが入っていた。 

 それを開くと──びっしりと文字が敷き詰められていた。

 全て読むのはかなり骨が折れたが、専門用語を可能な限り使わずに要約すると、以下のようなことが分かった。

 

『我々セレクト団は、選ばれし科学者としてあらゆるポケモンへのクローニングを実現するべく、万能細胞の作製を目的として今日まで研究を続けてきた。

このM万能細胞のMは、全てのポケモンの祖である”ミュウ”に由来するものである。』

 

「万能細胞……? IPS細胞みてーなもんか……?」

 

 ──ミュウ。

 それは、あらゆるポケモンの技を使い、あらゆるポケモンの遺伝子を持つ、ポケモンの生物学上の祖先と言われる存在。

 しかし、その姿を見たものは殆ど居らず、文字通りの幻のポケモンである。

 その僅かな存在の痕跡からクローニングされたのが、本編で伝説のポケモンとして登場したミュウツーだ。

 そして、此処で言うM万能細胞は、人工的に培養した、まるでミュウのようにあらゆるポケモンになりえる細胞であるとされていた。

 

『この研究所での実験の目標は、安定してM万能細胞を作り上げ、理論上全てのポケモンをクローニングのみで再現することである』

 

『セレクト研究団は、水タイプのポケモンの細胞が水に近しい性質を持つため、比較的変異しやすいことを突き止めた。そして、試薬HS-02で細胞に揺さぶりをかけることで、万能細胞を作ることに成功したが、それ以降は全て失敗だった』

 

(水タイプのポケモンで……()()()()()()()()()()()()()()……?)

 

 メグルの脳裏に、過ったのは初代ポケモンのバグだった。

 ミュウは元々、初代ポケモンの空きデータに入れられた存在だった。

 そのためバグを使えば、このミュウを出現させることが出来たのである。

 その名は──セレクトバグ。「道具の○番目でセレクトボタンを押した後、Bボタン2連打でキャンセルしてメニューコマンドを閉じる」……といった手法で、様々な本来有り得ない事象を起こすことが出来たのである。

 そして、水タイプのポケモンを先頭にしているときにセレクトバグを起こすことで、ミュウを呼び出すことが出来たのだった。

 だが、必ずしも狙ってミュウを呼び出せるわけではなく、その過程で無数のバグったポケモン──通称バグポケが水ポケモンを犠牲に生まれたのだった。

 よしんばミュウが呼び出せたとしても、そのミュウはガワだけで、正常にゲームが動く保証も無かったのであるが。

 

(はー、何の因果かこの研究団の名前も”セレクト”だし……セレクトバグがそのまま組織になったような連中だな)

 

『しかし、万能細胞への変異は未だに安定しない。そこで我々はGSカンパニーやロケット・コンツェルンといった大企業の融資を受け、全ての財力を投げ打ってこのメガフロート”ミッシングアイランド”を海上に建設した』

 

(ロケット・コンツェルン……確かロケット団の表向きの名前か。やっぱロクでもねーんじゃねえか、こいつ等)

 

『島のエリアは5つに分かれ──』

 

 

 

 

 

「ピピピピピ……ピポポポポポ……」

 

 

 

 

 メグル達は飛び退いた。

 先程のピクシーらしきポケモンの鳴き声が聞こえてくる。

 こちらの部屋まで迫ってきている。

 

「……どうしますか? メグルさん」

「こっちから強襲を仕掛ける。コンピューターを壊されたら面倒だし、先に追い出しちまうぞ」

「……分かりました」

「ピピピピピ……ピポポポポポ……」

 

 ぎらり、とバイザーから赤い光が扉の隙間から覗いた──その時だった。

 

「飛び出せアヤシシ!!」

 

 勢いよくアヤシシが扉からピクシーもどきのそれを突き飛ばす。

 不意を突かれたサイボーグはごろんごろん、と通路に転がって起き上がる。

 

 

 

「わりーな、サイボーグ。邪魔されたら困るんだ。今度は……捕獲させて貰うぞ!」

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