ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
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「……んだ、此処? 民家らしき建物じゃねえよな、これ」
今こそ朽ちているが、新築の頃は潔癖な程に白い建物だったのだろうと言うことが分かる。
そして、建物の規格、大きさは均一で、生活感が感じられない。
入り口は全部シャッターで閉められてしまっており、入れないようだった。
窓が割れているので覗いてみたが、割れたビーカーや試験管が散乱しているのが見えた。
(町じゃねえ……こりゃ廃墟だ! しかも、此処にあるのって人が住むための家じゃなくて……研究所?)
何処か薄ら寒いものを感じながらも、メグルは「町」を進んでいく。
ポケモンセンターやフレンドリィショップといった、人の温かみを感じるようなものは期待しない方が良い、とメグルは考える。
(それにしても、さっきから何だ? 見られているような……)
「アヤシシ、何か気配、感じるよな?」
「ブルトゥ……」
「いつでも戦えるようにしとけよ」
辺りを見回しながら、ライドギアから降りるメグル。乗ったままでは、すぐにアヤシシが反撃に転じることが出来ない。
手は汗ばみ、唇は渇いてくる。
そして次の瞬間、ガラガラと音が背後から聞こえてくる。
「──アヤシシ──!!」
振り返り、角を構えるアヤシシ。
建物の壁が崩れ、瓦礫が転がる。
だが、待てども待てども、何も出てきはしない。
恐る恐る近寄ってみたものの、崩れた壁からは何も見えない。
経年劣化で壊れただけのようであった。
(ンだよ、大山鳴動して鼠一匹……!)
さっき窓から覗いた建物のように、ビーカーや試験管が転がっているだけだ。
しかし、破壊する手間は省けた。中にある本や、転がっている物の正体も気になる。
中に入って一通り調べてみることにする。
散らばっている本は、いずれもレポートや分厚い書籍。
そして、背表紙には「携帯獣遺伝子工学」や「携帯獣応用生物学」、「遺伝子操作の是非」などなど、生物学や遺伝子工学に関するものばかり。
その他、難しそうなポケモンの本がたくさん並んでいる。
(って事は、此処で研究してたのは生物学……遺伝子工学、つまりバイオテクノロジーって事か)
そして、目を滑らせていくと──その中には「人工ポケモン・ポリゴン」「古代ポケモン改造・ゲノム計画など、ポケモンというゲームをやっていれば引っ掛かるキーワードの名前もある。
(……ポリゴンはバーチャル世界で作られた人工ポケモンだったな。ゲノム計画って……これ絶対、ゲノセクトの事だろ……)
メグルの記憶では、ポリゴンは電脳世界と現実世界を行き来する力を持つポケモンで、初の完全人工ポケモンとされている。
そして、ゲノセクトは古代の化石から復元したポケモンを改造した兵器であり、幻のポケモンだ。
このような書籍まで置いてあるのを見ると、此処でどのような研究をしていたのか、何となく想像がついてしまう。
(ポケモンで遺伝子実験……やっぱり思い当たるのは──)
ドッガガガァァァーン!!
考察しようとした矢先、今度こそ何事も無くはなさそうな爆音が響き渡った。それも地鳴りとセットで。
すぐさまメグルは研究所を飛び出し、無言でアヤシシに飛び乗り、音が鳴った方へと走らせる。
駆け付けた先は、公園のように開けた場所。そのド真ん中に、先程の爆音を裏付けるかのような大穴が開いている。
そして、穴を開けたであろうポケモンは、殺意の籠った目で──見知らぬ少女に詰め寄っている。
ポケモンの全身はピンク色。そして、ずんぐりとした体形で、そこにあるはずの目は鋼鉄製のバイザーによって隠れてしまっている。
いうなればサイボーグだ。ベースは生体だが、欠落した部分が鋼で補われている半生半機である。
だが、メグルはこれらの特徴から1つの類似したポケモンの名を導き出す。
(あれって──ピクシー!?)
「ピピピピピ……ピポポポポ……ッ!!」
【ピクシー? ????ポケモン タイプ:???/???】
メグルの脳裏にはその名が浮かぶ。
しかし、その腕は彼の記憶のそれよりも巨大で屈強。
更に背中にあるはずの羽根が見当たらない。
(いや、そっちも気になるけど──)
一方、少女の傍には、ゼリーに包まれた細胞のようなポケモンが倒れている。あのピクシーに似たポケモンに手痛い一撃を受けたのだろう。
(ランクルス……! なかなか良いポケモン持ってるな……だけど、あのピクシーみてーなヤツにやられちまったのか!)
【ランクルス ぞうふくポケモン タイプ:エスパー】
少女はメグルに気付くなり驚いたような顔を浮かべ「た、助けてください──ッ!!」と声を上げる。
ぐるぐると腕を回していくにつれて、ピクシーもどきの腕は赤熱していっており、エネルギーが溜まっていることが一目で分かる。
この大穴を開けた一撃が人間にぶつけられれば、ただでは済まない。メグルは迷わずアヤシシに指示を出すのだった。
「アヤシシ、すてみタックルでピクシーを飛ばせ!! 近付かせるな!!」
「ブルトゥ!!」
すぐさまアヤシシが地面を蹴り、そのポケモンに向かって跳ぶ。
体全部を使った渾身の一撃だ。
突貫は見事に決まり、異形のそれを吹き飛ばす。そして、側溝に腕が嵌まり込んでしまったのか、それを引き抜くのに手間取っているようだった。
「しめた!!」
その隙にメグルは、へたり込んでいる少女の手を引いて叫ぶ。逃げるタイミングは此処しかない。
「逃げるぞ!!」
「は、はいっ……!」
少女はボールを取り出して、ランクルスを引っ込める。
そのまま、戻って来たアヤシシにメグルは飛び乗り、少女も後ろに乗っかる。
ピクシーもどきが起き上がろうとする最中、アヤシシは後ろ脚の鬼火を爆発させてその場から素早く離脱するのだった。
ともかく、この町の中に居れば却って危ないと言う事だけは分かる。
メグルはアヤシシを走らせ、走らせ、そして──さっきの湖の近くまで戻ってくるのだった。
(結局逆戻りじゃねえか……!! 折角町を見つけたかと思ったのに、まーたよく分からないパチモンみてーなポケモンが出てきてるし……!! まあ、人が居たのは幸いっちゃ幸いだけど……)
「おい、大丈夫か? 怪我は無いか?」
「だ、大丈夫……です。助けていただいてありがとうございました」
少女をアヤシシから降ろす。
長い黒髪が目を引き、上品で清楚な印象を受けた。
頭にはカチューシャが付けられており、風貌だけならば何処かのお嬢様と言われても不思議ではない。
服装は白いパーカーに黒いインナーにスカート。ポケモントレーナーらしい動きやすい服装だ。背中にはリュックサックを背負っている。
「……貴方は、どうやって此処に?」
「ああ、信じられねーかもしれないけど、ポケモンに連れて来られちまったんだよ……そういう君は、何でこんな所に居たんだよ?」
「……いえ……貴方と同じですね。私もポケモンに連れられて、いつの間にか……」
確かに伝説のポケモンのコピーなら他にもいてもおかしくはないのか、とメグルは納得した。
「良かった、同じ境遇の人間が居て安心した……えーと……俺はメグル! サイゴク地方のポケモントレーナーだ。あんたは?」
「ッえ、えと……カルミア。カルミアと申します。出身はカントーです。その……旅のポケモントレーナーをしています」
【カルミア ポケモントレーナー】
髪を指でいじりながら少女は言った。あまり人と話すのが得意ではないのか、目を逸らしている。
しかしメグルが知る限り、これを遥かに上回る人見知りが居るので全く気にならなかった。
しばらく黙りこくっていた彼女はぽつり、ぽつり、と話し始める。
「……先程は助けていただいてありがとうございます」
「一体、何があったんだ? 何であのピクシーみたいなポケモンに襲われていたんだ?」
「……脱出の手掛かりを探していたんです。この島の外周部はハニカム状の障壁に覆われていて、ポケモンの技でも壊せませんでした」
「そうだったのか……俺も、外周部に行こうと思ってたんだが、ポケモンの技でも壊せないなら別の方法を試さなきゃな」
あのスイクンはあっさりと内部に入ることが出来たものの、出るのは難しい。となると承認が無ければ入る事が出来ないのだろう、とメグルは考える。
しかし奇妙な島だ、と彼は考える。障壁に結晶が纏わりついていたことと言い、そのようなドーム状の障壁が展開されていることと言い、島自体に大規模な改造が施されているのだろう、と彼は考える。
「力づくで突破出来ないならば、せめて何かヒントが無いかと、あの町を探索していたら、一際大きな研究所を見つけたんです」
「一際大きな研究所? 研究所っぽい建物ならあちこちにあったけど、もっと大きいのがあったのか」
「はい……そこなら何か手掛かりがあるだろうと思って入ったら……電源が入っているコンピューターを見つけたんです」
「コンピューター?」
「大きなモニターがあるパソコンです。私は、その中身を見ようとしたら──途中であのポケモンが出てきて……」
曰く。ランクルスは決して生温い鍛え方をしていたわけではないが、それでもあのサイボーグのようなピクシーの攻撃の前では太刀打ちできなかったらしい。
外まで追いかけ回され、そのままランクルスも殴り倒されてしまったのだという。無理もない、とメグルは考える。地面にあれだけのクレーターを開けられるポケモンだ。
(ピクシーは耐久向けのステータスだが、あのサイボーグは……ほぼ別物と思って良いな。原種が殴ってもあんな穴は開かねえだろ)
「成程、大体分かった。島の情報だとか手掛かりだとかは、そのデカい研究所のパソコンにありそうだな」
町の中にあった施設は荒廃しきっており、手掛かりになりそうなものはあまり無かった。
「だけど、あのピクシーボーグが邪魔をしている。だから、あいつを倒す必要があるわけだ」
「は、話が早くて助かります……」
「ポケモントレーナーだからな。多分あいつは、俺一人でも手に余るだろうし……二人掛かりで戦った方が確実だろ」
「良いのですか? 見ず知らずの私に協力して……」
「互いに困ってるんだ。助け合うのが筋ってもんだろ。俺も早いところこんな所出たいしな」
(出たいけど……それ以上に気になることがあまりにも多すぎる)
何より先程、研究室で得られた情報と、あの奇妙なポケモンについて考えると嫌な予感が頭に過る。
此処で行われていた研究の
とはいえ研究員らしき姿はなく、むしろ一度研究所は放棄されているようにすら思える。それどころか人の気配すらない。この島はあまりにも不可解な事が多すぎる。
(まだ憶測に過ぎねえけど……いや、憶測であってほしいが……あのコピーみてーな伝説のポケモンも、
分からない事は、あまりにも多い。だが、憶測だけだ。情報が現時点ではあまりにも少なすぎる。
先ずはあのピクシーのようなポケモンを突破しないことには先に進むことはできない。
最大の脅威は、地面に穴を穿つことができるほどの怪腕だ。ぐるぐると腕を回しているときに腕が赤く熱されていたのを見るに、最大限まで力を溜めた打撃は恐ろしい威力となることは想像に難くない。
しかし、動きは鈍重で、アヤシシの不意の突進に対応できない程度である。
(タイプはなんだ? 鋼っぽいパーツが付いてたし鋼タイプあるのか? ピクシーはフェアリータイプだけど……鋼付きなら、相当厄介だぞ)
「あの……考え込んでどうしたんですか?」
カルミアがメグルの顔を覗き込む。
いきなり座り込んで唸り出したので、気になってしまったようだった。
「え? ああ、さっきのピクシーみてーなポケモンを倒す方法を考えてたんだ。……そうだ!」
「な、何でしょう?」
「君の連れてたランクルスの技! あいつに効いてたかどうか知りたいんだけど」
「……エスパー技は……かなり手痛く通用しているようでした。ただ、怒らせた後の猛攻が凄まじく……ランクルスのスピードでは追いつけなくって」
(そういやランクルスってSが30しかねーんだった……ピクシーは60だから、倍近く差を付けられてるな)
ピクシーを下回る超鈍足ポケモンである以上、無理もない。
しかし同時にエスパーが効果抜群であることは大きな材料だ。
(鋼は無いな……エスパーが抜群突けるのは格闘、そして毒! ただ、見た感じは毒っぽい感じはしなかったから、格闘タイプ……!)
そして、メグルのパーティで格闘に弱点を突けるのはニンフィアとアヤシシである。
ニンフィアの防御は低いので、超火力の物理技には極力警戒して戦わなければならないが、ハイパーボイスをぶつければ大きくダメージを与えることが考えられる。
一方、アヤシシは耐久力が高いことと、ゴーストタイプであることから打ちあいならば先ず負けることはない。
(適任はアヤシシだな……ダメならニンフィアに交代すれば良い。あのぐるぐるパンチの溜めは長そうだし、その隙を突けば、一撃で倒すことができるかもしれない。何なら捕獲してみるか? 調べてみたら、何か分かるかもしれないし)
「なあ、君! 他に手持ちは居ないのか?」
「居るには居ます……後2匹程」
「合計3匹か……数は申し分ないな。それに、ランクルスなら弱点を突くことができるだろうし」
「えーと……勝算はあるんですか?」
「ある!」
──って、自信満々に言って出ていった矢先だったんだよな、あの偽スイクンにしてやられたのは。今度はもう、油断しない!
今度はもう油断するまい、とメグルはオージュエルをなぞった。
相手がオオワザを使ってくる可能性も考えて、何時でもオーパーツを準備しておくのだ。
「相手の動きはそんなに素早いわけじゃないしな」
「ですが、あの腕の火力は脅威ですよ? ランクルスも腕の一撃でフッ飛ばされてしまって……」
「きっと格闘技じゃないタイプの技で攻撃されたんだろうな。だから弱体化させる。徹底的にな」
メグルはアヤシシに目配せする。
いつも通りに、と言わんばかりに彼は頷くのだった。
「勿論、カルミアにも手伝ってもらうからな!」
「そう上手くいくんでしょうか……?」
※※※
「くしゅんっ……なんかわからないけど……メグルが
「いや、流石に気の所為っしょ」
「ねえヒルギさん! 向こうに着くのって」
「まだまだ先だ」
「ええ……」
高速クルーザー、ミッシング島に到着するまで残り6時間──