ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
CC6話:その名はミッシングアイランド
※※※
──メグルの目が覚めたのは、スイクンが水晶の島に接近してからである。
自分が暗い沖の上を移動していることを察したメグルは、全てを諦めて身をゆだねるのだった。
全身が痛い。最早ボールからポケモンを出して抵抗するどころではない。
しかも、よりによってボールが5つしかないのである。あの時オオワザに巻き込まれたアブソルの分だ、と彼は判断した。
(さあ困った……ヘイラッシャは居る……だけど、こんな冷たい夜の海に投げ出されたら心臓麻痺で死ぬね。何より抵抗したらスイクンに何されるか分かったもんじゃない。此処は陸地がせめて見えるところで──お、あるじゃん)
この洋上で落っこちたら、いよいよ待つのは死のみである。
メグルは、偽スイクンから落ちないように体を掴む。
そして──彼の視線の先にあるのは、全面が水晶に覆われた奇妙な島だった。
(何だありゃ……! あんな面白おかしな島があったのか!)
──水晶の島の全面は、鉱物に覆われている。
ドーム状の透明な障壁が水晶化しているようだった。それぞれは六角形のハニカム状になっており、メグルを乗せた偽スイクンが近付くと、障壁の一部に穴が開き、招き入れられる。
そうして、入り込んだ先に広がっているのは、島の外からは水晶によって決して確認出来ない広々とした世界だった。
空の色は斑。そして、宙には泡のようなものが浮かび上がっている。
だが、そんな中でも、森林が、湖が、山が、そして──遠巻きだが町が見える。
尤も、それらも水晶が浸食するように表面を覆っているのであるが。
(どうなってんだ!? 水晶の中に、これだけの地形が広がっているのか……!? でも、外からは全く何も見えなかったのに)
「すすいー」
そのまま、湖の上に着地するスイクン。
しばらく、先程のように軽やかに水の上を疾走する。
何処まで連れていかれるんだろう、と戦々恐々していたが──それが分かる前に悲劇は訪れた。
突然、スイッチが切れたかのようにスイクンの身体が消滅したのである。
「──は?」
ドボン。
湖の中にメグルは投げ出される羽目になる。
冷たい水が服の中に染みこみ、錘と化す。
いきなりの事で暴れ、溺れそうになるメグル。
「わっぷ、わぷ!?」
しかし以前ノオトから教わった言葉を思い出す。
(水に落っこちた時って、暴れるとかえって沈みやすくなるんスよ、余計な体力使うし。背中で浮かび上がった方が身のためッスよ。後、靴は脱がねえほうが良いッス)
大の字に手足を広げ、水面に浮かび上がるのだった。
だが、これでも水を吸った服の所為で思ったように身体が動かないし、気を抜くと沈んでしまう。
「はぁ、はぁ、死ぬかと、思った……クソッ……」
幸い此処から岸は然程遠くはない。だが、泳ぎ切る前に力尽きてしまう。
故にポケモンの力を借りる必要があった。
「……つー訳で出番だヘイラッシャ」
「ラッシャーセイ!!」
メグルは腰のボールのうちの1つを手に取り、投げ込む。
出てきたヘイラッシャは「何がどうしてこうなった?」と問いたい様子でメグルを水中から覗き込んでいたが、一先ず主が溺れるかどうかの瀬戸際と悟ると、そのまま水中から彼の背中を押し上げるのだった。
「……た、助かった……そのまま陸地まで運んでくれ」
岸に上がった時、もう服は水を吸いきっており、身体は冷え、そして身体は重くなっていた。
防寒着を脱ぎ捨てて抱える。幾らヘイラッシャが居ると言えど、陸地から遠い場所でスイクンに抵抗しなくて良かった、とメグルは本気で自分の判断に感謝するのだった。
幾らヘイラッシャが居ると言っても、倒したと思ったらオオワザを撃ってくるような怪物と戦う自信は無い。
(それにしても……何だ此処。何処に行けばいいんだ──ぶえっくしょい!!)
外は冷え込む。
身体が濡れている所為なのであるが。
陸地に辿り着いたのは良いが、何処となく周囲は薄明るい。
空は案の定水晶に覆われており、此処から外壁は歩いていくと結構遠そうだし、そこまで辿り着く気力もメグルには無かった。
(スマホロトムは……圏外か)
これでは連絡を取る事すら出来ない。
あの場に居たアルカに、せめて無事を伝えたいのであるが。
遠巻きには──建物が見える。外壁の近く──即ち海辺の為、そこに町があってもおかしくはないのであるが。
(だとしたら、此処は何処なんだ……?)
町がある以上は、何処かの地方ではないか。
そして、町に行けば何かヒントがあるのではないか、と考える。
人が居るならば、猶更だ。
(それまで、辛抱だ……!! 気を強く持て、俺……!!)
「ふぃるふぃー……?」
ぽん、と音を立てて中からニンフィアが飛び出す。
こちらを不安そうな顔で見ている。
彼女は一番の相棒だ。一先ず、分かる範囲で今の状況を話すことにする。何処まで伝わるか分かったものではないが。
「……悪いニンフィア。さっきのスイクンに、ヘンな所に連れて来られちまったみたいだ。アブソルもいねーし、アルカのヤツも居ない。だけど……何とかするぞ」
「ふぃー! ……ふぃ?」
──しかし、そこは流石凶悪毛玉。不安よりも先に、自分の天敵とも言えるアルカ、アブソル、そしてデカヌチャンが居ないことが何を意味するのかを察した。
「あれ? 今こそ主人を独占するチャンスでは?」と。
「ふぃるふぃー♪」
「あの、ニンフィアさん? 凄く機嫌良くない?」
「ふぃー? ふぃー!」
「……そうだ。ニンフィア、ちょっと協力してくれるか?」
「ふぃ?」
メグルはスマホロトムのボックス機能を起動する。
そして、以前ニンフィアに覚えさせるだけ覚えさせていた技を彼女に再習得させた。思った通りに上手くいくかは分からないが、やるだけのことはやってみることにする。
「”マジカルフレイム”!」
「ふぃー!」
ふぅっ、と彼女はメグルの目の前に炎を浮かび上がらせる。魔法の炎を燃え上がらせる”マジカルフレイム”だ。
「……助かった……あったけぇ……」
「ふぃーあ♪」
服を脱いで乾かしながら、手を近付けるメグル。
魔法の炎だが、暖かい。しかも、空中に浮いているので、燃え広がる心配も無い。
濡れた身体を乾かし、一頻り温まったところで、彼はニンフィアをたっぷりと甘えさせてやり、次の行動に映る。すっかりご満悦の彼女は足元で満足そうに丸まっていた。
「さて、と人が居そうなところを探すしかないよな」
「ふぃー?」
「この島の事も知りたいし」
「ふぃー!」
彼女はメグルの肩に乗っかる。
バッグの中身は幸い無事だ。濡れてしまっていて、使い物にならなくなってしまっているものもあるが、回復薬は別でポーチに入れているので無事だった。
さっきの戦闘で倒れたアヤシシをポーチの”げんきのかけら”で回復させると、そのまま上に跨る。
「アヤシシ……このまま街の方まで一直線、駆けてくれ!」
「ブルトゥ!」
メグルは体を摩りながらライドギアのハンドルを握り締める。
主人の窮地を察してか、アヤシシは脚部の鬼火を爆発させると、その勢いで町まで走り始めるのだった。
※※※
「アルカさんっ、平気ッスか!?」
「……平気なわけないよ」
エンジュのポケモンセンターに駆け付けたノオトは、漸くアルカと合流することに成功した。
「──ボクの目の前で……連れ去られていったんだ。助けに行かなきゃ……メグルの居場所は分かったの!?」
「落ち着くッスよ、既に座標は確認してるッス。後は──オレっち達でメグルさんを助けるだけッス」
「……ボクも行くよ!」
「なかなか熱い女だな」
そう言って、遅れてポケモンセンターに入って来たのは、アルカにとっては初対面となる長身の男だった。
その冷たい視線に、彼女は思わず冷や汗。あのイヌハギを思わせるものだったからである。
「……その人は?」
「セイランの新しいキャプテンのヒルギさんッス」
「宜しく頼む」
「……ど、ども……」
「お前がヒャッキの娘か。……熱いのは良いが、話を先に聞いていけ」
「……話って?」
「メグルは伝説のポケモン・スイクンに乗せられたまま、機械と水晶の孤島”ミッシングアイランド”に連れ去られた」
「ミッシングアイランド……?」
「島の正式名称ッスね」
「公式記録から抹消されて”なかったことにされていた”島。その筋の人間からは水晶の島と呼ばれている」
ヒルギの話によれば──この島は周期的に浮上と潜水を繰り返しているのだと言う。
それは、島の存在そのものを隠すために島自体をドーム状のバリアで覆い、海に隠れる為の機能だったのだという。
「待ってよ。それじゃあ島がまるで潜水艦か何かみたいじゃん」
「そうだ。ミッシングアイランドは、かつてとある研究組織が実験の為に造っていた巨大メガフロート。かのマリゴルドが、デイドリームを作る上で技術を引用したものの1つ……言わばデイドリームの試作品と言っても良い」
国際警察がマリゴルドにミッシングアイランドについて取り調べたところ、様々な情報が得られたのだと言う。
先ず、GSカンパニーが少なからず、この島の開発に資金を出していた協賛企業だったこと。
公にはエーテルパラダイスから技術引用した一方で、デイドリームの中核部分や人工ビオトープなどの技術は、このミッシングアイランドから着想を得ているとのことで、事実両方で開発に携わったスタッフも居るのだと言う。
だが、それらは全て表には出ておらず、公式ではミッシングアイランド自体が無かったことになっている。
「デイドリームの試作品……成程、話が繋がったッスね! そりゃあそうか、あんなでっかいメガフロート、一発で作れるわけがねえッス」
「でも待って。何でそんな人工島、誰も知らないの?」
「秘密裏に作っていたからだ。表向きはリゾート型メガフロートだったデイドリームとは違い、ミッシングアイランドは──存在そのものが後ろめたいものだったのさ」
「……その目的って……」
「──
最近、ノオトとキリが解決に当たったBURST細胞事件。あの武器商人たちが作っていたBURST細胞の原材料は、メタモンを使った万能細胞だった。
万能細胞の定義は分かれるが、彼曰く──それは、ありとあらゆるポケモンの臓器になりえる素質を持つ細胞なのだと言う。
もし、培養に成功すれば、事実上すべてのポケモンのクローニングが可能であるとまで言われている、文字通り禁断の技術である。
「万能細胞なんて作って、一体全体何を作ろうとしてたんスかね?」
「さあな。長らく海中に沈んでいた事、そして記録抹消によって、誰にも知られることがなかった極秘の遺伝子実験の痕跡が残っているはずだ」
「何で記録が抹消されていたの?」
「関係者による隠蔽。そして、ミッシングアイランドそのものが海中に潜伏していたからだ。更に、レーダーに映らないステルス機能から、国際警察は”あるはず”のそれに長らく気付かなかった」
「じゃあ、中ではまだ実験が続いてるってこと!?」
「……否、マリゴルドの証言によれば、一度ミッシングアイランドは放棄されたらしい。どうやら大規模な事故が起こったのだという」
──まとめると、ミッシングアイランドは潜水可能なメガフロート。内部ではかつて、万能細胞を作るための遺伝子実験が行われていた。その性質から長らく存在自体が都市伝説とされていたが、マリゴルドの逮捕と彼の証言によって、協賛企業と組織の存在、そして事故が起きて一度は確実に放棄されたらしいことが明らかになった。
だが、こうして浮上した以上──ミッシングアイランドは未だに稼働状態にあること。そして何者かが動かしているであろう可能性が浮かぶ。
「何より恐ろしいのは──ミッシングアイランドは未だに動いている点だ。何故浮上したのか。誰が動かしているかは分からない。しかし、良からぬことであることは確かだ」
今世を騒がせている伝説ポケモンの偽者とも無関係ではない、とヒルギは考えている。現に偽スイクンは、巣に戻るかの如く島に向かっている。
「猶更……早くメグルを助けなきゃ。こんな所でお喋りしてる場合じゃない!」
「意気込みは良いが──過酷な探索が予想される。ヌルい覚悟では、立ち向かえない」
「……その言葉。ボクの境遇を知ってるなら、絶対に言えないよ。どんな辛い試練だとしても──ヒャッキでの日々に比べればなんてことない!」
ヒルギはアルカの目を見つめる。
そして、その中に何かを見出したのか納得したように振り向いた。
「熱いな。嫌いじゃあない。お前にそこまで火をつけるメグルという男がどんなものなのか、是非見てみたいものだ」
「ッ……良いの?」
「ああ。ところで質問が1つある」
「な、何?」
「そのメグルという男とお前、デキているのか?」
「ん”にゃっ……」
ズバリと言い当てるように言われ、アルカは顔を真っ赤にしてしまう。
「な、何なのさーッ! 関係ないよね!?」
「関係ある。
「ヒルギさん、人のプライベートにずかずかと踏み込むモンじゃねーッスよ」
「……そうか?」
「そうだよっ! た、確かにメグルはボクの……彼氏だけどさ!」
「元より俺はお前を連れていくつもりだ。テング団討滅に関わり、デイドリーム事変でも活躍したお前達に、俺は興味を持っている。尤も、足を引っ張るようなら置いていくが──」
「むがっ、足なんて引っ張らないよ!!」
「なら、そのままの勢いで居ろ。……全ての準備は船内で出来る。付いて来い」
そう言って彼は先にポケモンセンターから出て行ってしまうのだった。
「──な、何だろあの人……悪い人じゃないんだろうけど……いちいち腹が立つなぁ。一体、何考えてんだろ」
「いーや? 何にも考えてないだけッスよ」
「え”」
「あの人……ド天然でドマイペースで、デリカシーの欠片もねーんス。キリさんにも似たようなこと聞いて、クナイをブッ刺されてたッスからねぇ」
「ええ、命知らずだな……てゆーか、キリさんって恋人居るの?」
(しまった、要らねえこと言った……)
まだメグル達にはキリの正体や、その背景の事情について説明していなかったことをノオトは思い出す。
姉にはカミングアウトした後だったので、ついついそのノリで言ってしまったのである。
「それはさておきっ! またアルカさんと冒険できるなんて思わなかったッスよ。今回はちょっと変則的な形ッスけどね」
「……だね。ノオトは良いの? キャプテンの業務とか色々あるんじゃない?」
「サイゴクからキャプテンを派遣するにあたって、最適解がオレっちとヒルギさんだったんスよ。ヒルギさんは元々、職業冒険家。あのメガフロートの調査を依頼されてたみたいッス。そしてオレっちは、おやしろを守る代わりが居るッスから」
「自分から買って出たの?」
「そういうことッス! そりゃあもう、当然ってモンッスよ!」
これでも、名乗りを上げた時は少し揉めたことをノオトは思い出す。
ヒメノは代わりに自分が行くと言っていたし、キリも筆頭キャプテンである自分が行くと譲らなかった。
ハズシも年長者として名乗りを上げたし、ユイも手を上げていた。
しかし結局、それぞれがおやしろを空けたときに生じる不都合を考えると、ノオトに軍配が上がったのである。
というのも、よあけのおやしろにはキャプテンが二人居り、ノオトが居なくとも運営自体は問題なくできる事。
ノオトの実力も最近めきめきと上がっていること。
何より、直近で胃潰瘍を患っており、今も胃薬無しでは生活できないヒメノでは冒険に耐えられるとは到底思えないこと。
この事から結局ノオトが向かうことになったのである。
(ま、キリさんには相当心配掛けちゃってるんスけどね……)
──ノオト殿、絶対に帰ってくるでござるよ。自分なら替わりが居ると思って手を上げたわけではないとは思うでござるが……!
(大丈夫。オレっちは、一人じゃねーッス。それに──メグルさんのピンチに立たなきゃ、男が廃るってもんっしょ!)
「アルカさん。よろしく頼むッスよ」
「……うん。こっちこそ、隣は頼んだよ、ノオト」