ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC4話:クリスタル・バージョン

 ※※※

 

 

 

 ──ワカバタウン出身の、年の割に博学な少女だった。

 彼女は”やけたとう”に訪れた際、偶然その地下で三匹のポケモンと出会った。

 

 

 

 ──ライコウ。

 

 

 

 ──エンテイ。

 

 

 

 ──そして、スイクン。

 

 

 

 人の気配を感じ取った3匹は、立ち去って行ったが、唯一スイクンだけが──彼女を一目見て気に入ったようだった。

 彼女もまた、水晶のように透き通った清らかな心の持ち主だったからね。

 もしかしたら、それをスイクンは気に入ったのかもしれないな。

 その少女はその後、ロケット団の残党を潰滅させ、ポケモンリーグを攻略し、カントーのポケモンジムも制覇してしまったみたいだね。

 きっと、こうなることをスイクンは最初から見透かしていたんだと思うな。

 だけど──彼女は、全ての冒険を終えた時にスイクンを自由にすることを選んだんだ。

 何が彼女にそうさせたのかは分からないけど……多分、ネガティブな理由じゃないことは確かだと思うぜ。 

 それからスイクンが何処に行ったかは私も知らなかったんだ。

 だから、まさか今回こんな形で出会うことになるとは──くしゅんっ!!

 いや、久々に友人にエンジュに会いにきたら、友人は居ないわ、なんか急に冷え込んでくるわで……散々だったな!

 そんな中、やけたとうの方に変なポケモンが出たっていうから寒いのを押して行ってみたら、塔はカチカチに凍っているし、まさか目の前にスイクンが出て来るだなんて思わないだろ。

 だがそいつはとんでもなく凶暴で、冷気は放つ、暴れ回るで手が付けられなくってね。逃げ回るもんだから追いかけたら、振り向き様に冷気を浴びせられてこのザマさ。

 しかし、あの凶暴な性格……偽者だったなら、納得がいったよ──ぶえっくしょい!!

 まさかスイクンが、あんな凶暴な──チーン!!

 あれ、おかしいな、鼻水と咳とくしゃみが止まらない上に、頭が熱いような──風邪かな?

 

 

 

「ミナキさん、インフルエンザです。帰れないんで、しばらく入院ですね」

 

 

 

 あ、はーい……。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「スイクンの偽者は”やけたとう”──もっと言えばエンジュ周辺を縄張りにしてるんだ」

 

 

 

 暫定・偽スイクンは冷気を操るという。

 そして現在、”やけたとう”の画像を見ると他の建物とは比べ物にならないくらいカチカチに氷漬けになっているのだ。

 二人は濡れた防寒装備を整えて、来たる明日に備えて準備を進めていた。

 目標は勿論、エンジュシティを根城にしているであろう偽スイクンの討伐だ。

 前回のライコウは弱点を突けるポケモンが居なかったので、苦戦したが──今回はサンダースへのオーライズでスイクンへの弱点を突くことができる。

 

「ミナキさんどうする?」

「あの状態で連れていける訳ねえだろ、氷漬けにされていて生きていただけマシと言えばマシだ」

「やれやれ、こんな猛吹雪に飛び出すからだよ。早く良くなったらいいね」

「誰もオメーにだきゃあ言われたかねえと思うぞ」

 

 この猛吹雪の中、アルフの遺跡に飛び出そうとした女の勇姿をメグルは忘れていない。

 

「アヤシシ、今度はエンジュシティまでひとっ走り、頼むぞ」

「ブルトゥ」

 

 アヤシシならば鬼火と分厚い毛皮のおかげで、アヤシシは寒冷地帯でも走り抜ける事が可能だ。後はメグル達が耐えれば良いだけだ。

 

「それにしても、スイクンって一度捕獲されていたんだ。世の中には、メグルみたいな凄いトレーナーが居るもんなんだなあ」

 

(そりゃあ、この世界における主人公(俺ら)だから当然と言えば当然なんだけどな……此処は本当に、ゲームの中の、あの世界なんだな……)

 

 ゲームボーイカラー全盛期に登場したポケモン第二世代は、3本のソフトが販売された。

 ホウオウがパッケージとなる金。ルギアがパッケージとなる銀。そして──スイクンがパッケージを飾ったマイナーチェンジ版のクリスタルバージョンだ。

 この作品は、モバイル通信や初の女の子主人公など、様々な試みが為された作品でもある。

 だが何より特筆すべきは後にも先にも例が無いスイクンのパッケージ起用だ。

 通常の対戦で使う事ができる伝説のポケモンを、非公式に「準伝説」と呼ぶが、エンテイ、ライコウ、スイクンはその中に数えられている。

 そして、スイクンはこれまでのポケモンの歴史で唯一、準伝説でパッケージを飾った栄誉ある一匹なのである。

 一般ポケモンがパッケージを飾ることは多数あれど(主に初代絡み)、準伝説は他に例が無いのだ。

 

(だから、ミナキに限らず、スイクンに特別な思いを抱いている人は少なくない。俺はクリスタルをリアルタイムでプレイしたわけじゃないけど、3DSのバーチャルコンソールでやった時、スイクン戦のBGMに感動したっけ……GB音源で此処までの曲が作れるのか、ってさ)

 

 クリスタルで特筆すべきは、マイナーチェンジ版でありながら初めて伝説のポケモン専用のBGMが登場したことである。

 それが「戦闘!スイクン」。

 当時、ホウオウにもルギアにもBGMは存在せず、ニンテンドーDSでのリメイクの「ハートゴールド・ソウルシルバー」を待つことになる。

 準伝説のポケモンでありながら、様々な「初めて」を飾ったポケモン、それがスイクンなのだ。

 

(伝説ポケモンの偽者だなんて、不逞も良いところだ。ミナキさんじゃないけど、俺も結構腹が立ってるんだよね)

 

 あそこまで入れ込むのは流石に理解出来ないが──それでもメグルもまた、ポケモンを愛する一人だ。

 対戦でも何度も世話になったポケモンで、シナリオでも追いかけるのに苦労したので思い入れのあるポケモンの1匹ではある。

 

「あのパチモンを止めるぞ、アルカ」

「合点だーっ! 任せといてよ!」

 

 とはいえ、この寒さの中で活動できるポケモンは限られてくる。

 おまけにジムリーダーが所要で不在らしく、他に戦力も居ないというこの状況。

 頼れるのは現状、アルカしか居ない。

 そして、彼女の手持ちも寒さに弱いポケモンばかりで(ジャローダ、カブト、モトトカゲ、ヘラクロス、ゴローニャ、全員揃いも揃って変温生物か水弱点)、デカヌチャンくらいしかまともに戦えそうにない。

 ジョウトという環境で此処まで冷え込むなど想定外も良い所なのであるが。

 手持ちを精査した結果、アルカの頬に汗が伝う。

 

「あのさぁ、揃いも揃って皆寒い中出たくないってどういうこと!?」

「蛇、カブトガニ、トカゲ、カブトムシ、岩・地面……ダメだこりゃ、見事に寒冷地に向かねえポケモンばっかじゃねえか」

「ねえ、これってさ……もしかしてボク、戦力外?」

「……ただ、うちもバサギリは寒すぎると冬眠状態になっちまうらしいし」

 

 既に外はマイナス10℃。ジョウト地方とは思えない程の冷え込み方をしている。

 

「ヘイラッシャとシャリタツは?」

「ヘイラッシャは寒冷地の遊泳にも耐えうる脂肪があるからな。シャリタツも口の中に入ればオーケーだけど、ドラゴンだから寒いのは好きじゃないみたいだ。アヤシシとアブソルは毛皮がある……でも、ニンフィアは流石に外に出たがらない」

「ふぃっきゅるる……ぷっしゅい!」

「お姫様……寒いの苦手なんだね……」

 

 こんなに薄い毛皮では無理もない話であった。

 

「しかしデカヌチャンか……鋼技は水タイプに効果いまひとつだからな……例のメインウェポンも最大限の威力を発揮できない。耐久の高いスイクンに”じゃれつく”もあんまり効かなそうだし」

「スイクンってそんなに硬いの?」

「俺の知る限りだとそうだ。HPも防御も特防も高くて、まるで要塞だぜ。自己再生みたいに体力を回復する技を覚えないのがせめてもの救いだな。オマケに、水技、氷技、一撃必殺の”ぜったいれいど”まである」

「ね、ねえ、一撃必殺って……あんまり当たらないけど、当たったら即死する技だよね」

 

 例えばじわれ、例えばつのドリルなど、命中率は30%と低いものの当たれば一撃で相手を倒せるのが一撃必殺技だ。

 何をトチ狂ったのか、このスイクンと言うポケモンは氷タイプの一撃必殺技の”ぜったいれいど”を使えるのである。

 

「その耐久力から一撃必殺技を何度も撃たれたが最期、俺達諸共ゲームオーバーだろ」

「長引かせられないってわけか……ミナキさんが氷漬けにされたのも”ぜったいれいど”の所為だよね」

「多分な。ああなりたくなかったら、高火力の一致抜群技で倒すしかない。でも、スイクンは割と素早いし、耐久も高い。そう簡単には行かねえだろ」

「デカヌチャンじゃ、力になれないのか……」

 

 このデカヌチャンと言うポケモン、メグルは後から知ったのだが──見掛けに反し攻撃力の数値は然程高くはない。

 というのも、デカヌチャンの攻撃力は殆どハンマーに依存しているかららしい。そのため、ハンマーを使う技でなければ、火力が出ないのだ。

 フェアリー技はハンマーを使わないものが殆どの為、スイクンの防御力相手では有効打になり得ない。

 かと言って肝心の鋼技も半減されてしまうので、結局あまりダメージを与えられない。

 

(コイツの種族値は分からないけど、意外と攻撃そのものは高くないっぽいな。メインウェポンの威力は破格だけど、これで攻撃まで高かったらぶっ壊れか)

 

「で、こいつ他に何を覚えるんだ?」

「この子、腕っぷしが強いから今まで攻撃技ばかり習得させてたんだよね。後1つは”でんじは”ってカンジ。何か変化技が使えれば良いんだけど」

「……いや待て、変化技?」

 

 メグルは手持ちの技マシンと睨めっこしながら、眉を顰めた。

 習得可能な技のラインナップは、メグルの想像を超えるものだったのである。

 

(な、何だコレ……! 技マシンでアンコール、ひかりのかべ、リフレクター、ステルスロック、でんじは、しまいには自主退場のてっていこうせんまでェ!? コイツ、てっきり脳筋かと思ってたのに……本質はクレッフィと同じサポートタイプ!?)

 

【クレッフィ かぎたばポケモン タイプ:鋼/フェアリー】

 

 元々”でんじは”が使えていたので、サポートもできるアタッカーくらいにメグルは考えていたのだが、此処まで来ると最早サポーターが本領のポケモンだとメグルは考える。

 同じタイプのクレッフィも、かつては優秀な耐性と”いたずらごころ”で害悪サポーターとして暴れ回ったものである。

 更に、両手足があるからかデカヌチャンはクレッフィが使えない技も習得できるのだ。更に特性”かたやぶり”で、サーフゴーのように変化技が通用しないポケモンの特性も無視して”でんじは”を叩き込めるのは見過ごせない。

 大きなハンマーを携えているので、どうしてもアタッカーのイメージが付き纏うが──本質はアタッカーもできるサポーターだったのである。

 

(俺ならコイツを4枠変化技で運用する時もあるかもな……まあ大抵、両壁ステロ、でんじは、それに”てっていこうせん”で退場だろうけど、退場したら困るし此処は()()()()()()()で良いよな)

 

 ポケモン廃人の血が騒ぐ1匹だ、とメグルは目を輝かせる。

 耐性も耐久も優秀なので、仕事をする前に倒されることも無いだろう。

 

「どしたの、メグル」

「なあ、お前のデカヌチャン、下手したらサポーターの方が適正あるかも……」

「え? またまたあ、サポーターとは無縁みたいな生態してるんだよ、デカヌチャン」

 

 ハンマーを振り上げながら「カヌ?」と何のことやらわからないと言わんばかりの顔でこちらを見あげるデカヌチャン。

 確かに振る舞いも、生態もとてもではないがサポーター向きとは思えない。しかし一方で、彼女達にはアーマーガアを岩で撃ち落としたり、ハンマーを加工するといった知性の高い一面も併せ持つ。

 豪快で怖いもの知らずな性格と、人間に匹敵する器用さ。それを両立させたのが、このデカヌチャンというポケモンなのである。

 

「でも、お前も”でんじは”覚えさせてたじゃん」

「そりゃあ、たまたま覚えられるから技マシンを使っただけで──」

「お前も両壁要員にならないか?」

「カヌヌ!?」

「りょ、両壁!? ……って、どういうこと?」

「つまり、リフレクターと光の壁、両方使えるってことだ。ま、スイクン相手ならリフレクターは要らねえだろうけどな。ステルスロックも撒けば、裏のエースが大暴れする起点が作れるってわけ」

「使えるの!? あ、本当だ、使えるんだ……なんて言うか、ポケモンは見掛けによらないんだなあ」

「俺も今調べるまで分からなかった。正直、技威力の高さを生かしたアタッカーの方が良いと思ってたからな」

「カヌヌ?」

 

 弱体化、そしてサポートは強敵に挑むときの鉄則。

 メグルとアルカは手持ちの技マシンと睨めっこしながら、吹雪が弱まるまでスイクンの対策を重ねるのだった。

 その間、ずっとニンフィアはメグルの膝の上で丸まっているのだった。今回出番はないし、こんな寒い中で戦うのは彼女としてもゴメンなのである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 凍て風は、陽の通い路を塞ぎ閉じ、永遠の冬を地平に齎す。

 何物にも囚われず、何者であっても捕えることは叶わず。

 主無き廃塔に座す暗君を、愚かにもしばしその眼に留めんとすらば、自らが久遠の牢に留められることになるであろう。

 

 

 

 ──北風の化身”伝説の三聖獣”スイクン

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──豪雪により、純白の都と化したエンジュシティの焼けた塔にそれは確かに座していた。

 曇天は空を塞いでおり、陽の光は届かない。だが、この大地に冬の暗君は要らない。

 アルカはメグルの身体をしっかりと抱き締め、見えてきた焼けた塔を見渡す。

 

「感じる……ッ! 何となくだけど、ヤバい気配……ッ!」

「やっぱり居やがるんだな……スイクン!」

 

 エンジュシティは、シャクドウシティよりも遥かに大きく、十字路も多くて道に迷いそうになる。

 だがそれでも、彼は思い出す。

 初めてこの世界にやってきたときに戦ったオニドリルの事を。

 あの時も──五重塔を舞台に大立ち回りを演じたのだ、と。

 しかしあの時と違う点があるとするならば、やはりこの常軌を逸した低温だ。

 考えられるだけの装備を着込んでもなお刺し貫く寒さに耐えながら、メグル達は凍てつく町と化した古都を進んでいく。

 

「つーか、エンジュシティの気温、これ今何度だ!? 喋ったら喉が凍りそうだ……!」

「マスク付けといて正解だったね……! こんなのヒャッキでも有り得ないよ……!」

 

 因みに現在のエンジュは氷点下20℃。他の地域と比べても、一段と寒さは厳しくなっている。

 

「ねえ、まさかと思うけど、この冬をもたらしたのって……偽スイクンの仕業とかだったりして」

「いや……幾ら何でもだろ。あいつにそこまでの力はないぜ。そも、氷タイプじゃねーんだし」

「ブルトゥ……!」

 

 轟々と鬼火を滾らせるアヤシシ。

 雪に覆われた迷宮の十字路を駆け抜けた先に、かつて大火で焼け落ちたとされる”焼けた塔”が現れる。

 そして、周囲を更に強烈な冷気が覆い尽くす。

 

 

 

「すすいー!!」

 

 

 

 荒ぶり、猛り、そして目を赤く光らせる獰猛なる偽りの北風。

 冬を運ぶ羽衣をなびかせて、それは愚かなる侵入者の前に現れる。

 しかし、メグル達も無策で来たわけではない。エンジュに厳冬を齎す暗君を討つべく、立ち向かう。

 

「……そっちからおいでなすったか!」

「ライコウと同じ……コイツも偽者だね! デカヌチャン、行くよ!」

「アヤシシ、引き続き頼むぞ!」

 

 

 

【野生のスイクンが 現れた!】

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