ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC3話:氷像とスイクンハンター

 ※※※

 

 

 

 ──アサギシティは、灯台がシンボルの港町だ。神戸市がモチーフとされているとされているだけあって、高いビルも立ち並んでいる。

 メグルの記憶では民家とジム、ポケモンセンター、フレンドリィショップ、そして港しかない簡素なマップだったが、ゲームの町は大幅にデフォルメが入っているので、致し方ない。

 特にここ数年で開発も進んでいるらしく、国際貿易センターのようなビルが立ち並ぶ。

 だが、それだけに停電が続けば受ける被害は甚大だったであろうことが想像できた。

 只でさえ豪雪で町のインフラは死んでいるのだから。

 ポケモンセンターにポケモン達を預けたメグルは、最悪の状況を想起すればするほどに溜息が出るのだった。

 文明への殺意が高過ぎる。停電だけでなく、もしも寒冷化もポケモンの仕業とするならば、だが。

 

「いや、そもそもアレはポケモンだったのか……?」

「ええ!? でも、どっからどう見ても、ライコウだったじゃん」

「だけど、1匹目は2匹目に首を噛まれて、そのまま消えちまったからな」

「……死体すら残らないってのが確かにおかしいのか。そもそも伝説のポケモンって死ぬかどうかも怪しいけどさ」

「ああ。同じ場所にそう何匹もライコウが居て堪るかって話だし……」

「じゃあ、あいつらの正体って……何? ポケモンなの? ポケモンじゃないの?」

「……全く分からん」

 

 メグルの中ではコピーポケモン、という言葉が一番当てはまる気がした。

 しかし問題は、それらが何処で作り出されたか、だ。しかも、肉体がすぐに消えた以上、クローンですらないような気がした。

 もっと軽薄な──上っ面だけなぞったような存在に思えたのだ。

 一方、二匹目のライコウが現れた時、メグルは何も出来なかった。それほどまでの威迫だったのだ。

 とはいえ、コピーは現状、文明に対してあまりにも大きすぎる脅威となりえる存在である。放置はできない。

 彼だけで考えていても、何にも答えは出てこないのであるが。

 

「──ユイから電話だ」

「むっ」

 

 スマホロトムを起動すると──やかましい声が飛んでくる。

 

「ねえ、メグル君聞こえる!? あたし! ユイだけど!」

「どうした?」

「どうしたじゃない! あんたでしょ、アサギの発電所に出たライコウと戦ったのって……」

「うっわ、もう広まってら……」

「うっわ、じゃないんだけど! こっちだとエンテイが出て大変な事になってたのに」

「エンテイが!?」

 

 ──かざんポケモン・エンテイ。

 獅子の如き姿をした、ライコウに並ぶ伝説のポケモンだ。

 火山の力を司るとされており、体内に秘めた熱量はとんでもないもの。

 そして、聖なる炎はありとあらゆる邪悪を焼くとされている。

 そのポケモンがサイゴクに現れたのだから、大騒ぎになっていたのだという。

 しかしその顛末は──先程メグルが見たものと同じだった。

 

「交戦中に2匹目が出てきて、1匹目を食い殺した……!? 死体は跡形もなく消えた……!?」

「そう! だから、あたし達は暴れていた1匹目は偽者で、2匹目が本物と睨んでる」

「同じだ……」

「同じ?」

「ああ。こっちのライコウもそんな感じだったんだよ」

「……やっぱり。伝説のポケモンのコピー……偽者って言ったところかしら。それがあちこちに沸いて出て来てるのかも」

 

 そしてメグルの中では一つの仮説が浮上する。

 ライコウに続き、エンテイのコピー、そして本物(暫定)が現れた事から、後残るのは1匹。

 

「ってことは……北風の化身・スイクンが出て来る流れか……!」

「あ、決め顔してるところ悪いけど、それもうキャプテンの間でも言われてた」

「そかー」

「まあ、この豪雪が止まない限りは……調査どころじゃないんだからね」

「だけど、ジッとしてもらんねーだろ?」

「この大雪よ? よっぽどのことが無きゃオススメできない。せめて向こうから姿を現してくれればいいんだけど」

「……何とも、か」

 

 沈黙がその場の空気を支配する。

 今回の敵も、分からない事があまりにも多すぎる。

 あーだこーだ、と此処で論じても何も意味が無い。

 次第に会話は他愛のない中身にシフトしていく。

 

「ところで最近どう? しばらく連絡寄越さなかったんだから、よろしくやってるんでしょ? 声は元気そうだし」

「まーな。そっちこそ、キャプテン就任できておめでとうって感じだ」

「ふふんっ、当然なんだから。もっと褒めても良いのよ?」

「へーへー流石」

「……あんたね。レディの扱いがなってないんだから」

「あーそうそう! イデア博士についでで言っておいてほしいんだけど」

「誤魔化すな!」

「ジョウトに行く前にイデア博士に貰った、オーパーツ! めっちゃ役に立ってるって言っておいて」

 

 オーパーツは、オーライズに用いるポケモンの力を封じ込めた道具だ。

 しかし、その多くはおやしろの秘宝であり、テング団事件が終わった今、いつまでも持っておくわけにはいかないよなあ、とメグルは考えていた。他所の地方に持ち出すなど以ての外だ。

 と言ったことを事前に予期していたイデア博士は、テング団の作ったコピー品を改良し、使いやすくしたものをメグルに渡したのである。

 それぞれには、ヌシポケモンの顔の絵が刻まれており、一目でどのポケモンのものか分かるようになっている。

 

 ようがんのヌシの力を封じ込めた”熔珠・ブースター”。

 

 なるかみのヌシの力を封じ込めた”撃珠・サンダース”。

 

 すいしょうのヌシの力を封じ込めた”泡珠・シャワーズ”。

 

 試してみたものの、今のところは特に問題も無く運用出来ており、本物の秘宝と遜色ない性能だ。

 一方、オーラが採取できていないアケノヤイバとヨイノマガンのオーライズは現時点では不可能となっている。

 秘宝はおやしろに返してしまったので、現時点ではアブソルのギガオーライズは出来ない。

 そのため、残る2つも誠意製作中らしい。悔しいが、やはり腕前は一流なのだ、あの博士は。

 

「何で、直接言えば良いじゃん」

「いや、あの人に直接感想言うのってなんか……悔しいじゃん? 褒めたら付け上がるし」

「あー……分かる。めっちゃ分かる。あたしの方から言っとく」

「それにしてもサンダースの力はやっぱすごいな、ライコウ相手に一歩も引いてなくって──わっ」

「むぅー……」

 

 隣でメグルの電話を聞いていたアルカが、頬を膨らませて腕を引っ張る。

 ()()()()()、と言わんばかりだった。

 

「どしたの? ……ふぅーん、そういうことね」

「何でもねーよ。そろそろ通話切るわ」

「待ちなさい。まだ聞いてないことがあるわ。大事な事よ」

「大事なことは大体話しただろーが」

 

 フシャー、と猫のような鳴き声をアルカが出しているので、さっさと切り上げてしまいたいメグル。

 普段はああだが、嫉妬すると面倒くさいのだ。

 そんな事知る由もないユイは、上機嫌でメグルに問う。

 

「──あんた達、何処まで進んだの?」

「え”っ」

「ぴっ」

「何驚いてんのよ。アルカさんと付き合ってんでしょ? 1か月よ? 二人旅でしょ? 実質ハネムーンみたいなもんじゃない」

「気がはえーって……」

「何よ何よ、聞かせなさいよ! あたしそういうの好きなんだから!」

「……」

「何よ、煮え切らないんだから。ねえ、手は繋いだ? キスは? その先は!?」

「……いやー、その」

 

 ──これって言って良いのか? とアルカに目配せ。

 

 ──良いワケないでしょ!? と無言で抗議が返ってくる。

 

 ──こいつら他所でやってくれないかな、と膝の上でずっとこれを聞かされていてご立腹のニンフィア。

 

 言えるはずもない。まだ頬にキスが限界であることなど。

 

「何故そこで黙る! はぁーあ……ほんっっっとじれったいんだから! あたしそっちに行って、ちょっとやらしい空気にしてあげるわ」

「おいやめろ来るな! お前の氷像なんざ見たかねえぞ!」

「何であたしが氷漬けになる前提なのよ!」

「とにかく余計なお世話だ、切るぞ」

「どーせ、あの()()()()()()()に邪魔されたりして大変なんでしょ? 分かるわよ、あたしイーブイの頃からの付き合いだし」

「ふぃー……」

 

 全部バレてる、と言わんばかりにニンフィアは舌をべーと出す。

 

「切るぞバカ」

「……あ、どーせ隣で聞いてるんでしょ()()()()()♪ 奥手なのは知ってるけど、もっとグイグイ行かなきゃ取られちゃうよ。メグル君ヘタレだか──」

 

 ブチッ

 

 強制終了。これ以上喋らせていたら在ること無い事言いだしかねない。

 しかも、顔を真っ赤にして頬を膨らませているアルカが、潤んだ目でメグルを睨み付けている。

 

「ッ……! ~~~~! 何なんだよ、あの子腹立つ、本当に余計なお世話ー! ばかあほどじまぬけー!!」

「大目に見てやってくれ……ガキなんだよ、ヘンな所でな」

「ふぅーん。庇うんだ。別に良いけどね。ボクの命の恩人は君だけど、君の命の恩人はユイちゃんだもんね。しーらないっ」

 

 「君は優しいもんね」と彼女はそっぽを向いてしまう。面倒くさい時のアルカだ。

 だんだん腹が立ってくるメグルだったが、それを表に出すことはしない。それもまた可愛さなのだから。

 いや、そろそろ表に出そうだった。やっぱり面倒くさい。

 そう考えていた矢先、横槍というものは入ってくるのである。

 

「ふぃるふぃー♪」

 

 隙あり、と言わんばかりにニンフィアがリボンをメグルに絡みつける。

 

「あーっ、ズルい! ズルいよ、ニンフィアそれは!」 

「ふぃー?」

 

 油断してるなら取っちゃうよ、と声が聞こえた気がした。

 ニンフィアは露骨にメグルに顔を擦りつけて、甘えたような声を出す。

 

「……ポケモンにまで嫉妬するなよ」

「ふぃーあ」

「うるさいな! 悪い!? 大体ソイツは四六時中、キミのことを狙ってるし!」

「もしかして、()()()()って言われたの気にしてんのか?」

「うっ──気にしてる」

 

 気まずそうに彼女は目を逸らした。

 

「心配しなくても何処にも行かねえって言っただろ。そんなに不安になるなよ。俺まで不安になる」

「……ごめん」

「謝ることはねえだろ」

「……だって」

「……ふぃー」

 

 空気がどんよりと淀む。

 外の吹雪は強くなっていた。

 ニンフィアが丸まって眠ってしまい、アルカも暖房の温かさでうとうとしつつあった。

 

「バチが当たったりしないかな、って思うんだ」

「何でバチなんて当たるんだ。何にも悪いことしてないのに」

「だって、ボクだけこんな良い思いしていいのかなって思うんだ」

 

 一度知ってしまうと、今度は失うのが怖くなる。

 

「君と一緒に居るだけで十分なのに、それ以上先なんて望んで良いのかなって」

「……望んでいいだろ。普段のお前は、もっとワガママじゃねーか」

「そうだけどさ……」

 

 

 

「急患急患ーッ!!」

 

 

 

 ポケモンセンターに飛び込んでくる声。

 ストレッチャーで運び込まれてくるのはポケモン──ではなく、氷の像だった。

 

「ッ……何事!?」

「アサギからエンジュに向かうまでの道で、人型の氷像が見つかりまして……」

 

 メグルとアルカの視線は、その氷像に向く。

 球体の上に乗っかった男が、氷の中に閉じ込められていた。アルカがぎょっとした顔で指差した。

 

「あれもう……死んでない?」

「生きてんのか……?」

「カヌヌ!」

 

 勝手に出てきたデカヌチャンがハンマーを振り上げる。この蛮族は叩けば何とかなると思っている節がある。

 即刻アルカは彼女をボールの中に引っ込める。金槌で叩いたが最期、出来上がるのはバラバラ死体だ。

 すぐさま、職員の1人がマグマッグを繰り出し、氷漬けになった男に近付く。

 しばらくして──パチパチと音が鳴ると共に氷が溶けていった。

 出てきたのは、如何にも胡散臭いスーツとマントに身を包んだ、マジシャンのような男とマルマインだった。

 そして、さっきまで氷漬けにされていたとは思えない勢いで起き上がる。

 

「はぁ、はぁ、スイクンは何処だ!? 折角見つけたと思ったのに途中で意識が遠のいて──!」

「生き返った」

「この世界の住民、全体的に頑丈だよな……」

 

(それはそれとして、コイツ俺は見た事がある気がする……) 

 

「あのー、一応診察を──」

「要らんッ!! そんな事よりスイクンだ!! そこの青年、スイクンに見覚えは無いか!?」

 

 マント男はメグルを指差すと問いかける。関わりたくなかったのでメグルは首を横に振った。

 

「いや、ナイデス──」

「あのさぁ、スイクンスイクンってうるさいんだけど。出てきたのはライコウ! ライコウなら、さっき会ったよ──このおにーさんが」

 

 しかし、全部台無しにしたのはアルカであった。何故火に油を注いだのだろう。

 

「なぁぁぁにぃぃぃ!? スイクンではないが少し羨ましいぞ!!」

「うっるさ……」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! スイクンの居る所に私あり! その話、よーく聞かせてほしいのだが!」

 

 叫び声を上げると「おっと名乗るのを忘れていた!」と彼はマントを広げてみせる。

 

 

 

「私はミナキ……スイクンハンターのミナキ!!」

「すいません帰らせて貰います」

 

 

 

 踵を返そうとしたメグルだったが、外は大吹雪。とてもではないが、出られる気がしない。

 仕方なく二人は、この胡散臭い男──ミナキのやかましい声を無理矢理聞かされる羽目になるのだった。

 そしてメグルはこのミナキという人物をよーく知っている。

 

(確かスイクンを追い求めてジョウト中で絡んで来るNPC……!)

 

 ゲームボーイカラーのソフト「ポケットモンスター クリスタル」で初登場した謎の青年。

 その中身は、重度のスイクンマニアであり、出くわしたのは良いがメディア毎にフラれるのがお約束になっている。

 スイクンが主人公を選んだと知れば、潔く手を引くなど気持ちの良い面のある青年でもあるのだが──如何せん、スイクンの事になると周りが見えなくなるのがよろしくない。

 

(つーかコイツ、まだスイクン追ってたのか……)

 

「ねえメグル。この人、スイクンの情報を何か握ってるんじゃない?」

「一方的なストーカーだぞ……そうですよね?」

「失敬な! 確かに私は見たのだ! この目でスイクンを!」

「詳しく聞かせて下さい!?」

「その前に、君達の持っている情報を教えて貰おうか」

 

 メグル達はミナキに、今自分達が持っているライコウの情報を渡す。

 彼は、メグル達の話を聞いていくと「偽者」という言葉に何処か納得したようだった。

 

「……成程。伝説のポケモンの偽者か……確かにあの傍若無人極まる振る舞いも納得ができる」

「というのは?」

「──確かにアレはスイクンだった……しかし、スイクンではなかった! そもそもスイクンは荒ぶったりしないし、目が赤く光ったりしないし、暴れたりしない!!」

「面倒くさいオタクだあ」

 

(だけどこいつ、ノーヒントで俺達と同じところに辿り着いているの悔しいな!!)

 

「私はスイクンを目の当たりにした時、昂る気持ちが抑えきれずに近付いたが次の瞬間には意識が無くなっていた。何がいけなかったんだろうな……」

「全部でしょ」

「この人マジでスイクンの事になると何も見えなくなるんだな……」

 

 防寒着もつけずに外に出て、よくもまあスイクンに出会う前に死ななかったものである。

 

「当然だ! シャツの柄もパンツの柄も、部屋の壁紙も、全部スイクンにしているからね!」

「うへぇ、知ってたけど筋金入りじゃねーか……」

「……でも、好きなものにそれだけ一生懸命になれるのって良いことだと思う」

 

 ボクも似た所あるしね、とアルカは続けた。

 化石や遺物を前にすると、周りが見えなくなってしまうところがそっくりだ、とシンパシーを感じたのだろう。

 

「ボク達も協力するよ!」

「スイクンの偽者は見つけないとだしな」

「それで……結局スイクンって何処に出たの?」

「エンジュシティだ!」

 

 アサギシティからはあまり遠くはない。

 そして古めかしい神社や寺、そして塔の立ち並ぶ伝統が彩る町。

 メグルの居た世界の京都市に当たる都市である。

 小ジョウトと言われる、サイゴクのシャクドウシティだが、エンジュは本家というだけあってその規模は遥かに大きい。

 そして──スイクン達を始めとした伝説のポケモンに大きく関わる町でもある。

 

 

 

「エンジュシティの”やけたとう”……思い出の場所さ」




ミナキ君、ウネルミナモ見て卒倒したりしない? 大丈夫?

キャプテンの中で一番好きなのは?

  • 岩使い・キリ
  • 格闘使い・ノオト
  • 霊使い・ヒメノ
  • 炎使い・ハズシ
  • 電気使い・ユイ
  • 水使い・リュウグウ
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