ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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クリアクリスタル第一章:炎雷水、渦巻いて
CC1話:追加コンテンツ、寒冷地に行かされがち


 ──メグルがジョウト地方を旅している途中、ホウエン、サイゴク、ジョウト、カントーの4地方に異様な寒冷期が訪れたのは、あまりにも唐突であった。

 時期外れの異例の寒波によって方々の町は氷漬け、雪漬け、何処もかしこもカンムリ雪原のように銀景色となる始末。

 そんなこんなで水道管は氷漬け、屋内でも暖房の入っている場所以外にはとてもではないが行けない始末。

 しかし、修羅場とは時期を選ばずに起こるもの。

 気温の冷え込みとは違い、恋人の仲が冷え込むのは時期を選ばない。

 

 

 

「ヤだッ! ボクもう出ていくもん! ヤーだー!!」

 

 

 

 ジョウト地方・キキョウシティの宿でカチカチと歯を鳴らしながら毛布を羽織っているメグルは、出ていくと言って暴れる彼女を引き留めるべく羽交い絞めにする。

 

 

 

「ヤだーッ!! 絶対に絶対に行くんだもん、アルフの遺跡にーッ!! ずびびびびーっ!!」

「こんなトンデモ寒冷期(アイスボーン)に外出したら氷像になるのはお前なんだぞ!!」

 

 

 

 無論、この修羅場(ではなく平常運転)の原因は100%、この青白肌メカクレ女にある。彼女の名はアルカ。各地の珍しい石や遺物、化石を蒐集し、売買する石商人だ。

 遺跡、史跡、化石、この3つを前にすると知能指数が著しく低下する彼女は、この大雪の中、ジョウト地方でも有名なアルフの遺跡に出向こうとしているのである。

 こんな中外に出れば、メグルの言う通り凍死は免れない。そもそも遺跡に入ろうにも雪が積もっていて入れないはずなのであるが。

 

「う、うう、折角目と鼻の先に遺跡があるんだよ!? 行かないとダメじゃない!?」

「そんな事思ってんのはお前だけだ、自殺志願者か!?」

「大丈夫! 君も一緒だからね! ボク達一緒なら、何でも乗り越えられるでしょ!」

「集団自殺志願者だったかぁ~~~!!」

 

 そのまま彼女を俵のように脇に抱え込み、ベッドに投げ込む。

 

「いったた、ちょっと何するのさ!?」

「こっちのセリフだ! いい加減現実を見ろ、石商人!! 大人しくしてろ!!」

「これが所謂束縛の強い彼氏ってヤツだね!! くっ……」

「俺じゃなくても止めるわ!! いい加減観念しろや!!」

「ううう……あぁーあ……まさか吹雪が此処まで酷くなるなんて……楽しみにしてたんだけどなぁ……」

「ふぃっきゅるる!」

 

 ──意訳・ザマー見ろ、泥棒女! 

 

 この性根の悪い凶悪リボンは、勝ち誇るようにアルカの上に乗っかって笑みを浮かべるのだった。

 彼女はニンフィア。メグルの相棒であり、最初のポケモンである。と言っても、どこぞのピカチュウのような可愛らしい存在ではない。

 元よりイーブイとは思えない程に凶暴な性格だったのが、進化してからは主人へ重い愛情を募らせていき、今となってはアルカから見た姑のような立場になってしまっているのだった。

 

「ニンフィア……いつになく超笑顔じゃん……ボクとメグルの遺跡デートが台無しになったのがそんなに嬉しい?」

「ふぃー♪」

「うわぁ、立派な返事」

「カヌヌ!」

 

 ──意訳・お前素材か? 素材なんか? 何落とすんか? 

 

 ボールから勝手に飛び出したのは、ハンマーを担いだ原始人のようなポケモン・デカヌチャン。

 目の前のものをハンマーの素材になるか否かで判断しているピンクの野蛮人はニンフィアにハンマーを向けるのだった。

 世の中のものは叩けば解決すると思い込んでいる節があるのである。

 特に、自分の主人に盾突くピンクの腹黒リボンの事は気に入らない。一方、ニンフィアは自分と色が被っているこのハンマー野蛮人が気に入らない。

 タイプ相性的にも犬猿の仲と言える二匹は睨み合う。ニンフィアが圧倒的に不利なのであるが。

 

「ふぃ、フィッキュルィィィィ……!」

「カヌヌ!」

「はいはいお前ら、喧嘩しない! ったく、ただでさえ冷え込んでいるときに、仲間同士の空気まで冷え込ませてどうする」

「うわぁ、それ今ウマい事言ったつもり?」

「カヌヌ!」

「フィー……」

「くっ、全員から総スカンか……こんな時に味方をしてくれるのはお前だけだ、アヤシシ」

「ブルトゥ」

 

 メグルはボールから出したのは、巨大なオオツノジカのようなアヤシシだ。

 3メートルもの巨体に加え、日頃手入れしているおかげでふわふわの毛皮、そして鬼火によって部屋の暖かさが更に増す。

 

「あー、あったかい毛皮! 寒いときは、これに限るぜ。お前らにはモフらせてやんねーからな」

「アブソル出てきてー」

「ってオイ!! 俺のアブソルだぞ!!」

「ふるるー♪」

「暖房と合わせて、あったかいなぁ」

「カヌヌ!」

「ふぃー……」

 

 不機嫌そうに鳴くと、ニンフィアはメグルの首にしがみつく。そして、アルカとデカヌチャンに低く唸って威嚇するのだった。

 

「それにしても、何でこうもいきなり冷え込んだんだろうな……」

「こないだまでずっと晴れてたのにね……」

「いつまで続くのやら、だな……」

 

 ポケモンと身を寄せ合いながら、この突如訪れた異常気象への不安を二人は漏らす。

 ジョウト地方に訪れてから、ジムを巡っていき早1ヵ月が経とうとしていた。

 所持しているバッジは2つ。アサギシティ→タンバシティ→エンジュシティ(ジムリーダー不在でバッヂ未入手)と回っていき、キキョウシティに訪れた矢先に、この異様な気候に襲われたのである。

 行先の候補は幾つかあったが、遺跡に寄りたいというアルカの強い希望の元だったが──早速その希望は潰えることになる。これでは遺跡観光どころではない。

 

(俺としても、ウバメの森があるヒワダタウンに早く行きたいから、此処で止まってるわけにはいかないんだけどな……)

 

 キキョウシティは、メグルの目的地の一つであるヒワダタウンに近い。近隣のウバメの森には、幻のポケモン・セレビィを祀る祠があることをメグルはゲームの情報で知っている。

 そのセレビィと呼ばれるポケモンは、サイゴク地方のアラガミ遺跡でメグルが出会った謎の機械のポケモンと酷似していた。

 彼は、自分をこの世界に連れて来た鍵を握っている謎のポケモンの手掛かりを探し、よく似たポケモンであるセレビィがゲーム上で出現するジョウト地方を訪れたのだった。

 

(つっても、ウバメの森でセレビィを出現させるにはGSボールってアイテムが必要なんだよな……これは通常プレイじゃ手に入らない。何とか情報を探しているが、今の所は手掛かりなし)

 

 旅をしながら色々な人に話を聞いていき、とうとうエンジュシティに訪れたメグルだったが、ジムリーダーは運悪く不在。

 先にキキョウシティを目指すことになったのだ。

 隣の地方でおやしろまいりを制覇したトレーナーを相手にするだけあって、ジムリーダーたちも皆本気だったが、何とかそれを倒すだけの実力をメグルは身に着けていた。

 しかし、この寒さの前ではメグルも無力。宿の中で大人しくしているしかなかった。

 

「ま、たまにはこうやって立ち止まる時間も必要だろ……こっちに来てから、ひっきりなしにあちこち飛び回ってたからな……」

「でも、サイゴクに比べれば楽なもんだよ。野生ポケモンがいきなり凶暴化したり、いきなりヤバい強さのポケモンが出て来たりしないんだもん」

「何なら、野生ポケモンの強さが全体的に抑え目だからな、この地方。ほんと……サイゴクって何なんだろうな……」

 

 試される大地である。

 

「……とか言ってたらコレだからな……分かんねーもんだ」

「でもこの寒冷化現象って全国で起こってるみたいだよ。シンオウ地方とかキタカミの里とかは元から寒いから誤差みたいなもんだけど」

「ま、外に出る訳にもいかねーし、待機だ待機」

「……退屈だなぁ」

 

 アヤシシやアブソルの暖かさで、すっかり眠くなってしまったのか、ニンフィアもデカヌチャンも、そして大きくなっても未だに子供っぽさが抜けないアブソルも眠りこけてしまっていた。

 当のアヤシシも、寝息を立てている。

 外は暗い。そして、吹雪で轟々と音が鳴っている。

 状況は聊か特殊だが──二人っきりも同然だ。

 

(あれから1ヵ月……バタバタしていた所為で、全くカレカノらしいことが出来ていねえ……!)

 

 やった事と言えば、せいぜい手を繋いだくらいなもの。良い雰囲気になることは何度かあったが、メグルもアルカも恥ずかしがってしまって流れたり、ニンフィアが邪魔してきたり、野生ポケモンが割って入ってきたり。

 少し距離が縮まったとしたら、今まで使っていた丁寧語をアルカが使うのをやめた事、そして”おにーさん”ではなく名前で”メグル”と呼ぶようになった点だ。

 曰く、以前からそう呼びたかったらしいが、なかなか変える機会も無かったのだと言う。

 だが、本当にそれくらいだ。それだけしか進展が無いのである。

 その間に、自分達より年下なのにノオトとキリの二人がネズミざん以外全部やってしまった(不可抗力)ことを知る由もないのだった。

 

(せ、せめて、チューくらいは……しねえとな? うん。これじゃあ、今までと何にも変わらない)

 

「あ、あのさ、アルカ」

「……ん? なにー?」

「……えーと、その……何だ。今、こいつら寝てるし……その」

「……」

「意地悪で遺跡に行くなって言ってんじゃなくて……ちゃんとお前が好きで言ってるっての証明したいから」

「……アレは、ちょっとワガママ言っただけだよぉ、止められるの分かってるし」

 

 顔を真っ赤にして、彼女は目を逸らす。

 

「で……もし起きたらどうすんのさ」

「俺が今、アルカとしたい」

「……えーと……うん。それじゃあ──ほっぺに……してほしい。唇……はまだ、恥ずかしい、かな」

「……お、おう」

 

 彼女の青白い頬は、熟れた林檎のようになっている。

 前髪に隠れた目は、どこか堪えるように瞑っており、唇もきゅっと結ばれていた。

 恥ずかしいし、心臓が飛び出そうだが、それでも期待しているような顔だ。

 アルカはメグルより1つ年上だが、出自が特殊な事、これまで色恋沙汰と無縁の生活を送ってきたこともあって、全く耐性というものがない。

 段階を踏み外そうとすると、拒否されてしまうくらいだ。

 そしてそれはメグルも同じ。奥手同士、初めて同士なので、恋人の距離感が全く分からない。

 普段の距離が丁度良いと両方共思っているので猶更である。それでも、その先に進むことに興味が無いわけではない。

 だからこうして、互いに少しずつ歩み寄る形でも進んでいる訳で。もうとっくに成人しているだのなんだのと傍から言われようが、学生のようだと言われようが、今の二人にはこれが限界なのである。

 それ以上はきっと心臓が持たない。

 

「行くぞ……」

「う、うん」

 

 目を閉じるアルカ。顔を近付けるメグル。

 そして──寝たふりをして「さっさとするならしなさいよ、このバカ達」とあまりにも進展しない二人を睨み付けているニンフィア。

 

 

 

 バチッ

 

 

 そんな最中だったのである。

 

 

 

「どわぁっ、真っ暗になったァ!?」

「はぁっ!? ええ!? 何があったの!?」

 

 

 

 ──突如、部屋の電気が消えたのだ。

 灯りだけではない。暖房機もピタリ、と止まってしまった。

 急に暗くなったのでメグルは驚いてしまい、彼の声でアルカも我に返ってあたふた。目を開けても全く何も見えない。

 

「な、何だ停電かぁ……」

「何だじゃねーよ、こんな時に停電だなんてよ……! うわ、急に冷え込んできやがった、暖房点かねーし……」

 

 一時的なものならばしばらくすれば点くだろう、と考えていた。

 主人たちの騒ぎで、ポケモン達も目を醒ましていく。

 だが──いつまでも待てども待てども電気が点く様子はないのだった。

 メグルはすぐさまスマホロトムで情報を集めていく。

 その結果、2人は寒さだけではなく恐ろしさで震えあがることになる。

 ジョウト電力の公式SNSに上げられたのは──まさに生死を左右する報せだったのである。

 

 

 

「何ィ!? 発電所に謎のポケモンが出てきて電気を食ってるから……ジョウト全域で復旧の見通し立たず!?」

「ええーッ!? 何それ、人が死んじゃうよ! この寒さなのに!」

「ふぃー……!」

 

 

 

 ──この時、メグルは知る由も無かった。

 この大寒波と停電が、ジョウトどころか世界を巻き込む異変の始まりであることを。

 

 

 

「ポケモン廃人、知らん地方に転移した」

 

──エキスパンションパス「クリアクリスタル」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「こんな冷え込んでる時に、停電なんて凍死待ったなしだぜ! じっとして死ぬくらいなら、動いて死ぬ覚悟だ!」

「止まってるのはアサギ第二発電所……ジョウト地方で一番多くの電力をまかなってるところだよっ!」

「よし来た! 飛ばせアヤシシ!」

「ブルトゥーム!!」

 

 ──防寒着をしこたま着込み、メグルはアヤシシに乗り込む。

 モトトカゲは、寒冷地では活動することが出来ないので、アルカもその後ろに掴まる。

 普通の停電なら管理会社の人間にでも任せれば良いが、ポケモンによる害ならば話は別。

 敵の規模にもよるが”正体不明のポケモン”とされている以上、強大な力を持った敵である可能性も低くはない。

 というのも、この世界の発電所は電気目当ての野生ポケモンが寄ってくる可能性も考えて、かなり頑強に作られており、それを突破した以上、相応の強さを持ったポケモンであることが考えられるからである。

 そして今に至るまで停電が解除された様子が無いことを見ると、相当手間取っているかこの寒波で手を出せていないかのどちらかだ。

 

「……ところでさ、これなら行こうと思えば遺跡にも行けたんじゃ」

「緊急事態とレジャーを一緒にするんじゃねえ!! 今クッソ寒いんだぞ、これでも!」

「だよねぇー……くちゅんっ」

「うう、顔が冷てぇな……! アップリューの時だって、此処まで冷え込まなかったぞ……!!」

「見てよ! あっちだ! すっごく光ってる!」

 

 発電所から大きな稲光が何本も何本も伸びているのが見える。

 周囲には防寒着を来た職員と思しき人たちが集まっているが、激しい電気が飛び出している発電所を前に踏み入れないようだった。

 そして間もなく、強烈な電気を放ちながら何かがのそり、のそり、と入り口から我が物顔で現れる。

 

 

 

「ららいー!!」

 

 

 

 咆哮。

 激しい電撃が周囲を覆い尽くし、防護服姿の職員やその手持ちポケモン達を吹き飛ばしていく。

 周囲の木々が落雷に撃たれて倒れ、焼けながら転がっていき、職員たちに襲い掛かる。

 

「アルカ! 救助の方を頼む! デカヌチャンならこの雪の中でも活動できるだろ!」

「合点! メグルは──」

「あのポケモンを何とかしてみせる!」

 

 デカヌチャンを繰り出したアルカが降りて職員たちの方へ向かい、メグルはすぐさま強い電撃を放ち続けるポケモンの方へ向かう。

 今までは強い閃光で見えなかったが、電気の放出が終わり、ようやくその全貌が明らかになった。

 メグルは目を疑った。

 サイゴク地方にやってきて初めて目にしたものは──森の中に佇む像。

 そこに刻まれていたのは、雷雲を身に纏った公主の姿。

 即ち。それは存在そのものが雷鳴の化身とされ、かつてホウオウによって蘇ったとされるポケモンだ。

 鋭い二本の牙に、虎の如きがっしりとした体。

 

 

 

「ライコウ……なのか!?」

 

 

 

 伝説の電気タイプのポケモン・ライコウ。

 少なくともメグルは、その獣をそう呼んでいる。




新章開始──! 後、引き続きアンケートやってます

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