ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「……見舞に来てくれたんスね、キリさん」
「後処理に追われていたでござるが……頭を下げて抜けてきたでござる」
──翌日。キリは、ノオトの入院している病院に姿を現した。
本当ならば付きっ切りで彼の元に居たかったが、全ての力を取り戻した以上、事件の後処理をせねばならないと考えたのである。
その結果、駆け付けた頃には既にノオトは元気だった。
病室でする話でもないので、屋上に二人で向かい、並び合う。
仕事も合間であり、そもそも他者と目を合わせられないキリは仮面を付けた忍装束の姿であった。
「そういや……あのトゲチックは」
「ああ、武器商人共のアジトに移送されていたが助け出したでござるよ。その他、何十匹もの密猟されたポケモンが救出されたでござる。大手柄でござるな」
「……そうスか。良かった」
「何にも良くないでござる」
ノオトには仮面の下の表情が何となく想像できた。
きっと口はへの字に曲がっているんだろうな、とノオトは考えて、少し申し訳ない気持ちになる。
理由は勿論、あれだけ無理は禁物と言っていたノオトが無茶をしたからであるが。
「えーと、怒ってるッスよね」
「だいぶ」
「でもあの場ではアレしかなかったんス。ヒガンナを生きて拘束するには時間かけてらんなかったし」
「だとしても! 毒を受けたと正直に言えば、忍者達に引き渡して拙者だけで向かったでござる」
「……いやあ、毒が回る前に倒せばノーカンって思ったんスよねえ」
「何もノーカンではござらん」
「あだだだだ、悪かった、悪かったッスよぉ」
ぐいぐい、と頬を引っ張るキリ。
本当に生ける鉄砲玉のような少年だ、と彼女は考える。
普段のトレーニングも戦い方も、あれだけ理論的に考えているのに、切羽詰まるとそんなものは全部投げ捨ててしまうのだろう。
ああした理性的な一面はあくまでも合理的に強くなるために身に着けたもので、誰かのためならば痩せ我慢してしまうところや身体を張ってしまうところは、彼の素なのだとキリは考える。
そして似たような面はキリも持ち合わせている。
揃いも揃って似た者同士だった。互いに負けたくない、互いに背負わせたくない。その結果、ふとした拍子に躓いて……相手に心配をかけてしまう。
「いやー、まさか綺麗に全部自分に帰ってくるとは思わなかったッスねぇ」
「もう少し危機意識というものを持つでござる。ノオト殿は」
違う、こんな事を言いに来たんじゃない、とキリは自らの腕に突っ伏した。
年上で、筆頭キャプテンで、ましてや仮面を被っているからかついついこうして説教臭くなってしまう。
「ノオト殿。それでも拙者は今回の件、ノオト殿に感謝しているでござる。拙者一人ではヒガンナに勝つことは出来なかったでござるからな」
「いやぁー、最後決めたのはキリさんッスよぉ」
「……改めて、拙者の気持ちを伝えたい」
彼女はすぐさま仮面を外し、頭巾を脱ぎ──鮮やかな金の髪を露にした。
顔が燃えるように熱くなっており、夕陽に照らされるまでもなく赤くなっていた。
「キリさん? 仮面──」
「……好き」
その二文字を振り絞った後、キリは更に力強く叫ぶ。
「……ノオト殿の事が……好きだと言った!」
目は潤んでいる。
必死に言葉を選ぼうとして、それでも湧き上がる激情には勝てず、抑え込んでいたものが止まらない。
それでも耐え切れず、顔が更に真っ赤になっていき、彼女は俯いてしまう。
「初めて会った時からずっと……ずっと拙者はノオト殿を見ていた。上手く言えなかったし、押し隠そうと思っていたが……もう隠す理由など無いで……ござる……」
涙が何故か零れ出て来る。
フラれる覚悟はして、此処に来た。
「拙者ならノオト殿に悲しい思いはさせない。その代わり……拙者の事を見ていてほしい……ッ! 超える壁としてだけじゃない、女の子として……」
一度口を突いて出た言葉は止まらなかった。
そこまで言うつもりはなかったのに、ワガママだと分かっているのに。
「オレっち……最弱のキャプテンッスよ」
「拙者はそんな事を言ったことは一度もござらん……! キャプテンになってからのノオト殿の努力はこれまでずっと見てきたでござる……!」
「女好きなの……知ってるッスよね?」
「何をいまさら。その上で拙者を見て貰えるように努力するし──拙者はノオト殿に悲しい顔はさせない」
以前、ゴマノハとしてのキリを見てもドキドキしないことを彼は自分でも疑問に感じていた。
そのような心持で彼女の気持ちに応えて良いのか、と葛藤した。
だが今、彼女に率直に気持ちを伝えられ、受け入れようとしている自分が居ることに気付く。
何とも思ってない相手に、あそこまで無茶できるわけがない。
キリと一緒に居ると安心する。それだけで傍に居たいと思える理由には十分だった。そして彼女の純朴で、一生懸命な所に確かに惹かれたのだ。
彼女ならば背を預けても良い、彼女の前でならば弱い自分を曝け出しても良い、彼女の前でなら身体を張っても良いと思えてしまう。そうしてでも大事にしたいと思えてしまう。
(……腹を決めるかあ)
ゴマノハと名乗っていた時から変わらない。
正体に気付いた今も──ノオトはそう思っている。
「ひとつ、勘違いしねーでほしい事があるんスけど」
「?」
「オレっち付き合う相手には一途ッス。脇目振るつもりねーから。だから、覚悟しとくッスよ、キリさん」
その上で彼は決めていた事がある。
今までも、これから先も変わらない唯一つの目標だ。
「そして、いつか、必ずあんたを超えて、あんたの隣に相応しいキャプテンになってみせる。良いッスね?」
「……ッ」
返事の代わりに帰って来たのは、彼を押し倒す程の全力の抱擁だった。
「ちょっ、痛いッス、キリさん──!?」
「ッ……良かったぁ……嫌われてたらどうしよう、引かれたらどうしようって……!!」
「……バカだなあ、キリさんは。オレっちがキリさんのことキライになるわけないじゃねーッスか」
柄にもなくわんわんと泣くキリを抱きとめる。
これからも彼女は幾度となく無理をするだろう。また、自分も同じだ。
(……その度にきっと、止めてみせるッスよ、キリさん。オレっちは……あんたの隣に居たいから)
──断章「忍×闘アライブリバースト」(完)
※※※
余談:とりあえずヒメノの脳は破壊される
弟が女の子とデートに出かけたと思ったら、出先で事件に巻き込まれ、全身に毒が回って緊急入院。流石に蒼褪めたヒメノだったが、犯罪組織のメンバーとの戦闘でキリに”なんでもなおし”を譲り、自分は倒れるまで瘦せ我慢をした──という経緯に何処までも弟らしいな、と呆れを隠せない。
とはいえ、ヒメノは今回の事件では完全に外野。詳細は殆ど何も知らない。ひぐれのおやしろと、よあけのおやしろは同盟関係。互いに情報を共有するという協定が存在する。
そんなわけで一度、キリをおやしろに招き、キャプテン同士による対談の機会を設けることにした。
「ふぅむ、人とポケモンの疑似融合……成程確かに禁じ手なのですよ。倫理面に目を瞑れば有用といえないこともない。一方、その組織は、BURST体の運用に問題があったとしか思えないのですよ。例えばポケモンとの同時併用で、BURST体はサポートに回るとか」
「そうでござるな……真っ向から来てくれて助かったでござる。敵の練度が高くなかったのは救いでござるな」
BURST薬に関する資料を読むヒメノは、興味深そうに唸る。
事件の顛末を聞くと、いつの間にか海外の武器商人が条約違反で国際警察に一斉検挙、ついでにどっかの地方の犯罪組織の残党も一斉検挙。ついでにポケモンを素材とした条約違反モノの薬品は全て押収。何とも情報量だけが多い。
此度の一件についての報告が一段落した辺りで、ノオトとキリは事件と無関係とも言えない例の話題を切り出すことにした。
「えーとヒメノ殿。それで、事件の詳細を報告するのに伴って、1つ別件で言わねばならぬことが。非常に言いにくいことでござるが……」
「キリ様なら何でも話してほしいのですよー♪ あ、ノオトはお茶汲んで来るのですよ、マッハで」
「はいはい」
などとヒメノが余裕をぶっこいていたのも、最初のうちだけ。
全ての報告を聞いた時──ヒメノの顔からは表情が消えていた。
「え、えーと……誰と……誰が、交際って言ったのです?」
「だから姉貴、オレっちと……」
「拙者が……」
──さて。キリとの交際で最大の障壁になるのは実の姉であるとノオトは確信していた。
というのも、キリの中身がイケメンで大人の男性だと思い込んでいるヒメノは、”彼”になかなか歪んだ好意を抱いているのである。
それでキリが被った迷惑は一度や二度ではない。バトルをいきなり仕掛けられる。急襲される。付きまとわれる、等々。その度に返り討ちにされるところまでがワンセットなのだった。
だが、それもいよいよ終わりを告げようとしていた。
(もしオレっちとキリさんが付き合ってるってバレた時、最悪サイゴクを滅ぼしかねないッスからね、姉貴……)
厄介極まる事にヒメノという少女に隠し事は通用しないのである。どうせいつかバレる。それならば、バレる前に先に挨拶して誠実さを見せた方がまだマシである、とノオトは考えていた。
後にも先にも、キリの正体をヒメノに明かせるタイミングなど此処しかない。ないのであるが──あまりにも火力が高過ぎた。
早速ヒメノの脳には亀裂が入った。まだ序盤戦だというのに破壊される寸前だった。
「ま、待つのですよ。キ、キリ様とノオトが、です? いや、いやいやいや、これは只の悪質なウソなのですよ! そもそもノオト、貴方……いつから殿方が──」
「……キリさん。仮面を」
「……承知した」
ピキッ、とヒメノの顔が更に凍り付く。
現れたのは金髪碧眼の美少女。
当然、その名前はヒメノも知っており──
「ゴ、ゴマノハ様……!? え、何で? キリ様がゴマノハ様で、ゴマノハ様が──キリ、様?」
「それは、仮面を外している時の仮の名でござる……」
「……え?」
「せ、拙者、実は、今の今まで諸々を誤魔化す為に仮面を付けていて……」
「……キリ様がゴマノハ様で、ノオトがキリ様と付き合ってて……うーん」
「あ、あの……姉貴……?」
眩暈がする。
本当の声も顔も分からない相手だったとはいえ、中身があのシャイ極まるゴマノハとは思えない。
タチの悪い悪戯かどっきりであってほしいが、何から何まで全部本当である。
「わ、私、てっきり、キリ様を……素敵な大人の男性だと思って──」
「すまないでござるが……不肖、中身は只の田舎娘でござる。その、だから、ヒメノ殿のアプローチは受け取れなく……」
「……? ……?」
ニャースが無表情で宇宙空間を流れる映像がヒメノの中に延々と繰り返されていく。
そうして魂が抜けきった後、口を開くなり彼女は力無く笑う。
「これは何かの間違いなのですよ……こ、こんなのヒメノがピエロなのですよ……」
「すまねぇ姉貴……」
「そんなわけで報告と謝罪をしたく今日は参ったでござる……大変申し訳なかったでござる、ヒメノ殿」
二人揃って並んで土下座。
だが、肝心の彼女の口からは色々抜け出していた。
今此処に彼女の脳は見事に破壊されたのである。
「あ、あは、あはは……もう謝罪なんて良いのですよ……勝手にヒメノが舞い上がってただけなのですよ……ヒメノは大人なので全部飲み込むのですよ」
(完全に魂抜けてるッスね……烈火の如くキレても仕方ねえと思ってたんスけど……)
(あれだけ苦手なヒメノ様だが……少し可哀想になってきたでござるな……)
お通夜のような空気になる大広間。
しかし、そんな中勝手に彼女のモンスターボールが開き、中から相棒であるミミッキュが現れる。
そして「しっかりせんか!」と言わんばかりに、彼女の背中を叩くのだった。
「ひうっ……そ、そうなのです! ヒメノはキャプテン……威厳、威厳……っと」
「みみっきゅ!」
【ミミッキュ ばけのかわポケモン タイプ:ゴースト/フェアリー】
(ポケモンにフォローされてる時点で威厳もクソもねえッスよ、人の事言えねえけど)
「この際、もう良いのです……お二人がチューしようが勝手、くれぐれも節度のある交際をすればそれで結構なのですよ、
「……えっ」
「……あっ」
ぎくり、とノオトの肩が震えた。キリも、ヒメノの言葉をスルー出来なかった。キリがヒメノの読心術をスルー出来るのは、仮面を付けて過集中状態となった時のみである。今の彼女は、ただのおぼこ娘だ。
一気に部屋の空気が冷えこむ。ヒメノは相手の振る舞いや表情、声音だけで心が読める。今の自分の揺さぶりで二人が見せた挙動不審のサインを見逃さなかった。
「あの? 何故そこで変な声が出るのです?」
「あ、いや、ハハハ……何でもねえッスよ? ネズミざんなんか知らねーッスよ、ハハハ」
「……ソウデゴザルナ、ナンニモナイデゴザルヨ」
【ネズミざん タイプ:ノーマル 威力20 命中90 1-10回の間、連続で当たる。】
ゆらり、とヒメノは立ち上がる。
目が笑っていない。彼女の周囲に霊気が集まっていく。
傍にいるミミッキュも、それに合わせてか力が増大していく。
いけない。完全に怒っているときのそれである。
「……御二方? ……やったのです? まさか、まさかやること全部やったのです?」
「ま、待つッス姉貴!! これには深い事情があって──そもそもが敵に打たれた薬の所為で──」
「しょ、正直かなり危なかったでござるが、ノオト殿の機転で
「だけは!?」
「キリさんまで何を口走ってるんスか!?」
「しまったでござる……」
此処でもう一回ヒメノの脳は破壊された。
「今日は厄日、ヒメノが一体何をしたというのです──ごふっ」
「姉貴ィ!?」
「は、吐いた!? 血を吐いたでござるか!?」
【特性:ライトメンタル】
畳の上に血がぶちまけられる。ミミッキュが駆け寄り、彼女の背中を撫でた。
たったの一日で失恋、キリの裏事情、そして目の前のカップルの情事の事情まで浴びせられる。
とはいえ、全てが全て交通事故のようなものなので仕方がないのであるが。
「ご、ご心配なくー、なのですよー……ストレスで胃に過負荷が掛かって出血しただけなのですよ」
「それはオレっちの十八番なんスけど……」
捨ててしまえ、そんな十八番。
「はぁ、はぁ、何とか耐えたのですよ……!」
血を拭うヒメノ。
二人の交際報告を聞いているだけなのに、既にHPバーは赤く光っていた。
「コ、コホン、真面目な話をするのですよ。お二人がくっついて、おやしろの繋がりが強くなるのはヒメノとしても、万々歳なのですよ」
「政略的側面からは歓迎、ってことでござるか」
「そうなのですよー。だから、お二人の交際は……お二人の交際は、旧家二社の結束に寄与するので賛成なのですよー♪ ヒ、ヒメノは大人なのでー……大人、なので……」
じわり、と彼女の目に涙が浮かぶ。
次の瞬間には泣き顔に変わっており、彼女は泣き叫んでいた。
もう真面目な話など出来そうになかった。
「うわーんッッッ!! やっぱり、あんまりなのですよーッ!! 初恋の人と弟を同時にロストするなんてーッ!!」
「お、落ち着くッスよ姉貴! ぜってー姉貴には、また良い人が出て来るッス、姉貴だってまだ子供なんだし」
「嫌なのですよ! キリ様より良い人なんてそうそう居ないのですよ! それに私達は二人でキャプテンなのですよ! もしもノオトが結婚したら婿養子でひぐれの方に行っちゃうのですよ! ヒメノだけぼっちなのですよ! なーんでよりによってキャプテン同士でくっつくのです!? おやしろは婚活会場じゃないのですよ!!」
「気が早いでござるよ……」
「本当に気が早いッスね……」
「そんなところで息を合わせなくて良いのですよ!! 二人は良いかもしれないけど、ヒメノがどう思うかとか少しでも考えなかったのです!?」
「だ、だから、最大限ダメージを軽減するために、こうして」
「最大限ダメージを受けているのです!」
(どうするでござるかコレ、とうとう泣き出してしまったでござる……)
(ポケモン出さないだけマシッスね……オレっちも同じ立場ならこうなってたかもしれねぇ……)
「そ、そうだ、ポジティブに考えるのですよヒメノ──キリ様とノオトがくっついたら……キリ様が義理の姉ということで……姉……キリ様が、姉──? 姉? 本当はヒメノがキリ様の隣に──」
【ヒメノは倒れた!!】
「姉貴ーッ!?」
この瞬間、完全にヒメノの脳は破壊された。
まだ誰もそこまでの話はしていないというのに、自爆したのである。
頭からは煙が上がっており、ミミッキュが「本当すんません、お嬢が……」と言わんばかりに礼をして、彼女を引っ張って部屋からつまみ出す。
ポケモンの方がよっぽど大人の対応が出来ている。
「……えーと、まあ姉貴は大丈夫っしょ……多分」
「お灸にしては……大分強めになってしまったでござるな……」
勿論後日、ヒメノは胃潰瘍ができて入院したのだった。破壊された脳は再生されることで、また強くなる。人に迷惑を掛けない範囲で逞しく生きて欲しいものである、と切にノオトは願うのだった。