ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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Act8:忍×闘ファイナルバトル

 ※※※

 

 

 

「……止まったッスね……」

「……な、ん……とか……」

 

 

 

 乱暴に射出されたワイヤーは偶然、ビルの看板と信号機に巻き付き、ぐるぐる巻きになった二人を蜘蛛の巣に掛かった餌のように宙吊りにするのだった。

 傍から見れば数奇な光景そのもの。

 背中合わせ、かつ逆さ吊りで緊縛された姿が衆目に晒される中、ノオトは問いかける。

 

「それで、キリさん……調子は」

「……麻痺で……動けない……」

「……そーッスか」

 

(落下死は免れたでござるが……今度はポケモン達を屋上に残してしまった……!! てか、このワイヤーどうやって解くでござるか!? 何をどうしたらこうなるでござるか!? ワナイダーに弟子入りできるでござるよノオト殿!!)

 

 尚、口は動かないだけで脳内は饒舌なキリであった。

 

「……クソッ、まさかぐるぐる巻きになっちまうなんて……ッ!! こ、こうなったら無理矢理引き千切って──いっだだだ、これ食い込んでいてぇッス!!」

 

 何重にも絡まった鉄糸が簡単に解けるはずがない。

 腕の自由も利かない。力づくではどうしようもないのである。

 

「……ノオト殿……ポケモンを……」

「……オレっちのベルトには届かねえんスよ、ボールが掴めねえッス!」

「いや──拙者のボールに……!」

「!」

 

 ノオトは指を伸ばす。

 ぎりぎりだが、キリのボールの1つに届きそうだった。

 そして何とかボタンに辿り着き、それを押す。

 何が入っているかはノオトにも、そしてキリにも分からない。

 音を立ててボールが開き、そこから地面へ向けてポケモンが飛び出す。

 

「しゃらんしゃらららん!!」

 

 砂を転がすような音と共に現れたのは、甲殻が割れてコアの姿となったメテノだった。

 縛られた二人を見るなり、メテノは全く状況が飲み込めないようだった。

 

「良し……ッ!! メテノ……分かるでござるな?」

「しゃららん!? しゃららん!」

 

 しかし、そこは流石にキリの相棒ということもあり、すぐさまパワージェムを放ち、ワイヤーを叩き斬る。

 彼らを縛っていたものを、そしてビルの看板、信号機に掛かっていた物も一瞬で正確に焼き切られる。

 再び二人は空中に放り投げられるが──

 

「よしっ、今ッス!!」

 

 すぐさま、狙いすましていたようにノオトは腰のベルトのボールを地面に向かって投げ付ける。

 

 

 

「ジャラランガ!! キャッチ頼んだッス!!」

 

 

 

 すぐさま、飛び出したジャラランガは、落下してきた二人を──地面スレスレで両脇に抱え込む。間一髪であった。

 全く以て生きた心地のしないキリだったが、一先ず助かったと言わんばかりに息を吐く。

 

「……はぁ、はぁ……何とか……なったでござる」

「さぁてと次はそっちの麻痺を治さなきゃッスねえ」

「……なんでも治しはあるでござるか」

「ポーチに入れてるッスよ。……あー、まあ、使えるッスね」

 

 慣れた手つきでそれを取り出すと、スタンプ型の注射器になっているそれをキリの腕に押す。

 すぐさま薬液が血中に流れ込み、痙攣して動かなかったキリの身体は徐々に自由を取り戻していった。

 そうしてようやく呼気が落ち着いた彼女は──改めて闘志を滾らせる。

 散々やられてきたお返しをする時だ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「くっふふふ!! 流石にもう、立てないわよねぇん!!」

 

 

 

 倒れ伏せた二匹のメガシンカポケモンを前に高笑いするヒガンナ。

 岩の鎧は裂けて既にボロボロに剥がれ落ち、血しぶきがぶちまけられるバンギラス。

 波動の使い過ぎで肌は罅割れ、身体からは湯気が上がるルカリオ。

 しかし、それでも尚、二匹は主人の帰還を信じ、起き上がろうとすることをやめない。

 蓄積されたダメージは確実に身体を蝕んでいた。

 最後の力を振り絞ろうとしたものの、命を削る程の急激進化であるメガシンカに肉体は耐えられない。

 その身体は魔法が解けるように元の姿へと戻ってしまうのだった。

 

「終わったわねェん……さあて、ウルイの奴は……何処に行ったのかしらぁん、ウルイ、ウルイウルイウルイ、ウルイ──ッ!!」

「父上は死んだッ!!」

 

 急襲。

 恐ろしく素早い動きで、岩の刃がヒガンナを上空から襲う。

 予想外の方向から飛んだ攻撃に彼女は飛び退くが全てを避けることは出来ず、その翅の1枚を散らすことになるのだった。

 

「がぁっ!? ……く、くふふふっ!! ウルイ、ウルイ!! まだ、まだ私と遊んでくれるのねぇん!!」

 

 態勢を崩したものの、翅を再生させるヒガンナ。

 彼女の複眼に映ったのは、倒れたバンギラスとルカリオに駆け寄る、記憶に強くこびり付いたキャプテンと似た目を持つトレーナー二人だった。

 

「よく耐えてくれたでござるな、バンギラス……ゆっくり休むでござるよ」

「……バギラァ……」

「ルカリオ、すぐに駆け付けられなくってすまねーッス。後は……オレっちが仇を取るッスよ……!」

「ガオン……」

 

 満足げに笑みを浮かべるバンギラス。そして、「後は頼む」とばかりに肩を叩くルカリオ。

 2匹はボールの中へと吸い込まれていく。

 

「プテラ、此処まで運んでくれてご苦労でござる──そして、メテノ。此処でケリをつけるでござるよ」

「しゃらんしゃららん!」

「そして──ヒガンナ! お前の悪い夢も、此処で終わりでござる。もう父上は居ない。お前が復讐する相手は、最初から居ないのでござるよ!!」

 

 エースに代わり戦うのは、メテノとジャラランガだ。

 此処に第二ラウンドが始まる。

 すぐさま、狂気に満ちた笑みを浮かべたヒガンナが翅を羽ばたかせて、暴風を巻き起こす。

 鱗粉交じりのそれは、再び彼らを昏倒させるべく魔の手を伸ばしていく。

 しかし。

 

「ジャラランガ!! 突っ込んで”スケイルノイズ”!!」

「メテノ、後ろから”パワージェム”で狙撃でござる!!」

 

 正面切って飛び出したのはジャラランガだ。

 粉塵巻き起こる暴風圏に突っ込んでも尚、状態異常に襲われる様子はない。

 ジャラランガの特性は”ぼうじん”。全身の鱗が鱗粉の雨から身を守っているのである。

 そればかりか、全身の鱗を震わせて放たれる衝撃波と騒音が、BURSTで聴覚の強まっているヒガンナの調子を狂わせていく。

 

「あっぎ、うる、うるさあああい!! 何なのコレは!!」

 

 更に、竜巻を貫通する勢いで宝石の如く煌めく光が真っ直ぐに彼女の頭を狙い撃つ。

 タイプを変更する余裕が無かった彼女は、直撃を喰らってしまい、ぐらり、ぐらり、と揺れて落ちる。

 

「短期決戦で、決めるッスよ!! じゃらじゃら鳴らせェェェーッ!!」

「い、いけないわ、このままでは……タイプを……これは、ドラゴンの技──」

 

 強烈な音の波に耐え切れないヒガンナは自らのタイプを再び変化させる。

 包み込むは妖精の加護。ドラゴンの力を完全に遮断するタイプだ。

 だが、それを狙ったようにしてジャラランガの頭を掠め──弾丸が飛んだ。

 

 

 

「”アイアンヘッド”!!」

 

 

 

 避ける間もなかった。

 自分の胴に衝突し、めり込んでいるのが全身を硬化させたメテノであることに気付くまで2秒。

 

【メテノの アイアンヘッド!!】

 

「あっ、がはっ……!?」

 

【効果は 抜群だ!!】

 

 ヒガンナは倒れ込む。鉄の塊が飛び込んできたも同然。

 しかも、妖精の力は鋼を嫌う。BURSTしていなければ、そのまま貫かれていた程の威力だった。膝を突き、吐血しながら彼女は恨めしそうにノオトを、そしてキリを睨む。

 

「あ、()()()()……!! ウルイ、じゃあ、ないわね……!! 何なのよ……!! 戦い方もバラバラ、使ってるポケモンのタイプもバラバラ!! なのに!! 連携が完璧……!?」

「そりゃあ勿論、キャプテン同士──」

「お互いの戦い方は、しっかりと知っているでござるからなァ!!」

 

 共に過ごした日々、そして修練した記憶は絆の証。

 そして修羅場を超えたことで二人の結びつきはより強くなっていた。

 

「……んでもってオレっちはキリさんを──」

「拙者はノオト殿を信じているでござる!」

「何よりポケモンは拙者達を信じ、拙者達もまたポケモンを信じている!! 年季が違うでござるよ!!」

「冗談じゃないわァん、綺麗事ねぇん!!」

 

 しかし、それを裏付けるようにして二匹の猛攻は続く。

 弾丸のように飛び回るメテノがヒガンナを打ち鳴らし、それを受ける為にタイプを変えれば、ジャラランガが”はどうだん”で急襲を掛ける。

 更に挟まれる”スケイルノイズ”の騒音が、彼女をより苦しめていく。

 

「クソッ、こんな所で負けるわけにはァァァァーッ!!」

「後……一歩でござるよ、ノオト殿!」

「……そうッスねえ、もうひと踏ん張り……」

 

 

 

(あっ、ヤバ──)

 

 

 

 

 ”スケイルノイズ”が途切れたのは、キリの耳に何かが倒れる音が倒れた瞬間だった。

 

「え──」

 

 主人が倒れた事に勘付いた瞬間、ジャラランガに隙ができる。

 右翅が巻き起こした風の刃が容赦なく彼を叩き斬る。

 更に、左翅によって巻き起こされた突風がメテノの身体を宙高く放り投げた。

 

「ノ、ノオト殿!?」

 

 突如、糸が切れた人形のように横たわった彼にキリは駆け付ける。

 何の前触れもなかった。何が起こったのか全く分からない。

 

「あら。あらあらあらぁん!? その子──どうしたのかしらぁん? くふふ! いきなり倒れちゃったわねぇん!」

 

 ノオトの顔は青い。

 そして、苦悶の表情を浮かべながら息を荒げている。

 全身を痛みが襲い、そして呼吸するのもままならない。

 その症状を見てキリはすぐさま一つの答えに辿り着いた。

 さっき、ヒガンナが放ったオオワザ”コワクバースト”は、その場にいた全員を漏れなく状態異常に侵すものだった。

 ルカリオとキリは麻痺。バンギラスは眠り。

 そして、気丈に振る舞ってはいたが──ノオトを蝕んでいたのは”毒”だったのではないか、と考える。

 行動こそ制限されないものの、地獄の苦痛を受け続け、いずれ瀕死の重体に至る状態異常だ。

 

「……ノオト殿……何故あの時回復しなかったでござるか! すぐにでも──」

「いやー、回復薬は用意してたんスけどねぇ……」

「すぐに”なんでもなおし”を──あ」

 

 ポーチをまさぐった途端、キリは全てを察する。

 中で液漏れが起きている。そして、瓶が割れているのだ。

 

「……ワイヤーで押さえつけられたり、戦闘の衝撃で回復薬が幾つも割れちまって……ドジしたッスよマジで」

「まさか拙者に打ったのは、最後の一本!? 何で言わなかったでござるか!」

「だって言ったらキリさん、オレっちに打てって言うじゃねえッスか……」

「それで今まで我慢してたでござるか!?」

「……悔しいけど、オレっちとあんたじゃあ……どっちが強いかは今、明らかッスからね……より強い方を生かした、それだけッス」

「……ノオト殿」

「なーんて言ってみたけど……カッコつけたかったんスよ……あんたの前だから……ッ!」

 

 がっ、とキリはノオトの肩を担ぎ上げる。

 

「……ほんっと、拙者の事だけは言えないでござるよ」

「へへへ、違いねぇや」

「こんな所で死んだら、絶対に許さないでござる」

「死には、しねえッスよ……そんなにヤワじゃ、ねーッス」

「減らない口でござるな、こんな時まで……!」

 

 自分は何をやっているんだ、とキリは己を詰る。

 彼が此処まで弱るまで気付かなかったこと。

 そして、未だに敵を撃滅できていないこと。

 その全てが不甲斐ない。

 

「バカねえ!! 本当におバカ!! 自分が倒れちゃあ世話無いわ!! あんたも、よくもまあそんな頭の悪いガキンチョと組んでいたわね!!」

「……」

「要するに自滅しちゃったってだけじゃなぁい!! 足を引っ張ってどうするのって話よぉん!」

 

 ぷつりと何かがキリの中で途切れる。

 そして、彼女の頭の中で枝が広がるように何かが繋がっていく。

 ああバカだ。確かにバカだ。

 倒れるまでノオトは自分を苦しめる毒に耐え、いきなりぱたりと倒れてしまった。

 

(だけど、そのおかげで今、拙者は立っているでござるよッ!! ノオト殿が居なければ……拙者は今……こうして戦えていないでござるッ!!)

 

「……メテノ。──メテノッ!!」

 

 その甲高い呼び声は、宙に吹き飛んだ相棒に──はっきりと届く。

 

「……あ? 一体何を──」

「ステルスロック。地面に大量にばら撒くでござる」

 

 メテノが態勢を整えて地上を狙って岩の破片を放出していく。

 尖った岩は皆まとめて透明化し、一気に地面へと突き刺さり消えた。

 

「一体何処に技を撃ってるのおん!?」

「……次。ダイノーズ!」

 

 続けて彼女が繰り出したのは巨大な鼻を持つ全身が磁鉄鉱で構成されたポケモン・ダイノーズだ。

 

「ダイノーズ──”じゅうりょく”」

「ッ……!?」

 

 ぐいぐいと彼女の身体は地面へと引きつけられていく。

 そして、そこには既にメテノが仕掛けた地雷型の”ステルスロック”が大量に埋め込まれている。

 地面に足を付ければ、容赦なくそれらは炸裂し、かつての三羽烏・アルネのように四肢をズタズタに切り裂く。

 無論、ヒガンナはBURST体。流石に生身の人間のようにはいかない。

 だが、このままでは少なくないダメージが彼女を襲う。その上、羽ばたいて地に浮かぶことすらままならなくなる。

 

(ならば身体を鋼タイプに変えて硬化!! これでステルスロックも刺さりはしないわ!!)

 

 案の定、着地の瞬間にステルスロックは起爆して炸裂。ヒガンナの身体を切り裂いた。

 しかし鋼の身体には岩の斬撃も通用しない。

 

(繋がる……視える。既に拙者は2手前からそれを読み切っている)

 

「──”だいちのちから”」

 

(戻った──全ての()()が)

 

 次の瞬間、タイルは赤熱化して罅割れ、溶岩を噴き出した。

 熱気が彼女を襲う。

 溶岩が飛べない蝶を焼いていく。

 

「ひぎいいいいい!? 熱い、熱いィィィーッ!?」

 

(タイプを変えるなら……”鋼”だと思っていたでござる。上にいるメテノの技の威力を全て半減できるでござるからな。一致技の岩と飛行、見せている鋼技の3つを受けられる)

 

「そして次に取る行動は──」

「──あ、熱い、熱い──まだっ、まだ私は──飛べる──ッ!! 飛んでみせ──」

 

(いや、跳べない!! 飛べない!! ならばせめて、この技を軽減しなければ!! 鋼の身体が溶かされる──!!)

 

(浮かび上がれない状態で”飛行タイプ”に変えても意味がない。岩技の餌食だ。苦痛に耐えかね、”だいちのちから”を軽減できる”草タイプ”でござろう。こちらが見せていない飛行タイプの技が無い事に賭けて)

 

 

 

「堕とせメテノ──”アクロバット”」

 

(こ、此処で()()()()()()()()()耐え凌げ──)

 

 

 

 

 流星一条、建物全てを貫く勢いだった。重力によって強化された自由落下による必殺の一撃。

 屋上は罅割れ、巨大なクレーターが出来上がる。

 それがトドメとなり、BURST細胞は衝撃に耐えかねて崩壊した。

 

「あ、がぁ……!!」

「まあ飛行技を持っていないわけがないのでござるが」

 

 綺麗な翅は焼け落ち、触角はしおれ、複眼は──元に戻っていく。

 そして肌には皺が刻まれ、髪からは色が抜けていく。

 命こそ取られなかったものの、力を急激に得た代償はあまりにも大きかった。

 後に残るのは──醜く老け込んだ老婆だった。

 

「わ……、私、負けたのぉん……!? しかも、生きてる……!!」

「そうでござる。生かしたでござるよ。研究員共から、さっさとBURSTを解除すれば、死は免れると聞いていたでござるからな」

「あ、あがが、ざ、残酷だわ……こ、こんなの……いっそ、殺してくれれば良かったのに……!! 酷いじゃない……!! 放っておけば、私は勝手に死んだのよ……!? 情けなんて──」

「情けを掛ける為に生かすのではござらん。拙者は生憎……先代程優しくないでござる」

「そう、そうねぇ……やっぱり……そうなるわよねぇ……! 貴女は、ウルイじゃあないものねぇ……!」

「お前は一生懸けて償わねばならんでござるよ。力の為に多くの命を犠牲にした罪。そして──離別の苦しみから逃げた罪。例え牢獄から出たとしても、一生懸けて悔んで償い続けるのでござる」

 

 まあ尤も、とキリは続けた。

 

 

 

「……理由は違えど、もし此処にいるのが先代だったとしても──お前を生かしただろうが」

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