ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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Act6:バースト×ビースト

 ※※※

 

 

 

 妙に肌寒い。

 シーツこそ掛けられているが、自分が何も身に着けていないことにキリは気付いた。

 

 

 

(拙者は……どうなったでござるか……どう──ぴっ!?)

 

 

 

 起きるなり、全ての記憶を取り戻した彼女は一気に罪悪感と羞恥心が込み上げて来る。

 そして何より行為の激しさを裏付けするように、身体が鉛のように重い。そして痛い。まだ訓練の後の方がマシだったまである。

 一方のノオトと言えば、先に起きていたのか既に衣服を整えていた。まだこちらが起きたことには気づいていないようだった。

 部屋の空気がどんよりと重く感じられる。

 

(せ、拙者は薬に任せて、ノオト殿にとんでもないことを……ッ!!)

 

 気まずい。

 一言目が出せない。何と声を掛ければ良いか分からない。

 醜態に次ぐ醜態で、合わせる顔が無い。

 そう思っていた矢先──ノオトが此方を向いた。思わず決まりの悪さで顔を逸らす。

 どんな話を切り出せばいいか分からない。

 

「あ、あの、ノオト殿……」

「良かった、もうすっかり薬は抜けたみたいッスね!」

「ッ……」

 

 にっ、とノオトは笑いかけてきた。

 その顔で彼女の心に棘が刺さる。

 自分が何をしたかははっきりと分かっている。ああ、汚してしまった、と余計に罪の意識が募っていく。

 故に問いかけた。問わねば、心が押し潰れてしまいそうだった。いっそ拒絶してくれた方がどんなに楽だっただろうか。

 

「何で……何でそうやって笑ってくれるでござるか……拙者、あんなに酷い事をしたのに」

「でもオレっち、こんなにピンピンしてるッスけどねぇ」

「無理、しないで良いでござる。手加減できなかったのは拙者でも分かってるでござる! 無理して笑顔でいられるのは、拙者も辛いでござる……ッ」

「バーカ言ってんじゃねーッスよ。オレっち、あんたを助ける為に来たんスよ? あんたが無事で良かったから笑えるんスよ!」

「ッ……」

「だってオレっち達、同じ旧家二社のキャプテンじゃねーッスか!」

 

 前にもこんな事があったな、とキリは回想する。

 仮面を付けていたことがバレた時も、ノオトは笑い飛ばして手を伸ばしてくれた。

 彼は優しい。優しすぎる。すぐに騙されてしまう程に純真だ。

 忍である自分の事を、心の底から信じてくれている。

 そんな彼をどんな形であれ傷つけてしまったことを、キリは悔む。

 

「それよりも許せねーのはヒガンナのヤツッス。さっさと捕まえてとっちめてやるッスよ!」

「……そうだ──ヒガンナは」

「取り逃したっスよ」

「えっ──」

「でも、泳がせてるから居場所は掴めてるッス。奴らはすながくれ忍軍が追ってるはずッスよ」

 

 キリは安堵した。 

 しかし、此処で寝ている場合ではない、とベッドを飛び出す。

 

「いても立っても居られない、拙者も現場に──」

「キリさんはもっと、誰かに頼ることを、任せることを覚えるべきッスよ。何のために忍者達だって訓練してるのか分かんねーッス」

「そうでござるけど……」

 

 それを聞いて脱力したように彼女はベッドに転がる。

 彼らは優秀で、年々練度も上がっている。手負いのヒガンナならば、逃がしはしないだろうと彼女は考える。

 しかし、納得がいかない。もしも体調が万全だったならば? もしも薬を打たれていなかったならば? 

 

「……面目ない……本当に、面目ないでござるよ」

「そういうのはナシ! 何で謝るんスか。オレっち達、同じ旧家二社のキャプテンじゃねーッスか!」

「拙者は……完璧なキャプテンで居たかったでござるよ……父が急逝して大変だったおやしろを支える為にも……父の分まで……でも結果は、こうでござる」

 

 無理をして体調を崩し、本来の力も出せなくなり、挙句の果てには──醜態に次ぐ醜態を曝す。

 既に彼女のプライドはズタボロだった。

 

「キリさんの言う完璧なキャプテンって何なんスかね?」

「え?」

 

 そう問われて、彼女は咄嗟に返すことが出来なかった。

 

「例えば……ハズシさんは、バトルに然程力は入れてないけど……ライドの腕前や人を教える技術はズバ抜けてるッス。目もとても良いッスよね」

 

 本人もバトルはあんまり得意じゃないのよねぇ、と言っていたのをノオトは思い出す。それでも今のノオトよりは強いのであるが。

 

「一方ウチの姉貴は、バトルは恐ろしく強いし霊感もあるけど、ハッキリ言って性格は最の悪ッス。すぐ怒るし、手は出るし。でも、ポケモンには優しいッスよね、姉貴」

 

 もうちょっとオレっちにも優しくても良いと思うんスけどねえ、と彼は続けた。

 

「あのリュウグウさんも、全部が全部完璧だったかっていうとそうじゃねーッスよ。耳は遠いし電子機器には弱いし……オレっち達がフォロー入れなきゃいけない時、沢山あったじゃねーッスか」

「……そうでござるけど」

「でも、それで良いんじゃないッスか? 人間元々完璧な人なんて居ねえッス。それを目指すのは良い事だけど……完璧って言葉を()()()()()()()()()使()()()()、自分が苦しいだけッスよ」

「……ノオト殿は、どんなキャプテンになりたいんでござるか?」

「オレっちは──」

 

 にっ、と笑みを浮かべると彼は答える。

 壊れたおやしろが、泣いた姉の姿が脳裏に浮かぶ。

 それを前に何も出来なかった自分の情けなさを噛み締める。

 だからこそ彼は宣言してみせる。

 

「──もう誰も泣かせたりしない、サイゴクで一番強いキャプテンになるのが目標ッス! オレっちが一番強ければ、皆安心してオレっちを頼れるッスよね?」

「ッ……」

「勿論、目標は変わるかもしれない。だけど今は……ひたすら、強くなりたいッ!! キリさんは、どんなキャプテンになりたいッスか?」

 

 

 

 ──キリよ。キャプテンになって終わりではない。キャプテンとして何を成すかが重要なのじゃ。

 

 

 

 就任直後、そんな事をリュウグウが言っていたのを思い出す。

 父が体調を悪くして亡くなるまではあっという間だった。

 そして間もなく彼女はキャプテンに選ばれた。

 周りにこうであれ、と望まれたわけではない。

 しかし──”ひぐれのおやしろ”の名を自分で穢すわけにはいかない、と彼女は仮面を被ることで不相応な役割を背負う事を選んだ。

 故に、こうでありたいという理想など彼女には無かった。

 

「無いでござる……必死で、がむしゃらになって、父上の後を継ぐことばかり考えていたでござる……そのうち、全ての完璧にこなせば父上との穴を埋められると思っていたでござるよ」

 

 それでも、と彼女はヨイノマガンに選ばれた日の夜を思い出す。

 

 

 

「だけど──あの日、ヌシ様に誓ったのは──」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ケェェェェレェェェスゥゥゥーッッッ!!」

 

 

 

 父が死んで、まだ然程経っていない頃、宵の明星が見下ろす中──彼女はヌシの呼びかけに応え、砂漠に足を運んだ。

 巨城の如きヌシポケモンの魔眼が彼女を試すように咆哮する。

 

「……拙者を……新たなキャプテンに選ぶのでござるか、ヌシ様」

「ケェェェレェェェスゥゥゥー……ッ!!」

 

(拙者はまだ未熟。父上の後釜を務めるには、あまりにも……時期尚早ではないか?)

 

 それでも適任は他に居ないとばかりに、ヨイノマガンは頑として彼女を眺めるばかり。

 

「何故拙者を選んだ……ミカヅキもキャプテンの器に足る人物だ、と生前父は言っていたのに」

「ウゥゥゥゥゥ」

「ピッ……!  いや……ヌシ様の命とあらば」

 

 キリは傅く。

 ひぐれのおやしろのキャプテンは代々、ヨイノマガンを主として仕える定め。

 しかし彼女は知っている。今の自分では、到底役目などこなせそうにないことを。

 極度の人見知りで対人恐怖症。挑戦者を待ち受けることすらままならない。

 だが、それでも──与えられた役目を全うするのが忍の在り方。

 此処で逃げることは許されない。

 

「決めたでござるよ、ヨイノマガン」

「ウゥゥゥゥー……!!」

 

 零れた涙をふき取り、彼女は宣言する。

 これから仕える相手であるヨイノマガンに。

 

 

 

 ──キリ。ヨイノマガンはきっと、お前をキャプテンに選ぶ。だけどお前はまだ幼い。……無理だけはしちゃダメだ。早くに僕の所に来たら、怒るからね。

 

 

 

(確かに今はまだ、父上のようにはできない。だけど、いずれは父上のようになれるように……精進するまで……!)

 

 

 

「拙者は……必ずや父上のような立派なキャプテンに……なってみせるでござる……ッ!! そして──()()()()()()、末永くこのクワゾメを、サイゴクを守ってみせるでござるよ!!」

「ケェェェレェェェスゥゥゥーッッッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……そうでござるな。父上の分まで……このサイゴクを守られないといけないのに……無理して死んだら本末転倒でござる」

 

 

 

 ギュッ、と彼女は自分の胸に手を当てて、何かを決意したようにノオトの方を見やる。

 

「拙者は父上の影を追うあまり、初心を忘れるところであった。自分の管理も出来ないキャプテンは──未熟そのもの」

「……キリさん」

「ましてや、生き急いで倒れるなど以ての外。……そう言いたいのでござろう?」

「へへっ、それにキリさんが倒れたらオレっちだって悲しいッス。もう──誰かが居なくなるのはゴメンッスから」

「……ノオト殿。もしも拙者がまた、無理をしそうになったらその時は引き留めてほしいでござる」

 

 キリは己の掌をノオトに差し出す。

 迷いなく彼もその手を取った。

 

「拙者は……加減が分からないでござるから」

「……ああ、任せとけッス!」

 

 太陽のように屈託のない少年の笑み。それにつられて、吹っ切れたようにキリが笑いかけたその時だった。

 ノオトの持っていた無線機から音が鳴り響く。キリは飛び退いた。

 

「ッ……何事!?」

「いや、任務完了の報告だと思うッスけど」

 

 そう言ってノオトが受け答えた──その時だった。

 切羽詰まった声が飛んでくる。

 任務が無事に終わったわけではないことを二人は察した。

 

『ノオト様!! キリ様の救出は……』

「完了したッス! 無事ッスよ! で、そっちはヒガンナのスポンサーを突き止めたんスよね!?」

『ああ……数分前に突入した! しかし、苦戦している……! 巨大な怪物が建物の中で暴れ回っており、ポケモン達が絡め取られて戦闘にならない……ッ!』

「バケモノ──まさかBURST体ッスか!?」

『恐らくは……しかし如何とも形容しがたい姿をしていて……何のポケモンのエキスで変貌したのかさっぱり分からん……!』

 

 報告を聞いていたキリは無線機を取る。

 

「──全員、怪物の封じ込めを最優先するでござる! 倒す必要はない、だが建物から出すな! すぐにそちらへ向かう!」

『その声はキリ様──もうお身体は』

「戦況を断続的に報告してほしい! 拙者も参戦する!」

『し、しかし──』

 

 無線機を切った彼女は、ノオトの方を向く。彼は不安そうに問うた。

 

「行くんスか?」

「無理は禁物、しかし肝心な時に部下を助けに行けない頭領は……頭領失格でござろう! ……そうだ、手持ち達は──ッ!!」

「回収済みッスよ。ボール6個、更にメガリング、確かに無事ッス」

 

 キリを探す過程で建物中を捜索している最中に見つけたそれを纏めて彼女に渡す。

 その中身を確認し、彼女は心底安心した様子で息を吐く。

 

「はぁ……良かった……拙者が不甲斐ないばかりに危ない目に遭っていないかと」

 

 ボールの一つを取り出す。

 今回の件でダメージを受けてしまったプテラは、既にノオトが手当てしたのか元気そうだった。

 

「……ノオト殿。ライドポケモンで急行するでござる!」

「分かったッス……だけど無理するのはナシッスよ、キリさん」

「その時は、ノオト殿が隣で止めてくれるから問題ないでござろう? ノオト殿は他人を見るのが得意でござるからな」

「んな──」

 

 頼むでござるよ、とノオトの頭に手を置き、彼女は立ち上がる。

 

 

 

「……やれやれ、とんだお転婆さんッスねえ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「や、破られそうです隊長!!」

「皆目見当が付かん!! 何なのだアレは!!」

 

 防火扉を更にワイヤーで固定して抑え込む忍者達。

 とにもかくにも、この怪物を建物の外から出すわけにはいかないのである。

 しかし、徐々にワイヤーが千切れ飛んでいき、鉄の扉も軋んでいく。

 

「退避! 退避ーッ!!」

 

 忍者達が逃げた瞬間、鉄の扉が弾け飛び、そこから姿を現したのはこの世のものとは思えないほど悍ましい姿をした怪物だった。

 

 

 

「ヴォオオオルゼアアアアアアアアアアアーッ!!」

 

 

 

【バーストビースト タイプ:???】

 

 

 

 全身の細胞はどろどろに溶解していると共に膨張しており、スライムのように半透明になっている。

 そして、そこからは様々なポケモンの形をした何かが飛び出しており、合成生物といっても差し支えない。

 更に、直接スライムの身体に取り込まれたポケモン達が、頭だけを出している状態で悶えている。生かさず殺さずで養分を吸収し続けているのだ。

 既に忍者達のポケモンも何匹か攫われた後。これでは近付くことすら難しい。

 すぐさま忍者はワイヤーで天井を破壊し、瓦礫の山で足止めを図る。

 しかし、全く以て効果が無く、スライムの塊の怪物はそれらを押しのけて飛び出してくるのだった。

 

「こ、これでは建物の中から出て来るのも時間の問題です!!」

「集中砲火も効果無し──こいつに勝つにはどうすれば……!!」

「ウルイ!! ウルイウルイウルイ!!」

 

 そして怪物の中央からは──ヒガンナの顔が浮かび上がっている。

 憎悪に塗れ、そして既に原型を留めなくなった野太い怪物のような声で叫び散らす。

 

 

 

「だけど愛しているわ、ウルイ!! 私を追いかけているときの貴方の顔が!! 私に打ちのめされているときの貴方の顔がァ!! 私は好きで好きで死んでしまいそうなのおおおおおおおおーッ!!」

 

 

 

 スライムから蔓のムチのようなものが何本も飛び出し、忍者達に襲い掛かる。

 すぐさまワイヤーでそれを阻み、切り裂く彼らは逃げ惑うしかない。

 

「痛いッ!! 痛いわッ!! そうやって私の全てを奪っていくつもりね、そうなんでしょうウルイ!!」

「こいつ、ずっと先代の名前を……!!」

「何という執念だ、バケモノになっても尚、先代の記憶だけは持っているのか! どれだけ恨めばこんな事に──ッ!」

「だから私も奪うわ!! あんたの大事な子達をみーんなぁぁぁぁーっ!!」

 

 忍者達の足元にスライムが現れる。

 すぐさま全身を捕えられた彼らは叫びを上げる間もなく、怪物の体内へと取り込まれて、頭だけが飛び出すのだった。

 

「ぷはっ、息をさせて貰えるのは有情だが……!!」

「力が抜けていく……」

「フッフフフフ!! 全部私が飲み込んであげるわぁぁぁぁん!!」

 

 

 

「──”はどうだん”!!」

「──”パワージェム”!!」

 

 

 

 怪物が勝ち誇ったように高笑いしたその時だった。

 頭を狙って真っ直ぐにそれは狙い撃たれる。 

 鉱石から反射したレーザー光が、身体の表面を焼き、遅れて波動を込めた球体が爆ぜて肉片が周囲に飛び散る。

 

「いたぁい!! 誰ェ!!」

 

 ヒガンナの進路を塞ぐようにして、2人のキャプテンが並び立っていた。

 その傍らにはルカリオ、そしてメテノが既に次弾の装填を開始している。

 

 

 

「……此処から先は通さない!!」

「観念してお縄に着くでござるよ、ヒガンナ!!」

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