ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「改めて解説しましょう! De:BURSTシステム……Drag Enter:BURSTシステム、つまり注射器を通して薬剤摂取することで人間の身体に進化を促す新時代のBURSTシステムなのです!」
「もともと、このBURSTシステムはとある地方の伝説で伝えられるポケモンと人間の融合を疑似的に行うもの!」
「ポケモンを加工したエキスと我が社で開発したメタモン由来の万能細胞を精製した……通称・BURST細胞を注射することで人間の身体を強化、更にポケモンの力を操れるようになるのです!」
「身体的悪影響は?」
「
尚、粗悪品を服用した場合は脳に細胞の影響が現れ、結果的に廃人化する──というカラクリである。当然彼らがそんな不都合な事実を此処で言うはずもないのだが。
「戦略的利点を改めて聞いておこうか」
「ポケモンは所詮、人ではない生き物です! 人に比べれば知識も劣るし、言葉も通じない! 戦力としては不安定そのもの!」
「それに比べて、BURST細胞を付与した人間は、ポケモン並みの生命強度を手に入れた戦士と化すのです! これを訓練すれば、超能力を持った兵士が量産できるわけです!」
にやり、と笑みを浮かべる白衣の男達。
「──是非ともあなた方にも、De:BURSTシステムを手に取っていただき、ポケモンソルジャーの導入を進めていただきたい!」
「その割には随分と苦戦しているようだが?」
「へ?」
※※※
「──ガ、ガォン……!!」
ルカリオは膝を突く。
強烈な眠気が襲い掛かり、とてもではないが立っていられないようだった。
周囲には既に、高濃度のねむりごなが充満している。
「くふふっ、もどかしいでしょぉん! ポケモンに任せていると、こういうことになるのよぉん!」
ねむり状態。
催眠性の物質である鱗粉を肺から吸い込んだことにより、昏倒してしまう状態。
ルカリオが眠りに落ちたその瞬間──勢いづいたようにヒガンナは翅を大きく広げ、巻き起こし──暴風を巻き起こす。
再び周囲の物は荒れ狂ったように飛び回り、倒れ伏せたルカリオを狙って竜巻を巻き起こす。
「さあ、吹き飛びなさぁい!! ポケモン諸共ねぇん!!」
「──”ねごと”」
そうノオトが呟いた瞬間、ルカリオが起き上がり、閃光を真っ直ぐに放つ。
光は風では防げはしない。
確実に標的を狙撃銃のように撃ち抜く。
巨大な翅は良い的も良い所だった。
「はぁっ……!?」
ぐらり、と翅が揺れ、暴風が再び途切れる。
痛みが全身に迸った。
「こ、こいつ、眠らされた後のことまで考えて──!!」
「考えてねぇと思ってたんスか? あんたと戦う時のことを。あんたは以前から暴風で鱗粉を飛ばす戦術が得意って聞いてたッスからねぇ!!」
「……ガキんちょの癖に──ッ!」
「あんたこそ、わざわざクスリまで使って変身したくせに、やる事何にも変わってねえんじゃ世話ねぇッスねえ!!」
再び”ねごと”により、今度はサイコキネシスが放たれ、ヒガンナの身体が思いっきり叩きつけられる。
狙った技は出すことが出来ないものの、ルカリオが今持つ技は全てビビヨンに有効打を与えることができる技のため、全く問題が無い。
(事前にヤツの戦い方を調べておいた甲斐があったッスね……! もしも通用しないなら、ルカリオじゃない別のポケモンに別の対策を仕込んでおいたッスから! まあ、此処までハマるのは予想外だったッスけど!)
「私が、何にも変わってない、ですってぇん……!? ジョーダンじゃないわぁん!! 私はねぇん、キャプテンに勝つために、この肉体を鍛え上げて、BURSTとの適合だってェェェーッ!!」
轟々と再び大竜巻が巻き起こる。
しかし、いよいよ目を醒ましたルカリオが両の手を重ね合わせる。
「大竜巻を起こす相手をブッ潰す方法──色々考えてたんスよね……でもやっぱり──光は嵐の先に到達する。これに尽きるッスね!!」
「吹き飛びなさぁぁぁぁーい!!」
【ルカリオの てっていこうせん!】
光は、何があっても辿り着く。
必ずキリの元へ行くと決意したノオトの意思に呼応するように、ルカリオの波動も強くなる。
ヒガンナは気付かなかった。そして完全に忘れていた。
人と絆を結び、進む場所が合致したポケモンは、カタログスペックを優に超える力を手にするということを。
しかし、相棒と離別したことで、自らそれを忘れることを選んだ彼女にそれを勘定する余裕などなかった。
「がっ、あぁっ!?」
己の体力をも削る決死の一撃は、必殺の閃光となる。
ビビヨンとしての体組織は崩壊していき、ヒガンナの身体はそのまま床へと落っこちていくのだった。
「そんな馬鹿な……!? ど、何処まで強いの、このガキ……!!」
「わりーけどテング団に比べりゃあ、己を鍛えることをやめて薬に頼ったアンタなんざ、足元にも及ばねえッスよ!」
「ガォン」
「ポケモンと共に呼気を合わせ、修行をすることで! より、相手の事が分かるようになる! そして、ポケモンと共に戦う事で、それぞれじゃあ見えない視点からフォローし合えるようになる! あんたみてーに、1人で戦ってるのとは訳がちげーんスよ!」
「……ッ綺麗事を!」
「それに、人間の感覚はあんたが思ってるほど万能じゃねーッスよ。幾ら薬でドーピングしたって、元が違う生物の力をすぐ使いこなせるようになれるわけがねぇッス」
「バカな! こっちは何度も練習してるのよ!?」
「使いこなせたと思ってただけなんスよ。人間の視界とポケモンの視界は全然違うし、聞こえる音も全然違う。備わる能力もそれが前提になる。薬でハイになって万能感を味わってただけッス」
「……此処までしても、あんた達には勝てないっていうの!?」
「その地方の伝説みてーにポケモンと人間が絆で結ばれて融合するならさておき、
「ッ……お前なんかに──」
次の瞬間だった。
いきなり天井が崩れ落ちて、ノオトとルカリオは飛び退いた。
続けて更に瓦礫が降りかかり、2人はその下敷きになってしまう。
何とかルカリオが瓦礫を吹き飛ばすが──その時にはもう、オンバーンのような姿をした男たちがヒガンナを回収して、窓から飛び去っていくのだった。
「ガォン!!」
「待つッスよ、ルカリオ! 深追いは危険ッス! 先ずはキリさんと、捕らえられてるポケモンを助けるのが先ッスよ!」
「ッ……くわんぬ」
悔しそうに空を見上げるルカリオ。
その気持ちはノオトにも分かるが、今日此処に来た理由はただ一つ。
キリと、捕らえられているポケモンの救出だ。
(とはいえ、元はキリさんを誘い込むために用意したであろう急ごしらえのアジトだろうから、キリさん以外の収穫は期待できねーッスけどね)
アジト──もとい、此処が山中の廃ホテルであることをノオトは思い出す。
重要なものはこんな場所には残していないと考えるのが自然だ。
それに、逃げたヒガンナは、すながくれ忍軍が敢えて泳がせて、敵の本拠地を特定するはずである。今此処でルカリオが彼らを捕まえてしまっては元も子もない。
(そのために、忍者達には外で隠れてもらってるんスから……1人も逃がさねーッスよ。巣穴でまとめて捕まえてやるッス! 後は、キリさんを助けるだけ!)
とはいえ、まだ内部に敵が残っている可能性は捨てきれない。
慎重に部屋という部屋を、ノオトは探索していく。
だが、いちいち中に押し入る必要はない。ルカリオは生物の持つ波動を探知することができる。
この建物の中にあるキリの波動を追うルカリオを頼りにしていけば、いずれ彼女の居場所に辿り着く。
「此処ッスね? ルカリオ」
「くわんぬ……」
「どうしたんスか? ……もしかして中でキリさんに何かあったとか」
こくり、とルカリオは頷く。
そうとあらば黙ってはいられない。
ノオトとルカリオは息を合わせ、共に拳を突き出す。
何かがへしゃげる音と共に扉は跳ね飛ばされ、中へと押し入った。
そこにあったのは、服を脱がされ、鎖で手と脚を縛られたキリの姿だった。
しかし様子がおかしい。息が荒く、ずっと顔を伏せている。
更に頭からは、白い耳のようなものが生えていた。
「キリさん!! 平気ッスか!?」
「ダ、ダメで、ござる……ノオト殿……!!」
「えっ」
「今、拙者に近付いたら、ダメでござる……!!」
パキ、パキパキ、と音が鳴る。
鎖の破片が彼女の足元に落ちていく。
警戒するようにルカリオが構えるのを、ノオトは手で制す。
「折角、収まったって思ってたのに、ノオト殿を見たら……ノオト殿の声を聞いたら……!!」
「ガルルルルッ……!!」
「ルカリオ、ステイ!! キリさんに手ェ出したらダメ──」
「ガマン、できないでござるよ──ッ!!」
バキン、と鎖が砕け散り、恐ろしい勢いでキリがノオトを地面に押し倒した。
普段の彼女以上に恐ろしい力だった。
目は充血しており、息は荒く、顔は真っ赤だ。
その視線はまさに捕食者のそれで、鋭く、そして獰猛なものとなっていた。
「ガォン……!!」
すぐさまルカリオが羽交い絞めにして、彼女を引き剥がそうとする。
しかし、元より身体能力がずば抜けて高いキリは、すぐさまルカリオの腕を掴むと、地面へ叩きつけてしまうのだった。
「ルカリオ!! しっかり!!」
「ガルルル……ッ!?」
困惑した様子のルカリオ。
しかし、このまま本気で戦わせれば今度はキリの方が傷ついてしまいかねない。
「一旦戻るッス!! 本当にヤバくなったら呼び出すッスから!!」
「くわんぬ……」
「オレっちを信じるッスよ!!」
ボールを取り出し、ルカリオを引っ込める。
一方のキリは、相も変わらず虚ろな瞳でノオトを眺めており、再び地面を蹴って壁際へと追い詰める。
元々超人的な力を持つキリだったが、それ以上に力が引き出されており、身体のリミッターが外れていると言っても過言ではない。
「ノオト殿、美味しそう……」
「ヒッ──」
「ノオト殿、ノオト殿ノオト殿、ノオト殿ノオト殿ノオト殿、ノオト殿ノオト殿ノオト殿、ノオト殿ノオト殿ノオト殿、ノオト殿ノオト殿ノオト殿、ノオト殿ーッ!! 食べたい、拙者の傍に、ずっと居て欲しい、拙者だけを見て欲しい、その目に拙者だけが居なきゃ、嫌……!!」
狂気的な程な熱量の情愛。
溺れる程の独占欲をぶつけられ、竦んでしまうほど。
しかし──ぽたり、ぽたり、とノオトの頬に伝うのは涙だった。
「なのに何で──拙者の事を見てくれない……!」
「え──」
「いっつも、他の女の子の所にはフラフラと靡く癖に! 拙者の事をそういう目で見てくれたことは一回もない! 何で!? そんなに魅力がない!?」
「お、落ち着くッスよ、キリさん──」
「拙者だけ、いっつも拙者だけ!! こんなに胸の焦がれる思いを抱えて過ごしているのはッ!! ずるい、ずるいずるいずるいずるい!!」
いつもからは考えられない程の激情。
「耐えて、忍んで、ずっとそれで良いって思ってたのに! 全部ノオト殿が悪いの! ノオト殿に出会った所為で、拙者はおかしくなった!」
ぶつけられたことのない感情の波に、ノオトは戸惑いを隠せない。
薬で感情がおかしくなっていることは否めない。
だが、その言葉を偽りと切って捨てるには、あまりにも悲痛だった。
「認められるには、好かれるには完璧で居なきゃいけないってずっと思ってたのに!! 弱い拙者を見て友達になろうだなんて言ってくれたのはノオト殿が初めてで!! そうだ、ずぅっと、ずぅっとガマンしてきて──抑えて殺して……!!」
支離滅裂になりながら、涙を流しながら彼女はノオトを抑え込む。
「だから正体がバレた時怖かった!! 今まで仲良くしてくれたのは拙者が”ゴマノハ”だったからだって思ったら……これまでの関係が壊れたらって思ったら怖くて!!」
「ッ……」
「でも、ノオト殿は変わらずずっと優しくて!! それが──怖くて!! どうすればいいか分からない!! 分からないの!! こんなの初めてで──ッ!! どうやったら収まるのか、分からない!!」
捕食せんばかりの勢いでガリッ、と彼の首筋に噛みつく。
犬歯が食いこみ、血が流れ出て鈍い痛みが襲い掛かる。
「いぎっ……!?」
かぱぁ、と口を開けた後──鼻と鼻がくっつく程の距離で、彼女は問いかける。
「ノオト殿は、どっちの拙者が好き……? 強くて、完璧なキャプテンとしての拙者……? それとも──弱い拙者……?」
ぐっ、とノオトは彼女の頭を押さえつける。
びくりと彼女の身体が震えた。
「どっちも、があるのがキリさんッしょ。どっちかとかねぇッスよ……」
「ッ……」
「そりゃあ、どっちかしか見えてなかった時期もあるけど……キリさんとゴマノハさんが同じだって知ったからって……別にゲンメツとかしてねーし、むしろ……尊敬してたんスよ」
「う、ううう……ッ」
「キャプテン・キリは才能だけで伸し上がったんじゃなくて……ちゃんと、努力の座で今の場所にいること。誰よりも優しくて、誰よりも純真なこと。オレっち、ちゃんと見てるッスよ」
「でも、だけど……!」
「それに……自分の気持ちは、ちゃんとあんたの言葉で伝えてくれなきゃ、困るッス。オレっちバカだから、言ってくれなきゃ分かんねーッスよ」
「ノ、ノオト、殿……ッ」
「だから……良い子にするッスよ、キリさん……」
白いネズミの耳が消え失せる。
時間経過でBURSTが解除されたのである。
異様な力は消え失せ、糸が切れたように彼女は倒れ込んだ。
「キリさん!?」
「……す、済まない……何とか、落ち着いたでござるよ……」
その口ぶりから、一定の理性は取り戻したようだが、未だに息は荒く、目は涙ぐんだままだ。
「……でも、まだ顔が赤いッスよ……?」
「あいつに……ヒガンナに変な薬を打たれて……ずっと……こんな感じで……多分、媚薬が混じってたでござる」
「やっぱりそういう系ッスか。あいつマジで許せねえッス」
「正直、かなり辛いでござるよ……大分抑え込んでいたでござるが……!」
キリは忍ということもあり、理性がかなり強い。
故に、今も溢れ出る情動を無理矢理抑え込んでいる状態だ。
しかしそれでも、迸るパトスに常に頭を焼かれている。強制的に発情させられていると言っても過言ではない。
「……ねえ、ノオト殿……拙者、ノオト殿相手なら……」
「ダメッスよ、そんなに簡単に言っちゃ……」
「でも、他の女の子にはいっつもデレデレしているでござるよ……」
(ああこれBURSTが解除されただけで、まだ全然抜けきってねぇッスね薬……)
「すまないでござる……いきなりこんな……頼みを……でも、もう、限界で……」
「……ッ」
「拙者は本気でござるよ……ッ! 本気の本気でござる……! ノオト殿以外は、考えられないでござる……ッ! 他の誰かなんて、考えたくもないでござる……ッ!」
「……すまねぇッス、キリさん。やっぱり──薬でどうかしてる人の言葉は……聞けねえッスよ」
「うぐぅっ……」
苦しそうに呻き、涙を流すキリ。
「だけど──あんたを楽にするためなら……幾らでも力になるッス。キリさん」
「ノオト、殿……ッ」
「あんたの気持ちは、薬が抜けた後でたっぷり聞かせて貰うッスから」
ずっと耐えて忍んできた彼女にこれ以上我慢を強いることは出来なかった。
※※※
「──何という醜態! おかげで商機を逃してしまったではないか!」
白衣の男達は、集団でヒガンナを詰る。
プロモーションは失敗。犯罪組織の残党たちは皆揃って帰ってしまった。
──そもそも戦略をすぐに変えられない時点で、普通にポケモンを使った方がマシではないか?
──発想はマーベラスなんだけどねぇ。やっぱり身体に悪そうだなァ。兵士ってのは健康な方がずっと使えてグッドなんだよね。
──負けたら自分が傷つくリスクがあまりにもデカすぎるわね。ポケモンは最悪囮に出来るわ。
揃いも揃って外道揃いではあるものの、戦術的視点ではド正論も良い所なのだった。
兵士として運用するには、あまりにもリスクが高く、ポケモンとして運用するにはあまりにも脆い。
それが、BURST薬によって作られたポケモンソルジャーの欠点であった。つまるところ中途半端なのである。
諸々を考慮し、結局導入するには値しないと判断されてしまったのだ。
「クソッ、こうなればBURST薬そのものを改良するしかないか……!」
「あのノオトってヤツが想像以上に強かったんだ、もっと強いものを──」
「……悪いけど、もう終わりよぉん」
「何!?」
「クワゾメの忍者達が──着けて来てるわ。多分、あんたらの顧客たちも足がついてる」
外の様子を見ながら、ヒガンナは呟く。
既にライドポケモンに乗った忍者達がこのビルを包囲している。
更に、地下室から出ていった顧客たちは、既に内部に侵入していた忍者たちによって捕縛されてしまうのだった。
彼らは皆指名手配犯で、忍者達としてもサイゴクに入り込んでいた彼らを追っていたのである。
「きっと最初っからこのつもりだったのねぇん」
「ッ……ふざけるな! お前の所為だ! お前なんぞを仲間に引き込まなければ──」
「そうねぇん、全部私の所為」
そう言って、ヒガンナは手から吐き出した糸でアタッシュケースを絡めとる。
その中に入っていたのは、大量のBURST薬の注射器だ。
「しまっ──いつの間に!?」
「何驚いてるのぉん? 私の本業は盗賊よぉん?」
にやり、と笑みを浮かべた彼女から注射器を奪い取ろうとする白衣の男達。
しかし、既にBURSTを発動させているヒガンナは彼らの身体を糸で縛り付けて床に転がせてしまうのだった。
「……だからせめて、最後は私自身の手で責任を取るわぁん」
「お、おい、何を──」
宙に彼女は注射器をばら撒く。
そしてそれを、自らの身体から放出した糸で器用に絡め取り、まとめて自らの身体に突き刺す。
「……この手で……あのガキも、クワゾメのキャプテンも……潰すわぁん!!」
「や、やめろヒガンナ!! そんな事をしたら死んで──」