ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「ヒガンナ!! いい加減にお縄に付け!!」
「くふふ、嫌に決まっているじゃない!」
それは、最後の捕り物の時。
ヒガンナの傍には常に、ちょうちょポケモンのバタフリーが付き添っており、毒、麻痺、そして催眠性の鱗粉を大量にばら撒き、道行く人々を眠らせ続ける。
虫ポケモン達による正攻法とは無縁の戦術。それこそがヒガンナの厄介さを加速させており、これまでウルイを何度も煙に巻いて来た。
しかし、幾度もの戦いで既にウルイも対策を完璧に立てており、市街地での戦闘は白熱。
既に彼女のポケモンは何匹も瀕死に追いやられていた。
(ッ……強くなってるわね、この忍者!! 以前よりも!! こうなったらどんな手を使ってでも逃げ切るわ!)
(最早お構いなしか! これ以上、この町に被害を出させるわけにはいかん!)
痺れを切らした彼女は「巻き起こしなさぁい、暴風!」の一言で周囲に竜巻を巻き起こす。
そこには当然、鱗粉も混ぜられており、近付くだけで昏倒する代物だ。
おまけにバタフリーの特性は”ふくがん”。命中率の低い”ぼうふう”も容易く当てられるようになってしまう。
更に竜巻の威力は高く、街路樹を巻き込み、屋根を剥がし、車をひっくり返す程。
周囲の被害を顧みずに逃走を続けるヒガンナに、ウルイも切羽詰まっていく。
「もう手加減は出来んぞヒガンナ──行けバンギラスッ!!」
飛び出したのはバンギラス。
その目と口には、バタフリーの放つ鱗粉から身を守る為のゴーグルとマスクが装着されていた。
「ッ……”ぼうじんゴーグル”!! 対策してきたのね──だけど、鈍足なその子じゃあ──」
「力強く、跳べ、バンギラァス!!」
アスファルトが割れる程の踏み込みだった。
バンギラスは思いっきり飛び上がり、ヒガンナ目掛けて飛び掛かる。
想像以上に敵のフットワークが軽かったことに驚愕したヒガンナだったが、何とか強襲を躱し、バタフリーの足を掴んで空へと逃げようとする。
だが、そこに追いついたウルイがワイヤーを放ち、ヒガンナを捉えようとする。
しかし──
「バタフリー!! 最大出力よ、”ぼうふう”!!」
自らを捕えようとするウルイを引き剥がすべく、そして主人を守るべく、バタフリーはこれまで以上に強力な暴風を巻き起こす。
しかし、此処は市街地。
まだ周囲には逃げきれていない人々が多数いる。
此処でそれを放てば、大きな被害が出ることは確実だった。
否、既に電話ボックスも看板も吹き飛び、逃げている人々が風に巻き上げられており、大惨事だ。
バタフリーもヒガンナも、そんな事はお構いなしだったのであるが──当然、ウルイがそれを許すはずもなかった。
「いけないッ!! ”ストーンエッジ”!!」
地面を砕き、そこから現れた巨大な岩の剣をバンギラスは思いっきりヒガンナに向けて放つ。
それは暴風圏さえも突っ切り、バタフリーを──貫いた。
「あッ……バタフリーッ!?」
ストーンエッジは急所を貫く技。
そして、ウルイのバンギラスもまた、主人を守る為に、無帽の人々を守る為に、一撃でバタフリーを倒すことを選んだのである。
だが、当たり所が悪かったとしか言いようが無かった。
駆け付けた配下の忍者達が見たのは、変わり果てたバタフリーを前に泣き叫ぶヒガンナを──やるせない顔で捕縛するウルイの姿だったという。
「返して!! 返してよ!! 此処まですることないじゃない!! ねえ!! 返してよ!!」
※※※
「あれから私は……ウルイのヤツにどうやって復讐するか考えてたのよぉん」
(……残念ながら何から何まで自業自得としか言いようがないでござるな……)
キリも、ウルイからこの話を聞かされていたので、詳細は知っていた。
しかし元はといえばヒガンナが逃走の際に町を丸ごと一つ巻き込んたのが、ウルイが本気を出さざるを得なかった原因である。
どうしてこうも悪党は、誰かの所為にしなければ生きていけないような者が多いのだろう、と心の底からキリは軽蔑した。
何より、当時バタフリーを死なせてしまったことはウルイが一番後悔していたことをキリは知っている。この話をする時のウルイは、いつになく悲痛な顔をしていたことを思い返す。
元よりひぐれのおやしろの体質改善に尽力していた先代は、殺すつもりの無かった相手を殺してしまったことに無念を感じていたのである。
(それをこの女は知らないで、逆恨みも良い所でござろう……!)
「脱獄なんていつでもできるもの。でも、そんな気力はもう無かった──そんな中、私に協力を申し出て来た者達が居たのよぉん」
※※※
──ポケモンの力を借りずに戦う新時代を、私と作らんかね? ……君の力ならば、De:BURSTシステムの有用性を顧客に示せる。
──とある地方の禁術を薬で再現したものだが、興味は無いかね? 最早ポケモン同士で戦わせるなどという古い時代は終わりを告げ、人間がポケモンの力を手にした
──新時代なぞに興味は無いわぁん。どうせ、自社の製品を売り込みたいだけでしょう?
──だが、キャプテンを倒せる程の力と聞けば話は別だろう? サイゴク地方の……キャプテンを倒せる程の力だ。
──……話を聞かせて貰えないかしらぁん?
※※※
「そんなわけで、私の役割はBURST薬の素材となるポケモンの蒐集。そして、憎きクワゾメのキャプテンをBURSTの錆にすることよぉん!」
(という事は──スポンサーが居るのでござるな……ッ!!)
ぼんやりする頭で、キリは考える。
ヒガンナはキャプテン並みのトレーナーであり、同時に身体能力も非常に高い。
BURSTの被検体としてはこれ以上ない適任者だ。
(それにしても皮肉でござるな、自分のポケモンが犠牲になったことが切欠で、より多くのポケモンを犠牲にするBURST薬製造の片棒を担ぐことになるとは、色々壊れてるでござるよ)
「ところで貴女、さっきから目は逸らすわ、喋らないわで、ちょっと態度が悪いんじゃあなぁい?」
(ぴっ……! ただのコミュ障でござるよ……! 自覚はあるでござる……!)
「どうせ、そんな態度が取れるのも今のうちよぉん? もうじきに、貴女を助けにやってきたクワゾメのキャプテンがやってくる」
(多分一生やって来ないでござるよ)
何故ならそのキャプテンはずっと目の前にいるからである。
「それを私が華麗にBURSTで、返り討ちにすることで、私は契約満了で報酬ザクザク──ウルイの後継者もブッ潰せて一石二鳥というわけよぉん!」
「うちのキャプテンも……舐められたものでござるな随分と……!」
「いいえ、これは自信よぉん」
(さて、そのキャプテンは目の前に居るのでござるが……どうしたものでござるか……)
手は鎖に巻かれてしまっており、ワイヤー射出装置も没収されてしまっている。
何なら上半身は下着以外ひん剥かれてしまっており、モンスターボールも無い状態だ。
当然、一緒に攫われたであろうトゲチックも見当たらない。
(手持ちの安否が、何より攫われたポケモン達の安否が気になる……!)
「さぁて、そんなわけでその間にたっぷりと楽しませてもらうわよぉん?」
「──? ……ッ!?」
ヒガンナの手には注射器が握られている。
何の薬剤がそこに入っているか堪ったものではない。
すぐさまキリは縛られた後ろ手を動かし、鎖を外そうと試みる。
緩んだところを思いっきり引き千切ればこの状況は脱することができる。
しかし、薬を打たれてしまえばそれすら出来なくなる。
これならば独房に一人でぶち込まれた方が何倍も良かった、と彼女は悔やむ。
「くっふふ、ワッカネズミって知ってる?」
「……?」
【ワッカネズミ カップルポケモン タイプ:ノーマル】
「ボールに入れていると、いつの間にか……子供が増えているらしいのよ……何故かしらね……?」
「い、一体何を……!!」
「……ワッカネズミに限らず、ネズミのポケモンって
「……あ、あ……!」
(ヤバいでござる!! く、
流石のキリも意味を理解した。
あの注射器の中身はBURST薬か、それに類似したものなのだろう。
部屋の隅を見ると、ご丁寧にベッドが用意されている。改めて部屋の間取りから、此処は廃病院か廃ホテルか何かだとキリは察した。こんな時に察したくはなかった。
「で、BURST薬ってポケモンに応じて色んな効果・効能があるみたいなのよねぇん。強くなるだけじゃあないの。その点、ワッカネズミは……スゴいわよ?」
「どういう原理でござるか……! 信じ難いし、それを簡単にポンポン人に打つ神経も理解できないでござるよ!」
「まあ、この薬の場合、
(健康的でないことは確かでござる……!!)
「私ねぇ、可愛い女の子をたぁぁぁーっぷり、どろどろにして可愛がるのが昔っから好きなのよねぇん。特に、貴女みたいに綺麗な金色の髪に、青い目の女の子とか……」
「ヒエッ……」
「壊れてるところを見るのが、趣味なのよねぇん!!」
ガチャガチャガチャ、とキリは鎖を外そうとするが、もう間に合わない。
「はいブスっ♡ と」
「あッ……」
首の頸動脈に、注射針が打ち込まれる。
どくん、と心臓が強く脈打ち、身体全部が熱を帯びる。
(──ッ!?)
「あらぁん、良い出来上がり方よぉん?」
「はぁー……はぁーっ、身体が……おかしい……熱い……!? 息が……!?」
息が上手く吸えない。
血管が脈打ち、動悸は更に強くなり、視界はぼんやりとし始める。
そして何より心が切なく、強い情動に心が支配される。
「うっふふ、可愛い耳が生えてきたわねぇん」
「ひぅ……!」
「さぁて、火照って来たでしょぉん? ベッドへ来なさい、たっぷり可愛がってあげるわぁん! キャプテンが殴りこんで来るまでの間、ねぇん!!」
──と、ヒガンナが自らの服を脱ぎ捨てようとしたその時だった。
遠巻きに──爆音が響いてくる。
そして遅れて、部下らしき男が部屋に飛び込んで来る。
「……何事?」
「キャ、キャプテンです! おやしろのキャプテンが一人でこのアジトに乗り込んできましたァ!!」
「──撮影の準備をして頂戴ねぇん。スポンサーの顧客に、BURST薬の有用性を示さなきゃあいけないんだから」
踵を返し、ヒガンナはその場から去っていく。
そして、部屋から出る間際に薬の作用で悶え苦しむキリを一瞥すると──
「あー……というわけで、もうしばらくそのままで待っててねぇん?」
(こ、こいつは絶対許さないでござる──ッ!!)
──そのまま彼女を放置して出ていくのだった。
目がちかちかして、心が落ち着かなくなっていく。頭では何も考えられない。
そればかりか、何故か脳裏に過るのは──いつも笑顔の明るいあの少年の顔だった。
「ト殿ォ……ノオト、殿ォ……なんで、こんな、時にぃ……!!」
※※※
「……へぶぅ!! へぶぅ!!」
ルカリオの連続ラスターカノンが、ストリンダー男の身体を襲い、吹き飛ばす。
今のノオトには、並大抵のBURST体など相手にもならない。
「ま、また、出オチかYO……」
「さーてと、テメェらのボスの居場所を教えてもらうッスよ」
「ガォン」
「そんなことしなくたって──ぐかー──」
「!?」
ノオトは身構える。
幸い、ルカリオも彼も防塵ゴーグルを身に着けていたため、何ともなかったが──ストリンダー男がいきなり眠りこけてしまったのを見て”ねむりごな”が流れて来たことを察する。
「あらぁん、しっかり粉対策はしてるのねぇん。貴方が、ひぐれのおやしろのキャプテン?」
それは、敵襲を意味していた。
現れたヒガンナは、資料通りの妖艶な女性という姿だった。
ノオトは身構える。
「ま、そんな所ッスね」
「ウソおっしゃい! あんたみたいなガキがウルイの後継者なわけがないでしょぉん!?」
「キャプテンなのは本当ッスよ!! 泣くッスよ!?」
「くわんぬ……」
ルカリオが呆れて首を横に振る。
早速舐め腐られているらしい。
「先に言っとくッスけど!! オレっちは連れの女の子を個人的に取り返しに来ただけッス」
「あら、あのお姫様、君のガールフレンドだったのぉん?」
「そうッス。さっさと返してもらうッスよ」
「悪いけどガキんちょに渡すには惜しいわねぇん、あの子は」
「ガキんちょ扱いしてると、痛い目見るッスよ。それで、連れは無事なんスよね」
拳を構えるノオトとルカリオ。
周囲に静かな殺気が満ちる。
「……ま、キャプテンというのなら少し本気を見せてやろうかしらぁん。古傷が疼くのよねぇん、あんたみたいな真っ直ぐな目をしたクソガキを見るとねぇん」
びきびき、と何かが割れるような音が鳴り響く。
ヒガンナの背中から巨大な翅が飛び出した。
モザイクアートのような模様から──ノオトは、翅の持ち主がビビヨンだと判断する。
更に額からも触覚が生え、目も黒と白のモザイク複眼と化す。
【ビビヨン<BURST> りんぷんポケモン タイプ:虫/飛行】
「──関係ないヤツに水を差されるのはキライなんだけど──ウルイに似た目をしてるヤツはもっとキライよぉん!!」
【ビビヨン<BURST>の ぼうふう!!】
轟轟と竜巻がいきなり前触れもなく吹き荒れる。
周囲に乱雑する椅子やロッカーも巻き上がり、風圧が進路を阻む。
ノオトの目に思い出されるのは、”よあけのおやしろ”を破壊したマガツフウゲキだった。
しかし、あの破壊的な嵐に比べれば、この程度の風は──大したことがない。
だが、恐れるべきは、風の中にビビヨンの鱗粉が混ぜられていることだ。下手に近付けば防塵ゴーグルが引き剥がされたり、そうでなくとも風の中ではビビヨンの鱗粉を吸い込んでしまうことになりかねない。
ならば、とノオトはルカリオに命じる。
目の前の敵と、あのアーマーガアでは決定的に違う点がある。
「”サイコキネシス”!!」
ぴたり、と暴風が止んだ。
ルカリオの目が光ったときには、ヒガンナの身体は縛り付けられており、翅の動きも停止していた。
「しまっ──く──!!」
「こういう技は本体の動きを止めちまえば良いんスよ──!!」
しかし、それも長くは続かない。
ルカリオの放つサイコパワーが途切れれば、その瞬間に再びヒガンナは動き出す。
「ッ──!!」
突風を巻き起こしながら、ヒガンナはルカリオ目掛けて飛び掛かる。
無軌道な突撃などルカリオからすれば怖くはない。
軽く身をよじらせて躱してしまう。
だが、更に追撃するように空気の刃が襲い掛かり、それをバック転で飛び越える。
「ルカリオ──反撃ッスよ!!」
「ッガルル……!! がぉん!?」
態勢を立て直したルカリオは──己の口に何も装着されていないことに気付く。
「ありっ、ぼうじんゴーグル無くなってるッス……!?」
「お探しのモノはこれかしらぁん?」
くるくる、とヒガンナは人差し指でそれを回してみせる。
【ビビヨン<BURST> の どろぼう!】
【ぼうじんゴーグルを 盗んだ!】
「此処からは……私のターンねぇん!!」
※※※
「成程、ポケモンだけではなく団員自身も戦闘力に出来るのはなかなか革命的だな。組織の再興には役立ちそうだ」
興味深そうに映像に食い入る男の服の胸には──ピンク色の「R」マークが刻まれていた。
「素晴らしいデース!! しかも薬剤だから幾らでも大量生産が効くのはグッドデース!!」
称賛する男の服の胸には──青い稲妻が迸る「P」のマークが刻まれていた。
「……素晴らしい。この薬に適合出来た者こそが新時代の住民に相応しいわけね」
女の服は炎のように赤く、目は燃えるようなサングラスに覆われている。
そして、彼らを前に満足げにプレゼンを行うのは白衣の男達。その目の前には、アタッシュケースに詰められた大量の注射針が開かれていた。
スポンサーと呼ばれる彼らの顧客は──犯罪組織の残党。
いずれも、ロケット団、プラズマ団、フレア団と呼ばれ、各国でそれぞれ恐れられた組織の団員達である。ボスを失って尚、野望を失っていない過去に囚われた亡霊たちだ。
そんな彼らに死の商人は提供する。文字通り血みどろの革命を起こす武器を。
「くっく、御覧なさい!! 格が違いますよ!! あのキャプテン相手に一歩も引かぬ戦闘力!! これを量産できるのです!!」
「これこそが、新時代のポケモンソルジャー、De:BURSTです!!」