ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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Act3:アレスト×トラスト

 ※※※

 

 

 

「早く、早く早く行かなければ──ッ!!」

 

 

 

 トゲチックを抱きかかえながら、彼女はキビシティ目掛けて急降下していく。

 人込みは怖い。町中のポケモンセンターは怖い。

 だが──今抱きかかえている命を助けられないのは、もっと怖い。

 それは、キャプテンの矜持が許さない。

 

 

 

「──いよーう、そこの嬢ちゃんッ!! そんなに急いで何処に行くんだYO?」

「……ッ!!」

 

 

 

 キリは、一瞬何をすればよいのか分からなかった。

 いつもの彼女ならば、声を敵意を断じ、腕の仕込みワイヤーですぐさま攻撃を仕掛けるところだった。

 しかし、それが今は出来なかったのである。

 一度オーバーフローした思考回路が元に戻るのには時間がかかる、と医者は言った。

 過労によるストレスと、疲労で、今までのような過度な集中状態となることを脳が拒んでいる。

 故に、今までのような突発的な判断も計算も封じられているも同然だった。

 男は全身が紫色の鎧に包まれており、更に全身からは電気が迸っている。

 

「そのポケモンは激レアでなァ──出来れば穏便に渡してほしいんだけどYO!!」

「ッ……こいつもBURST体でござるか……!!」

「ちょげ……」

 

【ストリンダー<BURST> パンクポケモン タイプ:電気/毒】

 

「ついでに嬢ちゃんのプテラも、なかなか激レアじゃねーかYO!!」

 

 武装している状態で穏便と言われても、何ら説得力も欠片も無い。

 手には毒々しいデザインのエレキギターが握られており、そこからは既に紫電が迸っている。

 更にストリンダー男は、サーフボードのようなものに乗っており、それで自在に空を飛んでいる。

 電力は恐らく、自らの発している電気で賄っているのだろう、とキリは推測した。

 

(さて困った……電気タイプの攻撃はプテラに対して効果抜群、何よりトゲチックを守りながら戦わねばならんでござる)

 

 策を練ろうにも、頭が追い付かない。

 

「お前達が持ってるトゲチックだYO!! レアなポケモンのエキスが欲しいんだYO!!」

「エキス──知っているぞ! それはポケモンの命を奪うものでござる!」

「知ったこっちゃねぇYO。俺らからすれば、只の商売道具! そして、BURSTはジャマな奴等を消すための道具だYO!!」

「ならば──ッ!!」

「おっと逃がさないYO!!」

 

 エレキギターをかき鳴らせば、音波は電気を纏い、キリ目掛けて襲い掛かる。

 オーバードライブ。震動波で攻撃するストリンダーの専用技だ。

 辺りの空気は揺れ、更に電気も共に襲い掛かる。

 当然、避けられるはずもなく──

 

「がっああああああ!?」

 

 視界が白黒に染まる。

 効果は抜群。プテラも、そして抱きかかえていたトゲチックも感電してしまった。

 そして上に乗っているキリも、電撃をモロに喰らってしまう。

 

(ふ、普段なら、こんなヤツ相手に被弾しはしないのに……!!)

 

「おっと耐えるのかYO!! だけどもう、虫の息だYO!!」

「ッ……!!」

「ひゅっ──何だこの女、急に眼付が変わったYO!?」

「貴殿の攻撃は読み切った……プテラ!! 最後の力を振り絞れ──ッ!!」

 

 逃げても追いつかれるならば、逆に飛び上がるまで。

 プテラの速度ならばそれが可能だ。

 

「”そらをとぶ”!!」

 

 V字型に急上昇し、プテラは電気の波を見事に避けてみせる。

 更に高度はぐんぐんと増していき、ストリンダー男の頭上にまで到達する。

 

「WAO!! アメイジング!! 此処までのスピードとは!! だけど、それならこれはどうかなァ!!」

 

 ストリンダー男が全身から電気を放出しようとエレキギターを再び構えたその時だった。くるりと宙返りすると尻尾を思いっきり下からエレキギター男に叩きつけるのだった。

 長い尻尾による攻撃は想像以上にリーチが長く、男は回避のタイミングを見誤る。

 ただし、それは叩きつけ等という言葉では生温かった。

 

 

 

「”じしん”ッ!!」

「ごぉっ!?」

 

 

 

 男の身体はあっさりと上空へと放り投げられていく。

 地を揺らすほどのエネルギーを叩きつける、言わずと知れた地面タイプの技だ。

 相手が飛行タイプでなければ、相手が浮遊の特性を持っていなければ、直接相手に攻撃をぶつけることでダメージをぶつける事が出来る、応用の利く技でもある。

 そして、ストリンダーのタイプは電気と毒。両方共地面が弱点となる。

 耐えきれるはずが無かった。

 むしろ、生身の人間が受ければ、普通は粉々に砕け散る程の衝撃であった。

 

 

 

【効果は抜群だ!!】

 

 

 

 

「はっ、がぁっ……!? く、空中戦のプロかYO……!? てか、あの一撃で斃れねぇって……この小娘、何者なんだYO!?」

 

 男の身体は震動しながら、全身に覆っていたポケモンの体組織が崩壊していき、元の人間の姿へと戻っていく。

 そして、再び急上昇で接近していくプテラが男を咥え、何とか回収することに成功したのだった。

 

「何者──それはこちらの台詞……やはりBURST体は……ポケモンと同等の身体に強化されているでござるか」

 

 息も絶え絶えに、キリもプテラもふらふらと町を目掛けて落ちていく。 

 目下にあるのはキビシティを目指して降下していく。

 

(ノオト殿は、何とか打ち勝てただろうか……ッ!)

 

「ちょげ……」

「ぴぎゃぁ……」

「ッ……いけない、すぐに傷薬で回復するでござるよ……!!」

 

 弱点の電気技を受けたことで、トゲチックもプテラも体力を大幅に削られている。

 ポケモンセンターを待たずに回復させるべく、ポーチをごそごそと漁ろうとしたその時だった。

 

 

 

「……ッ!?」

 

 

 

 プテラの横腹に、衝撃が走る。

 ぐらり、とその身体は揺れる。

 攻撃を受けたのだ、とキリは確信した。

 そしてプテラはそのまま飛行態勢を保つことが出来ず、真っ逆さまに墜落していく──

 

「い、いけない!! プテラ!! しっかり──」

「ぴぎゃあ……」

 

 だが、止まらない。

 すぐさまキリは手首からワイヤーを射出し、プテラの身体に巻きつける事で姿勢を固定。

 応急処置ではあるが、無理矢理滑空させることで、何とか不時着させるのだった。

 ざりりり、と引きずるような音が鳴り響く。

 既にこの時にはキリもプテラも、満身創痍ではあったものの、何とか衝撃を抑え込むことには成功する。

 

「はぁ、はぁ……一体何が……」

 

 

 

「──くふふ」

 

 

 

「ッ!?」

 

 キリは見上げる。

 そこに立っていたのは、忍装束に身を包んだ女だった。

 しかし、その恰好はすながくれのものとは異なる。

 妖艶な空気を漂わせる人物だった。しかし、初めて会うにも拘わらず、キリの中には一つの名前が浮かび上がる。

 

「ヒガンナ……ッ!?」

「そのワイヤー捌き、岩ポケモン、すながくれの忍者とお見受けする……とでも言っておこうかしらぁん?」

「うぐぅっ……」

 

 意識が無くなっていくのを感じる。

 急激な混濁、そして強烈な眠気、眠り粉だとキリは判断し、ワイヤーを飛ばそうとするが──全て苦無で切り裂かれてしまった。

 

「あらぁ、ダメよ? そのワイヤーは何度も何度もぶつけられたもの。何処をどう撫でれば斬れるかなんて分かり切ってるんだからねぇん」

「何故、今になって──」

「キャプテン・ウルイが死んだと聞いたわ。だけど、当然次の代のキャプテンが居るのよねぇん?」

「まさか──」

「あの時の屈辱、まとめて返すわ。貴女には……クワゾメのキャプテンを釣るための餌になってもらうからねぇん」

 

(この女……そう言う事でござるか……!!)

 

「ハッ、拙者を浚ったところでキャプテンがわざわざ出向くとでも? 忍は冷徹でござるよ……!」

「……お黙りなさいな。もう身体の自由が利かないでしょぉん?」

 

(この女、相当の使い手──ぐぅっ)

 

「ウルイは甘いヤツだったわぁん。部下一人傷つけるのも嫌う男だった。今のキャプテンも相当な人格者らしいじゃなぁい? なら、貴女を浚えば必ず助けに来るわよねぇん」

 

(マズい、抵抗できない……ならば一度、癪だが……ヤツの思い通りになってみるとするか……!)

 

 がくり、と彼女はその場に倒れてしまう。プテラも完全に眠ってしまった。

 ヒガンナと呼ばれた女は妖しい笑みを浮かべると、服の間から糸を噴き出し、キリの身体を絡めとる。

 

 

 

「くふふふ、やっと寝てくれたわねぇん、貴女には……すながくれ崩壊に……協力してもらうわよ?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

『拝啓・親愛なるすながくれの皆様 貴殿たちの大事な忍びの小娘はこちらでたっぷりと可愛がっております♡ 返してほしくば、キャプテンを一人で以下の場所へ向かわせたし。追伸:守らなかったらどうなるか分かってるわよね?』

 

 

 

「現場には、このような文が残されていた、と……」

「すまねぇッス……オレっちが目を離したがばっかりに」

「しかもこの文面、浚った小娘が他でもないキャプテン・キリであると気付いていないようであるな……」

 

 すながくれの拠点はお通夜のような空気が流れていた。

 よりによって、キリが()()()()と気付かれないまま拉致されてしまったのである。

 ノオトが駆け付けた頃には、キリもトゲチックもプテラも居なくなっていたのだ。

 この一連の早業、そして手紙の書体から──すながくれの忍達はすぐさま犯人の正体を割り出した。

 

「この花の紋様……ヒガンナだな」

「ヒガンナ……!? 犯人に心当たりがあるんスか!?」

「かつてクワゾメを騒がせた盗賊だ。数年前、先代クワゾメキャプテン・ウルイとの激闘に敗れ、捕らえられたのだ」

 

 ヒガンナという盗賊は、それはそれはもう、かつては嵐のように暴れ回ったのだと言う。

 ポケモンをまるで手足のように操り、民間人にも被害を出し、被害総額は億単位にも及ぶとされており、すながくれはこの盗賊の捕縛に全力を注いだ。

 しかし、ヒガンナの実力は先代キャプテン・ウルイに匹敵する程の使い手。別の地方の忍の里出身だったこともあり、苦しい戦いを強いられたのだという。

 

「じゃあそいつが脱獄したんスか!?」

「ああ。ヤツは警備が厳重なシンオウ地方の刑務所に入れられていたのだが……先代が亡くなった年に脱獄したのだ。何者かの手引きを受けてな」

「ザルゥ……」

「だがそれ以降、目立った動きも無く。まさか今になって再び動き出すとは」

「何処かに潜伏してたんスかねぇ? とにかくキリさんを助けに行かねえとッス!!」

 

 普段のキリならばそもそも捕縛されることは有り得ない。仮に捕まっても、自力で脱出するなど容易い。

 例え仮面を外されていようがいまいが、素の頭脳と肉体スペックは変わっていないので、此処は揺るがない。

 しかし、今の彼女は著しく弱体化している。普段のような超人的無双は期待できない、とノオトは不安に感じる。

 

「しかし参った……ヒガンナは、キリ様がウルイ様の娘であることすら知らないだろうからな」

「じゃあどうすれば?」

「キリ様の命が最優先だ。下手な事をすれば命が危ない。テング団と違い、ヒガンナはこちらのやりそうなことは大体想定しているだろう」

「だけど、交換条件となるキリさんが居ねえんスよ!?」

「人質がキリ様というのは、ある意味幸運とも言えるがな」

 

 ミカヅキは──苦虫を嚙み潰したような声で言った。

 

「……幾ら本調子でないと言えど、それでもキリ様はキリ様だ。現地で相手を一泡吹かせるだけの策を練っているだろう」

「でも……心配じゃねーんスか!?」

「無論。これでも、育ての親のようなものだからな。しかし──何があっても良いように、忍の技を叩きこんできたはずだ。もし、キリ様が此処に居るなら、何というと考える」

「……まさか」

「そうだ。()()()()()()()()()()()()()──そこまで言う御方だ」

 

 ノオトは崩れ落ちる。

 それが忍の在り方だと言われればそこまで。

 だが、あまりにも彼女は自分の身を顧みなさ過ぎる。

 

「だから、我々はあの方に着いていくのだ。先代・ウルイ様の娘だからではない。キャプテンとして、忍としての覚悟が人一倍強いから、あの方を慕うのだ。同時に──背を支えてやらねばならんかった……」

 

 ミカヅキは、何処か後悔しているようだった。

 幾ら、すながくれ最強の忍者と言えど、精神面ではまだまだ青い少女なのだ。

 

「故に、キリ様も助ける、ヒガンナも捕らえる、どちらも成し遂げねばならない」

「じゃあもう、策なんて要らねーっしょ」

 

 ノオトは──目に闘志を滾らせる。

 

「ヒガンナって、強いんスよね? キャプテンと同じくらい。それに、おやしろの忍者がゾロゾロと向かったら、人質のキリさんを傷つける口実を相手に与えちまう。……だから、オレっち自ら、乗り込むッスよ」

 

 回復されたと言えど耳は正直、まだキーンとして痛い。不安が無いわけではない。

 だが、今此処で動けるのは自分しかいない、とノオトは決意する。 

 

「それに、キリさんとデートしてたのはオレっちッスから。責任持って、キリさんを取り返す」

「……忝い。我々は隠密行動を厳とし、敵が逃げないように包囲する」

「オレっちは──正面突破ッスね!!」

 

 こくり、とミカヅキが頷いたその時だった。

 

「──失礼します!」

 

 部屋に突如として現れたのは忍者。ノオトの捕まえたオンバーン女の取り調べを今の今まで進めていたらしい。

 彼女は揺さぶると、あっさりと情報を吐いたらしいとのことだった。

 

「何か分かったんスか!?」

「……どうやら、あのオンバーン女はヒガンナの直接的部下ですね。ヒガンナはどうやら、密猟組織を立ち上げていたようです」

「スポンサーは?」

「海外の武器商人です。密猟組織や犯罪組織に自社製の武器を横流ししている死の売人ですよ。BURST薬に関する怪しい研究を水面下で独自に続けていたようです」

「大事になってきたッスね……」

「密猟組織とスポンサーの関係は、密猟組織がBURST薬の原材料となるポケモンを大量捕獲し、スポンサーがそれを加工して製薬、密猟組織に報酬として渡していたようです。尤も、末端組織には粗悪品を渡していたようですがね」

 

 その結果、ドン・ドリルは廃人化してしまったのだという。

 口封じの意味合いが大きかったようだ。

 一方、捕まえたオンバーン女は廃人化していない辺り、彼女らが服用していたものが完成品なのだろう、とノオトは考える。

 

「……やはり裏で手引きする黒幕が居たか。だが、何故今になって表立って動き始めた? しかもこのサイゴクで?」

「分かりません……彼女もそこまでは知らないようで、恐らく計画の全てを知っているのは外ならぬヒガンナかと」

「──なら、直接ブチのめして聞き出してやるッスよ」

 

 がつん、と掌に拳をぶつけてノオトは叫ぶ。

 

 

 

「喧嘩なら……オレっちの領分ッス!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──暗い。周囲が見えない。

 そう思っていた矢先、電気が付いた。

 赤いライトが妖しく部屋を照らす。

 

「お目覚めかしらぁん? お姫様」

「……ッ」

「あらぁ、真っ直ぐな目をしているのねぇ、まるで、あのウルイのようで──嫌いよッ!!」

 

 人間のモノとは思えない程に重い拳の一撃でキリの意識は完全に覚醒した。

 口の中を切ったことで、血が溢れ出て来る。

 

「ふふっ、脱走ポケモンを追ってきたら見覚えしかないワイヤー使いが居るもの。思わず虫籠の中に入れちゃったじゃない」

「げほっ……盗賊ヒガンナ……今度は何を企んでいるでござるか……!」

「決まってるじゃない。ビジネスよぉん」

 

 忍装束を解いたその姿は、花魁のような風貌。

 右目を覆う程に長い黒髪、そして胸元を大きくはだけさせた淫靡な雰囲気を漂わせた女性だ。

 パイプを吹くと、その煙をキリに吐き掛け──気だるそうに彼女は言い放つ。

 

「それにしても、こんなに可愛い子までくノ一にするなんてねぇ、優しそうな顔してウルイって鬼畜だったのね」

「ッ……!」

「まあ、どっちにせよ鬼畜には違いないか。私の大事なものを全部奪ったんですもの」

 

(この女、言わせておけば、お父様を侮辱して……ッ!!)

 

「ねえ、お姫様。すながくれの貴女が今こうして捕まってるのはね、あのウルイって男の所為なの。分かる? 分からないはずないわよね、ちょっと前まで生きていたんだからぁん」

「……先代と、何の因縁が」

「あら知ってるでしょ? それとも知らない?」

 

 ヒガンナの手がキリの首に伸び、押さえつける。

 

 

 

「──あの男は……私のプライドを……そして、大事なポケモンちゃんの命を奪ったのよ!」

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