ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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Act2:デッド×ヒート

 ※※※

 

 

 

「ライドギア、デート? 確かに動きやすい格好で、と言っていたでござるが──」

「そう言う事。なーんも考えずに、ポケモン使って空を飛びまくるんスよ。これなら、キリさんも、他の人と顔合わせなくて済むッスからね」

「……まあ、そういうことなら」

「それより体調はどうッスか? 肉体面の不調は大丈夫そうだってミカヅキさんは言ってたッスけど」

「だから平気でござる。正直、早く仕事を始めたいくらいでござるよ」

「じゃあその熱意を、今日は思いっきり遊ぶことに使うッス!」

 

 翌日、ノオトに呼び出されたキリは、明るい色のスポーティな服とスカートに身を包んでいた。

 せめて顔が出来るだけ隠れるようにとサンバイザーを付けているのは御愛嬌である。

 場所はクワゾメタウンの外れ。

 幾度となく修行で訪れた場所だが──そこをスタート地点として各地を回ろうと言うのだ。

 

「──いやー、それにしてもキリさんってポニテも似合うッスねー」

「あ、あんまり褒めると帰るでござるよ!?」

「可愛いのに」

「可愛くなんてないでござる!」

 

 キリが繰り出したのは翼竜のような姿をしたポケモン・プテラ。

 一方のノオトは、カラミンゴだ。

 真っ赤になる顔を抑えるようにして彼女は先に空へ飛び出してしまう。

 

「ああ、キリさん!! 行先分かんねーのに飛び出したら迷子になるだけッスよ!!」

 

 彼女を追いかけ、ノオトも空へ飛び出した。

 ぐんぐんと2匹は高度を上げていき、クワゾメタウンの街並みがはっきりと見えるほどだ。

 

「ひゅーっ、流石の高さッスねー!」

「っ……」

「どうしたんスか?」

「いや、こうして自分の町をゆっくりと見下ろすことなんて無かったから、新鮮で──」

「へへっ、凄いっしょ? 今日はこっから、イッコンの方に下ってみるッスよ!」

「イッコンまでの道なんて何度も行ってるでござるが」

「わざわざライドポケモンで空を飛んでいくことなんてないっしょ?」

「……それは、そうでござるが」

 

 ぎゅん、と音を立ててカラミンゴが翼を広げて砂漠を目掛けて飛ぶ。

 それをプテラも旋回して追いかける。

 風が不思議と心地いい。

 今日は無風、砂漠から砂も飛ばない。

 

(……急がず焦らずで空を飛ぶなんて、いつぶりだろう)

 

「ほらほらーっ、置いていくッスよ!」

「ま、待つでござるよー!!」

 

 砂漠地帯を抜け、町の上を飛び去っていく。

 途中、何度も宙がえりを繰り返すノオトに食らいつくように、プテラもまた旋回して追いつこうとする。

 

「ヒャッホー! 最高ーッス!」

「っ……危ないでござるよ、ノオト殿ー!」

「心配し過ぎッスよ、落っこちやしねーんスから!」

「そうでござるけど……!」

 

 ライドギアは乗り手と座席、そしてポケモンがベルトで固定されており、更に命綱をポケモンの身体の一部と繋いであるので、安全性は低くない。

 それに任せて、速度を上げさせることもできるわけだが、未だに本調子ではないキリにとっては、ノオトがどんどん先行するように見えており。

 

(というよりも拙者、自分で思ってた以上にやられてるでござるな……今までついていけていたスピードについていけない)

 

「あーもう、待つでござる! デートでござろう!? 置いていかないでほしいでござるよーっ!」

「あっ、わりわり、少しペース落とすッス」

「……何かそれはそれで少し悔しいでござるよ!」

「ダメッスよ、無理しちゃあ! 病み上がりなんスから!」

「そうでござるが……」

「それに、空中散歩で終わりじゃねーんスから! 此処でバテたら勿体ねーッスよ!」

 

(ノオト殿……やっぱり、年下なんでござるな……こんなにはしゃいじゃって)

 

 ふふっ、と少しだけ笑みが漏れる。

 確かに未熟な部分も多く、お調子者で、泣き虫だが──それでも一本芯が通っている強者。

 キリから見えるノオトは、そんな力強いトレーナーだった。

 しかし、今こうして見てみると彼はやはり本質的には只の少年なのだと思い知らされる。

 

(良いなあ、羨ましい。拙者はついつい、仕事第一になってしまうでござるから……)

 

 今こうして飛んでいる間にも、キリの頭には今抱えている仕事や書類のことが過ってしまう。

 彼女の脳は、ありとあらゆることを同時並列的に思考することが出来てしまう。

 それは任務の時には役立つ一方で、こうしたリフレッシュの機会も心の底から楽しむことができないといった弊害も抱えていた。 

 

(こ、これではいけない! 折角ノオト殿が色々計画を立ててくれたというのに!)

 

「どーしたんスか? キリさん」

「いや、何でも──」

 

 そう言いかけた時だった。

 ノオトの頭上に、何かが落ちてきている。

 目を凝らすと、それがポケモンであることは間違いない。

 このままではノオトと進行方向とぶつかる。

 

 

 

「ッ……危ない、ノオト殿!! 直上!!」

「え?」

 

 

 

 思わずノオトはハンドルを握り締め、落ちて来たそれを躱す。

 そして──カラミンゴのすぐ傍を掠めていたポケモン目掛けて、追いかけるように急降下していく。

 

「ノオト殿!?」

「ッ……間に……合えーッ!! ”ブレイブバード”!!」

 

 急加速するカラミンゴ。

 そのまま落ちていくポケモン目掛けて突貫し、ノオトがすぐさま抱きかかえ込む。

 危うさ一つ感じられない空中キャッチ、彼の反射神経が為せる技だった。

 キリのいる場所まで再び上昇していくカラミンゴ。

 そして跨るノオトの両腕には、見慣れないポケモンが抱きかかえられていた。

 鳥のようなポケモンで、体色は真っ白だ。そして、体躯に対して羽根はとても小さい。

 

「ッ……ノオト殿、そのポケモンは?」

「コイツはサイゴクに居るポケモンじゃねーッスよ! 見たことがねーッス……!」

 

【トゲチック しあわせポケモン タイプ:フェアリー/飛行】

 

「横切った一瞬で只事ではないと判じたでござるか。流石でござるな」

「しかもボロボロだったから、見過ごせなかったッス」

「それにしても、なぜこんな所に?」

「ちょげ……」

「とにかく急ぐッスよ! ポケモンセンターに運ばねえと!」

 

 外来種の発見は、ヒャッキの一件以降サイゴクでは特にデリケートな問題となった。

 トゲチック系統は超希少種とされるポケモンで、滅多にお目に掛かれるものではなく、また霊脈を嫌うからかサイゴクでの生息は有り得ないとされているポケモンだ

 ポケモンの生態を監視するキャプテンとして、トゲチックの発見は一大事なのである。

 

「キリさん、こいつ、足輪が付いてるッスよ! 誰かが飼ってたポケモンなんスかね──」

「……!?」

「なんか、番号みてーなのが刻まれてるし──」

「違う! ノオト殿! そいつは飼われているポケモンではないでござる!」

「え? ……まさか」

 

 

 

「──まさか拾われてるなんてねェー、キャハッ」

 

 

 

 甲高い少女の声が聞こえてくる。

 月を背景にして、蝙蝠のような羽根が広げられている。

 それが繋がっているのは、人間だ。

 

「ねぇねぇ、そこのガキんちょ達。そのトゲチック、あたしのなんだよね。痛い目見たくなかったら、渡してくれない?」

「ッ……と、鳥人間ッス!?」

「──BURST……!」

「え!?」

 

 

 

(先日の密猟組織のボスが使ってた、ドーピング……それを我々は()()()()()()()()になぞらえて、BURSTと呼称している。ポケモンのエキスと特殊な薬物を混成することで生成して、ポケモンに似た力を人間に付与するとんでも薬物……!)

 

 

 

 そんな事を昨日、忍者が言っていたのをノオトは思い出す。

 その時は悪趣味な薬だとしか思っていなかったが、こうして相対してみると

 目の前の少女の特徴はそれに当てはまる。人間でありながら、蝙蝠のような羽根、そして巨大な耳が生えている。

 

「大人しくそのトゲチックを渡してくれないかなぁ。全部まとめて吹き飛ばしちゃうよ?」

 

 

 

【オンバーン<BURST> おんぱポケモン タイプ:ドラゴン/飛行】

 

 

 

「……推測するにオンバーンッスか……!!」

「ノオト殿。相手は飛行タイプであることは確実。此処は拙者に……!」

「全力じゃねえあんたに気ィ遣われる程鈍ってねーッスよ!!」

 

 そう言ってノオトはキリにトゲチックを渡すと、ぐん、と高度を上げていく。

 

「ノオト殿!!」

「早くポケモンセンターへ!! すながくれ忍軍への連絡も頼むッス!!」

「ッ……御意でござる!!」

「キャッハハ、逃げられると本気で思ってるわけ?」

 

 プテラを追撃する勢いで急襲するオンバーン女。

 しかし、それを塞ぐようにしてカラミンゴが組みかかる。

 

「テメェの相手は……オレっちッスよ!!」

「きゃはは☆ 知ってるよ、ノオトって言うんでしょ? キャプテンの中で一番ザコなヤツ! 女の子を守ってカッコつけたつもりィー?」

「あ?」

 

 ノオトの額に青筋が浮かぶ。

 例え本当のことでも言われて腹の立つことはあるもだ。

 完全にナメられている。

 

「きゃはっ、だけど残念。私達は、この世界に革命を起こすの。貴方たち前時代的なキャプテンはジャマ。消えてくれなきゃ」

「何が前時代的だってんだ? ああ? テメェらのがよっぽど前時代的で野蛮だろが」

「ポケモン同士で戦わせたり、ポケモンを指示して戦わせるのって……正直まどろっこしくない?」

「……斬新ッスねぇ。だから己の身で戦うと?」

「そういうこと。私達、革命戦士は己の拳でこの世界を変えてみせる」

 

 笑わせんな、とノオトは吐き捨てる。

 彼女達がBURSTとやらに使っている薬剤には、密猟されて犠牲になったポケモンのエキスが使用されていることを既にノオトは知っている。

 どんな思想があってそこに行き着いたのかは知らないが、そもそも禁術とされているテクノロジーをノオトは見過ごすことが出来ない。

 

「冗談じゃねえ。その拳は何で出来ている? 想像しただけで反吐が出るッスよ!!」

「キャハッ、ざーんねん。じゃあ、さっさと消えてくれないかなあ」

 

 離脱するプテラを見届けると、カラミンゴに騎乗したままノオトはオンバーン女との戦闘を開始する。

 とはいえ、速度はオンバーンが上回る。

 元のポケモンそのものの強烈な蹴りがカラミンゴを襲い、そして巨大な耳から爆音が放たれる。

 

 

 

「鼓膜が破れないように注意してねぇぇぇぇーっ!!」

 

 

 

 爆弾が爆ぜたような轟音がノオトを、そしてカラミンゴを襲う。

 超音波をも超えた、音による破壊兵器、その名は”ばくおんぱ”。

 その身体は風に吹かれた木の葉のように吹き飛ばされ、落下していく。

 

「きゃははっ、ざぁーこ☆ キャプテンって割にはあんまり強くなかったねぇ」

「ッ……」

「追撃!! 追撃!! そのままバラバラになっちゃえ!!」

 

 翼を羽ばたかせれば、斬撃が夜の空を飛び、落ちるノオトとカラミンゴを切り裂こうとする。

 しかし。

 

 

 

「”じごくづき”」

 

 

 

 一瞬で態勢を整えたカラミンゴが、バネのように空中で跳ね上がり、そのままオンバーン女を目掛けて嘴を突きつける。

 直撃。

 効果は抜群ではないものの、嘴による突きが確かに炸裂したのである。

 オンバーン女は驚愕する。

 空を裂くエアスラッシュをいとも容易く躱してみせたどころか、こちらの反撃など恐れていないと言わんばかりのインファイトスタイルに一瞬、恐怖さえ覚える。

 だが、それだけだ。

 自らレンジまで飛び込んできたのならば、至近距離で”ばくおんぱ”をぶつけてしまえば良いだけの話である。

 

「あっ、ぎぃっぐっ……!?」

 

 その時だった。

 全身を貫くような苦痛が襲い掛かる。 

 とてもではないが、音波を放つどころの話ではない。

 オンバーン女は空中で態勢を崩し、ぐらり、と揺れる。技を思ったように出せない。

 

【じごくづき 受けた相手は地獄の苦しみから、音を出す技が出せなくなる。】

 

「ク、クッソ……!! 良くもやったなァ!?」

 

 がぱぁ、とオンバーン女は大口を開けてみせる。

 そこから放たれるのは、全身を駆け巡るドラゴンのエネルギー。

 それが集められて、一気にカラミンゴに向かって爆ぜる。

 だが、それを受けても尚、ノオトもカラミンゴも傷ついた様子が無い。 

 何度でも何度でも食らいつくようにしてオンバーン女目掛けて飛んで行く。

 それを撃ち落とすようにして彼女は再び羽ばたき、エアスラッシュで切り裂きにかかる。

 

「その身体、ガキんちょのくせに超鍛えてんじゃないのーッ!? じゃあ考えたことはない? この身体がポケモンと同じならって!!」

「──ッ!!」

「今、欲しいでしょ力がァ!! その鍛えた身体で、禁じられた力のBURSTを振るう悦び!! 理解出来ないとは言わせないからねーッ!!」

「……あー? 聞こえねえな、何にも──」

 

 じぐざぐに軌道を描き、カラミンゴは残るエアスラッシュも空中で全て回避してみせる。

 流石のオンバーン女も蒼褪めた。

 

「ひっ、こいつらバケモノ──!? BURSTしてないくせに、それだけ被弾してるのに、何でまだ動けて──」

 

 否、と彼女は判断を変える。

 よく見ればノオトの服は既にボロボロ。

 全身から血も出ている。完全にやせ我慢だ。

 

「まさか──理屈とか理論とか科学とか関係ない、ただの、ド根性だってのーッ!?」

「”ブレイブバード”ォ!!」

 

 一気に力を込めて、オンバーン女目掛けてカラミンゴは体全部でぶつかり──貫くのだった。

 女の身体に纏われていたポケモンの体組織が崩壊し、元の人間としての姿に戻っていく。

 

「そ……んな、バカな……ざぁーこだったのは、あたしってことォ……!?」

「わりーな、マジでなーんにも聞こえなかった。つーか何なら意識飛びかけたッス」

 

 ノオトの耳からは──血が漏れ出していた。

 最初の”ばくおんぱ”で彼の鼓膜は破られ、既に何も聞こえていなかったのである。

 

「オレっち根性論者じゃねーッスからね。あんましこういう手は使いたくねーんスけど、事態が事態なんで」

「あっぎっ……」

「でも、余計な音が聞こえなかったおかげで集中できたッスよ。テメェをブチのめすのに」

 

(やべー、自分の声しか分かんねーッス、これ治るんスかね?)

 

 ポケモンセンターのハピナスに任せるしかないか、と諦め、ノオトは落下していくオンバーン女を両腕で受け止めるのだった。

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