ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
──スオウシティ。
おやしろまいりの終着点。
巨大な鳥居が象徴的で、背の低い家屋が立ち並ぶ。
そこから外れた谷底にアラガミ遺跡は鎮座している。
その先にある森の神様のおやしろは一人で挑まねばならない。
谷へ進む道の入り口に立つメグルを見送るのは──アルカとノオトの二人だ。
「遂にこの日が来たッスねー、晴れてていいじゃねーッスか。なんか、なーんでもうまくいきそうな気がするッスね」
「オイオイ、トラブる前提かよ……」
「いしし、でも今のメグルさんなら本当に何でも出来そうな気がするんスよ」
「……」
励ますノオト。
そして──黙りこくってしまうアルカ。
彼女には、メグルが何処かへ行ってしまうような気がして──思わずその袖を掴むのだった。
「……あの、おにーさん」
「?」
「……どうか、無事で帰ってきてくださいね」
当然だろ、と返そうとした時──前髪の切れ目から、涙が光っていることにメグルは気付いた。
「約束、しましたからね。勝手に居なくなったら許さないって」
「ッ……」
「でも、おにーさんは元々違う世界の人間で、いつまでも縛り付けていていいのかな、って──」
「前に言ったろ。俺は──もう、この世界に居るつもりだ」
口で言いながらも、内心では否定できない自分が居ることにメグルは気付いた。
この世界を救うのが役目ならば、それを終えた時点で自分は──用済みなのではないか、と。
「もしも、森の神様とやらが俺をあっちに引き戻すなら──逆に捕まえてやんよ!」
「神をも恐れぬ、ってヤツッスね……」
「……そのくらいの気概で行かなきゃな」
口で言いながらも、それができないかもしれないことにメグルは気付いていた。
もしも相手が伝説のポケモンか、それに準じる存在ならば、何も出来ずに返り討ちにされる可能性も高いことを。
だから、メグルはついぞ彼女にその一言を言う事が出来なかった。引きずってほしくなかった。
もしも自分が居なくなっても──すぐに忘れて欲しいから。
彼女なら、幸せにできる人がいずれ現れるだろうから。
「……んじゃーな、行ってくる!!」
これが、最後の冒険になるかもしれない。
メグルは──谷へ踏み出すのだった。
※※※
──スオウシティの喫茶店で、アルカとノオトは向かい合っていた。
重い空気がずっと流れていた。
「……本当は分かってる。おにーさんにも、元々の家族がいるから。元の世界で好きだったものがあるから。このままおにーさんが此処に居るのが、おにーさんの為なのかなって」
「でも、居なくなってほしく、ないんスよね」
「うん……」
アルカは頷く。
「……今思えば、懐かしいな。セイランシティでぶっ倒れてたところを助けて貰って、最初はボクの方が先輩面してたのに……めきめきと強くなって」
あの頃のメグルは、ストライクに振り回され、頼りない印象がどうしても抜けなかった。
それがどうだろうか。
何時しか彼は、手持ちのポケモンを全て自在に従え、オーライズもメガシンカも使いこなせるようになっていた。
旅でもバトルでも不安が残り、不甲斐なかった彼はもう居なかった。
「行ってくる」と残して去っていった彼は、今まででずっと──頼もしかった。
「それから、2人でテング団を追おうって時に……君と出会ったんだよね、ノオト」
「いやー、あん時ヘイラッシャに食われてたアルカさんの姿は今でも忘れられねーッスよ」
「即刻忘れろ!!」
「……でも、メグルさん凄かったッスよ? 姉貴に拉致られたアルカさんを助ける為に気合入れてたッスから。オレっちが感化されるくらいに」
「……そだね」
「ウチでの修行でめきめきと強くなっていったし、やっぱ素質はあったんスよ。ま、頑張りたい理由があると人間何処までも強くなれるモンッスからね」
「頑張りたい理由?」
「アルカさんを助けたかったみてーッスよ。やっぱり」
「えっ……」
随分と入れ込まれてるなあ、とアルカも分かってはいたが──こうして突きつけられると、不思議と顔が赤くなる。悪い気はしなかった。
「……ねえ、ノオトはおにーさんが元の世界に帰った方が良いと思う?」
「……うーん。あの人がどう思ってるかどうか、じゃねーッスか?」
「そっか。ボクも──」
ボクも同じだよ、とは言えなかった。
分からなかった。
理解出来なかった。
どうしてこんなに切なく、そして今すぐ彼に会いに行きたいのか、アルカは言葉にできなかった。
そうしてずっと考えに考えた末に──彼女は行き着く。
「ああ、そっか」
こんなに焦げつくような思いを抱くのは、彼以外の相手では考えられない。
あんなに頼りなかった彼が、今では一人前のトレーナーとなり、自分を守ると意気込み、そして──サイゴクを襲う災厄を止めるところまでやってきた。
その姿は強く強く、彼女の中にこびりついて離れはしない。
「ボク、おにーさんが──好きなんだ。好きで、好きで……仕方ないんだ……」
もっと早くに気付いておけばよかったな、と彼女は続ける。
「おにーさんがどう思ってようが、ボクの隣に居て欲しいんだ。良くないことだって分かってるのに……それが叶わないって思うと、胸が痛いんだ」
「……分かるッスよ」
「恋愛感情なんて……分からないし、理解出来ないって思ってたのに……自分がそれに苦しめられるなんて」
居なくなってほしくない。帰ってほしくない。
ずっと傍にいて、いつものように笑っていてほしい。
難しいことなど何も無かった。
だから──彼が帰る姿を想起するだけで、辛い。胸が引き裂かれそうだった。
「……今は、信じるしかねーッスよ。あの人が帰ってくるのを」
「……そうだね」
しかし。
それから3日程経っても、メグルから連絡は無く──そして、彼が帰ってくることも当然無かった。
※※※
「あ、あああああ、クソ、死ぬかと思ったマジで……ッ!!」
──無論、アルカ達の心配など知る由もないメグルは3日掛けて漸く谷底にあるアラガミ遺跡に辿り着いていた。
手持ちは皆、買いだめしていた傷薬で回復させてはいるものの、肝心のメグルが満身創痍であった。
木の枝を杖代わりにして、遺跡へ一歩、また一歩近付いていく。
これまで本当に険しい道のりだった。なんせ、これまで遭遇していなかったレベルの強さを誇る野生ポケモンばかりなのである。
開幕から出会ったガチグマに追い回された時は死を覚悟したし、ドータクンの群れに取り囲まれた時も死を覚悟したし、何ならニドリーノとニドリーナの群れに追い回された時も死を覚悟した。
この谷底のダンジョンに辿り着いてから楽だったことなど一つもありはしなかった。
幸い、手持ちのポケモンで何とかできないレベルではなかったものの、それでも6匹の力をフル活用しなければ、遺跡に辿り着くことはなかった。
バサギリとアブソルが切り込んで野生ポケモンを押さえつけ、アヤシシが野生ポケモンを惑わせて戦闘を回避し、ヘイラッシャで池を渡り、ニンフィアがハイパーボイスで群れを吹き飛ばす。
休まる時間は全くない。野生ポケモンのレベルが桁違いに強いだけあって、流島の修行よりも過酷に思えてくる。
だがそれでも、それでもやっと遺跡の中に入ることに成功したのである。
(……まるでアルフの遺跡……いや、ズイの遺跡か?)
アラガミ遺跡の中はアンノーンの字がびっしりと並んでいる。
だが、肝心のアンノーン本体は見当たらない。
しばらく先に進んでいくが、野生ポケモンの気配は全くしない。
これまでがこれまでだっただけに細心の注意を払って警戒するが、不思議と何も現れはしないのである。
(おかしい、遺跡の入り口は開けっぱなされてたのに、野生ポケモンが誰もいないなんてことあるか?)
何かに守られているのだろうか、とメグルは考える。
アンノーンはそもそも、非常に能力が低いポケモンだ。
しかし、何か強大な存在がアンノーンを庇護しているとすれば──そんな事を考えながら遺跡の奥へ、そして奥へと進む。
そうして辿り着いた先にあったのは──朽ち果てた祠だった。
鳥居もすっかり崩れ落ちており、かつてそこはおやしろであったことが想像に難くない。
「んで、此処に参拝したら終わり……か。意外とアッサリだったな」
「ふぃるふぃー」
物足りない、と言わんばかりにニンフィアが口を尖らせる。
まあ、何かあるよりは100倍マシだよな、と思いながらおやしろに近付いていったその時だった。
「ふぃ?」
ニンフィアが首を傾げた。
彼女の身体から光が漏れている。
メグルは思わず目を手で覆った。
そして──突如、透明な羽根が飛び出す。
「あれって──なくなったと思ってたのに!?」
「ふぃー!?」
──最初に”すいしょうのおやしろ”でオーライズを行った時、消滅したと思っていた”とうめいなハネ”だ。
ずっと今日に至るまで姿を見せなかったが、ニンフィアの身体に吸収されていたのだろうか、とメグルは考えた後──祠に目を向ける。
ハネが祠へと吸い込まれていき──周囲の空間が歪む。
そして、ピキピキと音を立てて、虚空が硝子のように割れる。
背中の毛を逆立てて、ニンフィアが威嚇する中、それは──漸く姿を現した。
「ぴるるるー……ピコココ」
緑色の小さな妖精のようなポケモンが小さな翅を羽ばたかせて飛んでいる。
時を渡るとされている幻のポケモン。
その名をメグルは知っている。
「セレビィ──!!」
ときわたりポケモンの名の通り、幾つもの時代を渡ることができるポケモンだ。
ジョウト地方に伝わる、非常に稀少で滅多に観測されない存在である。
「だよなぁ、こんな事が出来るなんて幻のポケモンくらいだって思ってたけど──」
その姿を見た時、メグルは違和感を感じ取った。
「……なんか、ちがくね?」
そもそも。セレビィに時を超える力はあれど、空間を超える力はない。
しかも、目の前に立つ時渡りポケモンの身体は金属光沢を放っており、翼も透明ではあるもののプラスチックのように透き通っている。
おまけに腕は胴体から離れて浮かんでおり、目は電飾のように光っている。
何かがおかしいことにメグルは気付く。
(そも、此処はジョウトじゃなくてサイゴク!! コイツは本当にセレビィか!?)
──おや、来たのですね。これで──私の声を認識できますか?
遺跡に声が反響する。
電子音混じり、ノイズ混じりの声だった。
だが確かに、メグルがこの世界にやってきたときに聞こえて来た声だった。
メグルは身構える。ニンフィアも警戒するように唸る。
(セレビィじゃない! セレビィの形をしたメカ……!? ロボット!? 何なんだコイツは!?)
【?????? の エレキフィールド!!】
【??????はエレキフィールドで ????????を発動した!!】
周囲の床は電気に覆われる。電気技が強化されるエレキフィールドへと周囲は塗り替えられた。
いきなり戦闘に入ったことに戸惑いを隠せないメグルは、ニンフィアに「ハイパーボイス!!」と叫んで指示を出す。
しかし、
【?????? の リーフストーム!!】
木の葉の嵐がメグルを、ニンフィアを吹き飛ばす。
遥かに速く、そして重い一撃に彼女もメグルも吹き飛ばされてしまった。
「つ、強い……ッ!!」
「ふぃるるる……!」
「おい、森の神様よ!! 折角会えたんだから色々説明してもらおうか!! どうせあんたなんだろ!? 俺を此処まで連れてきたのは!!」
「フィッキュルィィィ!!」
威嚇するニンフィアが地面を蹴る。
そして再び口を開けて衝撃波を放とうとするが──
──まだ時期尚早。そして、まだ青いですね。
そんな声が残響する。
間違いない。目の前のポケモンから発せられたものだ。
そして、それには聞き覚えがあった。
【??????の ラスターカノン!!】
ニンフィアの身体は閃光に包まれ、地面に叩きつけられる。
鋼タイプの技はフェアリータイプに効果抜群だ。
(鋼技!? セレビィは使えないはず──やっぱりコイツ、セレビィじゃねえな!?)
「答えろ!! お前は何者だ!?」
──少しは成長しましたが……まだまだ雛鳥。
──貴方には、もっともっと……強くなってもらわなければなりませんね。
──次に会える時を楽しみにしています。
──貴方を、この世界に連れてきてよかった。
「おい待て──ッ!!」
──次は此処ではない何処かで会うでしょう。しばし、サヨウナラ。
セレビィに似て非なるそれは、時空の裂け目の中へと入り込んでいく。
追いかけようとしたメグルだったが、倒れたニンフィアを視界に入れるとすぐさま彼女に駆け寄った。
「大丈夫か、ニンフィア!?」
「ふぃ、ふぃるふぃー……」
「……全く歯が立たなかった。掴みどころなんてもんがなかった」
何も分からなかった。
自分がこの世界に来た理由も、あのセレビィとは似て非なるポケモンの事も。
だが、ただ一つ分かった事があるとするならば。
「まだ、俺の知らないポケモンが……この世界にいるってのか……!!」
「ふぃー……!」
──こんなに、胸の躍る出会いはきっと、早々在りはしないということだ。
※※※
「全然連絡来ねーッスね……」
「おにーさん……帰っちゃったのかなあ。それとも野生ポケモンにやられちゃったとか!?」
「後もう2日経ってなにも音沙汰無かったら、キャプテン総出で探しに行くことになってんスけど」
その日も、スオウシティの公園でアルカは落ち込んだ様子で項垂れていた。
日に日に彼女が弱っていくのを、ノオトは宥める事しか出来ない。
(アラガミ遺跡はそうでなくとも危険地帯……心配になるのは分かるッスけど)
流石に見ていられない、とノオトは考える。
かと言って、諦めがつくような状態でもない。ただただ祈るしかないのである。
そう考えていた矢先だった。
「ただいま」
「ふぃるふぃーあ♪」
声が聞こえた。
アルカは顔を上げ、ノオトは弾かれたようにがたり、と立ち上がる。
ボロボロの姿ではあったものの、メグルはニンフィアを連れてそこに立っていた。
「メ、メグルさん……! オレっち達、てっきりあんたが元の世界に戻っちまったモンかと──」
「いやー、ちょっと帰りに道迷っちゃって」
「バカ」
「え」
「バカバカバカ!! どんっっっだけ心配したと思ってんのさっ!!」
だっ、と駆け寄り──アルカは思いっきり、最愛の青年を抱きしめる。
「おかえり……おにーさん……!!」
「……ただいま、アルカ」
メグルは確信した。
自分が帰る場所は、やはり此処だ、と。
「てか、服! ボロボロじゃねーッスか! とりま、ポケセンに急ぐッスよ!」
「そーですよっ! その後で沢山聞かせてください!」
「そだなぁ。風呂も何日も入ってねーんだよな。ベトベトする」
「ふぃー……」
これにて、メグルのおやしろまいりは終わった。
分からないことだらけで、結局元の世界には戻れなかったものの──何処かメグルは満足していた。
「……話したいことが沢山あるんだ。色々あったんだぜ、この一週間」
※※※
──その日の夜は細やかではあるものの、お祝いだった。後日、キャプテン達による正式な祝い会があるのだという。
おやしろまいりを完了したトレーナーを殿堂入りとする儀式があるのだという。
にも拘わらず、キャプテン達は何処から聞きつけたのか、1人、また1人と食事処にやってくるのだった。
結果的にその場はちょっとした宴会場のようになってしまったのである。
おまけに、全員有名人なので、店内は少しざわついた。
「メグルちゃーん、おめでとーう!! ワタシも鼻が高いわ……あんなにひよっ子だったのが、今となっては……」
「おい誰が呼んだ?」
「オ、オレっちが、つい……」
「何やってんのさ、ノオト!?」
「ちょっとハズシさん泣きすぎなのですよー。でも、おめでたいことは善き事なのですよー♪」
「ヒメノちゃんまで来てるし……」
「姉貴。メグルさんはオレっちが育てたようなモンッスからねぇ。いやー、鼻が高ェッス」
「ノオト?」
「ごめんなさいでした」
「試練を全部終えても、アラガミ遺跡で脱落するトレーナーは多いの。あたしは……あんたを誇りに思うんだから」
「左様。リュウグウ殿にも──見せたかったでござる。メグル殿の晴れ姿」
「……本当に、皆さん、今までありがとうございました」
キャプテン達に礼を言うメグル。
「ま、そういうわけだから今日だけは無礼講よ!! ぜーんぶワタシの奢りで貸し切りにしてるから♡」
「ひゅー、ハズシさん太っ腹ッスね!」
「あんまり調子に乗ると、メッなのですよー」
「良いじゃない。今日くらいはね、ヒック」
「もう酔ってるし……」
イデア博士が既に酒に手を付けていた。
それを呆れるように、全員が眺めている。
だが間もなく、積もる話があったのか、その席は盛り上がりを見せ始める。
2か月前に襲った悲劇を忘れはしない。
しかしその上で皆、大事な人の死を乗り越えつつあった。
泣いて、悔んで、怒って──それでも、前に進まなければならない。
今は、新たに誕生したツワモノを祝おう。
そう決めていた。
だが、だんだん年長勢の酒が強くなり始め、会話はヒートアップ。
「ああ!? この際どっちが上か、今から確かめてやるッスよ!」
「もう代理じゃないんだから。今のあんたより、強いかもよ?」
「程々にするでござるよ、ノオト殿……」
「ところでキリちゃん、貴方料理は食べなくて良いの?」
「拙者は任務があるので……またの機会に」
「あらら残念」
どうせ仮面を付けているので何も食べる事が出来ないのであるが。
「もう怒った! 怒ったッス! 表出るッスよ!」
「泣いてんじゃないのよ」
(で、こっちは酒飲んでねーのに争ってるし)
取っ組み合いになるノオトとユイ。こいつらだけ出禁になんねーかな、とメグルは肩を竦めた。
と思っていたら、2人そろって店の外のバトルコートへ飛び出していく。
「やれやれ、リュウグウおじいちゃんが見たら、怒るのですよー……」
「先に店の人に怒られるわ、てか怒られろバカ共」
「聞いてくれよォ、テレビで共演してるお姉さんがさぁ、冷たいんだよねえ!」
「いい加減捕まってくんねーかな、この博士、セクハラ罪で」
「ほらメグルちゃんも飲んだ飲んだ!」
「いや、俺、まだ酒飲み始めたばっかで──」
(この人ら勝手に来た挙句、勝手に盛り上がりだした……マジで田舎ってカンジだ……)
メグルはそろりそろり、とその場から抜け出し──外の空気を吸いに行く。
ハズシは元気になったのは良いが酒豪だったのである。
このまま酒を勧められ続けていては、潰れてしまう。
そして、騒がしい空気を嫌ってか──彼女も、その場で夜風に当たっていた。
「あー……やっぱ、おにーさんも抜け出してきちゃったんですね」
「まーな。あんまりにもうるせーからよ」
「……でも、わざわざボクの所に来るんですね?」
「そりゃあ──な。誰かさんがまた拉致られたら困るからな」
「余計なお世話ですっ! ……ほんとーに意地悪なんだから」
「へへ、悪かったって」
二人は並び、月を眺める。
赤くない。真っ白な満月だ。
「……不思議なポケモンに出会ったんですよね?」
「ああ。とても強くて、敵わなかった。んでもって、逃げられちまったよ」
(あのポケモンの声は、俺をこの世界に連れてきた声と──同じだった。絶対、また捕まえてやる)
「じゃあ、もうしばらく此処にいられるんですね、おにーさんは」
「つーか帰るつもりなんて、毛頭ねーよ。冒険はまだ続くってヤツだ」
最初の頃は一刻も早く帰りたいとメグルは考えていた。
だが今ではすっかり、この世界に馴染んでしまっており、手持ちのポケモンとも交流が深まってしまっていた。
「ただ、サイゴクから一度離れようと思ってるんだ」
「えっ」
さっ、と彼女の顔が固まる。
「ジョウト地方で調べ事をしようと思っててさ。森の神様──あのセレビィによく似たポケモンについて何か分かるかもしれねーし」
「そ、そうですか……じゃあ、結局サイゴクからは居なくなっちゃうんですね」
「何言ってんだ、すぐに旅の準備をしなきゃいけねーって話だろ、俺もお前も」
「え?」
きょとん、と彼女は首を傾げる。
「──お前が居ない旅なんて考えられねーよ。巻き込んじまうようで悪いけど、もう少し付き合ってくれや」
だっ、と彼女は地面を蹴り、メグルに抱き着く。
感極まってしまい、彼の温もりを確かめたくなってしまった。
「ア、アルカ?」
「……嬉しいです」
「え?」
「貴方が恋しくて、離れると辛くて、寂しくって……!!」
メグルは──自分の顔が真っ赤になっていくのを感じ取った。
確かに彼女の方から「恋しい」だと言ったんだよな、と頭がごっちゃごちゃになる。
「だから嬉しい、嬉しいんですっ! また、旅ができるのが!」
「へっ、安心しろよ石商人。今度もたっぷりアテになるからな」
「……おにーさん」
覚悟を決め、抱き締める力が強くなる。
この先ずっと歩く隣に、彼女が居てほしい。
そう願いながら、彼は告げた。
「好きだ──これからも、お前を連れて行きたい」
言った後に、顔が赤くなる。耳まで沸騰していくようだった。
くさい事を言っている自覚はある。
だがそれでも、ハッキリと言わなければ気が済まなかった。
彼女は恋愛がよく分からない、と以前に言っていて、拒まれたらどうしようと考えたこともあった。
だがせめて、気持ちだけは真っ直ぐに伝えたかった。後のことを考えていたら、一生言えなかったってことになりかねない。
チャンスを与えられたならば、逃すわけにはいかない。勿論、目の前の彼女も逃したくない。
「それは──恋愛的な意味で、ですよね?」
「そりゃ勿論。……えと、答えを出すのは先で全然良いんだけどさ」
「バカ言わないでください。ボクは……狙ったものは逃がしたりしないんです」
それが最大限の答えだった。
※※※
──数日後、ベニシティの港で、キャプテン達はメグルとアルカの船出を見守っていた。
「──それで!? オレっちは置いていくんスね、お二人は!」
「いやー、森の神様の正体が分かったし! ジョウト地方でしばらく調べ事をしようかなって。ついでにポケモンジムでポケモンも鍛えられるだろ」
「ずりーッス、オレっちも行くッスよ!!」
「ノオトは、いい加減町の復興作業に戻ってもらうのですよー♪ ついでに、ユイ様に勝負で負けたのはしっかり見てたので鍛え直しなのですよー♪ 貴方にはキャプテンの自覚がまだまだ足りないのですよー♪」
「ひん……」
古い本に記された存在・セレビィ。
確認事例も非常に少ない幻のポケモンを追い、メグルとアルカはジョウトへ渡ることを決意した。
一方のノオトは、キャプテンとしての仕事が山積みになっているので、此処で旅路は一度、別たれることになる。
「──ほんと、あの時あんたを拾って……此処まで辿り着くだなんて思いもしなかったんだから。それが今度は他の地方に出発、かあ」
ユイは少し涙目になっていた。
「ユイには感謝してるよ」
「博士である僕にも感謝してくれない? 一応君のニンフィアは実質僕が育てたようなもんだしね!」
「それはない」
「絶対ないわね」
「酷い!!」
直接言いはしないが、イデアにもメグルは感謝してる。
「……んで、そん時にはオレっち、サイゴク最強のキャプテンになってるッスからね!」
「楽しみにしとくぜ、ノオト」
「……寂しくなるなあ」
そう言ったアルカに、ノオトは近付き小声でささやく。
「またまたー、上手くいったんスよね? その様子だと……」
「うっ……お見通しかあ、流石に」
アルカの顔が真っ赤になっていく。
メグルが居ない一週間の間、ずっとノオトに管を巻いていたのだ。
これくらいからかっても許されるだろう、と彼は考えていた。
尤も二人の仲については祝福されてしかるべきなのであるが。
「そんじゃま、良い報告を期待してるッスよ、2人とも」
「ああ。そっちこそ達者でな」
船は汽笛を鳴らし、ベニを離れていく。
その先にある未知なる旅路を示すように──
「それで最初は何処に行くの?」
「えーと、アサギシティから北の方に進んで──」
「ふぃるふぃー♪」
ぽん、と音を立ててボールからニンフィアが勝手に飛び出す。
そして彼女は「あたしにも見せなさい♪」と言わんばかりにメグルの背中によじ登る。
「わ、分かってるよニンフィア、お前にも後で見せるから」
「フィー……!」
「あはは、相変わらずだねお姫様」
そう言った矢先、ギンと凶悪リボンの瞳がアルカを睨む。まだ負けたわけじゃないからね? と言っているのがアルカにも伝わってくる。
(しまった、ライバルは一番身近な所に居るんだった……)
「まあ、何とかなるだろ。待ってろジョウト地方ー!」
「ふぃー!」
「サイゴクの外の地方、か。ワクワクするなあ!」
──まだ見ぬ地方。まだ見ぬトレーナー。そしてまだ見ぬポケモン達。
メグルの冒険はこれで一区切り。
それでも続く。続くったら続く──
──第六章「戦火滾る災獄」(完)
でんどういり おめでとうございます!
ここまでのぼうけんを レポートにきろくしますか?
▶はい
いいえ
※※※
「森の神様が──セレビィ……いや、似て非なるポケモンとは」
「また一つ、サイゴクの神秘が解き明かされたわけですか」
「メグル殿の報告を聞く限り──その機械化されたセレビィのようなポケモンの確保は急ぐ必要がある」
「しかし森の神様なのでは?」
「……百も承知。嫌な予感……外れれば良いでござるが」
キリは暗い部屋で文献を漁っていた。
その情報筋から取り寄せた、セレビィに関する書籍や古文書だ。
「幻のポケモンの持つ力は規格外。メグル殿と赫耀の月が交戦しているところに、御三家三社のヌシが突如ワープさせられたのも、このポケモンの力によるものでござろう。元々エスパータイプを持つポケモンでござるからな」
「……では、森の神様がメグル様の戦いに介入した、と!」
「そもそもブースターとサンダースでは海を渡れない。ずっと不可解だったでござるよ──む、何だこの本」
「落丁でしょうか? しかし、こんな本、持ってきた覚えが──」
「……いや、何か仕掛けがあるかもしれない。解析班に回すでござる」
「ハッ」
その本の中には何もページが記されていなかった。
しかし、分厚い皮の表紙には「CLEAR CRYSTAL」と記されていた。
──NEXT TIME……A NEW BEGINNING
──というわけで「ポケモン廃人、知らん地方に転移した」第一部完結でございます!皆さんの熱い応援のおかげで、何とか此処まで描き切ることが出来ました。だけど、ゲームにはクリア後の世界もあるってことで──本編であるテング団+赤い月編は終わり、次のメグルの冒険はDLC編となります。つまり、まだまだ冒険は続くよってことですね。そもそも謎も大量に残していますので。
……その前に番外編として、メグルとアルカが居なくなった後のサイゴク地方を舞台として、とある登場人物に焦点を当てた話を書こうと思っています。そちらを先ずはお楽しみに。では、また次の更新でお会いしましょう!
では、此処まで応援ありがとうございました!