ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
「お前ら……助けに来てくれたのか……!!」
「ぷるるるるー?」
「ビッシャーン……ッ!!」
「ぎゅらららら!」
3匹共に疲労状態で全力のオオワザを放ったからか満身創痍。情報によれば、サンダース、ブースターは野生ポケモンと交戦中、シャワーズは療養中だったはず──とメグルは記憶している。
だが彼らは何故自分達が此処にいるかもよく分かっていないようだった。
不可解さを覚えながらも、メグルは赫耀の月が未だに起き上がろうとしていることに気付く。
暴風が吹き荒れる。流石に伝説のポケモン、オオワザを3度受けても尚、まだ戦うだけの余力が残っているようだった。
だが、もうヌシ達には戦うだけの力が残っていない。
そればかりか、元々ボールに入っていない野生ポケモンであるヌシ達は、瘴気の影響を受け、凶暴化を自ら必死で抑え込んでいる状態だ。
後は任せた、と言わんばかりにサンダースがこちらを見やる。
ルギアが咆哮を上げる。
月が隠れるほどの暗雲が空を覆い隠していく──
「ニンフィア!! バサギリ!! アヤシシ!! これが最後だ!!」
答えは当然、肯定。
意識を完全に取り戻した3匹はルギアを見据える。
ルギアは舞い上がり、羽根を突き出して大竜巻を放とうとするが、牽制とばかりにニンフィアが放ったシャドーボールがぶつけられ、チャージが遅れる。
更に、シャドーボールの弾幕の隙間からバサギリが飛び掛かり羽根に岩の刃を突き刺した。
更にその背後からはアヤシシが飛び出し、角の宝珠を妖しく光り輝かせる。
”あやしいひかり”だ。
これで狙いが定まらなくなったのか、ルギアの放った大竜巻は明後日の方へ飛んで行き──木々を根こそぎ抉り取っていく。
当たっていれば只で済まなかったことは想像に容易い。
しかし、技を振るわずともルギア自身の膂力も想像を絶するもので、羽ばたいただけで接近した二匹を吹き飛ばしてしまうのだった。
「ッ……わりーな。ウチはサイキョーのお姫様囲ってんでな」
にやり、とアヤシシが口元に笑みを浮かべた。
バサギリも不服そうだったが、頷く。
切札は最後の最後まで用意しておくものだ。
持ち前のサイコパワーで、あやしいひかりによる混乱もすぐさま治してしまい、ルギアの目の前に映る景色はハッキリとしたものとなる。
──ニンフィアの口に、光が収束している。
「最後の一撃はこれだって決めていた。伝説のポケモンがそう簡単に倒れる訳が無い。俺だって理論値を攻めるしかなかった」
「ギャアアアアアアーッス!!」
オオワザを放とうとするルギア。
しかし、もう遅かった。
バサギリとアヤシシが繋いだ僅かな時間。
その間に、既にエネルギーの充填は完了していたのである。
今から”レッドタイダル”を撃つよりも遥かに速く、ルギアを貫く方が、速い。
オオワザは間に合わない、と悟ったルギアはせめて狙いを外させるために上昇気流を巻き上げる。
メグルもニンフィアも空中へと再び放り投げられるが──既にチャージを終えた相棒をメグルは抱き締め、ルギアの方へと突きつける。
そして、彼女のリボンもまた、メグルの身体に巻きつけられ、しっかりと掴んで離さない。
外しなどしない。
互いに支え合ったことで、狙いは付けられた。
嫌なヤツの顔など、今更思い浮かべるまでもない。
互いに見えているのは、信頼に足る相棒の顔だけでいい。
そこに余計な言葉など必要なかった。
ルギアは咆哮して赤潮を羽根の間に圧縮させていくが──
「”はかいこうせん”ッ!!」
──それ諸共、脳天から全てを破壊する熱線が撃ち下ろされる。
フェアリースキンで1.3倍。タイプ一致で1.5倍。
反動でメグルもニンフィアも一緒に吹き飛ばされるが──妖精の加護を受けた閃光の威力は絶大だった。
ルギアの鱗は剥がれていき、地面に叩きつけられ、そして瘴気も共に焼き尽くされていく。
爆発が巻き起こる。
ヌシ達も、アヤシシも、バサギリも、爆風を耐えるので精一杯だった。
だが、それでも尚、煙が晴れたそこには──ルギアが赤い目を輝かせて立っている。
羽根を羽ばたかせて、必死に態勢を立て直し、再びオオワザの姿勢に入ろうとするが──
「これでっ、最後だーッッッ!!」
──落ちて来たメグルが、ルギアの脳天目掛けてハイパーボールを叩きこむ。
その身体は小さなボールの中へと吸い込まれていく。
上昇気流は止み、メグルは頭から地面に突っ込みかけるが、それをニンフィアのリボンが掴み、勢いを殺し、何とか顔面から地面に直撃するのは避ける。
そして、彼の目の前にはルギアの入ったボールが転がっている。
かくん。
「ふぃるふぃー……!!」
一度、それは揺れ──
かくん。
「ブルトゥ……!!」
「グラッシュ……!!」
かくん。
二度、それは揺れ──
「頼む、入ってくれ……!!」
かくん。
三度、それは揺れ──
カチっ
──遂に、沈黙するのだった。
「や、やった……」
空を覆っていた瘴気が──消え失せる。
嵐は消え去り、雲の切れ目から光が差す。
サイゴクを覆っていた、赤い月は今──完全に消え去るのだった。
※※※
「イヌハギ様!! イヌハギ様!! 赤い月が、奴らに捕獲されました──」
「……お前達もコレで見たはずだ。”赤い月”は無限の豊穣を齎すモノじゃあない。そればかりか、我らが偉大な同胞・タマズサを殺した」
団員達は口を挟めなくなり──そして頭を垂れ、途方に暮れる。
希望は潰えた。
縋るものはもう存在しない。
「──タマズサが死んだ以上、テング団の指揮権は某に移行した。我々はこのサイゴクから撤退する」
「しかしそんな!! これから我々はどうするのですか!?」
「ヒャッキは──どうなるのですか!?」
「……そんな事、分かるはずがないだろう。だが、少なくとも我々は見てきたはずだ。力にも勝る知恵、そして結束を」
もしも、サイゴクの平穏を乱した罪があるならば、一切全ての希望を失い、縋る後ろ盾も無くしたことが彼らの罰である。
これから彼らは、何も無くなったヒャッキで自らの力で生きていかなければならなくなったのである。
(きっとそれは、死ぬよりも辛いことだろう。しかし……同胞が傷つくより何倍もマシなことだ)
「これ以上の戦闘は何も生みはしない。撤退する」
「しかし──」
「我らが敵を称えよ。圧倒的力、そして圧倒的困難を彼らは跳ね除けたのだ」
だが、新たな希望は芽吹いた。
取るに足りないと足蹴にしていた原住民たちが、タマズサを破り、そして──赤い月をも封じ込めてみせた。
その姿をイヌハギは忘れはしない。
(図らずともヒャッキを蝕む病巣は消え失せた……これからは瘴気を払う方法を我ら自身の力で考えていくしかあるまい)
(……この戦争、我らの敗北だ)
※※※
──サイゴクから瘴気は消え去った。
そして、二度と赤い月が起こることは無かった。
一方、連続オーライズと瘴気による負担が重なったメグルはルギアを捕獲した直後に昏倒し、敢え無く病院行きとなったのである。
そうして次にメグルが目にしたのは──
「……アルカ?」
──青白い肌に、目を覆い隠す程長い前髪。
そして、今にも泣きそうな彼女の顔だった。
「うわーんっ、起きたーっ!! やっと起きたーっ!!」
「どわぁぁぁ、抱き着くないきなりーッ!? まだ身体が痛いんだがーっ!?」
「……一人でルギアに挑み、そして勝利したようでござるな」
「やっぱ無茶苦茶するッスねぇ。そんでもって、やってのけちまうなんて」
「……キリさん、ノオトまで」
すっかり良くなったのか、とメグルは安心して息を吐く。
「……いや、結局ヌシ様達に助けられちまってな」
「それでも、ルギアの捕獲を行ったのはメグル殿でござろう。困難な任務をよくぞ成し遂げた」
「……サイゴクは今──どうなってるんですか?」
「安心せよ。赤い月は完全に収束。凶暴化した野生ポケモンも、元通りでござる」
そして、捕獲されたルギアは現在、ボックスの管理者であるイデア博士の下で研究が進められているのだという。
未だに瘴気が抜けきっていないらしく、まだボールの中から出すのは危険なのだとか。
しかし、それ以外で瘴気の影響を受けていたポケモンは、元通りとなり、瘴気を受けていた人間たちも健康体に戻ったのだと言う。
また、あれからテング団は姿を見せていない。
だが──降伏の印と言わんばかりに、但し書きと最後のオーパーツである”剣”が、おやしろの前にあったらしい。
三羽烏が二人も死に、全てのオーパーツを失ったテング団は、サイゴクから去っていったという。
無論、サイゴク側が喪ったものは数えきれない。
しかし──全てが終わった今、ひぐれのおやしろが選んだのは復讐ではなく、復興に力を注ぐことであった。
「元より、サイゴクの民が赤い月を奪ったことが発端。今を生きる我らに非があったわけではないが……それは間違いなく過去のサイゴクの過ちなのだろう」
「結局の所、何処まで本当なのかは分かんねーッスけどね?」
「だが……我々はヒャッキを追討するつもりは毛頭ない。禍根を我々で断つ。それが平和への一歩だ」
ポケモンに莫大な力を齎す”ウガツキジン”のオーパーツを、わざわざこちらに渡してきたことが──誠意の証だと信じたい、とキリは語る。
それはヒャッキ側の強大な戦力が完全に失われることを意味していた。
その上、サイゴク側はヌシポケモンクラスのポケモンを多数、捕獲している。
もう、テング団とこちらの戦力差は逆転したも同然だった。
「生き残ったのはイヌハギ、か。敵の言葉を何処まで信じていいか分からないが……金輪際、サイゴクに踏み入らないならば、最早それで良い。奴らも多くのものを失ったはずだからな」
「……」
「戦後処理は拙者達に任せてくれればよい。メグル殿は、自分の為に旅を続けてくれ」
「そうッス! まだ、やることは残ってるんスから!」
「……何か手伝えることがあったら言ってください」
「先ずは休むッスよ」
「結局一番ベッドで寝ていたのはメグル殿でござるからな」
「えっ、俺そんなに寝てたの……」
「オレっち達が退院できるようになったの昨日ッスからねえ」
「このまま起きないのかと思ったよーッ!!」
「それはこっちの台詞だ馬鹿野郎! 無茶しやがって!」
「あだだだだだ、ほっぺが痛いです、おにーさんんん」
ぐいぐい、とアルカの頬を引っ張るメグル。
助けられたのは感謝しているし、むしろ彼女が身体を張らなければルギアを捕獲することも出来なかったのであるが。
「二度とあんなことするんじゃねーぞ」
「は、はひ……」
「アレを俺は、死んでもファインプレーだなんて言わねーからな」
「……お、怒ってます……? やっぱり……」
「……」
返答に詰まる。
怒っている、と問われれば「ウソではない」。
「んじゃー、オレっち達外に出てるッスわ。姉貴にも報告しねーとだし」
「拙者も仕事があるのでこれにて失礼でござる。メグル殿、後はたっぷりと
「ああっ、2人ともォ!? ちょっと! フォローとかしてくれないのォ!?」
病室から出て行くノオトとキリを前に涙目で訴えるアルカ。
しかし、再び頬を引っ張られ、無理矢理メグルの方に顔を向けられてしまうのだった。
「あ、あはは、おにーさん……」
何処か気まずそうに彼を見つめるアルカ。
そんな彼女を見つめていると──全て終わったのだ、と実感させられる。
テング団が居なくなり、赤い月も捕獲した今、彼女を縛るものは無くなったのである。
「……アルカ」
「?」
「こっち、来てくれねーか?」
「えっ」
もう一度、メグルはアルカを抱き寄せる。
体温が伝わってきて、彼は安心感を覚えた。
「……良かった。本当に……良かった」
「……ボクも、同じ事考えてました。ずっと起きなかったらどうしよう、って本気で思ったんです」
「なあ。サイゴクの復興が終わった後でも良いんだ。早く旅の続きをしてーよ。お前と一緒に──俺は、最後までこのおやしろまいりの終着点に行きたい」
「……ボクもです」
「フィッキュルィィィィ……!」
間に割って入るのは──凶悪リボンであった。
抜け駆けは許さないぞと言わんばかりの圧を感じる笑顔だった。
二人は思わず離れて身構える。
何時の間に居たのだろうか、果たして。
毛は逆立っており、リボンは独占するようにメグルを縛り付けている。
「ま、また勝手にボールから出てきたのかオメーは!?」
「フィッキュルルルル」
「滅茶苦茶怒ってる……!?」
「だ、大丈夫だって! 勿論、お前も一緒だからなニンフィア!」
ギロリ、とニンフィアはアルカを睨み付ける。正妻戦争はまだ終わってないからな? と言わんばかりに。
「ふるるーる♪」
遅れて甲高い声が聞こえてきたかと思えば、アルカの影からぬぅとアブソルが現れて更にメグルに覆いかぶさる。
そう言えば彼女の治療がどうなったのか全く聞いていなかったので、メグルは面食らってしまう。
すっかり元気そうに尻尾を振っている辺り、もう完治したと見て間違いないが──メグルに抱き着くなり、尻尾をぶんぶんと振るうのだった。
「アブソルまでぇ!?」
「って、お前もう出てきて大丈夫なのかよ!?」
「ふるーる♪」
「いや、まだ治療は終わってなくって……勝手に抜け出して来たでしょ!? これだからゴーストタイプはぁ!」
「ふぃっきゅるるる……」
可愛い妹分の前では、ニンフィアも鬼になり切れず、大人しくなってしまう。
すっかりハーレム状態となってしまったメグルは──重さに耐えかねて、ベッドに倒れ込んでしまうのだった。
「……あーもう分かった分かった! 心配しなくても、お前ら全員旅の道連れなんだからな! こっから止まらねえから、覚悟しとけよ!」
「ふふっ……」
「何笑ってんだよアルカ……」
「いや……寂しい思いをすることは、当分ないなって思って」
前髪の切れ目から見えた彼女の瞳は、とても綺麗だった。
※※※
「……どうなる事かと思ったけど、わざわざ見守る必要なかったわね」
病室の外から一連のやり取りを見守っていたユイは溜息をつき、その場を離れる。
通路には──ノオトとキリが並んで立っていた。
「ユイさんもお疲れッス」
「本当よ! あんた達が寝てる間、大変だったんだから。瘴気にやられて、何回もブッ倒れたんだから……」
「まことに忝い。セイランとベニを飛び回り、被害を抑え込んでいたとか」
「……それで、これからあたし達はどうなるんでしょうか。こんなにあっさり、全部終わっちゃって、実感湧かなくって」
「先ずはサイゴクの復興をせねばなるまい。後は捕獲したルギアの調査でござろう。だがそれ以上に、拙者達はやらねばならない事が残っている」
「というのは?」
「……メグル殿の、おやしろまいりを見届けることでござる」
「い、いやあ、流石にそれどころじゃあ……」
「勿論今すぐというわけではござらん。しかし……彼がおやしろの試練を受ける準備は進めておく必要があるでござろう」
キリは言う。
「……後顧の憂いは全て断っておかねばならん。メグル殿が
※※※
それから、3ヵ月程しただろうか。
各町の復興計画はキャプテンの主導によって進みつつあった。
人の何かをやり直す力というものは想像以上に逞しいもので、町の再建、ひいてはおやしろの再建も進みつつあった。
そして、ひと段落終えた後、メグルは再びアルカ、そしてノオトと共におやしろまいりの旅の続きを始めた。当初、町の復興に参加すると言っていたノオトだったが、万全を期すに越したことはないため、同行することにしたのである。
全ては自分がこの世界に呼ばれた理由を確かめる為であった。
キャプテン達もまた同じ。メグルの為に試練の時間を設けたのである。
だが、この期間の間はとにかく平和だった。
赤い月は起こらなかったし、テング団の残党が何か騒ぎを起こすといったこともなかった。
そして──その日は遂にやってきた。
「強かったなんてもんじゃねーよ……正直、ヨイノマガンよりも苦戦した気がするぜ」
「ふぃー……ッ!!」
「……ほんとーに、よくやったんだから! ヌシ様を……倒しちゃうなんてね」
おやしろはまだ再建計画の段階ではあるものの、更地と化したおやしろの跡地で──ニンフィアは、サンダースとの激闘を制し、立っていた。
前日にひぐれのおやしろの試練を終えたメグルは、そのまま一気にシャクドウシティに戻って”なるかみのおやしろ”の試練に挑んだのである。
文字通りの総力戦であり、メガシンカを以てしても手持ち5匹が瀕死にさせられるギリギリの戦闘ではあったものの、何とかメグルは勝利したのである。
旅を再開して、たったの数日間ではあったものの──残る2つのおやしろの試練を制し、彼はこの日を以て全ての試練を終えて、アラガミ遺跡に挑む権利を手に入れたのである。
「オレっち感涙ッス……メグルさんが、此処まで強くなるなんて、ぐすっずびびび」
「もうノオトよりも強いかもなんだから」
「泣くッスよォ、ユイさん!?」
「もう泣いてんじゃん……」
「……長いようで、短かったなあ」
ぽつり、とアルカは呟く。
全ての試練を終えた今、メグルに残されているのは──アラガミ遺跡の奥、めぶきのやしろの参拝のみである。
「待ってろよ……アンノーン……そんでもって、森の神様!」
最後の目的地に思いを馳せるメグルに、アルカは不安な視線を投げかける。
アラガミ遺跡への挑戦は、全ての証を揃えたトレーナー一人で行わなければならない。
そこに、アルカは一緒に行くことが出来ない。
(見ないうちに……居なくなったり、しないよね……おにーさん)
──次回、第六章最終回