報酬への不満、アニメ業界は5割、映画は9割 クリエーター実態調査

中島嘉克 岩沢志気

 公正取引委員会は24日、アニメ・映画の制作現場における取引慣行について実態調査した結果を公表した。多重下請け構造が多い業界で、調査結果からはクリエーターの多くが報酬水準に満足していない現状が浮き彫りになった。

 アニメ、映画の両業界は、製作委員会の下に元請け制作会社、下請け制作会社、フリーランスのクリエーターが連なる構造が多い。公取委は1月から、各階層での取引実態をアンケートやヒアリングなどで調べた。

 調査では、クリエーターの多くが今の報酬水準に不満を持っていることが分かった。アニメでは作画などを手がける人の52.1%、映画では監督や照明など89.4%のクリエーターが報酬水準に「満足していない」と回答した。理由としては「物価の上昇に追いついていない」「そもそもの報酬/単価が低い」などが多かった。交渉しても納得いく水準まで達しなかったり、交渉に応じてもらえなかったりする状況もある。

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 一方、各階層で共通する課題として、取引条件の明示が遅い▽制作委託費が低い▽追加発生した費用の支払いが不十分、といった状況が確認されたという。公取委の担当者は「上の階層であったことは下の階層でも起こっている」と指摘する。

 公取委は今回の調査結果を踏まえ、独占禁止法や中小受託取引適正化法(取適法)、フリーランス法などの法令上、どういった行為が問題となり得るのかなどを示す指針を策定・公表する方針だ。

「2話つくって報酬は1話分」「キャラクターの顔に漠然とした指示」

 フリーランスのクリエーターは組織に属さないため、弱い立場に置かれるケースが少なくない。

 「実質的に2話数分の作業を行ったのだが、報酬は当初に決めた1話分の単価しかもらえなかった」「前の工程の段階で承諾を得ていたにもかかわらず、『キャラクターの顔がかわいくないのでもう少しかわいくして』などと、漠然とした指示も」――。公取委の調査からは、発注側の都合に振り回されるアニメのクリエーターたちの「悲鳴」が聞こえてくる。

 アニメ業界のクリエーターの育成や待遇改善を目的とした「日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)」が、2024年に日本総研と共同で実施した調査によると、賃金や報酬の中央値は時給換算で約1300円だった。全産業平均の約2400円を大きく下回る。20代を中心とした若手の場合、最低賃金を下回る水準となるケースも少なくないという。

 だが、賃金や報酬を上げようにも、公取委の調査では、「交渉の場がない」「場があっても納得いく水準までは達しない」などの回答が合わせて5割超。「交渉するには、次の仕事が無くなる可能性があることを覚悟しないといけない」との声もあった。

 NAFCAの福宮あやの事務局長は「(スキルが育っていない)若い人ほど交渉のハードルは高い」と指摘する。

 また、制作の現場ほど待遇改善の原資が少なそうでもある。日本動画協会の資料を日本総研が分析したところ、22年のアニメの国内売上高のうち、制作会社へ配分されたのは18%。海外では6%にとどまる。多くは上流部の製作委員会などに流れているという。

 福宮事務局長は「まずは制作現場への配分を増やす必要がある」とし、「テレビシリーズなどは1話あたりの最低金額を設けることも必要なのではないか」と話す。

 元請け業者に対する下請け業者の不満も根強い。「当初提示された金額から減額された額が振り込まれた。催促しているがいまだに支払われていない」「求められるクオリティーが上がっているにもかかわらず、単価は昔と大して変わっていない」といった声が代表例だ。

 ある下請け制作会社の関係者は最近、単価アップの交渉をした。その際に示されたのが「制作協力費」名目で数十万円を支払うという案だったという。

 単価を上げた場合、この先の契約もその価格が発注の下敷きとなるが、協力費ならば一時的な支払い名目だ。こうしたやり方には元請けが単価を上げることをためらう姿勢が垣間見える。

 この関係者は「単価を上げたら他の会社との契約も上げざるをえなくなり、困るのだろう」とも話す。

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この記事を書いた人
中島嘉克
経済部|経済産業省担当
専門・関心分野
デジタル、産業政策
岩沢志気
経済部|消費・流通担当キャップ
専門・関心分野
食、エンタメ、流通、エネルギー
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    松谷創一郎
    (ジャーナリスト)
    2025年12月25日11時32分 投稿
    【提案】

    昨年の放送・芸能分野に続き、今年はアニメ・映画分野の調査が行われ、現場の疲弊があらためて確認されました。さらに、著作権譲渡の対価が低額であることを「買い叩き」として認識するという公取委の指摘は、かなり踏み込んだとも感じました。説明や協議にちゃんと応じないことも問題だと指摘している点も重要です。 今回は、製作委員会の構造を注視している点が注目されます。製作委員会方式は、リスクを分散しつつテレビ局などが自分たちのメディアでプッシュしてヒットを導く、日本独自のやり方でした。リスクを分散するこの手法は、2000年代以降に日本の映画産業を回復させた一因なのはたしかです。ただ、製作委員会に入らなければ(出資しなければ)、ヒットしてもさほど対価を得られないことを明確に示したことには価値があります。 解決策のひとつは、やはり制作プロダクションが自社出資で作品を創ることです。『鬼滅の刃』のufotableや『チェンソーマン』のMAPPAがその代表例で、とくにMAPPAは100%出資することで利益を多く得ることができました。しかし資本金1000万円以下が65%を占める小さな制作会社ばかりでは、こうしたチャレンジは限定的です。また、日本ではアメリカと異なり組合での交渉ができておらず、フリーランスの団体交渉もないため、搾取されやすい。 私もフリーランスですが、ギャラ交渉は簡単ではありません。しかも物価がこの2年で7〜8%上がっても、われわれの報酬に変化はありません。一般企業の社員ならベースアップがありますが、外部委託への報酬は長らく放置されたままです。これは価格転嫁の問題で、公取委の監視が必要です。 とは言え、公取委は自らが管轄する独禁法などでしかできないわけで、あとは国会や政府がコンテンツ業界をどうしたいかという話になります。 先日、高市首相は音楽や映画の著名人を官邸に招いて歓談していましたが、必要なのはそんな「やってる感」のパフォーマンスではなく、日本のポピュラー文化の基盤をどう整備するかです。韓国はコンテンツ振興院という準政府機関を作り、この20年で大きな成果を出しました。日本も本気でこの業界をどうにかしたいなら、特別な官庁を作るとか特別法を作るとか、そういった議論が必要です。超党派でちゃんと議論し、政府の方針を明確に示していくべきではないでしょうか。

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