高市首相の言うドローン・スウォーム攻撃はウクライナの戦場で行われていない
高市首相は12月23日、東京都内で安保3文書の前倒し改定について「継戦能力を高めていく」と意気込みを語り、改訂を前倒しする理由として前回策定の2022年当時と戦略環境が変化している根拠として、ロシア-ウクライナ戦争で使われているドローンについて「スウォーム(群れ)攻撃が行われている」と言及しました。また10月21日の記者会見でも同様のことを述べています。
高市首相の発言
(高市首相は)また、ウクライナ戦争では多数のドローン(無人機)で標的を狙う「スウォーム(群集)攻撃」が行われていると指摘。
(高市首相)ロシアとウクライナの戦争の中で、すごい勢いでドローンが飛んできて、しかも、スウォーム攻撃ですね。こういったものも含めてございます。
専門家の見解・説明
しかしこれは事実ではありません。ロシア-ウクライナ戦争ではドローンのスウォーム攻撃は行われていません。例えばアメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)が2025年3月6日に発表した報告書「ウクライナのAIを活用した自律戦闘の将来ビジョンと現在の能力」には以下のようにあります。
「航空分野におけるスウォーミング(群行動)は現在小規模な実験段階にあり、ドローンが相互に通信し、意思決定を行い、協調して適応する完全なスウォーム(群)はまだ開発されていません。」
”In the aerial domain, swarming is currently in a stage of small-scale experiments; however, fully realized swarms—where drones communicate, make decisions, and adapt in concert—have yet to be developed. ”
CSISのワドワニAIセンター研究員カテリーナ・ボンダール氏が説明している通り、ドローン・スウォーミングはまだ小規模な実験段階でしかなく、ウクライナの戦場には投入されていません。ドローンのスウォーム攻撃とは単純に多数機で攻撃するという意味ではないのです。
ドローンのスウォーム攻撃とは、ドローンがAI(人工知能)によって自律的に行動し、相互に通信し、意思決定を行い、協調して適応する戦闘行動を指します。さながら蟻や蜂の群れが行動するようにです。群れ全体が一つの意思を持って行動し、全自動で目標を捜索・発見・追尾して攻撃し続けるのです。自律戦闘兵器の究極の在り方であり、これが実現できれば戦場の様相そのものが変わってしまう、本当の意味でのゲームチェンジャーとなります。
このドローン・スウォームの定義を理解していない場合に、遠隔操作型ドローンが一度に数機で攻撃している程度の話をスウォーム攻撃と勘違いして報道してしまうケースがよくありますが、それは早とちりでしかありません。また人間の遠隔操作の補佐をAIで行う複数機のドローン同時運用をスウォーミングと呼んでいる場合もありますが、それはまだ簡易な操作の指示が限界であり、省力化には役立っていますが、完全自律型のスウォーム運用ではありません。
これらの任務には、計画担当者、ドローン操縦者、航法士の3人が関与している。群れ制御ソフトウェアがなければ、9人必要になるだろうと担当者は述べた。
"Three people are involved in these missions: a planner, a drone operator and a navigator. Without the swarm software, nine people would be required, the officer said."
このスウォーマー(Swarmer)社の群れ制御ソフトウェアを人間の遠隔操作の補佐に使えば、9人の人員が必要なところを3人で済ませられるので、AIを補佐に使って省力化に成功しています。しかしまだ完全なドローンのスウォーム攻撃と呼べるレベルにはありません。スウォーマー社は数百機のドローンを群れを制御も可能になるとしていますが、まだ実用化には達していません。
完全なドローンのスウォーム攻撃を実現するには、高度な自律と協調を達成する必要があります。AIアルゴリズム、通信プロトコル、リアルタイム意思決定能力における大幅な進歩が求められるとCSISのカテリーナ・ボンダール研究員は説明しています。
Auterion Performs World’s First Multi-Manufacturer Swarm Strike Demonstration | December 15, 2025
※オーテリオン社が世界初となる複数メーカーのドローンによるスウォーム攻撃のデモンストレーションを実施(2025年12月15日公開)
上記動画の短縮版、オーテリオン社ローレンツ・マイヤーCEOの投稿
目標の戦車はバルーン・デコイ(風船状の囮)
※ドイツのミュンヘンで行われたオーテリオン社のAI技術によるドローン・スウォーム攻撃のデモンストレーション映像。これでも実験段階になる。
※オーテリオンの本社はアメリカのバージニア州アーリントンが所在地だが、創業者のローレンツ・マイヤーCEOはスイス人でチューリッヒ工科大学の出身、そしてドイツの大手軍需企業ラインメタルとも提携関係を結んでいる多国籍企業。自律行動プログラムのソフトウェア開発。
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※2018年にアメリカ国防総省が発表した報告書「無人システム統合ロードマップ2017-2042」では、スウォーム攻撃が可能となる高度なAIを搭載したドローンの実用化の時期は2042年ごろと予想されている。
※なお無差別攻撃をしてよいなら自律戦闘兵器の実装は今直ぐにでも行えるが、それでは敵味方の識別はできない上に民間人の巻き添えも容易に発生してしまうので、戦争犯罪が多発してしまう。