ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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第112話:ポケモン廃人、決起する

「──頭を冷やしたまえ」

 

 

 

 ──ぎゅっ、とイデアの指がメグルの頬を引っ張った。

 思わず気色ばんだメグルはベッドから起き上がろうとすると全身の骨という骨に衝撃が走り、悶絶するのだった。

 

「君だって立派な、怪我人だ」

「あっだだだだ……」

「いいかい、アルカ君がダメージをおっ被ったってだけなんだ。致命傷は外れたってだけなんだ」

「それでも、いかねえ、と……」

「その状態で行ったが最期、君は今度こそ帰って来れなくなる。それは僕としても困るんだよねぇ。君のような強いトレーナーが居なくなるのは、サイゴクにとって大きな損失さ」

「ッ……」

 

 メグルは拳をベッドに叩きつけることしか出来なかった。

 起き上がる事すらままならない。それほどまでに、全身が受けたダメージは大きかった。

 ルギアが放った高濃度のサイコパワーは脳だけではなく、全身を揺さぶり、反響し、そして体組織をボロボロにする。

 この世界の再生医療を以てしても、完治するまでには時間がかかる攻撃だったのである。

 ましてや、逃げる間もなく直撃を受けた3人は──脳にも衝撃を受けている。

 メグルはゾッとしなかった。本当に、ただただ運が良かっただけだったのである。

 たまたまそこにアルカが居て、彼女が覆いかぶさってくれたから今こうしてイデアと話せているようなものなのだ。

 

「納得、出来るかよ……ッ!!」

「それにさ、今の君じゃあ……また、戦えないポケモンを増やすだけだ」

「増やすって──まさか」

「ああ。君のアブソルね……あれはしばらくまともに戦うのは無理だ」

 

 メグルは──力無くベッドにもたれるしかなかった。

 

「……体組織、てか霊気で構成された筋繊維がズタズタさ。幸い元には戻るんだけど、他のポケモンだったら二度と戦えなかったかもしれないんだよ」

「……」

「メガシンカに、ギガオーライズを重ねたんだよね。多分、それが原因だ」

「……」

「ま、状況的に仕方なかったんだけどさ。事実、それが無けりゃあタマズサを抑え切れなかったとか──」

「……好転、しなかったんです。それでも。タマズサには、通用しなかった」

 

 メガシンカとギガオーライズの重ね掛け、メグルにとっては未知の領域だったが、アブソルにとってはそれが自身に何を齎すか分かり切っていたはずだった。

 アーマーガアに有効打を与える事は出来ず、結果自分は傷つくだけ。

 にも拘わらず、彼女はメグルを止める事はしなかった。

 

「戦況を変えたのはデカヌチャンだ。あいつは、アルカがやってくるのを分かってて、それまで皆が持ちこたえられるように自分を犠牲にする道を選んだんです。トレーナーである俺には、そんな素振り見せなかった」

 

 目尻には涙が浮いてくる。

 ひたすら情けなかった。

 ひたすら死にたくなった。

 今だって、3人が受けた痛みを、アブソルが受けた苦しみを自分が肩代わりしたいくらいだった。

 

「結局、俺は、何にも出来ないままだ──俺が強くなったんじゃあない、ポケモン達が強くなったんだ!! 俺が……強くなった訳じゃなかった……ッ!!」

 

 ポケモン達は、自分の想像を超えるスピードで成長していたことをメグルは思い知らされた。

 彼らは気高く、そして力強く、何より──逞しくなった。

 その彼らに相応しいトレーナーであるかと言われれば、否だった。

 

「そうやってみっともなく生き残った癖に、立ち上がることも出来やしない、俺は……どうしたら……ッ!!」

 

 今すぐにでも起き上がり、ルギアを捕まえて全てを終わらせてしまいたい。

 例え自分の命を投げ打ってでも、これ以上悲劇を増やさないために、そうしたかった。

 しかし、今のメグルにはそれすら出来ない。

 ただひたすらに時間が経つのを待つしかない。

 重く苦い現実を受け止めるしかないのである。

 それがメグルには苦痛で仕方なかった。

 やらねばならないことなど、山のように積み上がっているというのに。

 そんな彼に──イデアは言い放つ。

 

「……簡単さ。立ち上がれるようになってから、立ち上がれば良いんだよ。それまでは、君じゃない誰かが頑張るだけさ」

 

 至極、当然のように。

 そればかりが冴えたたった一つの答えだった。

 

「あのねぇ、ルギア──アレはれっきとした伝説のポケモンだ。どうせ君一人でどうにかなるポケモンじゃあない。勿論、僕だって、キャプテンだってそうだ」

「でも──その間に」

「サイゴクのポケモン協会は、赤い月になぞらえて、あの奇しくも妖しき変異を遂げたルギアを”赫耀(かくよう)(つき)”のすがたと呼称することにした。只の伝説のポケモンじゃあないんだ」

「ッ……」

「ましてや、満身創痍の君じゃあ……話にならない。分かってるだろう? 自分が何とかしないといけない。何とかしたい。その気持ちは分かる。だけどそれは……罪悪感から来たものだ。使命感からじゃない」

「罪悪感……!?」

「アブソルを傷つけたこと。何より、他の仲間達の中で生き残ってしまったこと。それをずっと気にしてるんだね。でも……今の君は間違いなく、捨て鉢でルギアに挑む。そして死ぬね」

「……」

「それくらい、君の心を病ませるものなんだよね、罪悪感ってさ」

 

 ま、君に諸々の事実を告げたのは僕なんだけどねえ、とイデアはおどけて言ってみせた。

 ある意味、一番嫌な役回りであったことは間違いない。

 

「でもねえ、先に言っておくよ。君は誰からも()()()()()()()()()。だって、悪い事したわけじゃないでしょ? ギガオーライズとメガシンカの重ね掛けだって、切羽詰まった状況で使わざるを得なかった。裏目に出ちゃったし、誰にも結果が分からなかった。それをやいのどうのと外野が言うのも、君が思いつめるのも、結論ありきだよね」

「だけど──」

「それよりも、君がまた無茶して死ぬ方がよっぽど許されないことだよ全く。アルカ君は──そんな事をしてほしくて、君を庇ったと思うかい?」

「……思いません」

「ユイ君も似た事を気にしてたよ。落ち込んでた。だから同じ事を言ってあげたんだよね。勿論、気にするなっていう方が無茶なんだけどさ。それでも……それくらい、自分達がやろうとしてることが危ないって分かってほしいよね」

「……」

 

 腕時計を見ると「そろそろ時間かな」と言ってイデアは病室から出ようとする。

 彼は病室から出る間際に振り向いて言った。

 

「君には……”かくようのつき”を捕まえて貰わなきゃ困るからね。しっかり治してくれよ、ポケモントレーナー!」

「……はい」 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(このまま、ただ寝てるわけにはいかない)

 

 

 

 

 考えろ。考えろ。考えろ。ただ、今はそれだけしか出来はしなかった。

 敢えて、倒れた仲間から思考を遠ざける。

 彼らの顔を思い浮かべれば、そのまま止まってしまいそうな気がしたから。

 敢えて、自分の不甲斐なさで戦えなくなってしまったアブソルから思考を遠ざける。

 彼女の顔を思い浮かべれば、自分も戦えなくなってしまいそうな気がしたから。

 

(今、此処で!! ルギアと相対した時に備えて、考えるんだ!! それが、俺に今できる事なんだ!!)

 

 メグルの世界では、ポケモンは全てゲームの中の生き物だった。

 彼にとって既知のポケモンは、頭の中に入っており、覚える技も性質も全て記憶されている。

 実際に息づいているそれらはゲームの中では想像できない生態をすることもあるとはいえ、基本的にゲームやアニメのポケモンとこの世界のポケモンに大きな相違はない。

 故にメグルは考える。

 あのルギアが持つ力が何なのか。

 それと対峙した時、自分が何をせねばならないのかを。

 ルギアの体色は黒く、そして角の部分が白かった。

 通常の色違いだとかそういった次元ではない。もっと、禍々しい形態だ。

 

 

 

(XD001、ダーク・ルギア……!!)

 

 

 

 真っ先に浮かんだのはその名前だ。

 ゲームキューブの番外作品「ポケモンXD 闇の旋風ダーク・ルギア」。

 ポケモンスタジアムから続く、ポケモン対戦を3Dで楽しむためのソフトで、そこにシナリオモードも搭載されている。

 ダーク・ルギアは、シナリオモードの看板ポケモンで、悪の組織シャドーによって改造されたことで禍々しい姿になってしまったのである。

 あの赫耀の月は、ダーク・ルギアと同じ姿をしていた。

 しかし一方で、相違点が無いわけではない。

 技を放つとき、ルギアは赤いオーラを身に纏っており、これは原典には無い。

 そして何よりスマホロトムの図鑑機能が記録していたルギアの技は「サイコブースト」。

 これは、闇の力から解放されたルギアが習得する技であり、逆説的にダーク・ルギアでは習得できない技なのである。

 

(たまたま姿が似てただけ? そも、この地方にダーク・ポケモンの話は一切出てこなかったし、メタ読みの観点でも、あれはダーク・ルギアに似た別形態だと考えるのが妥当……!)

 

 結果、あのルギアはダークポケモンではない特異個体であり、変異個体でもある。

 それが、メグルの出した結論だった。

 そもそも、500年前からあの場所に封じられていたのが本当ならば、ルギアの変性に現代の人間が介入する余地もないからである。

 では、ルギアが変異した理由を考えると──ルギアがヒャッキから盗み出された赤い月そのものである場合、やはりヒャッキに満ちた瘴気が原因ではないか、とメグルは考える。

 

(あの瘴気がある場所では人間は住めない……そして、赤い月を誰かが盗みだして以降、瘴気が満ち溢れて人が住めなくなった。ルギアが瘴気を払っていた? どうやって?)

 

 メグルはルギアの生態を思い出していく。

 ルギアは、海の神とされているポケモンだ。羽ばたくだけで40日間嵐を起こすと言われており、一方で荒れ狂った海を鎮める力も持つという。

 ジョウト地方の伝説では、かつて”カネのとう”に住んでいたが、塔が焼けたことで人知れぬ渦巻き島に飛び去ったとされているが、それ以外の伝承に乏しい。

 従って参考になるのは、アニメや映画だ。

 

(嵐……風……そういや”みんなの物語”では、ポケモンと人間の絆を証明すればフウラタウンに恵みの風を運ぶ……だったか)

 

 パチン、とそこでメグルの中で何かが繋がる。

 

(赤い月が齎していたのは無限の豊穣なんかじゃない! ルギアがヒャッキに風を運ぶことで、瘴気を払っていたんだ!)

 

(だけど、伝承でオヤシロの男がルギアを連れ去ってしまった……多分捕獲したことで、ヒャッキに瘴気が流れて……荒れてしまったとしたら?)

 

 そして、封じられたルギアから溢れていた瘴気こそが、赤い月を引き起こしていたのではないか、とメグルは推測していく。

 全てが正解しているとは彼自身も考えていないが、それでもルギアの生態とヒャッキを満たす瘴気の関係は彼の中でストンと腑に落ちるものであった。

 

(合点が行ったぜ! そんでもってサイゴクに連れて来られたルギアが暴れ狂ったのが500年前の厄災のクライマックスだ!)

 

 そこまで考えて、さっと血の気が引いた。

 今は目覚めたばかりではあるものの、伝承通りならばルギアが完全に動き出せばサイゴクを再び焼野原に変えることなど容易い。

 そもそもが40日間も続く嵐を引き起こすだけの伝承を持つポケモンなのだ。

 羽ばたけば家屋が壊れ、木々は根こそぎ舞い上がり、たちまちサイゴクは嵐によって更地へと変わる。

 アーマーガアがオオワザで漸く起こせていたような災禍を、あのルギアと言うポケモンは只の羽ばたきだけで起こせるのである。

 そして、それだけではなくまだ謎は残っている。

 

(そもそも、何でサイゴクに連れて来られたルギアは暴走したんだ? ヒャッキで瘴気を吸い続けて、おかしくなったのか?)

 

 あの異様なオーラ、そして悍ましい変容。

 それがヒャッキを満たす災いの空気である瘴気によるものである可能性は否定できなかった。

 すぐさまメグルは、スマホロトムを起動する。幸い院内ではスマホロトムの使用は制限されていない。医療技術の進歩の賜物である。

 

(ルギアはサイゴク山脈を飛んだ後、まるで逃げるようにイッコンタウンに向かったものの、アケノヤイバと相対して撤退……!!)

 

 ごくり、とメグルは息を呑む。

 町にヒメノとアケノヤイバが残っていて良かった、と胸を撫で下ろすのだった。

 しかし、動画を見る限り、ルギアの動きはふらついており、まだ全力を出せていないように見える。

 アケノヤイバのオオワザを受けたことで、そのまま狂ったように空へ舞い上がり、今度はベニシティの方へ向かっているのだという。

 一方、ルギアが飛んだ後、イッコンタウンで体調不良を訴える人が増加。原因は究明中。更に周囲のポケモンの凶暴化が進行しており、おやしろのトレーナーは対処に追われているという。

 もし、赤い月がポケモンを凶暴化させ、人間に害をなす現象であるならば。

 その原因は──やはりヒャッキを満たす瘴気と同じではないか、とメグルは考える。

 そしてルギア自身も瘴気の力で凶暴化しており、今まで至るのでは、と──

 

 

 

(……だとしたら、ルギアも苦しんでる……早く助けないと……ッ!!)

 

 

 

 そこまで考え──メグルは痛んで動かぬ己の身体を呪う。

 そして、未だに戦えないというアブソルの顔を思い出す。

 彼女に会いに行って謝りに行くことすら出来やしない自分を恨む。

 

(俺に、出来るのか……? 俺が、やっていいのか……? やれるのか……?)

 

 

 

「ふぃるふぃー?」

 

 

 

 ポンッと音が鳴り、遅れて甲高い声が聞こえる。

 気が付けば、彼女はメグルの顔を覗き込んでいた。

 メグルは──棚の上にモンスターボールが5つ並べられていることに気付く。

 

「お前……」

「ふぃるふぃーあ♪」

 

 一番の相棒を──メグルは迷わず抱き締める。

 弱気になってしまう自分の心をぶつけるように。

 

「ニンフィア……俺……出来るかな……」

「ふぃー?」

「勝てる気がしねーんだ……今回ばっかりは……俺がやって良いのかも分からねえ。なんて言ったら、お前は怒るかな」

「ふぃー」

 

 リボンがメグルの頬を包み込む。

 

「……戦うのはポケモンである、お前らだ。お前らを危険な目に遭わせるのは──トレーナーである俺だ。そんな事は分かってる。覚悟だってしてたつもりだったけど」

「ふぃー……」

「やっぱり俺は、それでも、お前らが傷つくのが怖いって思ってる」

 

 只のデータじゃない。

 今此処で鼓動し、呼吸をし、抱擁をする生き物を──メグルはこれから戦わせなければならない。

 それに対する不安を口にすれば、ニンフィアは怒るだろうとメグルは考えていた。

 しかし、彼女は──いつになく優しく微笑むだけだった。

 

 

 

「ふぃるふぃー♪」

 

 ──でも、やるんでしょ? 腹を括りなさい♪

 

 

 

 何となくだった。

 彼女が言いたいことが、メグルには分かった気がした。

 全て分かっていて、全て覚悟していて、その上で彼女はメグルの背中を押しているのだ。

 

「……ああ、敵わないな、お前には」

「ふぃー♪」

 

 ぐりぐり、と彼女は甘えるように顔を擦りつける。

 そして──ぽん、ぽん、ぽん、と音を立てて更にモンスターボールからポケモンが飛び出していく。

 

「グラッシュ……ッ!!」

 

 今更腑抜けた事言ってると叩き割るぞ、と言わんばかりに威嚇するバサギリ。

 

「ブルトゥ……!」

 

 いつもと変わることなど、何も無い、と言わんばかりに真っ直ぐにメグルを見つめるアヤシシ。

 

「スシー!!」

 

 気合を入れろ、と言わんばかりにヘイラッシャの入ったボールを握って掲げるシャリタツ。

 

「……分かってる。最初っから答えは変わらない。俺のやることも変わらない」

 

 ──この世界を救うんだろ。元よりそのつもりで此処まで来たんだろが! 今更ビビってんじゃねえぞ俺!

 

「何よりアブソルだって……俺がうじうじしてるのを望まないだろうしな」

 

 メグルはキーストーンをなぞる。

 もし、彼女の受けた痛みを少しでも代わりに受けられるならば、と望む。しかし、それは叶うことがない願いだ。

 ならばせめて──二度と同じ過ちを犯さぬように、そして同じ悲劇を繰り返さないように、ルギアを止める。

 たったそれだけの簡単な話だった。

 

 

 

「──そうと決まれば、やることは決まってるよな……! 寝てる場合じゃねえ──」

 

 

 

 メグルはベッドを抜け出そうとして──そのまま落っこちた。

 身体が全くと言って良い程、言う事を聞かないのである。

 呆れる手持ち達。そりゃそうだよな、と諦めるメグル。

 善は急げ、されど急がば回れであった。

 

 

 

「ふぃるふぃー……」

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