【サッカー人気4位】最も厄介な「誰も悪くない案件」という結論 湘南ベルマーレ×…

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経営トップが早急に「事実無根」と言い切る危うさ FC町田ゼルビアの「調査報告書」を読んで思うこと

 FC町田ゼルビアのホームスタジアム、町田GIONスタジアムの最寄りである鶴川駅に、久しぶりに下車する機会があった。ここには以前から、次節の試合のポスターが貼られてあったが、プラットフォームの壁面にエンブレムとゼルビーで埋め尽くされている光景は初めて見た。

 J1での2シーズン目を迎えた町田は、今季も好調を維持している。9試合を終えて、52分け2敗の首位。1年目の昨シーズン、J1で旋風を巻き起こした町田だが、それがフロックでなかったことを自ら証明した格好だ。

 そんな中、ピッチ外で思わぬ騒動に、町田は巻き込まれることとなった。光文社のニュースサイト「SmartFLASH」が報じた、黒田剛監督のパワハラ疑惑。これに対し、町田の藤田晋社長が迅速に対応したことで、さらに注目度を増すこととなった。

 ここに書かれたことを中心に、時系列で整理すると以下のとおりになる。

・2025年1月、町田の元コーチがJFAに実名で黒田監督のパワハラを告発。
317日、クラブの問い合わせ窓口宛にFLASH編集部より質問状が届く(藤田社長は18日に回答)。
320日、FLASHが本件に関して黒田監督を取材。
321日、クラブが山岡通浩弁護士に調査を依頼。
325日、弁護士チームが調査を開始(44日まで)。
326日、FLASH編集部から2回目の質問状がクラブに届く(藤田社長は27日に回答)。
331日、FLASH編集部から3回目の質問状がクラブに届く(藤田社長は41日に回答)。
46日、SmartFLASHが記事を掲載(参照)
・同日、藤田社長がnoteを掲載。
・同日、クラブ公式が「一部の報道について」を掲載。《極めて悪質な記事であり、大変遺憾》《パワハラは事実無根》と明記。
・同日、クラブ公式が「調査報告書」を掲載。

 時系列を整理してみて際立っているのが、藤田社長の迅速な対応ぶりである。FLASH編集部の質問上には、期日までに本人が返信。さらに、黒田監督の取材まで(おそらく広報を通して)アテンドしている。藤田社長の想像を絶する多忙ぶりを考えれば、単純にすごいことだと思うし、対応にも誠実さが感じられる。

 その一方でIT企業の経営者らしさを見せたのは、FLASHの黒田監督への取材翌日には弁護士に調査を依頼していることだ。そして、FLASHから2回目の質問状が届く前日には調査を開始。この初動の速さがあったからこそ、記事が出た同じ日に「調査報告書」の掲載が可能となった。

 拙著『異端のチェアマン』で何度も強調したことだが、優れた経営トップの条件として、スピードと危機管理が挙げられる。藤田社長の場合、前Jリーグチェアマンの村井満氏に匹敵し得るスピードぶりであった。ただし危機管理に関しては、少なからぬ疑義が感じられたのも事実である。

 それは、問題の記事が出た直後に「事実無根」と断言してしまったこと──。このシチュエーションに、私は奇妙な既視感を覚えてしまった。

 SmartFLASHがパワハラと報じた事象の中で、特に問題と思えたのが以下の2件(「調査報告書」に準じて、B氏、C氏とする)。

GKコーチのB氏は、練習中に黒田監督から「俺が言ったのと全然違うじゃないか」「俺の言うことを聞けないのか」と選手たちの前で強く叱責された。B氏は練習後、スタッフルームで椅子に座った黒田監督に対し、自ら膝立ちで約30分にわたり謝罪を続け、黒田監督は「二度とないぞ」とBコーチの謝罪を受け入れた。

②マネージャーのC氏は、黒田監督から「なぜこんなに日程ができていないんだ」などと高圧的に怒鳴られ、1時間ほど沈黙が続いた。C氏は適応障害に陥り、現在休職している。

 ところが「調査報告書」では、B氏については《以上から、本件発言及び本件行為はパワー・ハラスメントに該当しない。》、C氏についても《以上の事実からすると、C氏は(中略)適応障害で休職しているが、それが黒田監督からの日常的な圧によるものとは認められない。》と結論付けている。

「以上」の内容については、長くなるのでこちらを読んでほしいのだが、誰もがすっきり納得できる内容とはなっていない。少なくとも私には、そう感じられてならないのである。

 たとえばB氏。選手たちがいる前で叱責され、(自らの判断だったとはいえ)膝立ちで約30分にわたり謝罪を続ける光景を想像してみてほしい。いくら「サッカーの世界は特殊」であっても、およそ健全な状況とはいえまい。

 そしてC氏については当人への聞き取りができなかったとはいえ、《すべて一人で抱え込む傾向があったため、それが積もり積もって適応障害になってしまったのではないか》という推論だけで、《黒田監督からの日常的な圧によるものとは認められない。》という結論を導き出すのは、いささか強引に過ぎるのではないか。

 今回の「調査報告書」を読んでみて、少なくともB氏とC氏について《パワー・ハラスメントに該当しない。》と結論付けることには、どうにも違和感を禁じ得なかった。にもかかわらず、それを根拠に「事実無根」と言い切ってしまう藤田社長の危機管理にも、迂闊以上の危うさを懸念せずにはいられないのである。

 少し話題を変えよう。拙著『異端のチェアマン』にて、湘南ベルマーレの監督だったチョウ・キジェ氏のパワハラが発覚した事件について、かつてパワハラを受けた経験を踏まえて思うところを記述した箇所がある。少し長くなるが引用したい。

 この報告書を読んで私は、久々に自分の過去のトラウマと向き合うこととなった。実は私自身、かって勤めていた映像制作会社で、パワハラを受けた経験があったからだ。

「お前は嘘つきだ」「(期待を)裏切るのか。これからの人生どうするよ」「お前なんかやめちまえ」。これと同じようなことを、私は、当時の上司から執拗に言われ続けた。

 報告書を読み終えて、奇妙に納得したことがあった。それは、パワハラが起こりやすい環境が、業界や業態を超えて類似していることだ。

 パワハラする側には、組線内で強い発言力がある。それを下支えしているのが、「あの人は優秀だから」とか「結果を出しているから」といった実務面での評価。それがあるために、組織のトップは適切な改善策を施すことができず、何人もの部下が潰されても黙認してしまう。

 あらゆるハラスメントは、権力勾配の高低によって、捉え方がまったく異なってくる。藤田社長も黒田監督も(今のポジションを得て以降)、ずっと強者としての振る舞いが許される立場にあった。そうした人たちが、弱者の苦しみに想像力を巡らせるのは、決して容易なことではない。

 もちろん、だからといって私は、現時点で「パワハラがあった」と断じるつもりはない。ましてや「町田ならありそう」とか「あの監督ならやりそう」などという、誹謗中傷に与するつもりも毛頭ない。

 繰り返しになるが、私が指摘しておきたいのは「調査報告書」の結論に対する違和感であり、これをもって「事実無根」を宣言してしまう経営トップの危うさである。そもそも「一部報道」を受けて、すぐさま「事実無根」と宣言し、結果として危機的状況に陥った大企業の事例は、すでに国民レベルで共有されているではないか。

 クラブから依頼を受けた、弁護士チームによる10日間の調査を完全否定するつもりはない。けれども、ここはやはりJリーグ主導の第三者による、綿密かつ詳細な調査が待たれる(ちなみにチョウ・キジェ氏の事案では、最初の報道から制裁が決定するまで2カ月を要している)。

 それまでは、一連の騒動をいったん切り離し、フラットな気持ちで町田のゲームを取材することにしたい。そしてボールは今、Jリーグの足元にある。

<この稿、了>

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