私立大の入学金、入学辞退者になぜ返せない?
受験生にとって「二重払い」の不安がつきまとう私立大の入学金。第1志望の国公立大などへの進学に伴う辞退を念頭に、負担軽減を検討するよう文部科学省が全国の私立大に求めている。ただ、中国新聞の取材では、中国地方の全34校のうち軽減策を実施済みか、2026年度入学者の入試から対応するのは現時点で少なくとも12校。15校は「検討中」という。背景には苦しい懐事情がある。 【一覧】入学金負担軽減の主な取り組み 26年度入試では、一定の条件で入学辞退者へ入学金を全額返還すると2校が決め、1校が詳細を詰めている。入学金の納入締め切りを国公立大の合格発表の後に設定するのが2校、入学金を引き下げるか比較的低額に据え置くのが計6校。他大学を受験後に入学した場合に、入学金を免除するというケースも1校ある。 これに対し、広島県内のある私立大の学長は「入学金は非常に重要な収入源。施設の充実などさまざまに使っているので、減収のダメージは大きい。ボディーブローのように効いてくる」と語気を強める。辞退者に、すんなり入学金を返しにくい胸の内を明かす。 ■最高裁判決よりどころ 各大学がよりどころとするのが、私立大20校の入学辞退者34人が前納した入学金、授業料などの返還を大学側に求めた訴訟16件の上告審判決だ。最高裁は06年、入学金に関しては「学生が大学に入学できる地位を取得するための対価。その後に在学契約が解除されても大学は返還義務を負わない」との判断を示した。 加えて、入学辞退者へ入学金を返還した場合、収入減を補う手だてが必要にもなる。広島県内のある大学は「光熱費の値上がりもきつい。入学金収入が減るなら、授業料の引き上げもあり得る」と漏らす。別の大学も「入学金収入が減ると大学運営上は打撃。せっかく充実させた奨学金の給付にも影響が出るかもしれない」と打ち明ける。 少子化などに伴い日本の私立大の財政事情は厳しい。日本私立学校振興・共済事業団(東京)の調べでは、23年度、562の大学法人のうち252法人(44・8%)が赤字だった。「将来の経営状況」についても「厳しい」「やや厳しい」と答えた大学が513法人のうち66・8%で5年前の前回調査よりも約22ポイント増えた。 ■「大々的にアピールせず」 入学金の負担軽減が、入学辞退者を生む「悪循環」への懸念もある。広島県内の私立大では、今春の入学者数が入学定員に満たない大学が14校中10校あった。大学関係者からは「入学辞退者にとって優位になる入学金施策をつくっても、大々的にアピールはしない。うちに入ってほしいから」という切実な声も漏れる。 取材には7校が対応を明かさなかった。共通テストまで1カ月余り。検討中の大学は、他校の動きに気をもむ。広島県内のある大学は「県内の他の大学や全国にある学部構成の似た大学に動きが出れば、対応を変えないといけないかもしれない。大学選びのポイントになる可能性もあり、併願先に選ばれなくなる恐れがある」。 そもそも、文科省の要請の遅さを指摘する声がある。私立大への通知は6月。岡山県のある大学によると、募集要項は早ければ4月に完成し、記載済みの入学金の変更は難しい。「年内入試」が盛んな今、8月には26年度の学生募集が終わっている場合もあり「6月に言われても困る」という。文科省私学行政課は「必要な時期に必要なことを依頼した」としている。
中国新聞社