和包丁、食材・用途に応じ使い分け
堺の刃物研師に聞く
暖かくなり、春の食材が出回る時期になった。食材をおいしく調理するのに、家庭で広く使われている洋包丁のほか、食材や用途に合わせて多様な品ぞろえをもつ和包丁を使ってみてはどうだろう。和包丁発祥の地、堺にある刃物商工業協同組合連合会の味岡知行専務理事に包丁の使い方、選び方を聞いた。
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包丁は明治時代に西洋から持ち込まれ普及した洋包丁と、日本独自の和包丁に分かれる。両者に厳密な区分はないが、機械生産できて家庭に普及している洋包丁に対し、和包丁は職人による手作りが基本で「売れ筋価格は2万円前後」と総じて高い。主に和食料理店など業務用に使われる。堺は和包丁発祥の地で、現在も国内最大の産地だ。
包丁の刃は一見、直線のようだが、よく見ると「ノコギリのような凸凹の細かな目が並んでおり、これが食材にひっかかり切れるんです」。一般的に目が大きいのが洋包丁で、和包丁は小さい。洋包丁と違い、そぐように引いて切るのが正しい使い方だ。
切れ味は目が小さいほど良いが、牛肉を切る牛刀に端を発する洋包丁は、刃に油分が付着して目詰まりしないよう、新品はあえて目が大きくなるよう研いであるものが多い。文化包丁とも呼ばれ、いまや洋包丁の代表格である万能包丁はこの牛刀の発展型だ。
一方、和包丁は食材や用途ごとの使い分けを前提にしており、種類は豊富で「200種類ほどあるのでは」。例えば、ウナギをさばく和包丁だけで「大阪裂(ざき)」「九州裂」など数種類ある。開くのが腹か背中かなど、さばき方が地方により違う。見た目も小型ナイフや小さなオノのようなものなど多様だ。
出刃包丁は一般家庭にも身近な和包丁だろう。幅が広く厚みも持たせた刃は、背の峰の部分に手を当てるなどして、骨ごとたたき切ることができる作り。見た目も奇麗な刺し身料理に挑戦するなら、柳刃包丁などとも呼ばれる刃が細長い刺し身包丁の登場となる。とがった切っ先や刃もとの部分が食い込んで引っかかったりしないよう、刃渡り(刃の長さ)は「出刃包丁は魚の胴の幅より少し大きなもの、刺し身包丁は切り身の幅の3倍以上のものがいい」。味岡さんは魚の大きさに合わせた包丁の使い分けを勧める。
和包丁の切れ味がより鋭いのは刃の目の細かさのほか、基本的に刃に表裏があり、裏側がほぼ平らな薄い片刃という構造にも要因がある。鉄に炭素を加え、硬度を増した鋼。堺では刀を生産していた時代からこの鋼を薄くたたき延ばす技術が発達し、現在の包丁作りに伝わっている。
ドレッシングやソースなどで味付けする洋食は食材を切断する際に細胞膜を壊すのにためらいが少ない。一方、和食は魚や野菜など食材の風味をそのまま味わえるようにするのが基本。和包丁も細胞膜を壊さず切るつくりになっている。関西で昆布、フグなど硬い食材の調理・加工法が発展したのも、切れ味の良い和包丁があってこそという。
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包丁の使い方で、注意したいのは「定期的に研ぎ直すこと。自分でできなければ、専門の業者に任せてもいい」。頻度は種類や使い方にもよるが「トマトがきれいに切れなくなったときが目安」。さびない代わりに硬度が低く目が摩耗しやすいステンレス製も「頻繁に研げば問題はない」。
洋包丁でも研いで刃先を鋭角にし、和包丁のようにすることも可能。「良い包丁は研ぎ直せば何度も切れ味が戻るし、研ぎ方で生まれ変わりもする」と、手入れの重要性を説いている。
(堺支局長 岩崎樹生)
あじおか・ともゆき 1943年生まれ。堺市出身。62年に府立堺工業高卒。67年、刃物の研ぎ作業を手掛ける味岡刃物製作所入社。事業主に。製造、卸などで組織する堺刃物商工業協同組合連合会の専務理事。
[日本経済新聞大阪夕刊オムニス関西3月8日付]