日本海の島に聖地巡礼 「鳥見んぐ」と定期船コラボ 待合室に祭壇も

清水康志

 日本海に浮かぶ離島の飛島(とびしま、山形県酒田市)はここ数年、ある人気漫画のファンたちの「聖地巡礼」のスポットとして人気が高まっている。

 バードウォッチングを通じて友情を育む女子大学生たちの姿を描く4コマ漫画「しあわせ鳥見(とりみ)んぐ」。2020年夏に萌(も)え系の漫画月刊誌「まんがタイムきらら」(芳文社)で連載が始まり、現在も続いている。飛島は年間300種類以上の野鳥が観察できることで知られ、漫画にも登場。主人公の1人の故郷でもある。

 作者は、わらびもちきなこさん。香川県出身で2017年から山形県で暮らす。武蔵野美術大卒業後、ゲーム会社勤務をへてフリーのイラストレーターをしていた時に編集者から声を掛けられ、18年にギャグ漫画「佐藤さんはPJK」で漫画家デビューした。

きっかけは探鳥会

 2作目でバードウォッチングをテーマに選んだのは、夫に誘われて公園での探鳥会に参加したのがきっかけだった。

 「身近にこんなに鳥がいるなんて面白い」。自然豊かな山形はバードウォッチングの舞台に恵まれている。そう考え、編集者に提案した。

 物語は、山形の芸術大学で学ぶ宮内すずと、別の大学に通う時庭翼の2人が主人公。友人たちと飛島や宮城・山形県境の蔵王、秋田・山形県境の鳥海山、宮城・伊豆沼などを訪ね、「鳥見」を通じてそれぞれの幸せを見つけていく。

 作画では、鳥の観察に出かけ、図鑑も見ながら背景も含めてリアルに描くことを心がけている。「周りに目を向ければ、あちこちに鳥はいる。漫画を通じ日常に彩りを感じてほしい」

 4歳と1歳の息子を育てながら、月1本のペースで描く。山形の地理や風習、方言について助言してくれる地元出身の夫には「もはや同志」と感謝している。

 聖地巡礼が盛り上がるきっかけは、酒田港と飛島を結ぶ定期船とびしまと漫画とのコラボ企画だった。

定期船とコラボ

 飛島が漫画に登場しているのを知った酒田市定期航路事業所が、作者にメールでコラボを持ちかけたのが始まりだ。「漫画を宣伝すれば、定期船にも乗客増などの相乗効果が期待できる」という期待もあった。

 24年から始まった企画では、島のガイドマップに主人公2人のイラストを採用し、待合室にはコラボポスターを掲示。夏には飛島でイラスト入りの限定缶バッジを無料配布し、イラスト入りチケットも4日間限定で発売した。

 秋には船体の両側面に描き下ろしの主人公の姿をラッピング。ファンから「鳥見んぐ号」と呼ばれるようになった。

飛島にファンが続々

 25年夏にも限定缶バッジを飛島で無料配布。島で活動する「合同会社とびしま」はオリジナルイラスト入りのトートバッグと、全8種の特製缶バッジ入りのカプセルトイを商品化した。いずれもとびしまマリンプラザでの限定販売だ。

 コラボの取り組みが知られるにつれて、飛島に通うファンが増えた。酒田港の待合室にはサイン入り色紙や単行本、グッズが並ぶ「祭壇」もできた。「展示に役立ててほしい」と、自分のグッズを提供してくれるファンも相次ぐ。

 ファンの多くは、待合室で「祭壇」を見た後に飛島に渡って聖地巡礼に励み、酒田港で海鮮丼を食べて帰っていく。多くは日帰りだが、漫画に登場する旅館に泊まるファンもいるという。

定期船貸し切り「オフ会」

 同事務所の担当者もファンの一人。「皆さんの後押しがあり、ここまでやってこられた。本当に感謝しています」。定期船とびしまのXのフォロワーも急増。図書館の蔵書にもなり、地元の書店には専用コーナーができたという。

 わらびもちきなこさんは「漫画をきっかけに飛島を訪ねる方がいて、旅館にも泊まっている。島にいい影響を与えることができ、本当に描いてよかった」と語った。

 この夏にはコアなファン約20人が定期船を貸し切って、港内を約1時間かけてクルーズする「オフ会」を開いた。「鳥見んぐ」の聖地巡礼の熱気はまだまだ続きそうだ。

「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験

この記事を書いた人
清水康志
山形総局|庄内地区担当
専門・関心分野
在来作物、人口減少、農林漁業、食文化