サムアイズ・ミグラント・オブ・フィアー
さて問題です、電子機器から冷却装置を物理的に取っ払ったらどうなるでしょうか。ヒントは今目の前でコンバス野郎君が実演してくれています。
「…………」
「いや回復すんなし」
「ちょっと見た目が可哀想すぎると言いますか……ほら、聖杖の所有者的に聖人ロールした方がいいかなって」
まぁ、体温が上がり続けて最初はこっちを完全無視してのたうち回っていたのに段々動きが鈍くなっていく姿は罪悪感を感じさせるが……それはそれ、これはこれと言いますか。
現実世界ならともかくシャンフロ世界における人類は霊長ではないのだ、少なくとも銃を構えていても勝てない相手とか大量にいるし。故に野生の勝負に情けは無用なのだ……まぁ、このまま自身の体温で焼け死ぬ様を観察してるのも忍びない。
「一思いに介錯してやろう」
「あの、撲殺って介錯と言えるんです?」
しゃーないじゃん、スキル的にも一撃火力が一番高いのは拳撃系スキルしかないし素手で触れたら俺が死ぬ。銃弾は溶けたから使えないし。
「来世はもうちょっと涼やかな生き物になれよ、南無三!!」
強化スキルを重ねた上での拳撃系スキル「勝利の神撃」。攻撃命中時に算出されたダメージ数値を二度付与する……つまり同じダメージ量で3ヒットするヤバめなパンチだ。
これにパラベラム・ルーティーン派生の必勝の先触れやクリティカル・レイズ派生のストラトゥム・バスターを組み合わせる事でちょっとヤバめな殴殺コンボが完成する。
……こういうスキルを何度も使わないといけないような敵が今後出てくる、という事実から目を逸らしつつ体力が尽きた事で砕け散ったコンバス君を見送りながら落ちた素材を拾っていく。
サイナやラダー氏も含めれば6人パーティだ、落ちてる素材はそんなに多くないが部位破壊しただけあってちゃんと尻尾素材はドロップしていた。
「……いいなこれ、冷えてる間だけ硬度を増す素材か。氷系の武器は希少だから上手いこと鉱石と組み合わせたら冷却時に性能が上がる剣とか作れそうだ……熱くなったら鞭になる? あーダメダメ、パスタに脳が……」
五秒でロールプレイが剥がれたおっさんアバターから目を逸らしつつ、改めて大河を超えた先……荒野の果てへと視線を向ける。
「おーおー、元気な活火山だ。アレが目的地かな」
灰色の煙が上空の雲と混ざって暗い雲となる。肩に触れた何かの感触に指を当ててみれば煤けた灰が指で手延べされていた。
「アレが目的地ですかー」
「肯定:あれこそがグレイブヤード積竜火山、幾度もの征服人形による調査の尽くを阻んできた赤き竜達が生まれ、棲まい、そして果てゆく場所……」
赤竜が生まれ死にゆく場所かなるほど、攻略のしがいがありそうな………ん?
「レイ氏、当代の赤竜ってドゥーレッドハウルだよな?」
「そう、ですね」
「火酒夏氏、あいつもう死んでるよな?」
「そですね」
「イムロン、つまり今あそこって魔王不在のラスダンみたいなことになってるんだよな?」
「そうだな」
……うーん、これクソヌルゲーなのでは?
◆
鉱人族。いわゆる定石、あるいはお約束通りであるならずんぐりむっくりなヒゲモジャのおっさんということになる訳だが……
「……あれ、か?」
「どう、でしょうか……」
子供だ。子供って事はつまり背が低いという事だ、なのであれが鉱人族なのかそれ以外なのかの識別がつかない。
一応ラダー氏曰く鉱人族は肘から先がなんらかの金属になっているという中々妙な生物らしいが……分からん、あの子供の肌がそもそも褐色なせいで肘から先が褐色の鉱石なのか褐色肌なのか分からないのだ。
「まぁ、聞いてみればいいか」
「でも、見るからに警戒! って感じですけど下手に話しかけたら逃げられませんかねー?」
「じゃあ逃げられる前に話しかけよう」
「そうですねー……そうですね?」
はいよーいドン。
「ヴィィィィゲェェェェトイィィィネェェェン!!」
「きゃあああああああああ!!!?」
バカめが! 初速が違うわ!!
スキルによる加速で謎の子供との距離50メートルを一気に縮め、なにやら妙な穴に飛び込む前にその首根っこを掴む。流石に封雷の撃鉄は使っていない、ダメージ入っちゃうからね。
「いやぁぁぁぁっ!! やだぁぁぁぁ!!!」
「まぁそう怯えるな……あー、少女?」
中性的だからどっちか分からないキャラデザしやがってからに。だが確定してるのはこの子供の腕は確かに暗褐色の鉱石でできている、という事……つまり鉱人族だ。
「ぎゃあぁぁぁぁあああ! いやぁぁぁぁっ!!!」
「いや待て待てなんでそんなに怯えて……」
「解答:頭装備が原因かと」
頭装備ィ? 何がそんなに恐ろしいんだ、ただの仮面………あぁ、装備状態だと顔半分が炎上した蓮コラもどきになるんだったコレ。
「…………」
「ひっ……ひっ………」
「ガォー、オナカスイタ」
「ひぃぃぃぃぃ!!!?」
「やめんかっ!」
「おごぉ!?」
イムロン貴様……HPが……二割減ったぞ……
その気になれば我が「ホラーゲーにおける分かってても怖い怪物の動き四十八手」が一つ、「ぎょるんぎょるん動く首と目玉」でさらなる反応を引き出すことも出来るが……あ、そういえばこの仮面つけた状態で目玉ぎょるんぎょるん動かしたらどうなるんだろう。
「…………」
「あの、ツチノコさんそれ二度とやらないでもらえますか?」
「え?」
「いや本当にお願いするんで」
「あ、はい……」
やらない方がいいらしい。
物凄い速度で突っ込んできた顔半分炎上した蓮コラ鳥仮面女がドイツ語で挨拶しながら首掴んで自身の空腹をカミングアウトした上で全ての目を違う方向にぎょるんぎょるん回し始める絵。