西風を受けて
色違いでビンタされたので更新です
大河を渡ってしまえばあとは火山まで行くだけ! そうは問屋が卸さないらしい。
ここは既に新大陸の南西部、ラダー氏曰く「西」に近い場所はモンスターにその片鱗が現れるという。
で、その具体的な「片鱗」だが……とても分かりやすかった。
「何この……蜥蜴!?」
「カメレオンですねー! ちょっと大きすぎるんですけど!!」
「そこか!? 問題はそこか!?」
「来ます!!」
バシュンッ!! と槍か銛の如く突き放たれた「舌」がゴツゴツとした岩と砂利の地面を泥のように貫き溶かす。あの煌々と灼熱に輝く「舌」に触れたらどうなるのかは考えるまでもないだろう……レイ氏はしれっと耐えてたけど最前線でバチバチに殴り合うタフマン構築は参考にならない。性別変えたのにもう複数装備を女性用に作り直してるのは貫禄の廃人と言えるだろう。
とはいえ問題は目の前にいるこいつだ。モチーフとしてはカメレオンなんだろう。特徴的な体格とぎょろぎょろと動く目、そして勢いよく突き出す舌はハエの代わりに人間を捉えて喰ってやると言わんばかりだ。
でもその灼熱の舌で人間を掴んでも口元に戻す頃には消し炭なのでは? いや、捕食じゃなくてシンプルに攻撃なのかな。
「種族名称:コンバスティッカーメレオン。自身の体内温度を上昇させ、熔断可能温度にまで加熱した舌で捕食対象、あるいは外敵を仕留める爬虫類型モンスターです」
「体温上限ぶっ壊れてんのかあのクソデカ変温動物!!」
コントラバスみたいな名前のモンスターの脅威はその「舌」だけではない。そもそものサイズが異常にでかいのだ。先ほどハエのように人間を襲うと例えたがまさしくその通りだ、俺達と奴のサイズ比は現実のカメレオンとハエのそれに近い。
つまり1センチ程度のハエが人間相当なら大体リアルカメレオンの180倍オーバー……厳密なサイズなんて知らないが30センチくらいだとしても単純に5,400センチ……五十メートルあるカメレオンだ。いや流石に五十メートルはねぇわ、でも十メートルは超えてそうだな。
「流石にちょっと生産職特化にはおつらい相手なんだが!」
「でも即死しなかったら回復しますよっ」
「VITそこまで上げてないぜわよっ!!」
イムロン口調が混ざってる混ざってる。だがしかしどうしたものか、コンバス野郎が恐るべきクイックドローでぶっ放してくる舌は確かに危険だがじゃあ本体は豆腐かというとそうでもない。
そもそも舌だけが都合よく加熱されるわけではなく全身が加熱する中で舌へ熱が集中する、という仕組みらしく奴の体表は爬虫類系モンスターとしての鱗に加えて素手で触れると熱でダメージが入る厄介仕様なのだ。
サイナと俺が銃による遠距離攻撃をしかけているものの決定打にはなっていない……正直エクゾーディナリーですらない一般モンスターに大技は使いたくないという貧乏性がない、とは言い切れないがそれを差し引いても奴に接近して攻撃を加えるなら防具の装備は必須。
相性問題だ、あのコンバス野郎は俺の体力よりも資産を削ってくる。いや直接破壊するのは刻傷の効果だけど、おのれリュカオーン。
「あっぶね!」
一番の脅威は口の中に含んだ舌を勢いよく突き出すクイックドローだが、伸ばした舌を戻さずにそのまま首の動きで鞭のようにしならせるモーションの方が被弾の危険性が高い。ただでさえ逆位置の効果によってスキルが封じられているに等しいってのに、回避にばかりスキルを使っていてはいつまで経ってもコンバス野郎を倒すことはできない。
シャンフロに限らず、デカいということはタフいということだ。レイ氏が極めて高い火力を持っているとしても一人で苦戦せず倒せる相手ではない。とはいえスキルがなくても装備で補強できるのがサンラクというアバターの強み、構築のコンセプト。求められるのは極限の瞬発力、封雷の撃鉄・災を起動して自前の眼でコンバス野郎の動きを観察する。
「…………」
シャンフロだってゲームだ、あのリュカオーンですら攻撃前には予備動作があった。予備動作のない即死攻撃なんてウェザエモンだけでお腹いっぱいだっての………見えた! 閉じた口がわずかに膨らむ瞬間!!
「回避ィ!!」
「えゲぇっ!?」
イムロンに直撃した!? 一瞬消し炭になったイムロンが見えた気がしたが、どうやらそれは錯覚であったらしい。
「コスト重いですけど足元に範囲攻撃変換したヒールぶちまけると回復楽でいいですよねー」
「た、助かった……」
すごいぞ火酒夏、あの攻撃タイミングで即死する寸前に回復魔法を置いていたのか。それも自分も含めて誰が直撃してもいいように範囲攻撃で。
MPを回復させながらすぐさま後ろへと下がっていった火酒夏を尻目に俺とレイ氏が前線へと踏み込み、中距離からサイナが銃撃を継続する。軽い弾じゃ大したダメージを与えられないので単発強威力の弾丸による撹乱メインだ。優秀なAI程ヘイトに迷いを見せることはこれまでプレイしてきて理解している、あとはダメージソースたる俺とレイ氏が気合いを入れるだけだ。
「おっしゃあ!!」
爬虫類がよぉ! 万物の霊長たる人類に勝てる道理なぞあるかァ! 機動力なんざ極論過剰伝達だけで賄える! 流石に眼への補正なしでスキルを使うのは自殺行為だがそもそもスキルを使わず直線機動で動けばいい!!
「サンラク、君。あのカメレオンの尻尾……を、見てください」
「ん?」
おや、不思議ですね。全身が加熱されているように見えて尻尾部分だけ湯気とか蒸気じゃなくて冷気を纏っているような。もしかしてアレ、自力で冷却する感じなのかな? そのための器官が尻尾に…………………ほぉん?
「レイ氏、切断武器でゴリ押していこう」
「分かりました」
成る程、成る程、成る程ねぇ? 随分と凝ってるようだねお客さん………こういう時は温めると筋肉もほぐれる、鍼治療サービスだオラァ!!!!
・コンバスティッカーメレオン
厳密な発音はコンバスティック・ァーメレオンみたいな感じ
西方に近い火山帯では異常に巨大な体躯を持つ生物がたびたび現れる。コンバスティッカーメレオンもまたその一匹。新大陸西方基準で言えば論外、ゴミ、そんなんで巨大とかナメてんの? としか言いようがないが樹海に出現するドラクルス・ディノサーベラスよりも若干でかいと言えばそのヤバさがわかるはず。
尻尾を除く全身を加熱させることで外敵に対する防護とし、舌に熱を集中させることで敵を熔断する一撃を放つ。厳密には舌ではなく敵を焼き殺す攻撃器官であるため獲物を捕食するために用いる本物の舌は別にあったりする……つまり二枚舌。
とはいえ変温動物であるため自力での体温調整ができず、尻尾を循環する冷却用のマナを全身に回すことで強制的に冷やしている。その為、年月を経た個体ほど外皮を覆う鱗が脆くなっていく。
ちなみに眼球も加熱されるので発熱状態中は極端に視力が落ちる(舌攻撃の際は全身の熱が一点に回るので視力が回復する)