旅路もいくさも進みゆく
ここで今更だが、パーティメンバーのおおよそのタイプを説明しよう。
まずは言うまでもなく俺、VITとかいうよく分からんパラメータ(自己申告)を完全放棄した高速機動型軽戦士。臨界速無くとも、最大で50メートル程度なら空中ジャンプだけで跳躍可能だ。
次にラダー氏、種族的特徴もあって翼を持っているので跳躍に対して補正がかかる。加速力こそないが足場があれば最低限の回数以外地面に接する事なく跳ぶ事ができるだろう。
で、ここからが問題だ。
見た目は華奢なアバターだがステータス的には結構鈍重というか、少なくとも長距離の跳躍なんかは望むべくもないレイ氏。
生産職以前に開拓者としてレベルを重ねてはいるものの、割とパワー型かつレイ氏と違ってそこまで廃人マラソンしてるわけじゃないので跳躍も加速もショボいイムロン。
そしてヒーラーとして敵のヘイトから逃げるだけのステータスは揃えているがやはり飛んだり跳ねたりするタイプではない純魔構築の火酒夏氏。
現在地である蜥蜴人族及び竜人族(黒)の集落がある沼地を抜けた先、火山へのルートに横たわる巨大な運河をどう越えるのかって事だ。
「一応聞くけど向こう岸まで渡る手段を持ってる人」
うーん、予想通りというか俺とラダー氏だけか。
仕方ない、秘密兵器を出すしかないようだな……インベントリアオープン、カモン! スーパーインテリジェンスドールユニット・サイナ!
「インテリジェンス」
「鳴き声なの?」
「言語化しなければ私自身がインテリジェンスに押し潰されそうなので」
知性に質量はねぇよ。いやあるのか? 脳味噌の重さとかそういう。
「わ、サイナちゃんだ!」
と、「N」パッチを入れても依然アホなままのサイナを見ていきなり火酒夏氏が興奮し出した。
「スクショいい!? スクショ! 可能なら動画!!」
「いきなりどうした」
「私ミーハーなので!!」
説明になってないので。
「いやいや、今やシャンフロNPCで世界一有名なキャラですよサイナちゃん! 普通の反応ですよ普通!」
あー…………………………そうなるのか、そうなるわな。
「サイナ、吊して渡れる?」
「了解:武装を情報格納していただければ二度の運搬で可能です」
「三度で渡れ、火酒夏氏にはスプラッシュな体験をしてもらおう」
「えっ?」
「なるほど、スーパーインテリジェンスに行くわけですね?」
「えっ?」
数分後、サイナに担いでもらって緩やかに大河を渡ったレイ氏とイムロンとは別に、ブースター全開の超特急版で水切り体験をした火酒夏氏の悲鳴が響き渡るのだった……。
まぁそりゃ水面に近づくと食人ピラニア(大型犬サイズ)が飛びかかってくるんだから叫ぶわな。まぁでもサイナと刺激的体験が出来たし本人も満足だろう。
とりあえず俺はあのピラニアを一匹倒すとしよう、俺自身がルアーになれば釣竿なんて必要ないんだよ。
◇
人知れず自らも無関係ではない事態が進行しているアーサー・ペンシルゴンであったが、今彼女はそれどころではない事態に直面していた。
また、場所も陣営も違えど同じものを見ている者達もまた同様のものを。
「そう来たか……」
グランドクエスト「王国騒乱」、新王陣営と前王陣営による覇権争い……あるいはシャンフロ初の超大規模PvPコンテンツ。そのルールが運営より正式に発表されたのだ。
「陣取りゲームになるってのは予想してたけどこれは中々頭を使いそうな」
ルールとしては以下の通り。
・今回の勝敗条件は両陣営の対象が生存している場合は期間内に幾つの都市を確保しているか、あるいは期間終了時点で自陣営または相手陣営の大将……即ち前王トルヴァンテ及び新王アレックスの状態によって決定する。
・新王陣営は前王トルヴァンテ・王女アーフィリア両名を捕獲または殺害した状態でイベント期間終了時に勝利となる。
・前王陣営は新王アレックスを捕獲または殺害した状態、または新王及び前王が死亡した状態で王女アーフィリアが生存していればイベント期間終了時に勝利となる。
・両本陣が敷かれた二つの都市を除く各都市には「領主」が存在し、相手陣営の領主が捕縛あるいは死亡する事で自陣として確保することができる。
・フィフティシア及びファステイア、セカンディルは中立都市であり今回のイベントにおいては無関係の戦闘禁止エリアとなる。
・イベント期間中は「イベント判定」エリアに限り、プレイヤーをキルしてもレッドネームにはならない。また、キルされた場合も装備しているアイテムやインベントリ内のアイテムが失われる事はない。
ただし死亡時点で手から離れているアイテムはその場に残される。また、行動によるパラメータの変動は通常通りに作用する。
・キルされた場合、自動的に本陣都市(サードレマ、またはサーティード)にリスポーンする。
また、キルされた位置に応じて「治療時間」が付与される。
・イベント期間中はサードレマ以降からサーティードまでのエリアのボスは出現しない。
・今イベントでは陣営のNPCに強い影響力を持つNPCが存在し、彼らが捕獲あるいは殺害される事で相手陣営の「士気」パラメータを減少させる事が出来る。
・イベント期間中はワールドシナリオは進行せず、またワールドシナリオに関するイベントは「王国騒乱」が終了するまで進行停止状態となる。
◇◇
とあるコンビの会話。
「………これは、またなんとも」
「冷泉、三行で説明してくれね?」
「そうだな……「絶対にフルタイムで戦う」「プレイヤーを纏めるのが無理ゲー」「自分も相手も戦法が読みづらい」だろうか」
「纏められても分からんかったわー」
◇◇◇
とあるFPS好き達の集まり。
「我らが傭兵団のブレイン! 君の意見を聞きたい!!」
「任せろ、羽で出来た団扇とかない?」
「いつの時代の軍師だよ」
「まずこの勝利条件、新王陣営は下手に前王をキルするより陣取りゲームした方がいい」
「なんで?」
「勝敗が決まるのがイベント期間終了時点だからだな。仮に前王を仕留めても王女が生き残ってると判定勝負に持ち込まれるし、向こうの陣営がこっちの新王様を倒したら自動的に王女が生きてる向こうの勝ちになる」
「つまり……向こうは前王を取られた時点で全員がかりで新王を狙えば判定勝ちってこと?」
「ズルくね?」
「だから陣取りゲームで見ればこっちの方が有利なんだよ、開始時点で保有してる都市が多いしNPCの質が高い」
「何より───」
◇
「レッドネームにならないのは対プレイヤー限定、NPCをキルしたら一発アウトだよね多分」
王女というエクストラ残機を持つ有利と、陣取りゲームにおいてハンデを背負わされる不利。そして何より十二月十五日から二十日まで続く五日間という絶妙に長いイベント期間。
ただのいちプレイヤーとしてならともかく、戦略を練るポジションにいるプレイヤーからすればあまりにも課題が多すぎる。
ペンシルゴンは脳内にあった作戦のいくつかを破棄してすぐさま次の作戦を練り始める。
「向こうは一軍として動く必要がない、そもそも従わない連中をそこらのモンスター扱いにすれば各配信者を頭に大隊〜小隊規模で活動できる。いやこれどうしたもんかなぁ……RPA入れてもどうにもならないし、やっぱウチの鉄砲玉をどうにかして説得する必要があるか………」
決戦の日は近い。来たる騒乱の風を感じながら、ペンシルゴンはサードレマ特別相談役としての特権をフルに使ったサードレマ特産茶葉の香りを楽しむのだった。