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熱意の殺意は悪意と善意


まずいなこれは、とオイカッツォは灼熱の中で冷や汗をかく。


カッツ(・・・)! 明らかにこれ……「敵意」だよな!?」


「ジッポの奴が蒸発したんだが!?」


「あの耐熱装備結構手間かかってるって自慢した矢先じゃん……」


哀れみの感情もこの熱波の中では二秒と保たず蒸発していく。共通の目的のために知り合ったプレイヤー達のパーティに一時的な固定入りをしたオイカッツォであったが、その中のタンクが蒸発(・・)した事で今自分達が置かれている状況が相当にヤバい事を認識する。


「今……明らかにジッポを死ぬまで狙ってたよね」


タンクがヘイトを引き受けたから、とかそういうレベルではない。あの蝶の形をした炎は今、明確に「特定の個人を確実に始末する」動きをした。それも、タンクゆえに前に出て味方を守るという役目を利用した罠まで仕掛けて。


「なんか変なフラグ踏んだ?」


いや、それはないだろう。あるとすれば一定回数周回した事が原因かもしれないが……だが少なくとも、そこそこ効率厨なオイカッツォがなんの文句もないと評価する程度にはこの一時的な固定パーティの面々は優秀だ。状況に応じた行動の変化こそあるが「絶対に同じ結果で終わらせる」という点において、既に五度目の挑戦だがこのパーティはブレていない。


であれば、やはり原因は「回数」か……あるいは、ワールドストーリー。プレイヤーではどうにもならない世界の変遷、めくられるページの中にこの蝶炎……

(にら)がる大赤翅(だいせきし)の項目も含まれていたということか。


「どうするリーダー!?」


「無理だな! 破損したくない装備はインベントリに入れて情報収集しよう!! カッツさんもそれで良いよな!?」


「本当はもう一個「解凍」したかったんだけど……いや? むしろこれだけ出すか……OK!!」


一人脱落して残り四人、男女を問わず全ての装備を解除したインナーだけの四人が轟々とこれまでにない音を立てて燃え盛る大赤翅へと視線を向ける。


「案外今なら攻撃が通ったり……」


「物理は溶けるだろ、バスコ魔法いけるか?」


「壊れて問題ない魔法装備なんか入れてないっつーの……あー、しゃーないスクロール使……っあぁあ!?」


固定パーティのうち、魔法職の女プレイヤー(男)がインベントリから使い捨て魔術媒体(マジックスクロール)を取り出した瞬間、筒状に巻かれていた羊皮紙が勢いよく発火した。


「俺の二百万マ───」


次の瞬間、しれっとハリウッドジャンプで回避していた三人ではなく役割を果たすことなく燃え尽きた高額スクロールに気を取られた女プレイヤー(男)の身体が大赤翅から放たれた白熱の光によって消し炭にされた。


「バ、バスコーっ!!」


「これ燃えやすい素材のアイテム使えなくなる奴?」


「わぁすごい、回復ポーションが沸騰してる〜」


「熱くて飲めない奴ではわびょっ」


「シン・ヨウジューーーーっ!!」


地面に叩きつけられる鞭のような動きの炎に巻き込まれた女プレイヤー(女)が回復ポーションを持った右手だけを残して消し飛び、残り二人。

残ったオイカッツォとこの暫定固定パーティの暫定リーダーの男はついにじわじわと削れだしたHPに視線を向けつつこれまでにない様子の大赤翅を見据える。


「可燃性と……揮発性?のアイテムは使用不可、あの様子からしていつも以上に高熱化してるから物理攻撃もこっちが溶ける……」


解凍(・・)攻撃は?」


「さっきからアピールしてるけどガン無視……これダメだね、完全にボス化しちゃったか」


オイカッツォが両手で掲げるように持っているのは一つの岩塊だ。NPCによる鑑定が真に正しければ古代に生きた「百景」の異名を持つとある傭兵に由来する武器、であるらしいが……最後の最後に残しておいた岩塊をいざ解凍(・・)、というところでこの仕打ちである。

確かに水魔法をありったけぶちまけたり、土で埋めようとしたり、使わない武器をかたっぱしから投げ込んだりと大赤翅攻略への試行錯誤を繰り返したりはしたが、よりにもよってこのタイミングで殺意剥き出しにするのはあんまりではないか。


この岩塊はオイカッツォというアバターの切り札になり得る力を秘めているかもしれない、だが今の大赤翅にこれを突き付けたところで最悪破壊されるのでは?

そんな疑問が無謀な突撃を押し留める、岩塊をインベントリアにしまってしまいたい……が、あるいは(・・・・)と期待する自分もいるのだ。


(解凍はイベントシーン的な確定行動だと思っていたけど、明らかに熱量が上がってる現状………)


そして、バスコを消し飛ばした白いビーム。あれだけが、そうあれだけが「白い」攻撃だった。特に火力の強い攻撃……否、本当に攻撃なのか。

あの時は咄嗟に回避した、だがあの時点でのプレイヤー達の配置を俯瞰して見れば、先頭にいたのは自分だった。


だとすれば、確証のない「推測」がオイカッツォの脳裏に思い浮かぶ。あとは試して死ぬか、試さず死ぬか。

どちらにせよ勝算はないし、残された時間もない。大赤翅は既に次の攻撃を始めようとしている。狙われているのは……リーダーの男だ。


「うおお攻撃パターン見せろぁぁぁぁ!!」


裸一貫、漢の突撃。オイカッツォがさりげなく後ろに下がりながら「やるなぁ」と眺めている中、大赤翅の返答は……


「Buuuuuuuuuuuurrrrrrrrrrrrrr………」


「ちょっ、ホーミン……ばぁあ!!?」


大きく広げられた「翅」に描かれた炎の模様。そこから放たれた拳大の火の玉およそ数十が四方八方からリーダーの男を取り囲んで殺到。回避にすら追従するその様子はまさしくホーミング攻撃……


「いやそれは……」


無いだろう、と呟きかけてオイカッツォは自らその呟きを否定する。そもそもレイドモンスターを二人でどうこうするというのが間違いなのだ、本来は十数人、いや数十人でホーミングの負担を分け合うのが正しい形ならばむしろオイカッツォに攻撃が来なかったのが奇跡と言っていい偶然なのだろう。


もしくは、人数が減った時点で大赤翅のAIが「確実に一人ずつ潰す」というものに変わっている可能性もあるが。


「まぁすぐに後を追うよリーダー……」


ビーム、すなわち一般的人間の反射速度で言えばほぼ光に等しい攻撃から逃げ切るほどの速度をオイカッツォは持っていない。

知り合いのプレイヤー最速の男ですら「見て避ける事はできるが自分がビームより速いわけじゃない」と言うくらいだ、奴の場合は本人性能による先読みも含まれてるので全く参考にならない。つまりオイカッツォに残された道はやはり何かして死ぬか、何もせずに死ぬかのどちらかと言う事だ。


「………百景って事は少なくともあと99は何処かにあるって事だし」


このVRMMOというゲームの中で100個しかないコンテンツが消滅するリスクと、もしかしたら(・・・・・・)を掴めるかもしれないリターン。


普段ならリスクを考慮する。だが今は────


「あのバカがあれだけやれるってんなら、こっちもリスクを呑むくらいしないと!!」


ならば恐れる道理は無い、あとは己と大赤翅と、そして両手で抱えた岩の塊を信じるしかない。


「さぁ来い大赤翅! 申し訳ないけどこいつの解凍を頼むよ!!」


大赤翅に意思は無い、あるのはただ役目を果たすことだけ。始源の獣、その攻撃機関にしてエネルギー生産を担う灼熱の赤は世界の胎動に呼応して炎を荒ぶらせんとしている。


だが今ではない(・・・・・・・)


本当に、本当に僅差の滑り込み。役目を待つ赤が「敵対者」に完全に変わる寸前、それが今だった。

故に、灼熱の翅は「これが最後のサービスだ」と言わんばかりに炎を羽ばたかせる。


「さぁ……我慢比べだ」


岩塊を前に掲げるのではなく、胸に押し付けるように抱え込む。それは一秒でも長く持ち堪えて受け止めるために!


「Voooooooooouuuu!!!」


白熱が放たれた。その光の行く先、先程は回避されたが今度は狙い通りに岩の塊へと叩き込まれる。


「こ───」


恐ろしい速度でオイカッツォの体力が削られる。否、もはや削るという言葉は相応しくない。まさしく消し飛んだHPが僅かに食いしばり、しかしあまりの熱に死の領域と成り果てた空気で焼かれた事で完全にHPが尽き果てる。


「───」


だが、このゲームにおいて体力の消失と肉体の消失には本当に僅かだがラグが存在する。大抵の場合は怯みモーションで潰されてしまうその一瞬は環境によるスリップダメージだからこそ、そしてスキルによって限定的なスーパーアーマーを獲得していた今だからこそオイカッツォに指を動かす慈悲を与えた。


サンラクのように跳ね回りながらブラインドタッチで三つの収納(インベントリ)を操作するなんて曲芸は不要。ただ一つのアイテムを最速でインベントリアに収納する……その動きを人差し指に覚え込ませるだけならオイカッツォでも余裕で可能だ。


「」


オイカッツォの身体が砕け散る寸前、大赤翅……この世界最強の熱を受けた岩の塊、というよりも最早マグマの塊に近いそれがこの世界から消え去る。

質量は情報へ、死せどもこの世に撒き散らす事なく格納し続ける神代の鍵が開く扉の先へ……


「Folololololololololo………」


ここに、一つのレイドバトルが終了した。

・百景のフォトム

古代にその名を轟かせた傭兵団の団長。百の戦場を百の武器で勝ち続けたとされる伝説の傭兵であり、「フォトムの百景画」として今も王都に戦場に立つ異なる武器を持った男の絵が飾られているという。その最期は不明、それ故にフォトムが用いた百の武器もまた歴史の渦に消えてしまった……


(歴史の真実)

百の武器を使いこなしたとかではなく毎回奇襲を受けたり初っ端から武器が折れるなどのファンブルマンだったのでそこら辺にあるのを拾ったり素手で敵将を殴り倒して得物を奪ったりと武器を選ばず戦っていただけ。

フォトム氏は百回目の戦闘で傭兵を引退して普通に隠居した末に孫に囲まれて老衰死。

誰も彼もが劇的な最期を遂げるわけではない、あるいは争いの中に生きた果てに得た平穏こそが戦いに生きる者にとって最も素晴らしい報酬なのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『シン・ヨウジュ』を『シン・ヨウジョ』に空見してた… ………疲れてるのかな?
[気になる点] 蝶々覚醒してなかったらサンラクみたいに燃やされただけで終わりだったのかな?
[一言] 百景とかアラドヴァルのように、火をもらって育った武器で戦うレイドボスなのかな
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