鏡面に響け、摩天より吼えろ 其の十五
【ライブラリ】、シャンフロ最大手の考察クランにしてゲーム内外を問わずしてシャンフロという巨大世界の解明に勤しむ好きもの達。
オルケストラの正典、偽典ルートの存在が明らかとなり、俺という正典ルートに進んだ検証例と協力している彼らだが、何も俺が攻略を始めるまでの間ずっと遊んでいたわけではない。
蛇の道は蛇、真相に辿り着けずとも知りたい事は山のようにある。そして彼女達はそこに一番近い場所にいた。
そう言いながらキョージュ達は俺にへそくりを渡した。
「知ってるかオルケストラ、へそくりってのは見つからない場所に隠しておくもんなんだぜ……サイナ!!」
「絢爛の輝き、月をも照らして不夜の空……!」
歌いながらもサイナが征服人形用のウィンドウを操作してそれを展開する。一見すると少し大きめのメダルのようにも見えるそれは、右手の甲にかざす事で俺の動きに追従して自立浮遊する。
「ようオルケストラ、お前がコピーするのはリアルタイムの「俺」の情報だろう。ならば検証だ、所有権が俺のものではないアイテムを俺が使った場合……お前はどう動く?」
行くぞ、【ライブラリ】が立てた仮説を実証する! 征服人形用装備回収パーツ「回収者」!!
征服人形の所有物であるこれはプレイヤーが任意で起動し、征服人形が常時制御する!!
要するに普段俺が武器をぶちまけながら戦っていた時、サイナが回収する際に使う道具がこれだ。一体ライブラリはなにをどういう考察を経てこれがプレイヤーでも使えるという結論に至ったのか……まぁいい、大事なのはこれを使う事で便利になる戦闘があり、これを使う事である仮説が確定するって事だ。
「真似してみろやパチモンがよぉ!!」
メダルが光を放つと同時、光で出来たワイヤーのようなものが地面に転がっていた傑剣への憧焉終刃へと伸びて……張り付く。
そして引き寄せると同時に左手で握っていた境光の宝剣をぶん投げて……レッツゴー!!
「これは便利だ良いものだ!!」
ウィンドウ操作、アグアカーテを左手に出して右手に傑剣への憧焉終刃、おお懐かしきコスモバスタースタイル!!
アグアカーテを発砲しながら前へ、前へ、前へ。ハンドガンのいいところはインファイトでも取り回しが利くって事だ。迫る弾丸を「サンラク」は銃口でも見ているのか特に焦りなく回避しつつ、わざわざ射程距離まで突っ込んできた俺に分離した勇魚兎月で斬りかかる。
だがそう来ることは馬鹿でも分かる、というかそう来て欲しくて近づいたのだ。
右手の黄金剣で一撃を防ぎ、さらに振るわれたもう一撃を踏み込みによる回転でかわす。身を屈め、真っ直ぐ伸ばした後ろ蹴りが「サンラク」の脹脛を狙う……が、跳躍で回避される。
「っ!」
さらに発砲、空中でそれを避けるにはスキルを使うしかない。あわよくば二つ……ラッキー!! スキルを三つ使いやがった! 安牌取るから後で後悔するんだぜ!!
宙を踏み、円を描いて、逆さに立つ。直上に回り込んだ「サンラク」の武器が対刃剣から特大剣に変わる。僅かな静寂……どう避ける、どう当てる、どう動く? 人とAIの思考がぶつかり合って結論を弾き出す。
「いいぜ、地の利はくれてやる」
真っ直ぐ上を見上げて銃を構える。同時に「サンラク」が天地逆転のままにこちらへと飛び込む!!
奴も「愚者」の恩恵を受けていることは分かっている、ヘルメスブートに多重的円周運動に無重律の恩恵……平均してリキャスト二十秒、この二十秒に千載一遇の好機を見出す!!
発砲三発。俺はヤシロバード程銃に人生捧げてないので三発中二発は外れたが一発は奴の胸元へと飛んでいく。食らえば如何に低火力のアグアカーテといえど「俺」のステータスでは致命傷だ。
案の定飛んできた忖度ガード、劇場が消えたから飛んできたのは道路標識の看板だ。ご丁寧に「止まれ」の看板が奴を庇うように銃弾を受け止める。
続けて引き金を引くが弾は出ず……弾切れだ。
『…………!』
「かかった!!」
俺と「俺」。装備が同じ、スキルが同じ、アイテムも同じ。その上でステータスで上をいく再現体を相手に差別化を図るなら方法はただ一つ。新たな違いを見出すしかない!!
「俺」はスキルを使った! 俺はスキルを温存している!
「俺」は嵐を纏えない! 俺は嵐を纏うことができる!
「俺」は回収者を使えない! 俺は回収者を使うことができる!
些細な違いが大きな亀裂になる! 同じ環境で育った双子とて個性は別れる。一人称と二人称が自他を分けるなら今この瞬間が最大のチャンス!!
「さぁ………行くぞ「俺」、そしてオルケストラ! 素寒貧になるまで忖度しやがれ!!」
忘れがちだが傑剣への憧焉終刃秘められた効果! 斬撃に比例して魔力をチャージする能力!!
あそして蓄積された魔力は別のものへと移し替えることが出来る、例えばそう……魔力を弾丸とするアグアカーテにもう一発を装填するくらいならば……!!
迫る特大剣、動ける時間は僅か。だが……やれる。左手のアグアカーテを突き付けながら、右手を左胸に叩きつける。
嵐を纏い、雷を纏う。同時に使えば暴走するが同時に使う事はできる。要するに片方の発動条件に引っ掛からなければいい!!
「フルコンボ!!」
過剰伝達の迸る身体でバックステップ。どう振り回したところで斬撃とは線の脅威、当たらなければどうってこたぁねぇ!!
狙いを定めて発砲。脳天目掛けて飛翔する弾丸が「侵入禁止」の看板に弾かれる……と、同時に空振りした「サンラク」が地面に着地。そこに目掛けて右手の傑剣への憧焉終刃を全力投擲、結果を見る前に「回収者」で境光の宝剣を引き寄せる。
「唸れ宝剣! まだ夜! ギリ夜!!」
そろそろ時間的に夜明けが近い、ここで旭光刃になると都合が悪いので祈るようにスイング。果たして赤いままに払われた刃は光を飛翔する斬撃として撃ち放って「サンラク」へと迫り行く。
「さぁ来いもっと来い! 歌えサイナっ!! 謳って世界を塗り替えろ!!」
ファンタジー世界がなんだ! 文明開化万歳! どれだけ幻想に夢見たって人はウォシュレットとインターネットを捨てる事は出来ねーんだよ!!
従来は武器を捨てて次の武器を出す、すなわち手持ちがイコール残弾となっていた戦法も【ライブラリ】が見出したプレイヤーのリソースを消費しない「装備」によってリサイクルという新たな手段が生まれた。
「ハッ、お次は速度制限と一方通行の標識かよ?」
弾かれた傑剣への憧焉終刃と、かき消された夜光刃の飛翔斬撃を眺めながら両手に握るは本家本元、勇魚兎月。
さぁ……道理も戦局も全部巻き込んで吹き飛ばしてやる。
・「回収者」
蒐集計画において征服人形の初期装備たる物品回収装置。意識を対象に向ける事でポインターを照射、装備者の動きに合わせてポインター上を高速で「走る」事で手元に引き寄せる。見た目はワイヤーで引っ張っているように見えるが厳密には磁石に張り付く金属に近い。
【ライブラリ】の検証の結果、この「回収者」は内部演算に征服人形が必須であるものの、実際に行使する役は別人が担っても問題ないことが明らかになったため、サンラクがもたらした「オルケストラは対象の完全コピーを行う」という特性に対するカウンターの一つとして採用された。
だがこれでへそくりが全てと言ったわけではない。